118話 主教サマのリドル その2
「何言ってんの、アンタ。この街に来て、竜、教会、魔術学院、それに最近はドワーフの工房をも巻き込んで好き放題にやろうとしてる奴がなに言ってんのよ? アンタほど強欲が似合う奴はいないわ」
「いやいやいやいや、流石に俺も金貨磨いてそれを肴に酒を飲む趣味はねえからな。それに、酒やらパンやらといった生活必需品に、信仰心を利用して金を取り込む仕組みとかもなかなか思いつかねえ。いや、なに、主教サマの強欲ぷりには頭が下がるよ」
糸のように閉じられた眼とチベットスナギツネのような細い虚無の眼が向かい合う。
お互いににこやかに話す。しかし、その話は決して平行線を破ることはなく。
「はあ〜!? アレは私の心の平穏の為の趣味ですう〜、それに祝福税はそもそも教会の最初期からあった構造ですぅ〜」
「はい、じゃあ俺もです〜、巻き込んだ、じゃなくて巻き込まれてるんですう〜。好きで騒ぎを起こしてるわけじゃありません〜」
互いに似たような人相の悪い顔をしながらいがみ合う。争いとは同じレベルの存在でしか発生しえないのは事実なのだろう。
「こ、の……いや、待て待て待て、もうキリないわ。ほんと。なんなの、この男。話してるだけでトラブルが起こりそうだわ」
「なわけあるか。俺ほど慎重に身の振り方考えてる奴はいねえ。……だが、いがみ合うのも確かに無駄だな。えー、でも、話が振り出しに戻っちまうな、これじゃ」
お互い向かい合いながら腕を組んでうーむと唸る、鏡合わせのような姿にも見えるが本人たちは決してそれを認めることはないだろう。
「……仕方ない。"あなた"と"強欲"、もうこれいっそ私たち両方のことを指し示す言葉として扱いましょう。面倒だけど、それが1番早いわ」
カノサがふーっとため息を吐き、背伸びをした。
「だな
。さて、じゃあ後は、喫緊で解読しないといけない予言だな。幸運と英雄ねえ……」
「面倒ね。いっそ。謎のヒントを聞くことの出来る秘蹟でもあれば便利なんだけど」
「ひひひ、ヒントね。確かに。まあ、そんな力あればさぞ人生はイージーモードだろうな」
「ま、ないもん気にしても仕方ないわ。うーん、にしてもあれよね。これ、幸運と英雄、2人に殺されるんじゃなくて、あくまでそれぞれ1人づつ殺されるのよね?」
「ああ、この予言か」
言いながら遠山が予言のメッセージを眺める。
【竜の祭り、あなたの一つ目の死は幸運によって訪れる。
死を避けることは出来ない
あなたはそれを恐れてはならない。
異なる世界より来たりしあなたは止まった鼓動を雷によって動かす術を知っているのだから】
【祭りの日、あなたの死は英雄によってもたらされる。
死を避けてはならない。
最後の切り札すら封じられたその後に、分水嶺は訪れる。
手綱を握るのはどちらか、決める時が来るだろう】
「まあ、文脈的に、あれね。幸運も英雄も個人のことを指し示してはいそう。英雄、英雄ねえ……勇者パーティー、は、ないか」
「あ? 勇者パーティー?」
なんの気もなしに呟かれたカノサの言葉に遠山がぴくりと。
「ええ、勇者パーティーのメンバーを英雄と呼称することもあったなって。まあ、主に王国での呼び方なんだけどね」
「王国での呼び方、…….ああ、確か、海を隔てた向こう側の国か」
ラザールの故郷だ。今までもこの世界にきてからの生活と冒険の中何度かその国の名前は耳にしていた。
「ええ、帝国と王国は文化や風習が似てはいるけど、違うものも多いのよ。ほら、たとえば帝国では、"副葬品"って呼ばれるものは、王国では"漂竜物”竜の世界から届いたアイテム、もしくは竜にすら届きうるアイテムって意味の名前がつけられてたりね」
「あー、地域が違ったら呼び名も変わる的なあれか。勇者パーティーのことも、王国では英雄って呼ぶこと……が……」
遠山がゆっくり言葉を詰まらせる。勇者パーティー。そう呼ばれた人物、しかもあまり関係性のよろしくないそいつのことを思い出したからだ。
「…………あんた、そう言えばあの、ウェンフィルバーナと一回揉め事起こしてたわよね」
