本当の天使の眷属
湾岸線をトボトボと3人で歩く。
雅史は歩きながら、火鎧を出したり消したり色々と練習をしながらである。
加奈子は火拳と火脚を試している。
徳太郎はあくびをしながら着いていく・・・
島の丁度真ん中くらいを南北に分けるように湾岸線が通っている。
暫く歩くと右手にホームセンターが見えてくる。
湾岸線はここ深江浜ICで乗り降りが出来る。
西行きが上段で東行きがその下を通っている。
「よっこらしょっと」
まずは雅史が先行でホームセンターの手前の野球場前の道に降り立った。
「何かの気配がするから、気を付けてくださいな」
「えぇ、先ほどから気配探知のスキルが発動しています」
高速道路は街の上空を通っているので、そこを歩いていると色々な気配を感じる。
その中で、雅史には索敵と言う気配探知系のスキルが発生していた。
徳太郎はもうお寝夢の時間だ・・・
湾岸線から左を見ると、そこには高校があった。
ここも避難所になっているんだろうか?
また明るい内に来てみよう。
加奈子と徳太郎も側道の車線に飛び移りそのまま目的地の方に歩いていく。
ホームセンターの西側の駐車場を見ると、そこはゴブリンに占拠された場所だった。
「とりあえず、屋上の駐車場から様子を見ましょう」
「結構な数の気配がありますよ」
3人は屋上駐車場から下を覗く。
ゴブリン達は入り口から中を覗くような形で布陣している。
「建物の中には気配はありますか?」
「はい、小さな気配が二つと大きな気配が一つ」
「大人と子供2人かな?」
「すいません、まだ人か魔物かの区別は付きません・・・」
「うふふっ そんなに恐縮しなくても十分助かりますよ」
「ありがとうございます・・・」
「徳さん、奥の側面に降りてすぐに火撒を発動させてください」
「加奈子さんは手前の側面に降りてすぐに火の絨毯をお願いします」
「僕はここから援護射弓します」
「ふふっ、頼もしいわ」
雅史は真っ赤な顔をして二人を急かす。
2人はゆっくりとゴブリンの頭上を飛び、配置に着く。
真っ暗な中、加奈子と徳太郎は目線で会話し、同時に着地する。
グギャ?
何かに気づいたゴブリンが声を出すが、すぐに悲鳴に代わる。
「火撒!!!」
「火絨毯」
加奈子は少し火力を抑え気味で、徳太郎に経験値を稼がせる。
「火球!」
「土壁」
こちらに逃げてこないように壁を作る。
上から雅史も矢を射る。
もう無唱で弓矢を射れるようになっている。
雅史の矢が次々とゴブリンの頭を射抜く。
徳太郎の火攻撃も広範囲のゴブリンを屠っていく。
ほんの数分も掛からないうちにゴブリンは殲滅された。
「ほぇ~すんごいレベルがあがったわぃ」
「元が低かったから、上り幅も大きいでしょうね」
「少し頭がクラクラするけんど、まぁ楽しい」
土壁の上に座り、足をブラブラさせながら加奈子は言う。
「中に入ったら、まずは人か魔物か確認ね」
「自分が確認しに行きます」
「声を出していきましょう」
「夜目が効くのはえ~んやけど、どうも色のない世界っちゅうんは、きしょく悪い」
「なかなかこれだけは慣れませんねー」
加奈子は笑いながら徳太郎に賛同する。
中に入ると、相手は人間でないことがすぐにわかった。
グルルルルルゥゥゥ
獣のうめき声がする。
雅史はあまり犬が得意じゃ無かった。
「加奈子さん、大きな犬みたいです」
「ううん、オオカミさんだね」
「なおさら駄目です」
雅史はビビっている。
加奈子は雅史を笑いながら、スキルで魔獣のステータスを見ていた。
言語理解を持っている魔獣なので、即殺するのは少し躊躇った。
「あらっ?このオオカミさん、大怪我してるね」
オオカミの左後ろ脚の根本くらいから血が流れている。
立ち上がりたいが立てないようだ。
「昼間見たら真っ赤なんでしょうね」
「奥の子は子供みたいですねー」
「どうします」
「ん~なんとなくゴブリンと敵対してたから、助けてあげたいねー」
加奈子はゆっくりと近づいていく。
徳太郎はいつでもいけるように身構える。
グウルルルルルゥ
威嚇はするが立てないため迫力に欠ける。
加奈子が目の前に立っても唸るだけで何も出来ない。
後ろ足の怪我だけじゃなく、他にもどこかダメージを受けているんだろう。
加奈子は、オオカミの前に座り話しかける。
「オオカミさん、後ろの子供ちゃん助けてあげようか?」
グゥオオオオオオオオ
子供の事を取られるとでも思ったのか唸り声を上げる。
「よっと!」
唸った後の口を閉じた瞬間に加奈子はオオカミの武器である口を両手で掴んだ。
オオカミは必至で暴れて自由を取り戻そうとする。
加奈子は必死に手を離さないように力を籠める。
「駄目よ、怪我が悪化するから大人しくして」
ウルルルルル
加奈子は左手だけで口を掴み、身体を回して右手でオオカミの首に手を掛け、もたれる。
そして、暴れるオオカミの頭を右手の肘から先だけで撫でる。
「大丈夫よ、私は敵じゃないよ、大丈夫、大丈夫」
何度も何度も頭を撫でる。
それでもオオカミは抵抗を続ける。
よしよし
よしよし
(ヒュン)
よっ
「あっ? あら? あらら?・・・ ウフフッ」
雅史と徳太郎は、急に微笑みだした加奈子を、首を傾けながら見つめる。
汝
我が眷属となりてその身を捧げ
我が命令に真摯に従い
我が身に危険を寄せ付けず
我が生き様をその眼で見守り
我が身が亡びる今際の時まで
未来永劫共に生きると
誓うか?
