進化は続くよどこまでも
上空から見ただけでは美味しそうな経験値を持つグループが見つからない。
健斗は鳥瞰図と索敵を駆使してまとまっている光を探す。
いざ探すとなかなか美味しい獲物にはありつけないもんだ。
湊川神社のチーキーベアのように、そこそこのレベルで数が集まって居る所・・・
見当たらないな。
あまり時間が過ぎるのは、生田川のメンバーに心配を掛けさせるだろう。
お昼の12時頃には帰りたい。
あと1時間も無いくらいだから、サクッとレベルを上げたい。
そして、どうぶつ王国にも行ってみたい。
でも母と剣女の話では、ホワイトタイガーは居ないだろうと言われた・・・
残念。
神戸駅前に戻って、美味しいターゲットが見つからなかった事を告げる。
母の提案で、神戸駅から栄町通りを歩いて抜けながら生田川に戻ろうと。
その道すがら、敵を倒しながら行けば、拠点に着くころには進化できるんじゃないかと。
神戸駅から三宮までは3㎞ほどしかないので、生田川まで歩いても4㎞にもならないだろう。
戦闘しながらでも1時間は掛からないだろうと憶測して、それを実行する事にした。
ロータリーのゴブリンも、そこそこの数に減っているし、残ったのは戦ってるパーティーに譲ろう。
健斗は、おせっかいついでに、そこに居る子らに治癒魔法を掛けて回った。
体力や傷が回復した事に、驚く子も居れば喜ぶ子もいた。
時間があれば色々と指南してあげたいけれでも、まぁ自分たちで頑張って強くなってくれ。
(ヒュン)
健斗のスキルに変化があった。
その場の大勢の人間に一気に治癒魔法を掛ける新しいスキルを覚えた。
「エリキュアッ!」
月の少女戦士のようなネームだがなかなか良い物だ。
(これは色々と使い勝手の良いスキルを覚えたもんだ)
健斗はまたイチビれる事に喜びを感じているようだ。
健斗と咲空は、高速で飛んでどうぶつ王国に行って、真っ黒なシンリンオオカミが居るかどうか見て来る事にしたいと申し出る。
もし居たらそのまま咲空の眷属にしてすぐに戻って来る、居なかったら速攻で戻ると約束をしてその場を離れた。
『んじゃ~行きますか』
『栄町通りを起点にして、山側の走水通りと浜側の乙仲通りを散策しながら健斗さん達の帰りを待ちつつ、生田川のコンビニ跡を目指す で良いかな?』
「早く麗里を進化させてぇ~」
『この子で人化率25%なんやって』
『おっちゃん曰く、16,32,64レベルで進化するらしいよ』
『そやけどお姉ちゃん、ほんま良く喋るようになったなぁ』
「最初は猫被ってたんよなぁ(笑)」
『ちょ、ちょっと人見知りなだけやぁ』
『リトル~ おばさん達が苛めるよ~』
「オネエさン ジャナイか?」
『お姉ちゃん、ほんまあんたは口が悪いな~(笑)』
「リアルで毒舌キャラって初めて見たわ(笑)」
皆、それなりにレベルが上がり、もうゴブリンやオーク程度じゃ負ける要素が少なくなって来た為、以前ほどの緊張感が無くなっている。
仲間が増えた事もその安堵に起因しているのだろう。
実際に、今ボス熊と戦ってももっと楽に勝てるだろうと思っている。
だが、回復スキルを持っている健斗がここに居ない事を理解していない。
栄町通りまでにも魔物や魔獣は現れる。
駅東のD51と言う蒸気機関車を展示しているその陰から、大きな昆虫が数匹現れた。
姉が鑑定で見ると、アーマードクリケットと言うバッタの魔物だった。
クリケット(コオロギ)と名がついているが、外殻は硬い装甲で覆われた羽の無い飛べないキリギリスの進化系だ。
土佐犬程の大きさがあり、その口の鋭い顎が獲物を狙う。
弱点は比較的柔らかい裏腹だが、なかなかそこを狙えない。
頭部と胸部はほぼ刀が通らない。
もっともっとレベルと剣の熟練度を上げないと・・・
『かったいな~』
「これって長引くと結構ヤバないか~」
リトルの熊爪がアーマードクリケットの横腹まで抉り大きなダメージを与える。
「あとで風刃覚えんとあかんな~」
『ほんまやで、攻撃の選択肢は増やさんと、対処できん奴も出て来るな』
一度ひっくり返ると、弱点の腹をさらけ出し、刀の餌食になる。
だが、そこに至るまでがなかなか厳しい敵だった。
足を狙うと、凄いジャンプで飛んで避ける。
姉は飛んだところで、真下から柔らかめの腹に向かって剣を突き刺す。
『ほぅほぅ、その攻略法は使わせてもらうで~』
『えぇで~、別に金は取らんから好きに使いぃや~』
「な~んか腹立つ言い方やけど、私も使わせてもらうで」
弱点を自ら曝してくれるこのやり方は攻撃力の低いパーティーでも使えるだろう。
少し時間が掛かったが、初の昆虫型モンスターを快撃し意気揚々と進んでいく一行。
ポートアイランドの神戸空港が対岸に見える所まで飛んできた。
二人は、どうぶつ王国の南入口の方に向かう。
シンリンオオカミはロッキーバレーと言う区画に居るので、そこがある南口を選んだのだ。
本当は時間があれば北入り口から入り、色んな動物を見てからオオカミの領域に辿り着くのが良かったのだけれど、今回はサクッとオオカミを調べて、いけるなら眷属契約までやってしまいたい。
