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厄災の始まりは 神戸 から  作者: Ryu-zu
第四章 東灘区 六甲アイランド 天使と悪魔
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天使の弟子の覚醒

2人で下に降りると徳さんが待っていた。


  「おやっ?雅史もいつの間に飛べるようになったんや?」

 「たった今です」


 徳さんに今見てきたことを話す。


「あの壁の所まで行ってみたいんだけど、徳さん、私に抱かれても良いかな?」

  「お、おれも空飛ぶのか?」

「怖い?高所恐怖症?」

  「昔から高い所はあまり得意じゃないんよな」

 「それは落ちるのが怖いからでしょう」


「飛べたら落ちる事は無くなるからねー」


  「ま~師匠が言うならやらんとあかんしなー」


「ふふふっ行きますよ」

徳さんも腹を決めたようなので、後ろから抱きしめ飛び上がる。

雅史も慣れるために一人で飛ぶ。


  「ふぇぇぇぇ~~~~」

「大丈夫ですかー?」

  「股間がキュンキュンするわ」

「私ら女性にはわからない感覚ですね」


雅史はぎこちないが、まあまっすぐ飛んで付いて来る。

こういうのは場数と言うか、慣れが一番大事だ。

加奈子もスピードをかなり抑えめに飛ぶ。


南芦屋浜までは六アイの埠頭部分から直線距離で2Kmほどしかない。

1.5Kmほど飛んだ辺りでやっと徳太郎が口を開く。


  「おっ?」

  「きたきた!」

「覚えましたか?」

  「ほいほい、飛翔っての覚えたぞ」

急に重さを感じなくなったから、なんとなくはわかっていた。


加奈子はその場に止まる。

下は、真っ黒な海の波間に遠くのネオンがキラキラと反射している。


 「覚えたんですかー」

雅史も追いつき、徳さんに話しかける。

  

おっかなびっくり徳さんは自分で浮かんでみる。

言葉を話す余裕などある訳もない。


少しすると落ち着いてきたのか、自分で前に進むことが出来た。

  「ほっほー楽勝じゃな」


さっきまでビビりまくってた人の言葉ではない。


「ま~こんなのは慣れですから、どんどん使っていきましょう」

 「「わかりました」」


ほどなくして大壁に到着した3人はその大きさに驚く。


上空に飛び上がってみたが、いくら上に上にと登ってもその先は見えない。

下を見ると街並が小さく見える。

海側に、壁に沿って飛んでみたが神戸の範囲から抜け出すことは出来なかった。


途中で六甲アイランド沖に何かの人口島があるのが見えた。

鑑定眼で読み取ると、六甲アイランド南(神戸沖埋め立て処分場)と出た。

横350mほど縦1600mほどの長細い埋め立て施設だった。

こんな存在は今まで知らなかった。

今は海路でしか行けないが、そのうち陸路でも繋がるんだろうと勝手に思う。


しかし、壁は神戸を囲んでどこまでも続く。


「これは完全に神戸だけがこの大壁に囲まれてる感じですね」

壁伝いに街の方に行ってた二人と合流する。

  「加奈子さん、ちょっと来てもらえますか」


加奈子は雅史の言う通りに着いていく。

阪神高速道路の芦屋と神戸の境に着地した。




この辺りは阪神高速が2本通ってる。


1本は、大阪環状線から神戸を通り、第二神明、加古川バイパス、姫路バイパスそして山陽自動車道とジョイントし、九州まで続いている3号神戸線。

山陽自動車道には、第二神明道路の名谷(みょうだに)ジャンクションからも行ける。


もう1本は六甲アイランドから関西空港まで続く5号湾岸線。

今は六アイ終点になっているが、将来的にはもっと西の湊川インターに繋がり、7号北神戸線ともジョイント出来るようになる。

北神戸線は、近畿自動車道、中国自動車道、舞鶴自動車道にもつながっている。


これがすべて繋がれば、なお一層西日本の流通が蔓延る事になる。

はずだった。

この厄災が無ければ・・・




高速道路に立ちふさがる壁に車が何台も突っ込み、大破しているのが痛々しい。

燃え尽きて真っ黒になっている車もある。


3人でそれらを後ろの方に片付けて壁の前に立つ。

加奈子は一人で車1台を軽々と移動できた。

 (もう本当に人間じゃないなぁ・・・)


