109話 冒険者の舌 そのⅢ
「おま、おま、おま、それ、は」
ラザールの持つ書類がなんなのか、支店長はすぐにそれがわかったらしい。口をぱくぱくと開けたり、閉じたり。
「おつかれ、ラザール。どうだった?」
「ああ、あんたの予想通り、面白いものがいくつか手に入ったよ。店の資金の使い込み、色街での出費を経費に改竄した証拠資料。商会の経営陣への虚偽報告、まあ、典型的な小悪党だな。裕福な家の小さな地下室にたんまりと、だ」
ばさばさ。ラザールが書類を長机に落とす。
乱雑に広がるそれを見て支店長が裂けんばかりに目を見開いた。
「は? は? なん、だ、これ」
「うちのラザールの仕事の結果さ。おっと、触るなよ? 指一本伸ばしてみろ。斬り飛ばす」
遠山の言葉に支店長の書類へ伸ばしていた指がピクリと止まる。
先ほどまだ、浮かべていた冷淡な笑みはもうどこにもない。顔色が赤くなったり、青くなったり信号のように切り替わっていた。
「は、は……ありえ、ありえない! それは私の家のーー」
「ああ、アンタの書斎の袖机の引き出し、下から2番目の二重底に鍵はあったよ。地下室のな。それで地下室の二重扉の数字錠、あれはアンタのお気に入りの色街の娼婦の誕生日だ。ふむ、随分と入れ込んでいたみたいだな」
ラザールがなんのこともないように呑気に呟く。
「はーーま、まて! 我が家の、門兵はどうした!? 数十人の腕利きの冒険者だ! お前なんかにーー」
「ああ、ハイディの徒党か? 2級の冒険者パーティだ。ふむ、どういう売り込みを聞いたかは知らないが、彼らはあまり門兵には向いていないな。どちらかと言えばモンスターを狩るのが得意な連中だ。腕っ節と番犬としての品質は比例しないよ」
腕組みしながらうんうんと頷くリザドニアンの言葉に支店長はもう固まるしかない。
「な、が、が、が」
信じたくない、信じれる訳もない。リザドニアンという劣等種族に自分が一杯食わされていることなど。
だが目の前にあるその書類、己が隠していた秘密がこうも簡単に曝け出されているのをみるともう誤魔化しようもなかった。
「ラザール?」
「もちろん、誰も殺していないさ。そして恐らく彼らは雇い主の家から何かが盗まれたことにも気付いていないだろうな」
「OK、さすが」
顎をガクガク震わせる支店長を尻目に遠山とラザールが軽い言葉を交わす。
「ぬす、そ、そうだ! この、盗人が! 薄汚いリザドニアン! 侵略種の卑しい血が! す、すぐに、教会騎士に突き出して」
ソファから立ち上がり、遠山とラザールをそれぞれ指差す支店長。飛び散る唾が書類に小さなシミをつける。
「いいぜ。通報してみなよ。俺たちも捕まるかもだが。アンタはどうかな。んー? この書類も教会の騎士が確認されちまうなー。どうする?」
「ぎ、ぎ、ぎぎぎ、か」
そんな喚きを意にも介さずリラックスしたままソファに深く腰掛ける遠山、その言葉にまた支店長の言葉が止まる。
「そうだな、そうやって泡噴くしかねえよな。よく聞け、お前達は最初から詰んでんだよ。俺の友達に舐めたマネした時点で、お前らは敵だ。もう、お前達には遠慮も容赦も何もしねえ」
【自勢力に"影の牙"がいる為、判定無しでスピーチチャレンジヒント・"ミハエル・クラウスの私文書"を手に入れました】
【スピーチ・チャレンジが優位に進行しています。全ての判定に成功しました。相手は強く動揺しています】
「な、なにが、何が目的だ……」
「目的? さあ、なんだと思う?」
「な、な、なに?」
「考えてみろよ、その小さい脳みそで。俺が今、なにをしようとしてると思う? ……これは俺の予言なんだけどな」
こんこんと頭を指先で叩くジェスチャー。
遠山が声を潜める。
「お前達はいやでも俺たちに天使粉を売りたくなる。いや、売らなければならなくなる。それどころか、天使粉をどうしても俺たちに譲らないといけなくなる」
それは宣言だ。
冒険者の舌が敵を揺さぶり、静かに追い詰めていく。
