天使の軍団
「はーい」
加奈子は玄関のドアを開けた。
もうすでに鑑定スキルで4人の詳細は分かってる。
分かってはいたが、まさか下半身裸の女性が3人も居るとは思わなかった。
「あらあら、どうしたのかしら?」
雅史は見たらダメだと顔を反らす。もったいない。馬鹿だ。
徳太郎は特段、厭らしい目でも無く、何があったのか想像しながら4人を見つめる。
フィルは主人を守るため、低く姿勢を押さえ、警戒を怠らない。
子オオカミは、はしゃいでる。
「夜分遅くにすみません。イースト5から逃げてきた雲国と言います」
「妻の紗衣と娘の彩花と近所の奥さんです」
「なぜに皆さん下半身が裸なのかしら?」
「あぁ恐怖でお漏らししたみたいで」
「えっ?」
それを聞いた貴崎さんが声を出す。
(ゴブリンに種付けされた事を隠してくれてるんだろうけど・・・)
「すみません、私は貴崎麗菜と申します。」
「下半身を脱がされてるのは、ゴブリンに凌辱されたからです」
「えっ?」
「「ええっ?」」
何故か雲国才楊も驚く。
「雲国さんは隠してくれようとしてくれたのですが」
「ゴブリンに女性が捕まるとこんな酷い事になると知っておかないと大変な事ですから」
「そ、そんな事が・・・」
「そ、それは酷い・・・」
加奈子と雅史は現状の女性達を見てその言葉を信じた。
貴崎麗菜は話を続ける。
「ゴブリンは人間の女性を借腹として繁殖するようです」
「頭の青い大きな人顔ゴブリンが私たちを犯しながらそう言ってました」
「キャリヤーッ!!!」
ガタンッ
スリッパを出そうとしゃがんでいた加奈子が勢いを付けて立ち上がった。
加奈子の形相が鬼のように変わったのを周りの人々達は見てしまった。
ウォーン
フィルが吠えた!
「???」
「私たちは、頭の青い人間みたいな顔の奴だったからまだ気持ち悪さもマシでした」
「レイプされてる事には変わりが無いのですが・・・」
「それでも青い奴は1日1回しか来なくて、私たちを特別扱いしてました」
「でも・・・」
「他の人たちは見る程に醜い大人ゴブリンに、何度も犯されてたので心を閉ざしてしまって」
「ゴブリンはしつこくて、本当に何度も何度も犯していました」
「大人ゴブリンの気が済んだら、今度は小さいゴブリンがやって来て蹂躙されて・・・」
「先ほども、雲国さんが逃げ道を作ってくれたのに、誰も動かなかった・・・」
「まだ少女のような子も居たのに・・・」
「それを聞いたら、すぐにでも救出に行きたいんだけど、今の私たちじゃまだ弱すぎる」
「逃げ道があるのに逃げなかったその人たちの気持ちは分からないでもない」
「でも、今のこの生きるか死ぬかの世界で生きるのを諦めたらそこまでです」
「近いうちにあの青い髪のキャリヤと言うボスは私が倒します!」
「でも今はまだ戦力が不足してる状況なので、もうしばらく時間が掛かる」
「師匠!自分はもっともっと頑張ります」
「加奈子さん、明日からの戦闘員強化、任せておいて下さい」
(我、弱輩ゆえ精進いたす)
「まずは、下に履くものを探してきますね」
「皆さん、9号くらいかな?」
そう言って加奈子は2階に上がろうとして
「雅史さん、皆さんにお茶でも入れて差し上げておいて下さいな」
「わ、わかりました」
「まず皆さん、玄関から上がってください」
そう言って下半身裸の女性3人をリビングのソファーに座らせた。
男はリビングの入り口のドア枠に背を預ける。
徳太郎は、洗面所からタオルを何枚か持って来て女性に手渡した。
「「「あ、ありがとうございます」」」
今までお股スッポンポンだったので、俯き加減で居た女性達だが、ソファーに座ってタオルを掛けてちょっと一安心したのだろう、顔を上げて周りを見回して雲国才楊の顔を見る。
「「「だ、誰~???」」」
女性陣は下着と長めのスカートを貰い、軽く食事も終わり、ずいぶんと顔色も良くなった。
ただ、自分の夫が、父が、近隣のおじさんだと思ってた人が、若い若い青年になっていた事だけが、驚きと衝撃で頭を悩ませる。
加奈子からこうなる事の説明は受けたが、彩花と貴崎麗菜は若いころの才楊の事を知らない。
唯一、妻の紗衣だけが若返った夫を見てクスクス笑っている。
一通り自己紹介も終わり、お互いにこれまでのいきさつを話し出す。
徳太郎は立ったまま寝ている?ようだ。