そんな遠山の様子に気付いたらしいカノサが一度紅茶を飲んでから、静かに問いかける。
「最初のギルドの話か。おう、殺されかけ……あー……」
遠山はそこで頭を抱えた。ついさっき、その勇者パーティーの奴ともめたばっかりだった。
「待って、アンタまでその感じやめてくんない? なに? ほんとやめてくんない?」
「……ゴメンネ」
「やめろっつってんでしょ、か細い声出してんじゃねえわよ。何した、ん? なに? またやらかしたんか? ん?」
「いや、ついさっき、その商人ギルドで、その、ウェンフィルバーナとまた揉めたわ」
「……うわ、こいつマジか」
うわ、こいつマジか、言葉の通りの顔をしてカノサが唸る。
「いや、待て待て、だからと言ってそいつが、ほら、俺らと揉めるとは言い切れねえだろ?」
「アレと揉める可能性が出た時点でアウトなの。いや、待てよ、待て待て待て、カノサ、考えなさい、このバカが話をややこしくしてるだけな気がするわ」
「またバカって言った……」
カノサの言葉に静かに傷つきながらも、遠山はカノサが悩んでいる様子を眺めて。
「あ」
「あ?」
カノサがぱっと顔を上げる、遠山が首を傾げて。
「トオヤマナルヒト、そういえば、アンタ、竜、蒐集様とは仲直り出来たのよね」
「あ」
「あ?」
今度は遠山が顔を下げて、カノサが首を傾げた。
「いや、実はそれが」
かくかすりゅうりゅう。
人知竜が教えてくれた今のドラ子の状況をカノサにそのまま伝える。顔色が赤色になり、紫に、最終的には青色で落ち着いていた。
「っあ〜、あ〜」
カノサが唸る。彼女からしてみれば3日前、かなり頑張って竜殺しと竜の仲を取り持ったのに、ふたを開ければまさかの好き避け。彼女の胃はもうボロボロだ。
「その節は、本当に主教様にお世話になりました!」
遠山が椅子から立ち上がり、直立姿勢、そのまま90度に頭を下げた。
「うるせえ〜、頭なんざ下げてくんなぁ〜……なんでそうなんのよ。ほんと意味わかんないわ、ああ〜待って、待って。竜もそうなんだけど、英雄の件、これマジでめんどいわ」
「ウェンフィルバーナ……か?」
「いんや、そいつもヤバいんだけど、てか、この予言の英雄がもし、ウェンフィルバーナのこと言ってんならお手上げよ。アレは決して触れてはならないモノだから」
「あー、まあ危ない奴だよな」
「それどころじゃないわよ。あんな化け物。あー、話を元に戻すわよ。これは確信だけど、ウェンフィルバーナ=英雄ではないわ」
「なんでそう言い切れる?」
カノサの意外な言葉に遠山が眉をひそめた。
「簡単よ、彼女は、教会とは争えない盟約があるの」
「盟約?」
「そ、決して破れぬ運命を縛る誓い、副葬品・"永久の螺旋"によってね。それだけは確かだわ」
カノサの視線が一瞬、足元に移るのを遠山は見逃さなかった。その副葬品のありかがだいたい予想がつく。
「あー……色々聞きたいことはあるけど、その約束事って俺には適用されなくね? なんか俺めっちゃもめてんだけど」
「ふむ、いい質問ね。でも、この盟約の内容は、勇者、及びに勇者パーティーはどのような形でも天使教会に対しては不利益をもたらすことが出来ないという内容なの」
「不利益?」
「そ、非常に業腹だけど、ほんとのほんとに業腹だけど、アンタも最早私の身内、教会の子よ。アンタに何かあればそれはつまり、教会の不利益となる。つまり、ウェンフィルバーナのそれは成功しない」
「成功しない? 変な言い方するなよ。どういう仕組みだ?」
「アンタ、運命って信じる?」
「……創作物の題材として好みだ」
この女から振られる話題としては珍しい。遠山は身を乗り出して耳を傾ける。
「そ。なら話は早いわね。副葬品の中にはいくつか、他者の運命に影響を及ぼすものが歴史の中で確認されているの。ウェンフィルバーナに使用されている副葬品の効果はね、"不変と不可侵"の強制」
「シンプルに言うと?」
「”彼女が、天使教会に行ういかなる不利益をもたらす行動も、必ず失敗する”」