「あ、あ、な、舐める、な……そ、そ、そんな書類! いくらでも偽装できる! お、お前達のような奴隷上がりのぽっとでが、どうこう出来る私ではないんだ! やってやる、やってやるぞ! おい、冒険者! 来い! 仕事だ! こいつらをーー」
もう支店長にはそれしかない。安易な暴力。冷静であれば竜殺しにそれは悪手であると気付けただろう。
だが、もうそんな判断すら今の彼には出来なくてーー
「ッ!」
「ラザール」
遠山の呼びかけにラザールが動きを止める。
「こいつらを黙らせろ! 竜殺しがいようが関係ない! 一級の力を見せてみろ!」
支店長の言葉が、部屋に響いた。
なかまをよんだ。でも、誰もこなかった。
「……おい、おい、どうした! なぜ、なぜ来ない!? おい、誰かーー! こいつらを」
ぎ、い。
ゆっくり、扉が開く。
ラザールが、ドロモラが、緊張した面持ちで部屋の入り口を睨み、支店長が汗まみれの顔に安心した笑みを浮かべ、遠山はただ無表情にドアを見つめる。
扉の向こう、そこには。
「こいつらを、なんですか? ミハエル支店長」
抑揚のない平坦な声は、そう決められた音色しか出ない楽器のように澄んだものだった。
「へ」
支店長の表情が固まる。
その扉の向こう側から現れた少女を見て。
「聞いているのです、ミハエル支店長。お客様に向かってなにを言っているのか、と」
茶色の髪に仕立てのよいドレスシャツ。簡素な服装ではあるが素材の良いものを使っているのはシワひとつないその様子から見てとれる。
クリクリとしたアーモンド型の目にしみひとつない白い肌。吊り目がちで勝ち気な印象の、少女。
「あ、ーーか、会長……?」
冒険都市アガトラの商人ギルドマスターにして、筆頭商会モロウ商会の会長。スピナ・モロウがそこにいた。
「「…………」」
その背後には大柄の武装した男が2人。二振りの短い槍を交互に背中に刺した男。サーベルを2本腰に刺した男。
2人とも若く体格も良い。そして何より足音がしない。荒事に秀でた者、恐らく2級以上の冒険者だろう。
「失礼します。ドロモラ商会の皆様」
支店長の言葉を無視して、少女がこちらへ向けて頭を下げる。たらりと1房まとめた前髪が右目にかかる。
「ギルドマスター殿、これは驚いたな……」
「ドロモラ・バギンズ氏。お久しぶりです。前回のギルド総会以来ですね。どうやら、商談がうまく行っていないようで」
少女がさらりとドロモラに話しかける。
少女、だ。ストルと同じか、少し上かの年頃。大きく見積もっても16歳か17歳。その年齢で、その地位に就いている、わかりやすい異常。
「ああ、残念ながらな。モロウ商会は我々を対等な商談相手とは見れないらしい」
「あ、か、会長、これは」
ドロモラの言葉に支店長が助けを求めるように声を漏らす。その視線は、机の上の書類に、そしてそれから会長と呼ばれる少女へと。
「ーーなんのお話ですか?」
「え」
少女の起伏のない表情、目を見開く支店長。
「聞いての通りさ、そこの支店長殿に随分とふっかけられていてね。モロウ商会の意向と彼から聞いているが……」
「ふっかけ? ミハエル支店長、どういうことですか?」
ドロモラの言葉に
「い、いや。だって、これはーー」
「これはなんですか?」
「そ、れは……」
「これは……ひどいですね、ミハエル支店長。この台帳の数字、以前の定例報告会のものと違います。取引帳簿も、売り上げの数がこの支店のものと違いますね」
「あ、あ」
「説明してくださいますか? ミハエル・クラウス」
「い、や、それは。ですが、私は、だ、って」
「は?」
「い、や、会長、私はーー」
「私に、何か言いたいことがあるのですか? 彼を連れて行ってください、後でゆっくりお話ししましょう」
「よろしいので?」
「ええ。どうやら色々好き放題にしてそうだったので。申し訳ありません、ドロモラ氏。少しミハエルをこの場から中座させても?」
