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128話 ネガティブハッピー・パンラッキーデイ

 


 ピコン



【竜祭りが開始されました、竜大使館ルートに入りました】



【危険存在、”鬼人”ベルナル・オドニアス及び、人知竜”アイ・ケルブレム・ドクトゥステイル”への対抗策を用意しました】



【依然、危険存在はアガトラに存在します、都市防衛機構、”アイアンドーム”、天使教会・天使聖典4ページ、”我、星の理を定める者”は貴女の用意した攻略法の障害になります、メインクエスト”竜狩り”開始前に排除をおすすめします】




【メインクエストが進行します】




「ふかか、良い。うむ、実にいい」



 少し、幼い姿に変わった貴女がニコニコとお祭りに沸く街を歩く。



 結局、数時間かけて決めた服はとてもシンプル、白いワンピースに銀色のブレスレット、ハナムグリの蔓で編んだ簡素な帽子。



「え、見て。あの子……」


「めちゃくちゃ可愛いな」


「てか、眩しい? 眩しくない?」


「眩しい……良すぎる」


「ニコニコしてる……」


「でも、なんか、どこかで」


「御付きのメイドさんも、なんか高貴(マブ)くね?」


「なんだ、あの2人……」




 貴女が歩くと、街の住人たちが道を開ける。姿を変えていようとあなたの光はヒトを魅せる。



「む! 見ろ、フォルトナ! ホーロム焼きの屋台があるぞ。貴様は知らぬだろうが、アレは数年前のホーロムの悲劇の折に我が家のメイド長が奴らの調理法を編み出してだな。むむ、それに、ほう。市場に流れる宝飾品や装飾品の質も量も上がっておる。銭ゲバに領主、なかなかの治世を施しているとも見える」




「お姉さま、嬉しそうですね。アガトラが、お好きなのですか?」




「ふかか! フォルトナ、貴様モノを知らんな。この街はすでにオレの縄張りぞ。竜の住処がにぎやかにきらびやかになるのはオレの本望。好きに決まっておるではないか」




 飛び跳ねながら、街を歩く貴女。残酷で、それでいて無邪気で、自由で。



 嫌いなものばかりのはずのこの世界で、貴女だけがわたくしには輝いて見えます。




「あー、あー!! 痛いいいい、おかーさん、どこおおおお」



 道のわきに泣き喚く女の子。1人、きっと親とはぐれたのだろう。肘には擦りむいた傷も。



「む、そこの幼子、どうした。腹でも減ったのか?」



「んえ……ちがう、いたくて……」



「むむ、怪我をしておるのか。なんと脆い生き物なのだ。……どれ、見せよ。ああ、この程度か、ふむ。ぺろ」



 竜が、なんともなしのその幼女の腕を引き、ぺろりと傷を舐める。竜の体液は定命の者の傷を治す力があるというのは本当らしい。




「ひゃっ、え!? お姉ちゃん何して……え、痛くない……?」



「ふかか。良い、幼きヒュームよ、もうそなたの怪我は治ったぞ。どうしたのだ、祭りというのに貴様、泣き喚くとは何事だ?」



「だって、だって、お母さん、急にいなくなって、それで……」



「むむ、親とはぐれたのか。ふむ、……まあ仕方あるまい。探してやろう。貴様もまた、この街の住人なれば、それはつまり我が蒐集品のひとつ。子どもは泣いているより、笑っている方が良き物であるゆえに」




「え、さ、がしてくれるの……うゆ、お姉ちゃん、あい、がと……」



「ほう、そなた、その年で礼が言えるのか、ふかか、良い、苦しゅうない」



 貴女はやはり、変わらない。



 傲慢で残酷で恐ろしくて、でも、たまにとてもやさしくて。ああ、貴女はきっと、太陽や森や河と一緒。自然がそのまま人格を持ったような存在なのですね。




「アリスお姉さま」



「む、どうした、フォルトナ。目的の場所へ行く前に用事だ。この幼子の親を捜すぞ。何、簡単だ。領主の館の副葬品でも使わせればよい、すぐに――」




「いえ、それには及びませんよ、お姉さま。()()()()、ほら、こちらに駆け寄ってくるご婦人がいます、彼女ではありませんか?」




【秘蹟”幸運(????????)”を使用しました。リスク判定が発生します。――ファンブル.

 リスクが発生、()()の機能が停止しまー―スキル”幸運”により秘蹟”幸運(????????)”のリスク判定の振り直しが発生。判定に成功しました】




「クリス! 良かった、よかった!」




「わあああ、おかあさああああああん! どこに行ってたのおおお、心配したよおおお」




「もう! おバカ! どこに言ったのはこっちのセリフ! でも、ごめんね、お母さんが目を離しちゃったね! ごめんね。怖かったね!」




 ぎゅっと抱き合う親子。ああ、そうだ。親子とはこういうものらしいですね。わたくしには関係ないことですけど。



「あ、あの! あ、ありがとうございます! あ、貴女たちが娘と一緒に居てくださったのですか!?」




「む?」



「あんねーおかーさん、わたし怪我してたんだけど、このお姉ちゃんがねー」



「クリス、とやら。しーっだぞ」




 幼子の言葉に、貴女がにいっとギザ歯を見せ笑う。



「……! しー! わかった! お母さん、このお姉ちゃんたちがね、クリスのこと構ってくれてました! 決して怪我を直したりはしてくれてません!」



「え、け、怪我? どこにもしていないようだけど……あ。あのお二方、ほ、本当に、本当にありがとうございました! お二方が面倒を見てくださったおかげで、無事、この子と……」