「まためちゃくちゃなこと言い出したな」
「それが"副葬品"の力よ。この世の理を歪める大いなる力。ウェンフィルバーナがその副葬品の影響下にある以上、彼女の取る教会への不利益な行動は必ず失敗する」
「例えば彼女がもし、私を傷付けようとするのならば、それは必ず失敗する。ありとあらゆる形でね」
「……それは」
「逆説的に言うと、審問会のメンバーであるアンタが、ウェンフィルバーナと揉めて、今無事でいる。そのこと事態が、副葬品の効果を証明しているの」
カノサの糸目が遠山に向けられる。
「彼女とアンタが揉めれば、必ず彼女は失敗する。それはアンタに味方する助けが都合よく現れる形であったり、それはアンタに彼女に対抗する力が都合よく備わったタイミングであったり、心当たりはないかしら? 過程はどうあれ、アンタはあの勇者パーティーと揉めてもなお、生きている」
「……ご都合展開が味方してくれるってことか? マジかよ」
言いながら、ふと遠山は考える。確かにさっきの件も結果的には進化しつつあるキリヤイバの力のおかげで、はったりを利かせ撃退することが出来た。副葬品の効果と言い切ることは出来ないが、確かに結果的には出来すぎなほど、トラブルは簡単に収束した。
もしかしたら、これまでも遠山が気づいていないところで、その副葬品が効果を発動してきたのかもしれない。
「ま、そゆことね。そして教会最大の優位点はね、彼女は自分の運命が教会によって縛られていることを知らない。勇者パーティーという、そうね、一つの装置に付けられた保険ね」
「じゃあ、この予言は……」
「"あなた"という言葉が、私でもあんたでもどちらにせよ互いに天使教会の身内よ。ウェンフィルバーナがそれを脅かすことは出来ない。可能性がゼロとは言わないけど、"英雄"に彼女が該当するとは考えにくいわね」
カノサの説明は一応の理屈は通っている。
「待てよ、そうなると話が振り出しに戻る。整理するぞ、今、現状この予言から分かる重要なことは2つ」
遠山が話をまとめだす。
「その1、"俺たちのどちらか、もしくは両方、竜祭りで死ぬ可能性がある"」
”あなた”と”強欲”、これの見極め方が不明な時点ではその前提で動くべきだろう。
「その2、"俺たちの死は『幸運と英雄』によってもたらされる"」
死というワードが含まれる予言にはその多くに幸運と英雄が含まれていることからこの点も可能性は高い。
「その3、"『英雄』はウェンフィルバーナの可能性は少ない"、この認識は間違いないか?」
「ええ、問題ないわ。そして、ええ、今大体わかってきた」
カノサがうなずく。そして同時に、自分の額に指をあてながら足を組み、遠山に答えた。
「あ?」
【アイデアロール進行、カノサ・テイエル・フイルドのINT値27。これにより判定なしでアイデアロールに成功します】
【カノサ・テイエル・フイルドの技能が連続発動します。複数の技能"高度視野思考"、"瞬間記憶"、"真相解明"、"論理の魔術師"、"情報網"、"羽の長"、"歴史知識"、"帝国知識"、"王国知識"、"考察のコツ"、"情報解釈"が発動します】
遠山の視界にメッセージが踊る。カノサの周辺、頭の辺りを舞うように数多のメッセージがくるくると。
「幸運と英雄……ええ、アタリがついたわ、そいつらの正体に」
「え、は? ど、うやって?」
「この街に変化をもたらす連中はいつも、外から来た奴よ。アンタみたいにね、そしてこの予言のワード、"英雄"という言葉、これは"王国"に深く関わりのある言葉だわ。幸運と英雄を一つくくりに考えるのならば、これらは"王国"に何かしら関係する存在である可能性がある」
「仮定が過ぎるだろ。いや、もし仮にその"王国"関連ってのが正しかったとしてもよ、それだけじゃこいつらの正体に近づいたとは言えねえ」
「…………………………あった」
「は?」
遠山の反論を流しつつ、カノサが何か思考を進めて。
「この1ヶ月で、冒険都市に新たにやってきた旅人、新参者、私はそいつらの情報を全て覚えている。その中で怪しい連中が、いる」