「ふむ。それは、どうしたものか。我々はモロウ商会と取引をしたいのだが」
「ああ、それならば」
背後に控える冒険者に視線を送る少女、冒険者が呆然とする支店長の腕を引っ張り席から退かす。
「僭越ながら私が。当商会は貴方達に随分と不手際を見せてしまったようです。ええっと、彼の予定は……ああ、天使粉の取引ですが。彼には裁量をかなり任せていましたが、どのような条件だったのでしょうか?」
「それが困ったものでな。キロ単価が、えーと、金貨20枚だったかな」
「……申し訳ございません、ドロモラ氏、そして竜殺し殿。我々は大変な失礼を貴方達にしてしまったようですね。ミハエル支店長の処分は必ず厳しいものを課すとお約束します。どうか、我々にもう一度チャンスを頂けませんか?」
「チャンス?」
「はい。正当な取引を。モロウ商会はドロモラ商会との対等な関係をーー」
少女が朗らかに笑う。花のような香りに、ドロモラとラザールの顔が少し綻んでーー
どかっ。
少女の目の前、机、コンバットブーツの踵が書類ごと机を踏みつけた。
「えっ」
「トオヤマ!?」
「……」
遠山鳴人だ。
可憐で礼儀正しい少女に向けて、遠山が取った行動は威嚇以外のなんでもない。
「何ヘラヘラ笑ってんだ、クソガキ」
「はい?」
少女が笑う。だが、その涼しげな顔にはうっすら一筋の汗がーー
「ーーフッ!!」
ジャキ。
鉄が擦り合う音。一瞬で距離を詰めた冒険者、2振りの槍先が遠山の首元に突きつけられた。
「いい動きだな、冒険者。見えなかったよ。一級とかいう連中か? 塔級冒険者が指定探索者みてえなもんだとしたら、お前らは上級探索者みたいなもんか。一流だが、特別にはなれなかった連中。親近感があるな」
あと数ミリ近づけば、その鋭利な切先が喉を突き破るだろう。
「竜殺し、あまり調子に乗るなよ。ラッキーパンチで昇れるほど、この街は甘くねえ」
槍先にぶれはなく、動きも早く、体幹も安定している。武器を抜いた高揚による浮つきもない。
冒険者の腕は良い。
今まで遠山があしらってきたり始末してきたチンピラ上がりとは違う。
だが、それでも遠山は顔色を変えず鈍色の槍先を眺める。
細いチベットスナギツネのような目が、磨かれた槍の刃に歪んで映っていた。
「待ちなさい、あなた達」
少女の声、ぴしゃりと。
冒険者の雰囲気が少し和らぐ。
「竜殺し殿、何か私に至らぬ点があったのでしょうか? ならば謝罪いたします、私はーー」
健気に頭を下げる少女。まともな大人ならばこのような可憐な少女に頭を下げさせるなど座りが悪くなりそうなものだが。
「至らぬ点? そうだな、芝居が下手すぎるってことくらいか?」
遠山はまともな大人ではなかった。
【技能 "頭ハッピーセット"発動。スピナ・モロウの装備品"懐柔の調香石"による精神への影響を無視します】
「……なんの、ことですか?」
「ガキ。舐めるなよ。そこの支店長は最初からトカゲの尻尾のつもりだったのか?」
「……竜殺し殿がなにを言いたいのか、よくわかりませんが」
「舐めたマネしてんのは、てめえも同じだろって言ってんだ。商人ギルドマスター」
にべもなく言い放つ遠山。ピクリと少女のまぶたが痙攣する。
「トオヤマ。待て、どういうことだ」
「簡単な話だ、ドロモラ。俺たちの敵はそこの三下支店長じゃねえ。この商会、いや、商人ギルドそのものだ。最初からわかってただろ? 演出に誤魔化されんな」
ドロモラの言葉に遠山が机に足を乗せたまま答える。
冒険者に槍をつけつけられながらも、やはりその態度に変わりはない。
「……スピナさん、どうしますか?」
「ーーそのままで、お願いします」
冒険者と少女が言葉を交わす。雇用主と労働者、その関係が聞いてとれる。
「ほら見ろ。自分の犬に人の首元目掛けて槍先向けさせたままお話しようとする連中だ。芝居が浅くてあくびが出る」
「ーー」
遠山の言葉にまた少女のまぶたがぴくり。