オオカミは加奈子が唱える呪文の事をちゃんと理解している。
でもどうすれば良いのか戸惑っている。
自分よりも強い力で押さえつけられている事も理解している。
戦えばヤラレる事もわかっている。
子供を庇ってくれるだろうとも思う。
優しい波動が流れ込んで来る事もオオカミは強く感じている。
もう一度問う
汝
我が眷属となりてその身を捧げ
我が命令に真摯に従い
我が身に危険を寄せ付けず
我が生き様をその眼で見守り
我が身が亡びる今際の時まで
未来永劫共に生きると、誓うか?
クゥーン
「コヴェナント!」
加奈子の手のひらから淡い光が溢れ出て、オオカミの身体を包む。
「うふふっ よろしくね」
オオカミは加奈子に頭を擦りつけてくる。
「ヒール」
「ハイヒール」
オオカミの傷はみるみる回復していく。
そして立ち上がり、加奈子にすり寄る。
「師匠、一体何が起こってるんですか?」
「そのオオカミ、急に懐いたように見えるのですが?」
「うふふふふっ 私の初めての眷属さんですー」
眷属になったオオカミの頭を優しく撫でながら加奈子は微笑む。
眷属契約と言うスキルを覚えた事を話す。
「加奈子さん、自分も眷属にしてください」
「あぁそれならわしもお願いしたい」
「ん~ ちょっとだけ考えさせてね」
「そりゃいつまででも待ちますよ」
「その前にこの子の名前を付けてあげたい」
「いつまでもオオカミさんが呼び名じゃダメでしょ」
加奈子はしばし考える。
「よしっ決めた!」
「櫻庭加奈子の名において命ずる!汝の名は フィル 」
ウォオオオオオオーン
喜びの雄叫びを上げる。
雌だけど。
ステータス画面で眷属契約の黒三角のマークを触ると、フィルのステータスが見れた。
職業を勝手に触るが、良いかとフィルに聞く。
すると、頭の中にフィルの言葉が直接響き渡る。
(主よ、わが名を頂き、感謝する)
(ステータスの事は我にはよく分からない故、お願い申す)
(それと、我が子を見守って欲しい)
「わかったわ、任せてねフィル」
「んっ?」
「誰と話とんや?」
奥に居た子オオカミを2匹抱いて来る。
暴れるでもなく、素直に抱かれる。
とにかく 可愛い♪
フィルの話では、まだ生後3か月らしい。
急に違う世界に転移されて戸惑っていると言う。
クゥーンクゥーン
犬嫌いな雅史でさえ、この子オオカミの可愛さはわかるし抱きしめたい衝動に駆られる。
徳太郎は1匹の人懐っこい方の子オオカミを可愛がる。
子オオカミにも性格があるようで、1匹は人懐っこいが、もう1匹はあまり人に懐いていない。
まぁ子共だからそのうち慣れて来るかな。
「ねぇフィル、その怪我は誰に負わされたの?」
(この先にゴブリンの巣窟がある)
(そこの幹部ゴブリン共に不覚を取った)
「じゃ~仕返ししに行きますか~ ウフフ」
「どうしました?」
「私とフィルの内緒の話でーす」
「それはひどい!」
とりあえず一旦避難所に帰る事にした。
まだ食料の散策が終わってないが、ここで仕入れたいものだけ先に運ぶ事に。
「女性のための物がたくさん欲しいんだけど、いいかな?」
「了解です。大きめのリュックもここから持っていきましょう」
「それと、明日からのみんなの為に武器になる物も少し欲しいかな」
鉛筆が武器と言うのは少し寂しい。
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