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124話 努力・未来・Aーー未来、未来未来未来未来未来未来未来、みらい、みれん、ミライ

 


「あ、あちゃー……え、えーっと、え〜嘘〜、クダルちゃん? どうしたのかな? 調子が悪いのかな?」



「いや、いやいやいやいや、遅い遅い遅い。取り繕うのが遅いよ。アンタ、さっきはっきり言ったよ、これ、死ーー」



 遠山の未来が真っ暗だと気づいたらしい団長がたらーっと汗を流し始めた。遠山がしらーっとした顔で何も移さない鏡ヅラになった檻の中のクダルちゃんを指さして。




「ウエイ! りりりりり、竜殺し殿! ウエイ! ま、待って下さいな! い、今こんだけ盛り上がってる所にそんなガチ深刻な事態起きたら、暴動が起きかねませんよ! これだけ集まったおひねりが台無しにっ! しーっ、しーっ!」




「あ、コイツ、思ったよりアレだな。欲深い奴だな」



「な、なんで、本当に真っ暗……で、でも、クダルちゃん、寿命とかそういう死に方の時は空気読んでいい感じの未来に変身してくれるのに、こんな感じになるってことは……」


 一瞬ちらっと、遠山を見てすっと団長が顔を伏せる。ああ、あなた寿命で死ぬんじゃないわねって顔で遠くの空を見上げ始めた。




「あ、可哀想って顔された」



「おい、まだか?」


「竜殺しの未来、気になるな」


「そうか? なんか、さっきの超美人見れたからもうよくね?」


「えー、でもやっぱり気になるよ。竜を殺すとかいうぶっ飛んだ人だよ? そんな人が行き着く先って気にならない?」


「死んだんじゃないのー?」



 ざわざわと騒ぎ始めるアガトラの市民たち。エンタメ大好き。




「やべえな。愉快な街の人々がなんかざわつき始めた。これだからこの街の連中はよー、民度がよくないよ、民度が」




「……トオヤマ、わ、わたしが、余計なことを言ったから、わ、わたしが」




 バカはバカなりにまずいことになっていると理解しているのだろう。ストルがあわあわと目線を泳がせて。



「どりゃ」



「ディ」



 遠山がストルの脳天に軽くチョップ。少しでも痛くしたら凄く反撃されるのでうまく手加減しながら。



「落ち着けストル。こんなの偶々だ。偶々、ほら、この愉快な真っ暗鏡モンスターの調子が悪いだけさ。まあ、祭りの余興としては充分。あとはあそこのお兄さんと歌の上手いお姉さんに任せて屋台に帰ろうぜ」