南入口から入ってすぐの所にロッキーバレーはあった。
その向かいにはスマトラトラのブースがある。
お互いに野生を忘れないように、天敵が見える位置に配置したらしい。
「あ、あなたたち、ここは立ち入り禁止です」
中からスタッフの、大声で静止する叫びが聞こえてきた。
数人の制服を着たスタッフがこちらに集まってきた。
「ここは危険ですから、出て行って貰えますか?」
「緊急事態なので速やかに退場をお願いします」
こんな時にも飼育員さんやスタッフが集まって来るって凄いなと思いつつ、自分たちの要求は一つだけなのでそれを飲んでもらわないと困る。
まぁ手前勝手な話なんだけど。
健斗は色々と説明を始めた。
チラリと見たら、シンリンオオカミは3匹が元気にしていた。
咲空は目を輝かせて見入っている。
『ねぇねぇこの子達って処分されちゃうんでしょ?』
咲空は、動物園や動物を展示している所の猛獣は、緊急事態の場合多くが殺処分されるという事を何かの情報で頭の中にあったので聞いてみた。
「いえ、まだそのような通知は来ていないので・・・」
そりゃそうだろう。
その指示を出す役所が機能していないんだから。
「一つ聞くけど、君らは今神戸がどんな状態になっているのかは理解しているのかな?」
健斗の質問に飼育員やスタッフの集まりが、顔を見合わせて怪訝な顔をする。
『はぁ呑気な人等やなぁ』
「見た事も無い生き物が闊歩してるのは知ってるけど・・・」
健斗は大雑把であるが、今の状況を分かりやすく説明した。
そして自分たちはネオヒューマンと言う新人類種になっている事も告げた。
だが、いつものごとく何を言ってるんだと言う顔でこちらの話は信用しない。
ステータスプレートを見せたけど、何か手品を見る様な感じであまり信用はされていない。
いつもの様に免許証も見せたが、やはりだめだ。
「風纏」
宙に浮いているのを見てやっと少し信じる人が増えてきた。
『はぁ・・・ ホンマこのままずっとここで生活するつもりやったんか?』
『この辺りにも、あんたらがおるって事はゴブリンが湧いたはずやけどな』
皆がザワザワとしだした。
「あれってやっぱりゴブリンだったのですね・・・」
「園の中にも何体か入り込んでて、でもそいつらは肉食獣に駆逐されちゃったんです」
「外に居たのはいつの間にか居なくなっていました」
「その駆逐したって子はどの種類?」
健斗はきょろきょろと回りを見て声を上げた。
「あぁ、スマトラトラやな」
「なぜわかるのですか?」
「あのトラはレベルが付いてるからですよ」
「この厄災が始まってから他を殺したものは自然とレベルが付くんですよ」
またザワザワとしている。
そんな会話を続けていると、園の他の連中も集まってきた。
「ちょうど良かったです」
「今から大事な事を言いますね、ここに居る皆さんもレベルを付けて動物を使役するスキルを身に付けて下さいませんか?」
「そうすれば、ここにいる猛獣も含めた全ての動物たちが皆さんの仲間に、というか、信頼のおける眷属になります」
「意味が理解出来ないだろうと思いますので、まずはこの子が試しに見本を見せます」
「どれくらい猛獣と絆が紡げるかみていてくれませんか?」
「具体的にどんな事をするつもりかな?」
「危険な事だと許可は出来ないんだけど?」
「許可は要りません。こちらが勝手にやりますので」
「んじゃー咲ちゃん、あの子と契約結んでおいで」
『ラ~ジャ~』
咲空は風纏を使い、上部の開口部からロッキーバレーの中に入る。
健斗も後を追って中に入り、残りの2匹のシンリンオオカミが暴れられないように拘束する。
「おい~あかんって~帰ってこいや~」
「あかんよ~ お嬢ちゃん死なないで~」
だが、咲空は黒いオオカミの口を片手で掴み、契約の文言を唱えた。
汝
我が眷属となりてその身を捧げ
我が命令に従順に従い
我が身に危険を寄せ付けず
我が生き様をその眼で見守り
我が身が亡びる今際の時まで未来永劫共に生きると
誓えぇ~!!!
「アグリーメントッ!」
淡い光に包まれて、ブラックウルフは咲空の眷属になった。
厳しい目をしていたブラックウルフも、優しい顔つきで咲空に懐く。
園の人達はその光景を見てもまだ半信半疑で見ている。
健斗の手で口を塞がれているオオカミを見て、少し自分も契約をしてしまおうか悩んでいた。
だが、この小型のオオカミでは無く、最低でもクーリルウルフくらいの大きさは欲しい所だ。
レベルで進化はするのだろうが、人狼はあまり欲しいとは思っていない。
遠目でバレーの中を見ると、ピューマが木の上からこちらを見ている。
少し悩む・・・
咲空がオオカミを抱いて外に出たので、健斗もオオカミの拘束を解き、自身も外に出た。
『これでこの子はうちの眷属となったんよ』
咲空の傍らに甘えて寄り添うそのオオカミを見て担当飼育員はつぶやいた。
「マイケル、ほんまなん?・・・」