壁の向こうに人が何人も居るのが見えた。

明るい照明がこちらに当たってるのが見える。

きっとカメラも回っているんだろう。



2人を上空に飛ばし、道路に火の絨毯を拡げる。

こちらからのアクセスだと気づくだろうか。


少し空に上がると壁の中の道路部分が見える。

壁の厚みは10mと言ったところだろう。


この大壁は半透明で透けて見える材質で、表面はガラスのようにツルツルだが、縦に大きな溝が何本も入った感じで向こう側ははっきりと見えない。


小屋根に使う波板を縦にして波部分を巨大化させたような構造だ。

こちらの波と外側の波が不規則に重なり合っているから、向こうが見えなくなっているんだろう。

波の1つの大きさが1mくらいもあるので、レンズの役目もしていて見にくいんだろとも思う。


1分ほどしたら火の絨毯は勝手に消えていった。

  (放置時間も倍くらいになってる)


加奈子が下に降りると、二人もゆっくりと降りて来る。


「誰かがこんな波を埋めてしまうスキルでも覚えれば向こうとコンタクトが取れるかもね」

  「どんなスキルならいけそうかな?」

  「極めた左官職とか?」

 「それか高温で溶かすかですね」

「一回私の火魔法でやってみる?」

 「やってみましょうか?穴が開けば脱出も食料の補充も出来ます」


「そうね、私たちはもう人間じゃないから外では暮らせないけど」

  「そんな事ないじゃろ、力をゆるめに調整しておけば問題は出んじゃろ」

 「そりゃ無理だと思いますよ」

「うんうん、雅史さんくらいだと、もうオリンピックの金メダル全部取っちゃいますよ ウフフ」

  「そんなもんかなー。まぁ車を片手で軽々持ち上げるような人もおるしな」

「まぁーそんな怖い人が居るんですね」

  「「あんたじゃ!!!」」


3人で大笑いして、しばし歓談する。


加奈子はまた二人を上に飛ぶように言うと、壁に接置出来るところまで近づき、不完全の火の戦闘領域(バトルテリトリー)を発動させる。


そして天使の翼(エンジェルウィング)にも火を纏わせる。

火の天使の出来上がりだ。


火の羽!!(ファイアフェザー)


翼の先から火の羽が無数に飛び出す。

それを1点にまとめて攻撃し続ける。

1分、2分、5分、10分・・・


「だめねー」

 「無理でしたか」

「多分、最高温度は3000℃くらいまでは上がったんじゃないかな?」

「それでも、まったく溶ける気配もないわねー」


  「ってゆぅか、そんな高温に耐えとる師匠に驚くわ!」

「あら?あなたたち二人も今からそうなってもらうのよ?」

 「「えぇ~~~?」」


「がんばってくださいね♪」

 「「お、お手柔らかに・・・」」


まずは火の耐性を付けてもらわないと何も始まらない。

耐性と属性適性は違うだろうけど、自分が火使いなのでその耐性は持っていて欲しい。

戦闘中に自分のスキルで大怪我とかとても笑えない。


「この上で耐えれるだけ耐えてくださいな」

そう言うと、加奈子はその場に火の絨毯を拡げる。

火力は最小で、服がちょっと燃える程度の弱さだ。

 「あつっあつつ」

  「ししょー、これは熱いっす」


「我慢よー我慢。走り回ってもいいし飛ばない限りは何しても良いよー」

「火傷してもちゃんと治してあげるからね~」

2人とも耐性はすぐに覚えたが、もうちょっと高い耐性を覚えて欲しい。


「火力上げるわよ~」

 「えぇぇぇぇ?」

徐々に徐々に火力を上げていき、服が燃えなくなったくらいで一旦止める。


「どう?もう熱くなくなった?」

  「師匠!熱さの耐性も付いたし、火撒ってスキルまで覚えやした」

火撒は火床と同等のスキルだった。

雅史は耐性だけで、火の床系は何も覚えなかった。

同じ事をしたからと言って、皆が皆同じ系統のスキルを覚えるとは限らないんだな。


「一度使ってみて~」

  「はい、 火撒!!!(ファイアスプリンクル)