「え!? いま、歌が上手いって!?」



「え、どこにアンタの喜びスイッチあんのよ」



 ウキウキと反応したハーフエルフの団長の様子に遠山が小さくぼやく。



「いや、じゃなかったです。え? 帰る? えーっと、トオヤマナルヒト。竜殺し、あの、あそこの盛り上がってる人たちは……」




 チラチラと集まりに集まった観衆たちに視線を向け、それから遠山の方をすがるように見つめる彼女。




 遠山は虚無顔で少し考える。



「……知らん! 帰る! じゃ!」



「ええ!? ちょ、嘘、思い切りがよす、ぎーーっ!?」



「トオヤマ、待って、ディスーーッ!?」



「たっはー、トオヤマナルヒト、あともう少し待っ――は?」


 最初に反応したのは、この2人。


 ユト・ウエトラルとストル・プーラ。互いにヒトの領域から抜け出さんとする者が、まず、ソレの存在に気づいた。




『パキ、ぱき、パキパキパキン』




 鏡頭の牛のモンスター、クダルちゃん。



 "ヘレルの塔"をフローレンス旅団が探索していた時に見つけた奇妙な生き物。



 ヒトの魂に張りついた情報、ヒトが時に運命と呼ぶそれを読み取り、ソレになることを趣味としている生き物。



『パキン』



 クダルちゃんは今、明らかに困惑していた。目の前の奇妙な目つきの悪い生き物の未来について、だ。




『ぱき、ぱきん』



 何も見えない、何も映るものはない。それは即ち、この生き物はもう間も無く死ぬ、終わるということだ。なのに、なぜだろう。



 気になって仕方ない、この生き物の未来が、死で終わるはずのその未来が、真っ暗なはずのその向こう側が気になって――



『ぱき、ぱきん』



 クダルちゃんの鏡頭、未来を映す鏡にゆっくり、ゆっくり亀裂が入る。今、クダルちゃんを支配しているのは、興味。


 知りたい、見てみたい、気になる。大凡ヒトが持つ甘い毒のような感情、ああでも、クダルちゃんは知らなかった。目の前のその生き物が呟いた通りだ。




 ――未来なんて知ろうとするもんじゃあない。



 その、通りだった。






『ぱき』



「あ」



 鏡が割れた。内にへこむように、クダルちゃんの鏡が。



 フローレンス旅団のメンバーは全員固まり、ストルは遠山の傍で剣を引き抜き、ユトはアガトラの塔級冒険者として観衆の前に立ち塞がる。




 そして、観衆たちは――。



「「「「「「「「「「「」」」」」」」」」」」」」」



 一斉に、ひざまずき、首を垂れた。



 異様な光景だ、華やかな祭りの日、祝祭の中で決して招かれざるナニカが現われようとしている。ヒュームという存在を構築する何かが、ナニカに対してそうさせたのだ。



 その光景は、まるで、そう。臣下が王へとひざまずくかのごとき光景で。



 ぱきん。ぱら、ぱらぱらぱら。


 鏡が割れた、クダルちゃんの鏡頭の破片が崩れ落ちて、檻の中で音を鳴らす。



『――』


 クダルちゃんはびくともしない、ただ額縁だけになった鏡頭を遠山にむけたまま、微動だにせず――。



『キリ』



 まず、出てきたのは腕だった。



 梵字まみれのマッチョな腕、筋骨隆々にも関わらず死人のそれよりも血色のない腕。



「ああ〜……待って、待って待って。よくない、良くないぞ、それは」



『チシキ』



 かと思えばその腕に、急に数多の紙が張り付いて鏡の奥へと引き戻していく。まるで本の頁のような紙。



「うわ〜……なんかアート……あれ、ストル?」



「と、オヤマ、あなた何故、そんな呑気にしていられるのディスか、さ、下がって下さい、あ、アレは……」



 顔を青くしつつも、遠山の前に立とうするストル。彼女の肩をゆっくり抑えて、遠山が最前へ。





「落ち着け、ストル。大丈夫だ」



『ユウジン』



 ぱきん。



 本の頁に包まれた腕が鏡の中へ引き戻された次の瞬間、その中から霧が噴き出てくる。真白のキリは瞬く間に広場を包み込む。



「「「



 観衆たちはただ、訳も分からずその生き物としての本能から跪き首を垂れたまま。



 一部の腕に覚えのある者のみが、顔色を悪くしつつも立っていられるような状態で。




 ぺちょ。



 ソレが現れる。尖った口、尖った耳、鋭い牙に、蛇のような舌。



【警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告警告】




『ルルルルル』



 喉を鳴らす音と共にそれが、ソレの頭だけが鏡の奥から現れてーー





「ヒッ……ヒ!?」



 ストルが腰を抜かす、遠山が彼女の肩を支えて抱き起こす。



「ストル、落ち着け。命令だ」



「は、は、っ……は、は」




 しゃくり上げるような呼吸しか出来ないストルを遠山が宥めていく。



『ルルルルル? ル』




 霧にまみれたソレの全貌はわからない。ただ、鏡から漏れ出した霧の中にそれはいる。



 燃え上がるような黄金の2つの輝きはきっと、瞳なのだろう。それが何かを探すようにゆら、ゆら、動く。



