129話 フォルトナ≒トオヤマ
「あら、嬉しい。わたくしの名前、覚えていてくださったのですね、トオヤマナルヒト様?」
さて、ここからは完全なる運試し。わたくしは別に今、このタイミングでここに来る必要なんてまるでない。
でも、わたくしはどうしても試さずにはいられない。
あらあら、ふふ。ウィスにバレたら確実に怒られてしまいますわね。
「アンタこそ、王国の王家様に名前を覚えてもらえるのは光栄だよ、お姫様、とでも呼んだ方がいいのか?」
あら、もう素性がバレてるんですね。彼の屋敷に顔を出してまだ1週間も経っていない筈ですがーー
ああ、そういうこと。貴女がいましたね、そういえば。
「あら、ふふ、ばれてたんですか? やだ、恥ずかしいですね。……主教様、ですか」
「……っ、お目にかかれて光栄です、王国第3王女、フォルトナ王女様……」
一瞬、糸目の美人が言葉を詰まらせた。
【警告・天使教会は現在、貴女を警戒しています。王国の傀儡化がバレるのも時間の問題でしょう。警告・天使教会主教"カノサ・テイエル・フイルド"に対して貴女の交渉、謀略は一切通用しません。やるだけ時間の無駄でしょう】
厄介ーー。
天使教会主教。貴女が竜殺しと組んでいるのは正直ほんとにめんどくさいです。もう、貴女があの竜教団のバカ大司くらいだったら良かったのに。
有能で臆病な権力者ほど、厄介なものはありませんねえ。
「ええ、こちらこそ。天使教会の歴代主教の中でも、最も初代に近いとされる辣腕、貴女のお噂はわが国でも音に聞こえてございます」
「過分なお言葉、ありがたく」
ほら、もう顔色と声が元に戻った。
でも、不思議、今の主教様の反応はわたくしを警戒している者の反応。
さて、考えましょう、フォルトナ。さっきのクソメッセージから考えるに、まだわたくしが王国にした事の全てはバレてない、にも関わらず主教様はわたくしを警戒している。
なぜ?
「それで、何か御用ですか、王女様」
竜殺しがずいっと会話に現れる、うーん、この人いつも目つき悪くてぶすっとしてるから表情が読みにくいなあ。
「んー、そうですね。……ふふ、困りました、実はわたくし、なんでここに来たのか、よくわかっておりませんの」
「それは……難儀なことで」
「ええ、全く。さて、どうしたものでしょう。……もう大方の道筋は固まりました。今更わたくしが何をした所で、どうしようもないのですがね」
「大方の、道筋……?」
あら、言葉が過ぎました。でも仕方ない、本当のことなんですから。
「ええ。……素晴らしい屋台ですね。ここまで揃えるのにたくさんの試練があったのでしょう。竜殺し様、さすがアリスお姉さまを殺したお方ですね」
「……お姉さま?」
「あら、ご存知なかったのですか? はい、昔馴染み、という奴です」
ーーあら? あららら? わたくし、何を言っているんでしょうか。こんなこと言う必要はないのに。
「昔なじみ……? いや、今まで聞いたことなかったかな」
「あら、そうですか。あまりお姉さまと仲がよろしくないのでは?」
「……あ?」
あ、ダメです、止まらない。
あはは、ああ、今あなた怒ったんですね。わたくしに。あなたにとって、アリスお姉さまとの関係を”仲が良くない”そう言われるのは気に入らないことだったんですね。
でも、ならそうだとしたら――。
「あら、ごめんなさい、気に障られましたか? ごめんなさい、つい。こんなにもたくさんのお友達に囲まれている竜殺し様ですもの。アリスお姉さまのことは別に大して考えていないのかなって」
「お前……」
そんなに怒れるんなら、どうして。
「楽しみにしていらっしゃいましたのよ」
「は?」
「アリスお姉さまは、貴方に会うのを楽しみにしていました。でも、帰ってしまいました」
なんであの方が他人の為にあんなに心を乱す必要があるのですか。なんで、あの方があんな痛々しい笑い方をしないといけないのですか。
ああ、嫌い。嫌いです。嫌い。嫌い、嫌い。
ええ、いや、違う、分かっています、
分かってるんです、別にこの人は本当は大して悪くない。だってそうでしょ、この人は何もしていない、ただこの人はこの人にとって必要なことをしてただけだもん。
アリスお姉さまが勝手に期待して、勝手に傷ついて、それで勝手になんか受け入れて帰っただけ。
あのデリケートドラゴンが勝手に自滅しただけ。
でも、わたくしはそんなの見たくなかった。
「帰った、ドラ子が? なんで……てか、来てたのか、アイツ」
……あなたはきっと悪くない、でも、もうわたくしはあなたが嫌い。あの人を竜にあんな顔をさせることが出来るあなたが嫌い。
ああ、どうしてわたくしはノープランでここまで来てしまったんだろう。
どうしてわたくしはこんな恐ろしい連中が集まっている場所に1人でのこのこ来てしまったんだろう。
どうしてどうしてどうして――。
「ああ、もうあれですね、考えるの面倒くさいです」
答えが、ぽろりと言葉になって落ちちゃった。
「は、お前ほんとさっきから何言って――」
幸運にも。わたくしにはあなたを試す力がある。
幸運にも、人知の竜はこちらに視線を向けていない。
幸運にも、第一の騎士もこちらに気付いていない。
幸運にも、ああ、影の牙、そこにいたんですね。
【メインクエスト"竜と運命"が進行します】
あなたはきっと忙しい、きっとこれから色々なことが起きる、
竜殺し、竜祭りの中であなたはもう。
「アリスお姉さまもここにはいませんしね」
――蒐集竜に会うことはない。
【秘蹟”幸運使用。貴女は”幸運”です】
わたくしは、望む。
【貴女は幸運なので、幸運にもその望みが叶います】
もう、竜殺しが蒐集竜と会うことがないことを望む。
【貴女の幸運な運命が進行します。きっと全てあなたの望むままになるでしょう】
星の形をした矢印がふよふよと現れる。
ああ、いつもの、ですね。わたくしにしか見えない運命を示す矢印。
なんて、悍ましい力。これが出ている限りもう、わたくしに失敗はない。負けもない。全てこれから思うままに行く。
「ねえ、竜殺し様。あなたは運命を信じますか?」
「……今度は何の話だよ、マジで」
わたくしは、この力が嫌いだ。
なんでもかんでもうまくいく、行ってしまうこの力が嫌いだ。何をすることもなく願うだけで全てがうまくいくのなら、わたくしの全てが無価値ではないかという気分になるから。
でもそれ以上にもっと嫌いなのは、この力ごときに負ける連中だ。
もしも、この世界がきちんとしているものならば、もしも、この世界が素晴らしいものならば、"幸運"なんてもの、いつか必ずどこかで躓くでしょう?