「は? え、いや、お前何言ってーー」
さらっと告げられた神業の自己申告に、驚いている時間すらカノサは待ってくれない。
「……数日前、竜大使館に新たに雇われたメイドと執事がいるわ。体調不良で寝込んだメイド長の埋め合わせの為にね」
額を人差し指でぐりぐり抑えるのは彼女の癖だろうか。思考がさらに進む。
「竜大使館に? あそこ、普通に求人してんだな」
「普通はしてないわ。竜大使館で働けるのは古い時代に竜と盟約を交わしたヒュームの一族だけ。帝国では、それは皇帝一族と呼ばれ、王国では王族と呼ばれる連中よ」
「あ? それ、つまり」
「ええ、天使教会が掴んでいる情報が正しければ、今、竜大使館に新たに雇われたメイドと執事は王国の王族のヒューム。……あら、あらあらあらあら、臭いわね、このタイミングでどうして王族、あのアームストロング家が竜大使館に近づくのかしら」
アームストロング。
その言葉を聞いた瞬間、遠山は固まって。
「…………………………………………あ」
あることが脳裏をよぎって。
「あん? どしたのよ。なんか心当たりでもーー」
「いや、なんかそんな名前のやつがこの前うちに来たような」
「は?」
遠山の言葉に今度はカノサが口を開いて。
「アームストロング、アームストロング……」
「は? ちょ、どういう意味?」
「いや、なんかラザールのパンの匂いに釣られてうちの家に……あああ、まってまって、うわ、あいつすげえ考えてみれば怪しかったわ。ドラ子との一件ですっかり忘れてたけど」
暗黒女神や耳の奴、あの異界で起こったバカバトルのせいですっかり忘れていたが、新居に尋ねてきたあの不審者、緑髪の女が確か――。
「何よ、その理由。影の牙のパンはなんでもかんでも呼び寄せるの?」
「そう、影の牙! あの女、ラザールが影の牙ってことも知ってた。王国関連の奴じゃん……」
遠山が必死にあの時のことを思い出す。
あの独特な雰囲気、常に浮かんでいた朗らかな笑顔、そして身にまとう強者特有の余裕。
――わたくしは■■■■■、と申します。冒険都市に来るのは初めてで、色々珍しいものが多く散策していたところ、たまたまこのお屋敷が目に止まって、ついお邪魔してしまいました
――まあ、怖いですね
そう、そして余裕たっぷりに自分の名前を。
「……フォルトナ・ロイド・アームストロング」
遠山はその女の名前を憶えていた。
「なんて?」
「いや、フォルトナ……そう、名前だ。フォルトナ・ロイド・アームストロング……」
遠山が呟く。カノサが糸目を見開いて。
「それえええええ!! お、お馬鹿! アンタ! めちゃくちゃ怪しい奴がアンタに接触してんじゃないの!! もうどう考えてもソイツじゃん!」
「うおおおお、確かに! 言われてみれば怪しい奴だった気がする……! 赤い髪のなんか強そうな奴もいたし」
頭のいいバカ2人が頭を押さえて騒ぎ出す。
「赤い、髪……待てよ、待ちなさいよ。……王国、王家、幸運、英雄……王国の赤い髪……ポステタス家?」
「え、どした、主教様」
「ちょ、静かに。ポステタス、ポステタス、ポステタス……。確か、王国の古い武官の家系……勇者のお伽噺でも、名前出てくるわね。……えーと、ポステタスが出てくるお話のタイトルは……確か、"裏切りと力"……」
「お話?」
「私は今まで読んだ本の中身を全部覚えてんの。その中に確か、赤い髪の英雄が主人公の話がいくつか……ああ、これね」
カノサがまた額をぐりぐりひとさし指でまた額を抑える、目を瞑り、首をわずかに傾げて。
本当に何かを読んで、探しているかのような。
「マジかよ」
「あった、あった。ポステタス。力の……英雄? ふうん、勇者と旅の途中で出会い、一時は仲間となり、後に裏切り、"王"に寝返った不忠者……アンタの家のとこに来たっていう赤い髪の男、名前とか聞いてないの?」
「すまん、そこまで覚えてない。あ、でも、なんかあいつ妙な姿してたな」
「妙な姿?」