「お前……」



『ル、わー―』



 遠山の呟きに、燃え上がるその目がぐるりと反応。霧の中にいるそれが檻の中から遠山を見下ろした。




 今すぐにそれを止めないとまずい。ストルが引きつるような悲鳴を漏らし、耐えていた団長がばたりと泡を吹いて倒れたのが合図。



 遠山鳴人はしかし、その無意識が、その本能がそれの止め方を知っていた。





『おすわり』



「おすわり」




『あ?』



「あ?」



 声が。2つ、重なった。とてもよく似た声だった。



 同時だった、同様だった。ソレへ対して遠山と、その者の言葉は。



 遠山鳴人の未来はーー、割れた鏡の中から、死の中から現れた。



 男が、いた。



『…………』



「…………」



 手入れされていないくせっ毛は今より伸びて首の付け根ほどまで。髭はなかなか生えない体質なので1週間ほどほったらかしていても問題はない。



 そしてその目も。細く、吊り上がり、そして暗く虚ろでいながらも、今にも燃え上がりそうな燻りをため込んでいるかのような瞳。



 遠山鳴人は、トオヤマナルヒトは、思った、思った。



 ああ、コイツ、ほんとに目つき悪いな。マジでチベットスナギツネみたいじゃん、ああ、コイツ、ほんとに目つき悪いな。マジでチベットスナギツネみたいじゃん、と。




「……うっ、ふ、と、おやま。下がって、くださいディス」



『……』



 ストルが腰砕けになりながらも、剣を引き抜いた。今の彼女を動かすのはその使命感と己が必ず守ると決めた存在と居場所の為。



 目の前のコレを、遠山と触れ合わせてはならない。正義の幼体としての彼女の本能が、彼女に恐怖に屈すことを決して許さなかった。




『……ああ』


「……」


 まるで強い朝日を眩しかろうが眺めたい時のように目を細めて、ストルを見つめる。



 、その後、ソレが遠山を指差した。



 ローブの下に着こんだその()()()()()()()()()()()



『いい色だな』



「あ?」



 それが、呟く。



 キリを纏い、背後に大人しくなった燃え上がる金色の双眼を従えるその男が遠山に言葉を。



 キリの合間から覗くその男の服装、それもまた探索者の装備によく似ている。自分が蒐集竜から与えられたローブ、それに探索者用の黒いタクティカルジャケット、確か軍用の最新のものだ。



 遠山はその黒い探索者用タクティカルジャケットに見覚えがあった。上級探索者になった時、組合から支給があったものだ。遠山の探索装備のローテーションのひとつ。だが、それは、あの最期の探索の時にはメンテナンスに出していて――。




『お前』



 遠山の思考を、その男の言葉が止めた。檻の中から響いた声を、キリの中からぬっとまろび出た声を



 ふっと、ソレが笑った気がした。



 ふと、遠山が気づく。その男、自分と全く同じ顔をしたチベスナ顔の男の腰に、ある物が備わっていることを。




『これ、絶対いるから。必ずここで手に入れてくれよ』



「は?」



 霧の中の男が、腰元に紐で巻き付けているソレ、十字のスリットが入った兜をぽんぽんと叩いて。




「なに言ってんだ。お前、え? お前が、俺の、未来……?」



『……』



 遠山の問いかけにその男は答えない。



 ほんの少し血色の悪い顔を、細い目を更に細く。その目を一度、怯えきっているストルに向けて、それからまた、遠山を見て。




『お前、負けんなよ』




 その顔が、その男の精一杯の笑顔であると気付いた者はーー。



『頼むから、負けんなよ、どれだけキツくても怖くても悲しくても惨めでも哀れでも、絶対に止まるなよ』




「いや、待て待て待て待て、やめろ、そういう不穏なこと言うのは。おい、マジでお前」



 さら、さらさら。時間が来た。


 ストルの未来の姿が消えた時と同じようにソレもまた風に攫われる砂のようにほどけて消えていく。



「お、おい! ちょ、待て! それ消える感じか!? お前! 未来の姿とか、そういう感じのお前がいるんなら、あの予言! ありゃどういう事だ! お前、何か知ってんなら教えてーー」




『お前の冒険だ、お前が進め』



「ーーッ」



 遠山が思わず息を呑む。



 そして、それは消えていく。キリの中にいる金色の双眼を持つ巨大な何かをなでるような仕草のまま。



 さらさら、解けていく輪郭、そいつの消えていく身体、残った右腕、人差し指がすいすいっと何かを描いて。




 ピコン。



 運命が音を鳴らした。



 遠山の視界にいつものそれが流れて。




テスタメント(遺言)クエスト発生】



【クエスト名・冒険の始まり】



【俺は進んだ、俺は選んだ、俺は諦めない。それはお前も同じだよな。チュートリアルは終わった。こっからが多分お前の本当の冒険の始まりになる。そしてこの世界はお前が思ってるほど甘くはない。()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()