才楊が話そうとすると、紗衣と彩花が何故か止める。
娘曰く、自己中で他人の意見を聞かず、妄想と思い込みが激しいから話をさせたくないとの事。
「今まで俺が間違った事ゆぅた事なんてないやろー」
「おとん、あんたのおかげでうちもお母さんも化け物にレイプされたんやで?」
「それが間違いじゃなかったってゆぅんか?」
「で、で、ででも生きて今ここにおるし」
「うちらを助けてくれたんは嬉しいで。んでもたまたまやろ?」
「そ、そんな訳ないやろー ちゃ、ちゃんと探したんやで」
「ふーん、たまたま真上の部屋におったんちゃうんやな?」
「た、たまたまそんなとこにおるはずないやん。うん。うんうん」
それを聞いていた面々だが、どうもこの親父はちょっと嘯く癖があるような気がする。
徳太郎は寝ている。
「話は変わりますが、そのーなんて言うのか」
貴崎麗菜が何か言いにくそうに話し出す。
「どうしましたか?何か今の世界に疑問とかあればおっしゃって下さいな」
「まだまだ分からない事の方が多いですけどね」
「あのー 私もその進化ってやつをして欲しいです!」
「あ、私もお願いします!」
雲国彩花もレベル付きになりたいと願い出る。
若返るのなら自分もお願いしたいと母の雲国紗衣も言う。
加奈子は軽く了承した。
「まぁ取り敢えず今日は寝ましょう。すべては明日から」
「そうですね。まずはうちのクランでどこかのファミリーに入ってもらいましょうか」
「その辺の詳細も明日、中学校でしましょう」
シャワーも水なら出ると言うと、女性3人は借りたいと申し出る。
風邪を引かないように。
そうして、貴崎麗菜とフィルと子供のオレンジの方が加奈子の部屋に。
雅史は帰ると言ったが、徳太郎がもうゾンビのように立って寝ているので2階のトオルの部屋に担いで持って上がって貰い、雅史もそのまま泊まる事にしたようだ。
残った3人家族はリビングで寝てもらった。
布団は1組しか無いが、タオルケットを3枚渡した。
(さすがに両親の亡骸を寝かせていたベッドを提供する訳には・・・)
赤い子オオカミは紗衣に引っ付いている。
紗衣は元々動物が大好きで動物園の飼育員がしたかったそうだ。
だが若くして結婚し、専業主婦を強制させられて、その夢はかなわなかった。
それなら、何かペットを飼いたいと言うと、夫は「ペットは金が掛かるから駄目だ」とペット禁止のマンションにしたいきさつがある。
うん、酷い夫だ。
加奈子は部屋に入り、麗菜に敷布団と毛布を渡す。
「寝れるかな?」
「レイプされた事については、もう気持ちの切り替えは出来てるんですが」
「お腹の中にもしかしたらゴブリンの子供が居るかも知れないと思うと・・・」
「診てあげようか?」
「わかるんですか?」
「うん、多分ね」
「ん~ 妊娠って情報が出てこないから、大丈夫そうね」
「本当ですか?本当なら嬉しいです・・・」
「まぁ多分ですけどね。また数日したら診てみましょう」
「色々あったけど、ここに居ればもう大丈夫なんで今日は寝ましょうか」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「強くならなくっちゃ・・・」
翌朝、日が昇ったくらいからフィルは行動を始める。
加奈子の部屋を出て、家の中を一通り注意深く観察する。
何事も無いようなので、また2階に上がり加奈子の部屋の前の廊下で休む。
加奈子は6時くらいになると勝手に目が覚める。
あまり目覚まし時計で起きた事は無い。鳴る前に起きてしまうからだ。
(みんな疲れてるだろうけど、今日も予定は一杯だから)
台所に行き、お湯を沸かす。
少し大人数になってしまったので、食材を吟味する。
食パンは、もうさほどないから、さいの目に切って卵を絡ませて一口フレンチトーストに。
レタスやキャベツはまだまだあるので、サラダメインで作ってみよう。
氷の魔法を覚えてたら、お肉とか冷凍出来たのになーとか考える。
今度チャレンジしてみよう。
「おはようございます、加奈子さんお早いですね」
「あら、おはようございます」
紗衣が一番早く起きてきた。
食事を手伝うと言うので、飲み物を人数分とフィルたちにぬるめの白湯を入れてもらう。
赤い子がウロウロと紗衣と加奈子の足元で邪魔をする。
(フィルー、このお肉、ちょっと匂うけど食べれる?)