「二流が。俺らに対して芝居こくつもりなら、最低でもあの銭ゲバくらいは仕込んでこい。雑魚が」
「…………解せませんね、竜殺し。ええ、たしかに一筋縄めは行かないようです。ミハエル1人で貴方達を懐柔出来るのなら安い買い物ではあったんですけど」
「か、会長……? ど、どういうことですか!? わ、私は貴方の言う通りにーーガッ」
「寝かせててよろしかったですか? 会長殿」
もう1人の冒険者が支店長を羽交締めし、そのまま首をきゅっと締め上げる。がくりと首を落とす支店長、もう意識はないだろう。
「はい。それで構いません。……さて、困りましたね。でも勉強になりました。貴方達は私が思う以上に」
少女が気を取り直し、場の雰囲気を取り返そうと落ち着いた口調でーー
「黙れや」
【技能"アタマハッピーセット"が発動します。スピナ・モロウのスキル"トークガール"の発動を無効化しました】
「…………」
「そういう余裕ぶった黒幕みたいな態度はな。実力がある奴がやるから意味があるんだよ。お前みたいな雑魚が俺の目の前で余裕ぶってんじゃねー」
ペースを決して渡さない。遠山がじっと、少女を眺める。
「にべもないですね、竜殺し。あなたのそれは余裕ですか? 私の指示ひとつで貴方の首が胴体から離れてもおかしくないのでは?」
「余裕だよ。こんな状況どうとでもなる。さて、モロウ商会、いや、商人ギルド。いい加減目障りだ。交渉はもうやめだ。悪いことは言わない。俺たちに天使粉を寄越せ。そうしたら、悪いようにはしない」
「はは、あはははは。竜殺しさん。ダメですよ、それは。いくらなんでも話になりません。はー、おもしろ。……まあ、バレてるんならもういっか。うん、そうです。私達商人ギルドも貴方達が目障りです」
少女の雰囲気が変わる。
纏っていた薄い布を剥ぐように、足を組んで身を乗り出し、オレンジ色の瞳を細めた。
「でも、竜殺し、貴方の有用性はよく理解しています。ねえ、手を組めませんか? 私達、お互いに利用出来る関係だと思うんですけど」
「俺らになんの得がある?」
「カラス」
「ーー」
少女の短い言葉に、遠山が黙り、ラザールが目を見開いた。
【スピーチ・チャレンジ進行、相手からの揺さぶりが発生します。スピナ・モロウは貴方が"カラス"と敵対関係にあるのを把握しているようです】
「知っていますよ。竜殺し。スラム街で随分と暴れたようですね。カラスの連中と揉めた、とか」
「カラス? なんのことだ」
「しらばくれるなら結構です。このまま話を続けますね。我々は貴方達の後ろ盾になることが可能です。知っていますよ? 貴方が竜の庇護下にないことは。どういう了見かは知りませんけどね」
「…………」
「我々商人ギルドは見ての通りこの街で強い力を持った存在です。冒険者ギルドや貴族にも強い影響力を持っています。カラスと言えども我々には簡単に手を出すことは出来ません。何故なら我々は強者だからです」
「へえ」
「我々はこの街の経済、金を掴んでいます。ヒュームの社会、いえ、この世界にとって金とは力です。ヒトの欲望を掌り、それを手懐け利用する。我々はそれの専門家。金の専門家はね、とても強い力を持っているのですよ」
支店長の言葉と似たようなセリフだ。
この商会の歪みはこの少女が源泉か、もしくはこの少女の一族なのか。
まあ、遠山にはどうでもいいことだが。
「取引しませんか? 竜殺し。この街で生きていくには強者の側に立つ必要があるのです。貴方の庇護を我々が担いましょう。代わりに、その力を我々にーー」
「はーあーあ」
ため息。
大きな、大きなため息。
その、全てがズレている提案と脅迫に心底うんざりしていた。
「…………っ! その態度なんなんですか?」
「いや、相手するのももうめんどくさい。一応気にしてたんだ。あまりにも話が簡単に行ってるからよ。俺が何かやらかしたり、見落としが思ってな。だけど話はシンプルだった。俺の考えすぎだったみたいだ」