「ふかか、よいよい、気にするな、クリスの母親よ、それでは、オレたちはもう行く。もうはぐれるなよ、それとクリス、母御殿のいう事、聴くのだぞ」




「はーい! ありがとおおお、竜の……ちがう! おねちゃああああん!」




「り、りゅう? クリス、何言って……でも、本当に綺麗な方……それにどこかで見た事のあるような」



 貴女がまた進み出す。蒼い瞳を満足気に薄めて、手にバスケット。友人への差し入れを持って。




「良かったですね、すぐに親がきて」



「む。確かにな。だがフォルトナ、貴様よく母親が近くにいることに気付いたな。このオレですら、すぐにはわからなかったぞ」



「たまたまです、アリスお姉様」



「ふかか、そうか」



「はい、そうです。……あなたは、この街が、大事なのですね」



「む? ああ、我が蒐集品ゆえに。物とはそれにふさわしい蒐集の法があるのだ。かごの中で愛でるものが良いものもあれば、自由に外に開放し、眺めるものが良いものもある。街とはその中でも異質ゆえに」



「その法とは?」



「知れたこと、笑い声と怒鳴り声と泣き声、数多のこの街に響く声さ。定命の者がその限りあるちっぽけな生をあらんばかりの声であふれかえる、街とはそうでなくてはな」



 ああ――。貴女はやはり、竜だ。貴女はヒトの心を持った自然であり、世界そのものだ。



 わたくしは、もう貴女の言葉を聞いた途端、言葉がでない。



 わたくしは、どうしたいのだろう。





 きっと、人の意思を超えた所で人の未来は決まっている。



 人の禍福がもしも、本当に人の及ばざる力により決められているのだとしたら、それはあまりにもーー。



「ほう、空が……ふかか、あの老竜め。オレの縄張りに好き勝手しおって。むむ、だが、奴と争うと、ナルヒトがなあ、絶対に怒るものなあ、むむむ」



 昼が、唐突に夜になる。



 始まってしまった。ああ、わたくしはこうなることを知っていた。



【秘蹟”幸運(????アー??)発動。人知竜の干渉により、天使教会地下聖堂の天使法典のひとつが発動します】




 空を泳ぐ魔術師たち。ああ、結果的に。幸運にも彼らがアガトラに現れた。




 それに反応し、自動的に発動するアガトラを守るために天使教会創設時より準備された大戦の名残、光の巨人が現れる。ああ、結果的に幸運にも、わたくしがそれの相手をする必要はなくなった。



 パチン。



 魔術学院の主、それを住処とする古い竜が指を鳴らす、それだけで天使教会の切り札はひとつ、終わる。



 これで、ひとつ。幸運にも。




【秘蹟”幸運(?ロ??アー??)発動、リスク判定発生、ファンブル、リスク発生、視覚の消失--スキル”幸運”により判定の振り直し――成功。リスクなし。人知竜の”人知竜魔術式・否定の呪言”により、天使法典4ページ、消失】




【オプション目標達成、天使法典、4ページの消失により"継承秘蹟・王の城人”によるアガトラへの直接攻撃が可能になりました】




 ああ、準備が進んでしまう。出来てしまう、どんどん条件がそろっていってしまう。




「……フォルトナ、行くぞ」



「はい」



 貴女の顔から笑顔が消える。誰しもが空の奇跡を見上げる中、貴女だけが早足でその場に向かう。



 そして。



「――」



 貴女が、その光景を目にした、しまった。



 この、めぐり合わせですら――。



【秘蹟”幸運(?ロ??アー??)発動、リスク判定発生、スキル”幸運”により判定成功。”竜殺しと蒐集竜の合流が回避されました】




「焼き菓子、焦がさずに焼けたのにな……」




 あなたの視線が、その手にぶら下げたバスケットへ。



 あなたは今、どんな顔をしているのだろうか。それを見たい、それを見たくない。



 わたくしは、あなた()をどうしたいんだろうか。でも、もう運命は始まっている。



「――屋敷に帰る。我が竜殺しは壮健で忙しいようだからな」



 無限にも思えるあなたの沈黙が終る。



 穏やかな表情で振り返るあなた。太陽や光そのものが意思を持ったかのような存在であるあなたが、まるでヒトのような顔で、力なく笑う。




 わたくしはーー。




「フォルトナ?」



 あなたが、急に歩き出したわたくしへ声を。




 気付けば、身体が勝手に動いていた。何をしている、意味が無い、いや、意味はある。



 わたくしの運命はもう決まっている。あの日、上姉様を滅ぼした時、上兄様を潰した時、両親を壊した時、双子の姉と別れた時、いえ、きっと、




 ――そなたたち、名前は?