「あなたがもしも、本当にアリスお姉さまの友人なら、本当に本当に本当に、アリスお姉さまと共に並ぶことを許された存在なら、こんなものに負けるはずありませんよね」
手のひらに浮かぶ矢印へ、ふっと息を吹きかける。ぱっと、その矢印が消えて、それから。
「ドラ子の? どういう、意味っーー」
「え、トオヤマナルヒト、アンタ、どうしたの、急に固まって、えっーー」
彼と主教の動きが固まる。2人の頭の上に、運命の矢印がふよふよと浮かんでいる。
幸運にも、あなた達の運命は固定された。
もう何も出来ない。幸運にもあなた達はなにをどうしようとも、もう、お姉さまには会えない。
そういう風にできている。わたくしが、そう望んだから。幸運なわたくしがそう願えば、運命は幸運にも歪められる。
「……あ、そういえば色々やることがあったんだ。フォルトナ、さんもういいか? ドラ子には宜しく言っといてくれよ」
「そう、ね。なんか忘れている気がするけど、私も色々仕事があったわネ。フォルトナ王女殿下、竜祭りをどうかお楽しみくださいませ」
【オプション目標達成。"幸運にも貴女を警戒していた竜殺しと主教"は、忘却の病にかかったようです】
虚な目をした凡愚が2人、その場を去ろうとする。ああ、なるほど、こうなったわけですね。
幸運にも、わたくしに対して何かを警戒していた2人は、全てを忘れていなくなる。
全てはわたくしの思うがまま。本当はこのまま幸運にあなた達が死ぬのを望んでもいい。……まあ、それはまた今度でいいか。
「あ、銭ゲ、じゃない、主教様、そういえばあれ、天使粉が足りなくなった時の対応なんだけどさ」
「ああ、安心しなさいよ、このパン屋は新しい私のシノギになる。サポートは惜しまないわ。……今銭ゲバっつたか? あん?」
2人がまるで、わたくしのことなんて本当に忘れたようにその場から去っていく。
簡単すぎる、本当に簡単で――。
「くっだらないですねえ。竜殺し、主教」
それじゃわたくしはこの辺で。色々考えないといけません、アリスお姉さまを、あの美しい竜を。
どうしてくれようか。まあ、どちらにせよ――
「はい、おしまい」
竜殺し。あなたもやはりくだらない存在でした。ああ、ほんと、全部くだらなくて簡単で、どうしようもない。
幸運も、こんなものに頼るわたくしも、そして、そんなわたくし一人どうにもできないこの世界の全ても。全部嫌いだ。
アリスお姉さま、貴女は違いますよね。わたくしを救ってくれた貴女なら。ああ、あああ。わたくしは本当にあなたを。貴女と――
【メインクエストが進行します。メインクエスト”竜狩】「あ? なんだ、これ気持ち悪っ」
べしっ。
竜殺しが、自分の頭の上にあった、わたくしの幸運の矢印を叩いた。
「ぇ」
ハ?
「あ、マジかよ、銭ゲ、銭ゲバ、ちょっと頭下げて?」
「なんで今言い直さなかった? どうして、銭ゲバを完遂した? やんの? っチ、ほら、こう?」
主教が悪態をつきつつ、頭を下げて。
「ソォイ!!」
ハァ?
パッチーん! 竜殺しが次は主教の頭にあったわたくしの矢印を叩いて。
「うっわ、なんだ、このクソ矢印」
ビったーん!! 矢印が地面に叩きつけられる。
矢印を、誰にも触る事のできないそれを、運命を。
「なん、で」
【警告】
【すでに竜殺しの”運命”は壊れています】
【警告・竜殺し、いえ、遠山鳴人の技能が発動しました。技能――】
「色キッショ!!」
べきり、遠山鳴人のブーツがそれを踏みにじった。
【”思い通りにはならない”】
読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!
コミックス1巻、明日から発売日です!
紙の本、凄え迫力あってよかったです。
あと、特典SS書いてるんですけど、僕の頭の中だけで連載していた高校時代の遠山鳴人が主人公の、人たらし死にたがり中性的王子様重感情美少女や、一軍女子擬態激思想強重美少女などの重たい女の子達と、怪奇現象や都市伝説のトラブルに巻き込まれながら友達作り高校生活を謳歌するお話が覗けます。読んでもらえると助かります。