火床と同じく、前方に方形で火が広がる。

火力の調整が出来るように数回切っては出してを繰り返えさせる。

なかなかおじいちゃんは物覚えが良い。


「じゃぁ次は火球を覚えましょう」

  「はいっ!」

 「加奈子さん、自分は何をしたら?」

「雅史さんは、まず火矢を覚えましょうか」

「弓を構えて、火の矢が飛んでいくのをイメージして壁に向かって撃ってください」

雅史は肩に担いでいた弓を構え、空撃(からう)ちを始める。

足元には火の絨毯が広がったままだ。


そして、加奈子は徳太郎に向かって火力の弱い火球を撃ち込む。

数発撃つと、なんとなく出来そうだと徳太郎が言うので、雅史の横で同じように壁に攻撃する。

「火の絨毯の火力上げるねー」

 「「お、鬼教官!」」


加奈子はどんどん火力を上げていくと、二人の耐性もグングン上がっていく。


ほぼ最大火力まで上げる頃には、雅史は火を纏ったマジックアローを覚えた。

徳太郎は火球を覚え、加奈子の指示通り、火球の大きさや威力を変える練習を続けた。


もう火の絨毯の温度は1000℃に達しているだろう。

種族が変わる前は、最大火力でも精々400℃もあるかないかくらいだった。

今なら1400℃は出せるだろう。

キャリヤに通じると思うが、どうだろう。


雅史は矢の次は弓も魔法で出せるように練習を始めた。

弓を持たずに矢だけを撃つ仕草を続ける。


「徳さん、次は威力の高い投槍を覚えましょうか」

  「師匠!火纏ってスキルも覚えました」

火の絨毯の中にずっと居たからだろう、火を身体に纏うスキルを覚えた。

火鎧と同じようにダメージを軽減するスキルの様だ。


だが、また雅史はそれを覚えなかった。

 (属性が火じゃないのかな?)

 (それともレベルが上がっていたから違う属性に固定された?)

「だけど、火矢とか覚えてるし・・・」


ついつい言葉に出して言ってしまった。

 「加奈子さん、自分の事ですよね?」

 「実は多分同じことを考えていたと思います」

「属性?」

 「そうですね、自分は火の属性じゃないんだと感じます」

「属性って最初は1種類しか持てないもんなんでしょうか?」

「私は火と土の二つも持ってます」

 「ん~ そんな事は無いと思うんですが、徳さんはまだ真っ白だったんだろうとは想像つきます」

実際に老人組で、土と風の2種類持った人も居る。



加奈子は少し考え込んだ。

火纏も火鎧も似たようなスキルだ。

絶対火熱耐性が消えるかも知れないが、雅史を少しでも強くしたい。

そして意を決して霊言を唱える。


櫻庭加奈子(おおばかなこ)の名において命ずる!汝との契約を解除する!!」


左腕に付けていたブレスレットが一瞬光ったように見えて外れた。


「雅史さん、ちょっとこれを付けて見て」

 「こ、これはユニーク装備で自分には使用できないんじゃ?」

「今、契約を解除したから大丈夫」

 

雅史は恐る恐るその腕輪を左腕に嵌めた。

  ポワッ

 〔支配権:戸弩力雅史(とどろきまさし) 認識登録完了〕

淡い光を放ち腕輪は雅史を持ち主と認めた。


「その真ん中の赤い宝石を触ってみてくださいな」

その瞬間、雅史の全身を火が覆い、腕には火の魔法で作られた大弓が現れた。

 「おぅっと」

「あらー魔法形成武器まで出来たのね」


加奈子は魔法使いなので武器までは生成されなかったが、このアイテムは通常、武器までがセットになっている。剣士なら剣が、槍士なら槍が顕現するものだった。


加奈子は自分のステータスを見たが、絶対火熱耐性は消えていなかった事に少しホッとした。

火鎧に関しては、すぐにそれに代わるスキルを覚えるだろう。

テリトリーは火の翼で賄える。


徳太郎のスキルを覚える速度が上がってきているのを感じる。

雅史も火球は覚えた。

二人とも近接戦闘も強い弓士や魔法使いになって欲しい。


後は二人で努力してもらう事にして、3人の火力で壁に挑んでみようと提案した。


テリトリーに二人を招き入れ、真ん中に加奈子、二人はサイドから1点を攻撃する。


火の羽!!!(ファイアフェザー)

 「火の大弓!!!(ビッグファイアボウ)

  「連続火投槍(ファイアジャベリン)







「じゃぁ無理だとわかったし、六アイに戻りますか」


3人は特に暗い顔でもなく、どちらかと言えば楽しそうにさえ見える。

外世ではもう生きられないと悟って、この世界で生きる事をはっきりと認識した夜だった。




埠頭に戻る前に深江浜に行く。

ここの人工島にはホームセンターがある。

人口島内は、ほとんど工場や企業ビル等で占められてるが、ちょこちょこマンションも建っている。

コンビニもあるし、神戸の東部中央卸売市場もある。

食品工場も多く、食料も補充が効くかもしれないのでちょっと寄ってみる。


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