(うむ、これくらいの肉が美味いが、これは何の肉だ?)
(これは牛肉よ)
(牛と言う生き物を知らぬので、少し食う気にならぬな)
(我らはあとでゴブリンでも食すので気づかい無用じゃ)
(じゃぁもう全部食べちゃおう)
加奈子は熟々した肉を薄切りにして、タレに付けて昼か夜に食べる事にした。
ダイニングのテーブルにサラダとパンを大皿に盛りバイキング形式にした。
ビスケットやチョコも大きめのお皿に盛った。
(後で青いコンビニに色々仕入れに行きたいな)
人数分の同じ取り皿は無いので、バラバラだがお皿をたくさん出す。
「紗衣さん、後は飲み物出すだけだから、ちょっとフィルとお散歩行って来るね」
「わかりました、皆が起きたら出しときます」
「お台所、勝手に好きなように使ってね」
そう言って加奈子は空のリュックを背負い、フィルと赤い子を連れて散歩に出る。
オレンジの子は麗菜と一緒に2階の部屋でまだ寝ている。
青いコンビニの方に向かうと住宅街の端の辺に朝ゴブリンが数体いた。
「朝早くからごくろうさん」
加奈子はゴブリンに挨拶をし、素早い上段回し蹴りで頭部を吹っ飛ばし1匹をしとめる。
フィルもすかさず、向かってきたゴブリンの喉笛を噛みきり、怯んだ横のゴブリンは爪に火を纏う火爪で喉を切り裂き倒す。
振り向きざまに残った数体に火の息を吹きかけ焼き殺す。
程よい感じに焼けたゴブリンを赤い子と一緒にハグハグ食べだした。
狼たちの食事に時間が掛かるだろうと、一人でコンビニに向かう。
コンビニは今日、クランの人間が収穫に来るだろうから最低限必要な物だけリュックに詰めていく。
缶詰やカップ麺は保存が利くからクランに置いていく。
パックのチキンやハンバーグは全部貰っていこう。
お菓子も好きな物をリュックに入れる。
生活用品も少し頂いて、リュックとお店のビニール袋がパンパンになったのでフィルの元に戻る。
オオカミ親子は、もう食事も済ませ加奈子の帰りを待っていた。
「それじゃー帰りますか」
フィルと他愛ない話をしながら家路に着く。
赤い子の口元を見ると血が沢山ついてたので拭いてやる。
フィルも拭いて欲しそうにしてるので、頭をワシャワシャしながら拭いてやる。
「ただいまー」
「フィルー、雅史さんと徳さん起こしてきてくれる?」
(了解した)
2階に上がり二人を起こす。
ついでに麗菜も起こす。
やがてみんな起きて来て食事を始める。
「雅史さん、今日はファミリーの方々のレベル付けを優先的にお願いね」
「最低でも職業選択まで行けたら良いかなと思います」
「徳さんは、すでにレベルがある人のレベリングをお願いします」
「雲国さんは徳さんと行動を共にしていただけますか?」
「紗衣さん、彩花さん、麗菜さんは私と一緒にがんばりましょう」
「よろしいですか?」
「「「「「「はいっ」」」」」」
「師匠、なんやら女帝って雰囲気出てきましたな」
「もう、徳さんのいじわるっ!」
加奈子はハニカミながら徳太郎の肩を軽く叩く。




