赤い奴・・・
「ヒール、ヒール」
兎月は薄十里の指と背中にヒールを掛けた。
だが、切られた指は生えてこないし、くっつきもしない。
命は繋いだが、指の無い手で戦えるのかはわからない。
まだ利き腕が無事だったのが幸いか。
「すまん、あっちのラブホにまだ怪我人がぎょうさんおんねん」
「オッケ~、ホンジンかな?」
生名は確認だけして、自分の仲間たちを引き連れてホテルを目指した。
トアロードに出た所で、少し南に人垣が出来ているのに気づく。
「お~い、なんかあったんか?」
そこにも多くの負傷者が転がっていた。
配下に、すぐに兎月たちに知らせて来て欲しいと伝令を頼む。
「すぐに追いかけます」
その足で生名達はホテルの怪我人を治すべく歩き出す。
ホテルに入ると怪我の少ないクランのメンバーが案内を買って出てくれた。
手分けしてちゃっちゃと済ませる。
息を吹き返し、少し喋れるようになった奴から山中川の消息を尋ねてみた。
「パールストリートの上に行ったメンバーが帰って来なくて、自分らが見に行ったんです」
「そこであのワニに出会って、全然勝負にならなくてキャンパスまで逃げ戻ったんです」
「追いかけられて、追いつかれて、そこで大きな戦闘になって、山中川さんがレベルの低い人や戦闘意欲を削がれた人らを逃がしたんだけど、ワニはそっちを追いかけて行ったんです」
「それで、どっちに逃げた?」
「まっすぐ北に向かいました」
それを聞いた生名は、元気なら北野工房まで行って、怪我の酷い人をこっちのホテルに運んでほしいと頼んでその場を後にする。
外に出て、配下のメンバーはそこで待たせておく。
そして飛んで工房まで戻り、今聞いた事を百舌鳥や大和らに話す。
「それじゃ~こっから上に行きながら広がっていくで」
キャンパスから真上に上がる道を北進し、左右に広がりながらローラー作戦で捜索する事に決まった。
生名達飛行組は自分たちの配下に風纏を覚えさせたくて、ついでだが二人抱えて空から捜索する事にした。
「うわっうわっ、あ、足が震えます~」
「だ、大丈夫ですかぁ~」
生名の、最初に仲間になった二人を抱えて空に浮くが、やはりビビりまくっている。
出来るだけ低く飛ぶ。探索にはもっと上空から見たいが恐怖が増すだろう。
大和や兎月の方を見たが、やはり同じように軽い恐怖で身体も顔も固まっている。
100mくらい北に進んだところに15台ほど停められる駐車場がある
そこに赤い鮮血がビッシリとこびり付いているのが見えた。
2人を一旦降ろし、自分だけ飛行で少し戻り、歩き組の百舌鳥達に見た現状を伝える。
そしてまた生名は北に飛んで行った。
「周りに人影やモンスターは居たか?」
「血糊は見えるけど死体や負傷者は見当たらないから、逃げたのかな?」
再び探索するべく、空に飛び上がる。
北に西に東に目をいきわたらせる。
その時、急に担いでいる二人から重さを感じなくなったので聞くと、スキルを覚えたみたいだ。
コントロールの仕方を教えてさらに高く上昇して辺りを見回す。
フフッ、とても嬉しそうな顔をしている。
「あ、生名さん、あそこっ!」
指さす方に顔を向けると、東側の道路に面した大きめの駐車場に人影と魔物らしきものが見えた。
「あれやな」
大和と兎月に指示してそこに行かせる。配下はサポートにまわらせる。
生名は南に戻り百舌鳥達の団体に知らせると、皆急いで走り現場に向かう。
それを上空から見ながら道順の指示を出す。
先に駐車場の上空に着いていた兎月たちが大声をあげる。
「みんな~大丈夫かぁ~~~」
「助けに来たぞ~」
だがそこに山中川は居なかった。
「おいっ、山中川はどうした?」
「向こうの駐車場ではぐれました」
「・・・」
兎月が魔物の群れの中に飛び込む。
「ハイオーク、レベル20前後が11体、剛腕スキル持ってるよ」
「けが人は後ろに下がってくれ~」
大和は振り返りハイオークに向かっていく。