遠山がため息混じりに言葉を漏らす。
この少女の言葉は間違えていない。強者の理屈やこの街での賢い生き方、間違えてはいない。
だが、その提案はもう遅すぎた。
少女は知らないのだ。強者の庇護というならば、遠山達は既にとびきりのーー
「だから、なにを言って」
少女の苛立ちはもう隠すこともできずに。
「これはもう取引、なんてものじゃあないんだよ」
「は?」
「ラザール。もう一つの仕事先はどうだった?」
「ああ、そうだな、大漁だったよ」
ラザールが再び懐から何かの書類を取り出す。
バラバラバラバラバラ。
先程の支店長の私文書とは比べ物にならない量の書類、便箋、封筒。
「ーーえ」
「必要ないんだ、お前たちの後ろ盾なんて」
「こ、れ」
少女の小さな肩が震え出す。
「あの支店長のことをよく言えたもんだ。なあ、おい」
「……それが何か理解しているのですか?」
「ひひひ」
遠山は答えない。代わりに、自分の頭をまた指先でコンコンと叩いて。
「あんたの裏の取引先の一つ。この前火事で燃えたよな。……だけど、ただの火事でほんとに生き残りが1人もいないなんて不思議とは思わなかったか?」
それは、ある多くは知らない遠山鳴人の裏の冒険譚。
色町で主教の弱みを握ろうとし、ラザールとストルにモテバトルで大負けしたり、竜を泣かしたりなんやかんやしたあの夜遊びの前日。
火事で全滅したある違法醸造所。審問会の仕事ーー
「ーーま、さか」
がしゃあああああん。
少女の顔が青ざめたと同時だった。
窓ガラスが膨らむように割れる。散らばるプリズム、反射する光、それを突き破る銀色の輝き。
バカが空から突っ込んできた。3階立ての3階の部屋に。
「銀の鎧……!? ま、さか」
「教会騎士!?」
「けほ、あ、あー、けほほ。ごほん。全員動くな、ディス」
ぱらら。ガラスの破片をマントで払いながら水色髪のパッツンポニーテールの少女が言い放つ。
「おい、マジかよ。教会を敵に回すなんて聞いてねえぞ!」
冒険者が正しく現状を理解する。今、自分たちが仕事とはいえ、何と敵対しようとしているのかを。
「ひひひひ。あんたら運が悪いな。雇い主を間違えてる。仕事を受ける時は額面とかハクとかよりも先にもっとその依頼の背景を考えたほうがいい。まあ、どの口で言ってんだって感じだけどな」
「竜殺し、あなた、まさか、教会をーー!?」
もう少女に取り繕う余裕はない。
ようやく気付いたのだ。自分の取引、その提案、それの滑稽さにーー
「ああ、あの銭ゲバとは仲良くさせてもらってる。親友と言ってもいい。住まいの提供まで受けてるもんだ。……商人ギルドマスター。いいこと教えてやるよ。交渉とか取引ってのはな、始まる前に結果は決まってる」
ぐにゃり、遠山の目が歪む。細い目に浮かぶ茶色の瞳がぐねぐねとその輪郭を失っていくような。
「大切なのはそれが始まるまでになにを積み上げることが出来たか。相手がどう言う奴で誰を味方にしてるか。商人ギルド、お前らが俺たちに舐めた真似した時点で、お前らの程度が知れる。なあ、知らなかったよな。俺たちドロモラ商会、ラザールベーカリーの背後になにがいるのか。俺たちの後ろ盾が誰なのかをよー」
そう、最初から勝負は決まっていた。商人ギルドは知らなかった。
そのリザドニアンのパンを竜祭りで出そうとしている連中の裏の顔を。
恐ろしき教会の主人の懐刀。
「これより、天使教会異端審問官、トオヤマナルヒトによる商人ギルドの審問を始める。ーーようやくまともにお話が出来そうだな」
冒険者の舌が踊る。
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ストルや人知竜、そして銭ゲバを表紙にする為続刊目指して頑張ります。本当にいつも応援ありがとうございます!
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