 あの日、双子の姉と捨てられ、途方にくれていたあの日。


 あなたと出会ったその時から決まっていた。そうだ、これは決まっていることなのだ。




 わたくしは運命から逃げない、運命を履行し、その先に行く。この定められたクソのような世界でわたくし自身を試したい。



 これは、あの弱くて愚かな小娘の続きなのだ。



 あの日、本当なら終わっていた人生の、あなたが与えてくれた人生の続きをわたくしは。




「アリスお姉様」



「む?」



「あなたはお屋敷へお帰りを。ウィスが向こうで馬車を用意していますので」



「貴様はどうするのだ?」



「ああ、わたくしはーー」



 喧騒の向こう側、あなたが眩しそうに見つめる先にきっとそれはいるのだろう。



 ピコン、ピコン、ピコン。



 ああ、運命の知らせが聞こえる。矢印が、ふよーっと浮かんで。



【メインクエストが進行します】



【メインクエスト・”竜と運命”が開始されます】




 矢印が、わたくしの頭の上から向こう側に。



 思わず、手を伸ばしかけて、止めた。



 それに触れないことは知っていたから。人は決してそれには逆らえない。どんな幸運を持っていようと、最後の最後になるようになるのだから。



「わたくしは、少し、野暮用に」




 上手く、笑えていただろうか。




 ◇◇◇◇



「このようなパン、認められるか!! 違法だろ!!」



「お?」



「む?」



 ラザールベーカリーの勢いが徐々に盛り上がっていく。魔術学院による演出、そして現れたファーストペンギン。



 リザドニアンへの悪印象や得体の知れないものへの恐れや嫌悪感を一瞬で塗り替える衝撃。冒険都市にホット・ドッグが広まりつつある、そんな中。




「み、見たぞ! そのパンの形! 製法! 教会法に違反しているものだ! 既に騎士に通報させて貰った!」



「知らねえのか! 教会法はパンの形をローフブレッドや残りいくつかのものしか認めていない! こんなもの俺たち由緒正しいアガトラのパン職人は認めねえ!」



 数人のエプロンを付けた男達がずかずかと屋台に近づいてくる。


 どうやら同業者が突如現れた商売敵の粗探しを早速始めたらしい。




「責任者を出せ! そもそも聖なる天使粉を扱うパン職人という仕事を、リザドニアンがするのはどういうことか!」



「今、その得体の知れないパンを食べている者も同罪だ! 顔は全て覚えたぞ!」



「天使粉の出所も教えろ! おかしいだろ! お前たちみたいな得体の知れない新参者がそんなに潤沢な材料や設備を揃えることの出来るはずはない!」




 やんやと騒ぐ男達の糾弾、魔術師達は完全に無視してエンジョイし続けているが……。




「あ、う……」



「ど、どうしよ、今、教会って」



「え、私、捕まるの?」



 先程パンを購入した市民達は一気に不安な顔を浮かべる。



「おや、勇敢だねえい。ボクたち魔術師がこんなに集まっている場所に乗り込んでくるなんて」



「どうされますか、我らが竜。あの者、この素晴らしい職人のラザール殿に向かってあまりに失礼な物言いです。ネズミか何かに変えてしまってもよろしいか?」




 人知竜が目を細め、マルドゥと呼ばれる老婆の騎士が身につけた黒い手袋をはめ直す。




 剣呑な雰囲気。



 喚き立てるパン職人達は自分達の命の危険に気付いていない。天使粉を扱える職人、中流階級の中でも割とステータスの高い場所にいる故の傲慢だろうか。




 2人の魔術師が、自らの素晴らしいティータイムを邪魔する者達に視線を向けてーー。




「ああ、大丈夫だ、人知竜。それに魔術師の人」



「……いいのかい?」



 2人を制したのは遠山だ、周囲をチラチラ眺めながら呟く。



「ああ、そろそろ……時間だ」



 竜祭り攻略、ラザールベーカリーの最初の関門はクリアした。



 次の関門は周囲からの妨害。天使教会法、パンと天使粉に関わるいくつかの制定。



 この国では、パンの形や製法に制限がかかっている。立法と司法を兼任する教会という勢力によって。



 教会法の違反の指摘。今、屋台の前で騒いでいる連中の指摘はある意味正しい、だがーー。




「おい! だから責任者を出せ! いい加減にしろ! アガトラで商売をするんなら天使教会の法をーー「天使教会の法がどうかされたのでしょうか?」



「だから! さっきからずっと言ってる! この店は天使教会の法をーー……ッア、え……?」




 ある意味で、この街、天使教会総本山のお膝元であるアガトラの住民にとって彼女の名声は竜に並ぶものになるかも知れない。



 絹のような白い長髪、黒と白のシンプルな装飾の礼服。黒皮のブーツが小気味よく石畳を叩いて。



「あら、これはこれは。アガトラ5番街に店舗を3つ構えるバーノンパン屋のご店主に、商業区の入り口に最近大型店舗を建てたヤード食料品店さん、そしてアガトラ創設時から、パン屋を営む老舗にして、商人ギルドの5大商会の一つフレーマン商会さん。お元気そうで何よりです、どうかされたのでしょうか?」