レベルも大和の方が上だし、特にスキルも無いハイオークは問題にならない。
だが、一度倒したと思った奴がまた立ち上がって来る。
手下や配下のメンバーも戦闘に参加する。レベルはハイオークと変わらない。
「大和さん、これ、なんかおかしいです」
「卯月さん、倒しても倒しても数が減らないです」
そう、なぜか致命傷を与えているのに、すぐに復活してくる。
超回復とか瞬間治癒などのスキルも持ってないのに・・・
倒したと思い込み油断している所をいきなり攻撃を受ける。
朝の自分達ならここでバタバタと倒れていっただろう。
だが、生名達は打撃を受けても、自分や周りにヒールを掛けながら戦っている。
坂の下から百舌鳥達が走って来るのが見える。
生名も駐車場に着き、上空から火魔法でハイオークに攻撃する。
「みんな~何かがおかしいから気を付けてなぁ~」
現場に到着した百舌鳥や河下らに向けて兎月が叫んだ。
「なぁ大和、山中川はどこに?」
「なんや向こうの駐車場で戦闘中に逸れたらしい」
「そっか・・・」
百舌鳥の配下に索敵や気配探知のスキル持ちが居る。
「他から魔物が来ない様に周囲を良く探知しておいてくれな」
「百舌鳥さん、後ろのレンガ調の建物の中に人か魔物か?数人居ますね」
「何人か迂回して見に行ってくれるか?避難者やったらここから遠ざけてくれ」
「はいっ!」
「斥候は続けて気配探知と索敵で周囲の注意を頼むな」
「はいっ!」
百舌鳥達も戦闘に参加するが、やはりおかしい事に気づく。
「おいっ生名」
空中に居る生名を呼んだ。
「どした?」
「あのレンガの建物の中に人か魔物かわからんけど数人おるらしいんや」
生名はそれを聞いてピーンと来た。
「そっか、もしかしたら建てもんの中から治癒魔法飛ばしてるとかかな?」
「有り得ると思うんや」
「OK,こっそりと侵入してみるわ」
生名は配下の飛べる二人を連れてレンガ調でツタの絡まる建物の中に入る事にした。
4Fの窓に張り付き様子を見る。
カーテンの隙間から中を覗く。
神経を尖らせる。
この階には何も居ないようだ。
そして3階の窓へ移動する。
同じ事を繰り返す。
(ヒュン)
生名のステータスプレートに索敵と言う新しいスキルが増えた。
「生名さん、気配探知ってスキルを覚えました」
「おぉ、俺も索敵を覚えたよ」
「俺は・・・ あっ、さ、索敵覚えました~」
「シッ!」
索敵を覚えた嬉しさでついつい叫んでしまった。
(空も飛べるようになったし、治癒や索敵も覚えたし、この人に着いて来て良かった…)
「1階にしか居ないな」
そう言って2階の窓から建物に侵入した。
階段を探し、見つけると、そっと下を覗く。
覗いた瞬間に、階段下からニタっと薄ら笑いを浮かべたゴブリンと目があった。
「チッ、ばれてたのか・・・」
生名は開き直って階上から火の球を連続で打ち込んだ。
「いっくでぇ~」
階段を一気に飛び降りてゴブリンと対峙する。
「ホブゴブリン、Lv15、格闘、駿動スキル持ち~」
保存領域から刀を出してゴブリンに切りつけた。
ゴブリンは軽く後ろに飛んで躱し、手に持つゴルフクラブを振り回してくる。
配下の二人も加勢するが、のらりくらりと躱されて勝負にならない。
業を煮やし、生名1人で無理やり奥の部屋に飛び込むと、そこには数体の背の高いゴブリンがニタニタしながらこっちを見ている。
そのうちの1体が右手をこちらに突き出した。
『&#%!!』
ヒュ~ン
ドッゴ~ン
空気が渦巻き振動し、生名達を襲う。
かろうじて避けたが、後ろの壁に被弾し大きく爆ぜる。
「ゴ、ゴブリンが魔法を使う?」
ハッと後ろの仲間が気になった。
「だ、大丈夫か?」
「はいっ、こっちは倒しました」
見ると、そこには先ほどのホブゴブリンが首なしになって倒れていた。
様子を探りに来た百舌鳥の直属メンバーが来たおかげだ。
(よっしゃ、いけそうやな)
生名は右手を真っすぐ伸ばし、その肘を左手で掴み呪文を飛ばす。
