三ノ宮クランの幹部達
「しかし今日は収穫あった一日やったなぁ」
三ノ宮西部統括者の生名颯太が、空を浮遊しながら仲間の2人に呟いた。
「北に行った連中もレベル上がって色々と成長したんかな」
高レベル格闘家の大和真之が同様に呟いた。
「このナメクジ、どこに保管する?」
南森兎月が二人に問いかける。
大丸に戻る道すがら、3人は空を飛びながらとても高揚していた。
人間が空を飛ぶなんて・・・
こんな楽しい事は無い!
レベルも生名が24、兎月が25、大和が27まで上がっている。
そのうちの3~4レベルは健斗達のおかげなのは重々理解している。
「そうやなぁ高層マンションの上階に俺らだけの拠点作ろうか?」
「市役所の最上階はどない?あんなとこ空飛べんと来られへんやろ?」
「それやったら、戻らなあかんけど新聞会館裏のタワーマンションは?
あっこやったらこの辺で一番高いし、55~56階の塔屋とか普通に誰も上がってけぇへんし」
「おう、それはナイスやな、そこ行こか」
3人は市役所を過ぎた辺りでUターンして、タワーマンションを目指す。
「こりゃ~塔屋は壁を作らんとあかんなぁ」
「んじゃ~住居部分のどっかに拠点を作ろう」
そう決めて真ん中の吹き抜けから住居部分へと降りて行き、そのうちの1部屋に侵入。
人が居ない事を確認して取り敢えずナメクジのプラケースをキッチンの上に置く。
「この部屋の住人は慌てて逃げた感じやな、玄関の鍵が置いたままや」
下駄箱の横のキーハンガーに2つ、キッチンの前のカウンターにマスターキーが置いてある。
「ここまで上がって来る人はおらんやろうけど、鍵が掛けれるんはちょっと安心やな」
「まぁ入ってきたとしても、誰もナメクジを持っていこうとはせんやろw」
「確かにw」
3人はしばらく休憩した後に、夕の会議がある電電ビルに急いで戻る。
先に大丸前に戻り、大和のPTメンバーや兎月のPTメンバーを集める。
そして今日クランに入ったPTのリーダーも一緒に会議に出て欲しいとお願いした。
それ以外の人には、デパートや近くの重要カ所の警備に回って貰った。
食料調達班は仕入れた食料をデパートの地下に運び込む。
これは西方面担当の分の食料だ。
電電ビルの一階に西に討伐に行った会議参加者が集まってきたので、生名は剣を使いたい人にあるだけの剣を配布してあげた。
それでもまだ数本は余っているが、無理に0にする必要は無い。
しばらく雑談をしていたが西方面以外の方向に行った幹部も、リーダ―である百舌鳥も帰ってこない。
「これはちょっとおかしいかな?」
17時からの会議だが、30分前には集まるように話し合っていた。
今はもう17時5分前。
「もう10分待って帰らなければ、何か緊急事態だとして捜索に出かけます」
そう言った矢先に、ハァハァと息を切らして数人の男女が生名の元に走ってきた。
「ハァハァ、と、統括さん、だ、大至急、応援に、来てくれ、との、伝言、です」
息も切れ々に一人の男が一気に話し、その場に倒れた。
次々に到着した伝令たちは、皆その場に倒れ込むほど必死で走ってきたようだ。
「おいっ一体何があったんや?」
その日の朝
「それでは、生名組はこのまま真西へ、河下組は花隈城跡から生田中学までくらい、薄十里組は生田中学からトアロードくらいまで、うちの山中川組はトアロードから東門くらいまで、百舌鳥組は東門から北野坂辺りまでで北進していきます。
一応基本ラインはパールストリートくらいだと思います。
生名組は栄町抜けたら元町通に行くか宇治川に上がって貰っても良いです。
どこまで行けるかの競争では無いので、夕会議の集合を優先して下さいね。
目的は、魔物の殲滅と新人のクランへの勧誘、そしてレベリングです。
未避難者は今の世界の説明だけで、無理に保護しなくて良いです。
それではみなさん、怪我だけ無い様に頑張りましょう!」
演説のスキルを持っている山中川と言う男が朝礼の司会を務める。
午前中は、どこの組もそれなりに苦戦を強いられていた。
昨日はゴブリンしか見掛け無かったが、今日はオークやハイーオーク、ベア種やウルフ種、蟲種、ハチュ種と様々な種類の敵が居る。
昼の食事を済ませ、北進する4組のクランパーティー。
最西の河下PTが兵庫県警察本部を超え、兵庫県庁も超えた所で昼休憩にし一息ついて立ち上がる。
ここのラインは庁舎や学校、相楽園などがあって、あまり住居が少なめのラインだった。
そのために、初期構成も少なめの人数であった。