 糸のように細い目の女がそこに立つ。



 立ち居振る舞いは凛とし、御付きの美しい容姿のシスターと白毛の輝く猫獣人を侍らせるその姿は、絵画のようだ。



「あ、アンタ、いや、貴女は、カノサ。テイエル・フイルド……」



「ど、どうして、天使教会の長がここに……」



「い、いや、チャンスだろ、ちょうどよかった、主教殿! あなた様のお耳に入れたいことがございます!」



 浮足立つ商売人たち、しかしすぐに気づく。目の前の女はこの国の法をつかさどる機関の長、目障りな新興の商売敵をつぶすために告げ口するにはまたとない――。




「おーう、銭……じゃない。主教様、ご機嫌麗しゅう、遅かったですね」




「野暮用です、審問官。……全知、いえ、人知の竜よ、先ほどのご無礼、お許しを。お怪我はございませんでしたか?」




「ああ、糸目ちゃん。すぷぷ、なに、問題はないさ。それよりこちらこそ、高価で古いものを壊してしまった。後で魔術学院として、教会には何か補填を考えてるからねえい。安心しておくれよ」




「寛大なお言葉感謝いたします」





「「「…………は?」」」




 3人の有力商人たちがあり得ないものを見たとばかりに固まる。教会と魔術学院のトップ同士がにこやかに会話しているのもそうだが、何より驚愕したのは――。




「ああ、そういえば、そこの御三方、それで、何か私にご用事でしょうか? ――それとも私の部下である審問官殿が運営するこのお店に何か、ご不備でも?」




 全てが、その3人には足りなかった。



 考えがあまりにも浅い。



 そもそも何故新参のよそ者が竜祭りの自由市場に参加できているのか、なぜ商人ギルドの会長はそれを認めていたのか、なぜその新参者たちの屋台の設備や原材料がこれほどまでに充実しているのか。



 竜殺しがいるのは知っていた、だが、彼らにとってその存在はしょせん冒険者上がり。完全に舐めていた。



 そのなぜ、を大して考えず、ただ、自分たちよりも優れた商品を展開している新参者たちを論理と頭脳で簡単に処理できると信じていた。




「ま、さか」



 腐っても、商人。その主教の言葉一つで彼らは事態を理解していた。




「おお、主教様、いや、何、ここの3人にどうやらまだ、商人ギルドのあのお偉いさんから情報が回っていなかったらしい。まあ仕方ねえよ、まだ一昨日の話だ」



 よっこらせ、遠山がようやく椅子から立ち上がりいちゃもん集団にぬるりと近づく。



「な、何を言ってるんだ! ぼ、冒険者風情がーー」


「ばか、違う! お前まだわかってないのか! こ、この連中は只の冒険者なんかじゃーー」





「そういえばラザール審問官補佐、教会から卸した天使粉の使い心地はいかがですか?」



「主教様には感謝のしようがありません、手触り、まとまり、焼成の出来栄え、どれをとってもこの街でこれ以上のものは想像出来ない」



「あら、それは良かったです。一級農地から納められたものをあなた達に託して正解でしたね」



 にこやかにリザドニアンの語り掛ける主教、その様子がこの屋台の全てを物語っている。



「は?」



「ああ、やっぱり……」



「……やられた」



 1人の若い商人はなんのことだか分からない様子、残りの2人は完全に苦虫を噛み潰した様子で。




「なあ、おたく達の所は商人ギルドのモロウ商会とは仲が良くないのか? 俺たちが教会の庇護のもと商売してるの、あの会長さんは知ってる筈だぜ」



「な……そ、そんな話……」



【スピーチ・チャレンジが発生します】



「なるほど、本当に知らないのか。あの女、叩き潰してやったのにまだ微妙な嫌がらせを……いや、嫌がらせの目的は俺たちじゃなくて、むしろアンタらか……」



【スピーチ・チャレンジヒントが追加されました。"商人ギルド内における食料品店とその他の商店との関係性"】



 遠山鳴人は考える。



 先日の商人ギルドの交渉、その結末。


 結果的にこの自由市場においては商人ギルドが用意した人通りの最も多くスペースの広い入口付近の一等地を手に入れた。またパンつくりに欠かせない水や、ホットドッグの材料なども全て円滑に調達できた。



 今更モロウ商会が直接的な横やりを入れてくるとは考えにくい。恐らく、これは遠回しな嫌がらせだろう。同じパンという同業者にあえてラザールベーカリーの情報を積極的には伝えていないのだ。