「ああ、なんかあれ。バケツヘルムっつーのか? こう、兜だけ腰にくくりつけて」
「ちょい待ち。……じゅうじ兜。もしかして、じゅうじ兜のじゅうじって、古代ニホン語の"十字"のこと?」
カノサの指さした先にあるのはあの予言。
【あなたの永い計略は実を結ぶ。
十字兜は英雄から古い約束を通じてあなたの元へ届くだろう。
十字兜は最初の一歩。英雄に力を示すのだ。
死を、乗り越えることが出来ずとも】
「お! あ、そうか。漢字がねえから十字っつっても十字のイメージは普通ねえのか。異世界設定忘れてたわ、すっかり」
カノサの言葉に遠山が手を叩く。
「アンタ、赤い髪の持ってた兜のスリット、どんな形してたか覚えてないの? てか、ぶっちゃけ、これと同じような形よね?」
カノサが聖堂に置かれてある鎧の飾りを指さす。教会騎士の各種類の鎧の中にはストルが着ているような動きやすさ重視の薄いものから、フルプレートの重いものまで。
そして、その中にはまさにバケツと見まごうあの意匠のものもあった。
「おお、まさに」
バケツヘルムのスリット、のぞき穴。縦、横に刻まれたそれは確かに十字の形をしていた。
「…………」
「………」
「えええええ〜もう、こいつらじゃーん。めちゃくちゃ怪しいじゃーん」
カノサが机にだらーんと身体を預けて嘆く。
「何点かわかんねえ部分もある、が。状況が揃いすぎてんな。英雄が、あの赤い髪の男なら、幸運が、あの緑髪の女ってことか?」
「そう、そこなのよ。ポステタスが英雄を指すのは分かる。でも、アームストロング家の三女に"幸運"なんて名前があてがわれる理由がわかんないわ。まあ、王族なんてもんに生まれること自体、不運なもんなのに」
「そういうもんか。だが、これでだいぶ絞れたな」
「ええ、そうね。もう仮定でも備えましょう。例え、私たちの予想が外れていたとしても、このタイミングで竜大使館に近づく街の外からやってきた連中なんてどうせ厄ネタ抱え込んでるのに決まってるわ」
「厄ネタね……」
カノサがため息をついて、明後日の方角を指さす。
そこには――。
「……う、わ」
【幸運に魅せられた英雄が、竜の焔に伏せるとき、導きの光が灯るだろう。
敵を侮ってはならない。奴らも進み続けてここへ来た。
家族を滅ぼし、覇王を討ち、老兵を斃し、月光を歪めてここへ。
愚者の行進は止まらない、竜の焔ですら溶けぬものがあると知れ】
【英雄の力に倒れ伏し、自らの血溜まりに沈む時、あなたは急がなければならない。
黒き竜を恐れるべきではない、彼女はあなたの味方だから。
黒き竜を信じるべきではない、彼女はあなたの虜だから。
血の滴る美食を前に、竜はその本性を抑えることはできない】
【甘くほろ苦い死があなたの運命を試す。
幸運が笑い、英雄が目を背け、竜がそれを差し出す日。
あなたは決して断ることはしない。
20万年にも及ぶ進化はあなたをきっと守るだろう】
【約束を信じすぎない方がいい。いつも裏切られてきたから。
決まりを信じすぎない方がいい。抜け穴があるものだから。
郷愁と過去、思い出と執着は遅行毒。
出来るのなら、やってしまうがヒトのサガであるから】
【あなたの手札は削られる。
鬼は古い樹の海の底へ、黒き竜は古い終わりへ。
それでもコールは果たされる。
決着はあなたにしかつけられない】
【十字兜十字兜じゅうじかぶと。
数多の化け物と殺し合う運命にある男たちの執念。
十字兜十字兜じゅうじかぶと。
素晴らしきヒトのヨスガ】
「ほんと、人生ってクソね」
カノサがため息をつく。
似たもの同士の2人の会議は結局、この後日が落ちる時まで続いた。
遠山が屋敷へ帰る頃にはすでに、子どもたちは夢の中。
起きていたラザールやストルと少し、酒を飲んで、遠山は眠りにつく。
竜祭りはどんどん、その日は近づいていく。
読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!
ダンワル2巻、そして凡人探索者の書籍も準備進んでおります。お楽しみにお待ちください。