 お前が何もしなくても世界はお前からあらゆるものを奪っていく。だがお前は自由だ。この世界では全てが許されている。世界の前に跪き、それを受け入れるのもアリだ。ふざけんじゃねえと立ち上がり、それに唾を吐くのもアリだ。

 だが、やる事なんて決まってる。今までと同じさ、敵を殺し続けるしかない。

 お前はもっと、もっと強くなる必要がある。霧を打ち負かせ、知識を跪かせろ、思い出を飼い慣らせ。お前の中の可能性を全てお前が支配するんだ。その為の最初の一歩、まずはあのバケツヘルムを手に入れろ、偉大なる先人の道具は活用しないとな】




【クエスト目標・◆◆◆◆騎士団正式採用対超存在決戦殲滅装備"S3000シリーズ、グレートヘルメット"の入手】




「またそういう……」




 メッセージを確認している間に、嘘のようにソレはもう消えていた。



『ぽほほほほほろ』



 かきかきと呑気に後ろ足で首の付け根を掻いているクダルちゃんしか、檻にはいない。



 落っことしたてバキバキになったスマホ画面のように割れた鏡頭、でも割と本人? は平気そうだ。




「い、今のは、今のは……」



 からん、ストルの手から剣が抜け落ちた。



「おー、大丈夫か、ストル。見た? なんか未来の俺、髪伸びてたな。てか、なんか無口で言葉足らなくね? なんか感じ悪い奴で」「なに、言ってるんディスか? か、髪? 髪ってなんの話ディス!?」



「え?」



「トオヤマ、あなた、さっき、さっきのが、ヒトに見えてたんディスか!?」



 泣きそうな、いや、泣きべそかいたストルが遠山の肩を掴んでぐわんぐわんと揺らしまくる。



「あんな……あんな、の嘘、ディス……あなたの未来のはずがない……いやだ、そんなの、やだ……よぅ……」




 かと思えば、ばっと遠山の肩を離し、顔を抑えて音もなくストルが泣き始めた。




「ええ」



 遠山はもう呟くことしか出来ない。



 そして、ふと後ろを振り向く。そう言えば、見物客、観衆たちはーー。




「「「「「「「「「「我らが王よ」」」」」」」」」」」



「「「「「「「「「ヒトの王よ」」」」」」」」」」」」



「「「「「「「「「「高き塔の王よ」」」」」」」」」」




【警告・◆◆◆◆・●●●●の特性"狂気山遠景"によりヒュームに一時的狂気・"崇拝"が発生しています】




 跪き、手を合わせ、祈りを。


 100人は下らない人々、男も女も子どもも大人も老人も。ヒュームと呼ばれる種族、その全てが、獣人や亜人を含む全てのヒュームと呼ばれる生き物が、一斉に首を垂れていた。




 その光景を作り出したのは、ここで固まっているチベスナの未来の姿なのならばーー。



「えええ」




「…………うそだ、うそだ、うそ、だ。いき、てた。なん、で。大戦の時に……勇者と一緒に、死んだ、っておばあちゃんが、言ってたのに、なんで、どうして……歴史からも消えてるのに、なんで……」




 ハーフエルフの団長が、青い顔をしつつ、遠山から四つん這いで離れながらブツブツと。




「ええええ」






 なんか、もう、さいっあくの空気になっていた。



「どうして……」



 遠山が力なく呟く。場の空気はもはや、ヒエッヒエ。



『ぽにゃ。ぽろろろミライみらいミライミライミライ、りゅうころし、からすころし、かぜころし、やみころし、トウトウトウトウのオウとうのノオウぽろろろろろろろ』





 うとうと。


 マイペースな鏡頭のクダルちゃんだけが、砕けた自分の鏡ヅラも気にせずに体を丸めて呑気にお昼寝を始めていた。





読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!


2月25日、現代ダンジョンライフの続きは異世界オープンワールドで! コミックの1巻が発売されます! WEB版や書籍版で文章で表現されていた世界をそのまま田中清久先生が絵にしてくれました!

楽しい本なのでおススメです。

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― 新着の感想 ―
クダルちゃんかわい
クダルちゃんかわいいじゃん、人面じゃないんだな
[良い点] 全部 [気になる点] ビューティフルスター阻止 [一言] 遠山も味山も過去(未来)にやらかしてんな! こいつらいつもやらかしてんな!
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