 このパン職人たちもきっと、モロウからしたら目障りな連中なのだろう、だがそれに対して文句を言ったところで根拠はない。



「さて、あの会長の思惑通りに喧嘩すんのは、美味しくないな……」




 ここで、コイツらを叩きのめすのは簡単だ、簡単すぎる。



 それよりもーー。



【INT7により新たな選択肢が発生します。スピーチ・チャレンジ(懐柔)が可能です】




 攻略法が決まった。



 遠山がまたわたわたしているパントカゲを視界に入れて。



「し、しかし! あのような形のパン! 到底認められない! 天使教会の法でーー」



「おお、そういえば言ってなかった。えー、ゴホン! 先ほど、当店でホットドッグをご購入頂きました皆様、もしまだ

 ()()()をお持ちでしたら、どうぞお手元をご覧ください!」




 遠山が大声で叫ぶ。祭りの喧騒が薄れている今なら彼の声でも屋台の周辺までならよく届く。




「包み紙?」



「ねえ、どうしよう、私食べちゃったよおお、5個も! だって仕方ないじゃん、こんなに美味しいんだもの! もごご」



「食ってる場合かあああああ!!? 6個になってるよ! あれ、アンタの持ってるその包み紙……あ! これ!!」



 ざわ、ざわ。



 ホットドッグを購入し、不安に駆られていた市民達から次々と驚愕の声が。包み紙を見た者達が順番に目を丸くしてーー




「教会の印だ!!!」





「その通りでーす! 皆様! 今、ここに座す名店老舗の商会のご指摘はごもっとも! 帝国においてはパンと天使粉に関わる法により、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()() () でもご安心ください! その包み紙の印はそういうことです! 当店の新商品! ホットドッグは――」



 すうっと息を吸って。



「天使教会公認の法に則った合法ホットドッグでええええす!!」



 合法ホットドッグ、その言葉に一瞬の沈黙が訪れた後。




「「「「わあああああ! 良かったあああああ」」」」




 歓声が上がる。割とアガトラの市民はノリで生きている。



「よしよし、コイツら敵に回すとうざいけどきちんと乗せるとちょろいな、かわいいね。さ、てと。近隣屋台の先輩方、まだ何か俺たちに言いたいことがあるか?」




「ぐ、ぬ……」



「……バーノンの小倅、これは、ダメだ……帰ろう」



「あ、あ、もうこりゃ、無理だ。積み重ね、初めから負けていたんだ……も、もしかして、モロウ商会にはめられた……?」




 意気消沈した3人のいちゃもん商人たちが帰ろうとして。



「おい、待てよ。まさか、お前らここまでうちの商売の邪魔しといて、そのまま帰れるとでも思ってんのか?




「「「あ……」」」




 その3人の顔に浮かんだのは、恐怖。頭が冷えたことにより自分達がどれだけ愚かなことをしていたのかようやく気付いた。




 テラス席に座りながらこちらに視線を向ける魔術師、帝国の統一宗教組織の長、そして、竜を殺した最高にイかれた存在。



 いち商人が刃向かっていい存在ではない。



 そもそも、彼らをここまで駆り立てたのは怒りだ。自らの領分、生涯をかけて培ってきたパン商売を侵されたことによる一時的な高揚感と無敵感はもはやなく。




「さて、どうしてくれよう」



「「「わ、わァ……」」」




 竜殺しの、細く歪んだ目が、小さく可愛くなっていく哀れな商人達を眺めて。




「ま、待ってくれ、ナルヒト」



 後ろから声をかけたのは、この屋台の大黒柱。パントカゲのラザールだ。



「ーいずれも、名だたるパン商店の方達だ。その、正直彼らのことは尊敬している。誤解が溶けたのなら、あまり手荒なことはしたくない……」



「ラザール、甘い事言うなよ。コイツらはうちの店だけでなく、お前のことを侮辱していたんだが」




 遠山は、わざと冷酷な声と顔を演出する。これでいい、ラザールはこのまま素で喋らせる。




「「「ピ、ピッ」」」




「そ。それは、職人特有の、怒りによるものだろう。じ、事実、俺たちはかなり、特殊な商売の仕方をしている……」




「じゃあどうする? また同じような連中は出てくるぞ。お前のことをくだらない種族がどうのこうのとかいう理由で舐めてくる連中はよー」



「「「あ、わわわ」」」



【スピーチ・チャレンジが進行しています。あなたの脅迫により3人の商人達は混乱状態に陥りました】




 いい流れだ。遠山は、見せかけの脅しと殺意を増していく。あまりやり過ぎると客が引くのでここらが限界だろう。




 遠山の中で、このスピーチチャレンジの落とし所は既に完成している。



 あとは、()()()()()()()