「ガーブファイア~」
直径1.5mほどの大きな火の塊りがゴブリンの方に飛んで行く。
さほどスピードは無いが当たれば大ダメージだ。
避ける。
ゴブリンは慌てず冷静に火の球から身をかわす。
ドッガァ~~~ン
バラバラバラッ
火の球は窓辺の壁にぶち当たり壁も窓も吹き飛んでいく。
駐車場で、こちらに背を向け戦っていたハイオークが3体、火の球が直撃して爆ぜる。
今度は回復魔法を掛けるゴブリンが意識を他に取られてるので、ハイオークはそのまま逝った。
「マジックゴブリンLv19真空魔法、他~」
「ゴブリンメイジLv19広範囲治癒魔法、他~」
「ユージングゴブリンLv18魔物使役」
「ゴブリンファイターLv20剣術~」
生名は一気に敵のステータスを読み取り大声で仲間に教える。
「ゴブリンの幹部達やな・・・」
ちょうど外で戦っていた大和がつぶやいた。
生名と大和はゴブリンを挟み撃ちで倒そうと目配せを送る。
言語理解を持っているヤツは居ないので言葉でも大丈夫だと思うが、お互いに意思の疎通は出来たようだった。
その時、百舌鳥のメンバーが叫ぶ。
「魔物の集団がこっちに降りて来ます」
「なんで魔物って?」
「気配が人じゃないですから」
「さっきのは建物の中だったから気配が探り切れなかっただけです」
もう一人がフォローに入った。
「そいつらが来るまでにこっちは殲滅しておこう」
回復魔法が来ないなら、ハイオークくらいは問題なく倒されていく。
だが、幹部ゴブリン達はそう簡単には倒れてくれなかった。
物理シールドや魔法シールドを展開してくるのでなかなかダメージを与えられない。
近寄ると剣を持ったゴブリンが切りつけて来る。
また離れると攻撃魔法が飛んでくる。
職業ゴブリンがこんなに面倒くさいとは思わなかった。
「おまえで最後じゃ~」
バシュッ
兎月の袈裟切りがハイオークの肩口から入る。
「ふぅ~やっとハイオークだけは倒せたな」
「お~い、そっちから魔物の集団が来とるから、こっちに集合~」
駐車場の中ほどに集まってきた三ノ宮クランのすぐ後ろからリザードナイトが4体、両手剣を振り回して近寄って来る。
トカゲの魔獣だった。
両手持ちの、少し幅広で長めの剣を持ち、素早い動きで近寄って来る。
その後ろには犬人が6体程剣や槍を持ってこちらを睨み進んでくる。
「リザードナイト~Lv15前後、双剣術、剣撃持ち~」
「コボルトLv18前後、スキルは戦闘系色々~」
どちらも2足歩行で剣だの槍だの持っている。
コボルトに隠れる様にもう1種類の魔物が居た。
「なっ?レ、レッドゴブリン?」
「ネ、ネームドやぁぁぁぁぁ」
「と、とんでもなく強いぞ~」
「百舌鳥~河下~ き、気を付けてくれ~~~」
サラサ・マーテルロー(16)
Lv20
種族 【レッドゴブリン】 選択
職業 【テイミングファイター】 選択
称号 【赤の戦士】【恐怖の象徴】【魔物を統べる者】
状態 【覚醒】
基本能力一覧
GMR/MPR
HP 6041/6041(+284)
MP 5724/5724(+284)
STR 1596/1215(+81)[+300]
DEF 1406/1025(+81)[+300]
AGI 1152/771(+81)[+300]
DEX 1042/961(+81)
INT 1522/1141(+81)[+300]
SP/69
基本技能一覧
言語理解 言語操作 魔物使役 全身強化³
索敵 威圧 大剣豪 槍の達人 縮地 超跳躍
無手闘技
治癒魔法-[クラル]-[カロ・クラル]
赫ノ魔法-[フェゴ・ペロテァ]-[グラナ-ダ]-[カリマ]
┗[フェゴ・グローボ]
耐性一覧
物理耐性 魔法耐性 威圧耐性
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第3章は一旦ここで終わります。
閑話と間話を挟んで、いよいよ2番目の中心人物達の登場です。