だが、勧誘しながら、素の人間にレベルを付けたりしながら人数を増やしていき、相楽園手前くらいには朝の倍の60人を超えていた。
相楽園の向かい、柔道金メダリストの阿部一二三が通っていた神港学園の前で河下が皆に言う。
「ここから東に進んで薄十里組と合流しようと思います」
今までほとんど住居は無かったが、ここからは色々な大きさのマンションも増え、戸建ても結構な数がある。
マンションは未避難民も捜索しながら行くので時間が掛かる。
南北に展開してしばらく進むと、薄十里組とかち合い合流する。
「今日は色んな種類の魔物がおるなぁ」
「あぁ、でも倒せない奴は居なかったけどなw」
厄災2日目で、魔物のレベルは高くても10や15くらい、ボス級でも20前後である。
特にこの二人の討伐ラインにはボス級の魔物は湧かなかった。
そのせいで余計に自信過剰が膨れ上がり慢心になる。
合流後、さらに東をラインにしてた山中川と合流しようと進んで行く。
2時間くらいマンションを捜索しながら敵を倒していくが、なかなか山中川と出会わない。
そうこうしてたら、さらに東のラインを削っていた百舌鳥組と合流してしまった。
「あれ?山中川は?お昼前には東門抜けたところで逢ったんやけど?」
「うん、俺も昼過ぎにNHKの所を北に上がっていくあいつのグループ見たんやけどな?」
「NHKかぁ・・・ 戻って見てみるか?」
百舌鳥とすれ違って無いかとか聞いたがそれは無いらしい。
こっちもすれ違う事なんか無いはずだから、やはり捜索が必要だ。
一度山手幹線まで降りてNHK神戸放送局まで戻り、そこから捜索を開始する事にした。
捜索に当たるのは、幹部達と百舌鳥のPTの精鋭たちである。
他の大勢はこのままここに残り、レベリングに勤しんでもらう。
朝には150人程だったメンバーも、今では300人を超えたくらいだろう。
まだまだレベルの低い人も多い。
NHKの東の道と手前のトアロードに分かれて北に向かう。
暫く歩いた所で鼻の良いメンバーが叫んだ。
「百舌鳥さん、凄い血の匂いがします!」
近くを見たがそれらしいモノは見受けられない。
マンションの敷地に入ると、「ここ、地下に駐車場があります!」と斥候役の子が言った。
駐車場に入るスロープには血の跡がびっしりと付いている。
「お~い、テル~」
山中川輝の下の名前で仲間が呼ぶが返事はない。
ゾロゾロと地下駐車場に降りて行くと、そこは血の海だった。
慌てて中を捜索するが、奥は暗くて見えないけれど、人のような物が沢山転がってるのが見える。
生活魔法の火が扱える奴が辺りを火で照らす。
多くの戦士がそこに倒れていた。
「おい、大丈夫か?」
まだ息のある奴も何人か居るようだが、皆かなりの重傷でもう虫の息だ。
「おい、テルはどうした~?」
「テ、テルさんは、女子大の、キャ、キャンパスに居るはず、です・・・」
「すまん、俺はキャンパス行くから、こいつらを外に出しといてくれ!」
百舌鳥と薄十里と幹部の3人が走り出した。
残った者で怪我人や遺体を外に運び出す。
キャンパスはすぐ隣だが、ここは入り組んだ場所の為、一旦大通りに出る必要がある。
不安を隠して3人が走る。
グルっと迂回して大学の中庭を覗くと、そこにも大勢のメンバーが倒れていた。
分かれて先行していた河下が百舌鳥達を見つけた。
「おう、そっちにテルおったか?」
「いや、こっちには居なかった、しかしここも悲惨だな・・・」
「生きてる奴に聞いたが、刀を持ったワニと戦ったらしい・・・
それが異常に強くてみんなバタバタと倒れていったって話だ。
レベルの低い奴らを逃がしたんやけど、ワニはそいつらをターゲットにしたらしく、テルは怪我をしてたが、そいつらの救助に向かって追いかけたんやって」
「まぁあいつやったら大丈夫やろうけど、どこに行ったんやろうな?」
「パールラインを左右のマンション削りながら俺らは歩いて来たけど、逢わなんだな」
「おい、ちょっと生きてる怪我人をどっかに纏めて治療しようや」
薄十里は山中川の事が気になって仕方が無いが、河下は仲間の怪我人の方が心配なようだ。
百舌鳥も、クラン員が死んでる事や大怪我してるのにあまり気に病んだ様子は無い。
「ちょっと、何人か向こうから呼んできてくれへんか?」
「テルを探すついでに呼んでくるわ」
「・・・」
薄十里と百舌鳥の二人がキャンパスから北に上がって行く。
それを訝しげな顔で河下は見つめていた。
健斗と美咲は当分お休みです。
もう4~5話で新章に入ります。