 さあ、ラザール、頼むぜ。善人トカゲ。




「教えてくれよ、ラザール。こいつらへの落とし前の付け方を。この街で、ケジメをつけない連中がどうなるか、よく知ってんだろ?」




 遠山が、信じて言葉を続けて。




 ゆらり。俯いていたラザールの尻尾が持ち上がる。ニコがそそっと、どこからか持ってきたコック帽子を受け取り、ささっとかぶって。




「実力だ」



 低音のはっきりしたラザールの声。




「認めてもらう。俺のパンを。ナルヒトやみんなのおかげでつくることの出来た俺たちのパンを、この街のパンに関わる人たちにも認めてもらう」




 ラザールが完成していたホットドッグをお盆に乗せて、そっと尻餅ついて抱き合っているパン職人のおっさん達の元に向かう。



「「「え……」」」



「貴方達の名声は知っている、先人から続く技術の継承、そこに至る研鑽に敬意を……そして、だからこそ、食べてみて欲しい。同じ、道を俺よりも先に進むあなた達に」




 ラザールがホットドッグを3つ彼らに差し出す。



 ぴえん顔で抱き合っていたおっさん達の顔つきが、急に鋭く。



「……どれだけ間抜けに見えても、俺たちはパン職人だ」



「例え、命を握られてでも、認められないものは認められない」



「そこに、嘘はつかねえぞ。そもそもこんな、腸詰を挟んでレベツを挟んだパン、邪道だ。祝福の香りも薄い……パンとは認めねえ!」



 強情な職人たちが、後輩であるラザールに向けて語気を荒げる。



 ごきり。ストルがなにやら笑顔のまま青筋立てて指の骨を鳴らしていたので、遠山がそっとなだめる。



「トオヤマ……?」



「待機だ、ストル。ラザールに任せろ」




「それでも、食べてみて欲しい。貴方達のような道に人生を捧げた先輩方に認められた上で、俺は進みたいんだ!」




 ラザールがそれでも、頭を下げてーー。



「チッ。んなこと知るかよ! 俺には関係ねえ! ……え、おい、フレーマンのおっさん!?」



 アガトラ最古の老舗、パン職人としての腕のみで5大商会の長に上り詰めた男。



 フレーマンと呼ばれたおっさんが、ホットドッグに無言で手を伸ばした。



「お、おい、フレーマン、アンタ……」



「やかましい。……こっちが先にいちゃもんつけたパン職人の後輩に、道の先人と言われて、道に捧げたと俺を称してくれる奴から頭を下げられ続けてみろ……ここで、コイツを無視するのは、恥知らずよりも、情けないだろうが」




 髭の壮年、フレーマンがラザールからホットドッグを受け取る。



「……チッ、おい、リザドニアン、俺にも寄越せ、クソ!」



「ま、まあ、アンタら2人が食べるなら、俺も」



 フレーマンに触発された残りの2人が、しぶしぶホットドッグに手を伸ばして。



「あ、ありがとう、光栄だ」



「チッ、おい! リザドニアン!! 調子に乗んなよ! いいか? この状況だ、少しでもお前らの気に入らない事言ったら、潰される状況だろうよ! でもな! 俺はパンには嘘はつかねえぞ! まずかったらまずいとはっきり言うし、例え教会が手前を認めようと俺は絶対に認めねえからな!」




「り、り、リザドニアンのパンかあ……へ、変なもん混ざってねえよな」



「……若いの、食うぞ」




「ああ、食べてみてくれ」




 3人が、それぞれホットドッグにかぶりついてーー




「……っ」



「ーー……」



「……………」




 無言。



 気付けば、観衆達もみんなその様子に注目している。



 無言。ラザールのパンを食べた3人のパン職人はただ、黙って咀嚼を続ける。



 時折り、パンの外皮をちぎって、それだけを食べたりしながら、無言のまま。




「と、トオヤマ……」



「……大丈夫だ、ストル」



「で、でも……あの人たちの反応……今までと全然違うディス……」



「大丈夫だ」






「うちのパントカゲを信じろ」





 遠山だけは、余裕の表情でその時を待っていた。




 ごくん。



 最初に、バーノンと呼ばれていた口の悪い1番年齢の若い男が、ホットドッグを全て食べ終えた。




 空っぽになって自分の手を見つめ、それからラザールを見つめ、それからーー。




 ごつん!!



 鈍い音が響く。バーノンが自分の額を地面に叩きつけた音だった。



「え!? ちょ!? だ、大丈夫か!? いま、凄い音が!」




 ラザールが尻尾をピンと立たせ慌ててその男の元へーー。




「済まなかった」




 声。



 地面に頭を擦り付け、土下座の体勢になった男から絞り出されるように。


「パン、美味かった。これだけでわかる、アンタの研鑽と実力が」



「えっ」



「アンタに言ってしまった全ての言葉を撤回したい」



 バーノンが地面に頭を、顔を擦り付けたまま言葉を紡ぐ。



「今更謝って取り返しがつくとは思ってない。だが、俺が間違っていた。……優れたパン職人への数々の無礼な発言、そしてアンタの種族への発言も、全て俺が間違えてた。アンタの全てを誤解してた」



「え、いや、え?」



「言葉だけじゃ、許してもらえないのは理解している、だからーー」



 バーノンが、小さなナイフ、恐らくローフブレッドを切り分ける用のものをエプロンポケットから取り出して。



「これで足りればいいがーー」



 それの切先を、己の指へーー。



「ッウオオオオオオ!? "影の導き"!!」



「うお!?」



 踊るように、石畳の上を滑るナイフ。



 カラッ、ン。ラザールの影から飛び出した礫がバーノンのナイフを弾き飛ばした。




「な、っんで」



 バーノンが目を見開いて、転がるナイフを見つめる。この男は今、自分で自分の落とし前をつけようとしていた。



「いや何をしているんだ、アンタは!? 今、今今今!! 自分の指を切ろうとしたのか!?」



 もちろん、能力のえげつなさと反比例する善人トカゲは大慌て。



「ああ、アンタのような職人に、俺は言っちゃあならねえことを言った。……そうか、指だけじゃあ足りねえよな……」



「違う違う! やめてくれ! いや、ほんっとやめてくれ! いい! 別に気にしちゃいない! な、ナルヒト! アンタからもなんとか言ってくれ!」




 覚悟を決めたような目で、ナイフをじっと見つめるバーノン、ラザールがたまらず遠山に助けをーー。



「やりたければ、やればいいんじゃねえの? 自分の言動の責任って奴はそうやって取るもんだぜ」



 巣穴から空を眺めるチベスナが、淡々と言い放つ。



「ダメだった! そういえばアンタも大概頭がおかしかった!」



「ストル、今、ラザールが俺の悪口を……」



「事実なのでセーフディスね」



「ダメだ! 独特な世界観の奴しかいない!」



「あ、あの、リザドニアン、いや、ラザールさんって言うのかな……」



 2人目のパン職人、ヤードがホットドッグを食べ終えたようだ。ワタワタしているラザールをまっすぐ見つめて。



「ごめんなさい! 僕もだ! 完全に、完全に脱帽だ、貴方に言った全ての暴言をいかようにも罰して欲しい!」



 帽子をとって、90度頭を下げる。



 ラザールがまたビクリと尻尾を立てて。



「い、いや、よ、よしてくれ! 別に俺は貴方達にそんな頭を下げさせる為にパンを食べてもらったんじゃない! 俺は、ただーー」



「ラザール職人」



 最後に、1番味わってホットドッグを完食した壮年のパン職人、フレーマンが噛み締めるように呟く。




「あ、は、はい」



「……この生地、天使粉だけの祝福ではないな。塩と……麦酒……いや、麦酒を作る際に出る搾りかすを混ぜているのか?」



「!!」



「お、マジか。食べただけでわかるもんかね」



「……へえ、面白いねえい、あの職人」



 タネと仕掛けを知る3人が、素直に驚く。この世界の一般人には教会による情報統制の結果、"発酵"に対する知識はない。



 にも関わらず、この男はホットドッグを食べただけで、他のパンとの違いに気づいたらしい。




「天使様からの祝福を受ける為に、天使粉には基本的には水しか混ぜない。それが我々パン職人の常識であり、真実である筈だが。これは、驚いた……膨らみだけなら祝福を普通に受けたパンと変わらないが、まるで、香りが違う……昔、祖父が、そのまた祖父より聞いた話を思い出す。……大戦より前、まだ天使様の祝福がこの世界にない頃の、失伝したパンの製法……」



「お、おい、アンタまで、よ、よしてくれ! 俺は……」



「う、羨ましい……」



「「「え?」」」



「才能だ、恐るべき、才能……天使粉に不純物を混ぜてなお、パンに昇華させることの出来る、強い祝福……! ラザール氏……俺は、貴方が羨ましい……俺も、昔、若い頃、その製法を試したが、全く上手くできず、諦めたんだ……う、うおおおおお……」



 おっさんが地べたにはいつくばって唸り始めた。慟哭だ。



「え、ええ……」



「トオヤマ、あれは?」



「たまにいる変態の類だな、あ、見てろよストル。今からラザールはなんて言うと思う?」



「えっ」




「あ、あの、よ、良ければだが、コツをお教えしようか?」


 おどおどしつつ、ラザールがその男へ手を差し伸べる。



「えっ」



「ひひひ、やっぱり、あのバカお人好しトカゲ」



「い、今、なんと? なんと言ったのだ、ラザール氏、お、俺の耳が、おかしくなかったら、まるで、このパンの作り方を……」



「す、全てを教えることは難しいが、その、生地の割合くらいなら……あっ! ま、待ってくれ、な、ナルヒト、構わないか? だ、大丈夫だ、全てを教えたりはしないから!」



「あー、もうこの辺は予想通りのムーブなんで大丈夫。色々その方が後で都合いいから、ラザールくん、好きにしてヨシ」



「ほ、良かった。……その、今からは無理だが、フレーマン氏さけよければ、竜祭りが終わった後に」「是非お願いします!!!!」「うお」




「は、は、ははははは!! な、なんたる僥倖! なんたる幸運! この歳になり、まだ新たな高みが見えるとは! 自分以上の才能と能力を持つ職人に出会えるとは! 天使よ! 感謝を!!」




「は、はあ!? お、おいおいおいおい! フレーマンのおっさん! そ、そりゃあ、ねえぜ! なんだ、なんだよ、アンタだけ! そもそも俺たちを引き連れてラザールさんのパンに文句つけに行こうっつったの、アンタじゃねえか!」



「そ、そうだよ、フレーマン! 何1人だけ凄い美味しい思いをしてんの!?」




「うるっさいわ! 黙ってろ、ひよっこども! 俺はラザール氏に、いや、ラザール師に教えを乞うことにより更なる高みを目指すんじゃい! ばーかばーか!」



「「はああああああああああ!?!」」




「あ、あの、もしよければお二人も一緒に……その、俺も皆さんの伝統ある技術を勉強させてもらえれば、それに勝る幸運はないと思うんだが」



【イベント条件達成、仲間にラザールがいる為、パン職人たちへの友好度に大きな補正が発生します】



「「やったああああああああああ」」



 やんややんや。



 なんかパントカゲを囲んで騒ぎ始めるおっさんたち。ラザールは不安げにキョロキョロしているが、もう大丈夫だろう。




 ピコン。



【スピーチ・チャレンジ(懐柔)に成功しました。パンに関連するアガトラの商人達と友好関係が生まれました。ラザールベーカリーを発展させる際、新たな業務提携の可能性が生まれました】





 敵ばかりじゃあない。



 遠山は今回いつもと違ったアプローチを取った。始末ではなく、取り込む。



 これは遠山だけでは出来なかったことだ。仲間を増やし、理解者を増やす。これはそのまま己の選択肢を増やすこととにつながるのだろう。




「……トオヤマナルヒト、アンタ、中々悪党が板についてきたわね。元々悪人ヅラだけど」




「ボスがこの街の悪事の黒幕だからな。……予言の方は?」



 すっと、その輪から外れた遠山と主教が小さく言葉を交わす。



「まだなんとも。あれ以上に詳しいことは分からないまま。でも、警戒すべき人物は変わんないわ」



「幸運と英雄、か」



「ええ、それといくつか気になる情報もある。フォルトナには双子の姉がいて、もしかしたらその人物がこの冒険都市にいるかも」



「双子の姉?」



 ドクン。



 遠山のどこかで、遠山のものではない鼓動が蠢いた、そんな感覚がした。



「ええ。まあ保険よ。もし、本当に幸運とやらがフォルトナを指している言葉で、彼女が敵に回るのなら、肉親ってのは弱点になるとは思わないかしら」



 淡々と言い放つ主教。彼女が決して只のゲバではないことがよくわかる。躊躇いなく清濁を合わせて飲み込める権力者ほど厄介な者はいない。



「……それ、なんかフラグ立つセリフだからあんま口にしない方がいいぞ」




「ふらぐ? また意味わかんないこと言ってるわね。……まあでも、正直マジで驚いてる。魔術学院まで動かすとはね。ほんとの事言うと、今のアンタを脅かすことのできる奴なんているのかって気になってるわ」



「あ?」



「とぼけないでよ。竜殺しとしての実力と名声、そして天使教会(うち)の後ろ盾、さらには魔術学院とのコネ。あとは竜との友好関係。アンタはこの街にきてから着実に築いた関係性はすでに、ひとつの勢力程度なら敵に回しても余裕でつぶせるほどになってる。心底、アンタが敵じゃなくてよかったと、この私が思う程度にはね」




「……そりゃ、お互い様だ」




 竜祭り。



 ここまでは順調だ。



 この街からの偏見や差別は人知竜の衝撃とパンの実力でねじ伏せた。


 法と既得権益からの攻撃もラザールという最強のパントカゲと天使教会という太すぎるバックの力でねじ伏せた。



 それは全て遠山が冒険で得た報酬だ。ここまで進んで、準備して、備えてきた。



 ――きっと、ここからだ。試されるのは。



「そういえば、トオヤマナルヒト。アンタ、蒐集竜様は? いや、人知竜がいる所にあのお方がいるのもそれはそれでまずいんだけど」



「おー……それ、な。いや、屋台の方も軌道に乗ってきたし、もういっそ――」



 アリス・ドラル・フレアテイル。彼女はここにはいなかった。


 遠山が主教に、もういっそこっちから会いに行こうと思ってる、そんなことを言おうとした瞬間だった。





 ピコン。


【クエストへの介入者が現われました】


【崩壊したメインクエストが復活します。メインクエスト”竜と運命”が開始されます】




 運命の知らせが、音を鳴らした。



「……あ?」



 それはいつも、唐突で、でも確実に。




「ああ、ここにいらしたのですね。探しましたのよ」



 楽器、ハープを鳴らし歌うような声だった左側にまとめられた緑髪、シックなロングの黒いメイド服。



 少女の瞳。星型の虹彩が遠山を捕える。



「こうして、貴方とお会いするのは2回目、ですわね」



 美しい少女が、いつのまにか、そこに。




 たった1人で――。







「――トオヤマナルヒト」



 その女は、遠山を知っている。

 そして、今度は遠山も、その女を知っている。




 全てを踏み躙り、ねじ伏せ、進み続けた愚者、2人。





 ーー竜の祭り、あなたの一つ目の死は幸運によって訪れる。




「フォルトナ・ロイド・アームストロング」



 幸運が、微笑んだ。




読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!


コミックス1巻、たくさんご購入報告とかありがとうございます! 助かります。WEB版どんどん更新していくし、世界観のオマケなどTwitterで投稿してるんで是非覗いてみてね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 殴りたい、その笑顔(幸運女大嫌い教過激派筆頭
[一言] そう言えば、包み紙に教会印があるのは良いとして… 食い終わった後の包み紙って普通に捨てても良いものなんかね? 下手な場所に捨てると教会印を捨てたとか言われて審問されかねん気がするな 下手する…
[一言] フォルトナ…無限神通丸女だったのか…
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