レベリングは楽しいな
階段に戻りリュックを背負い、バックを肩に担いでまた降りていく。
この階段は4階までしかなく、そこからはエレベーターか、防火扉の非常階段を降りていく。
4階南側のエントランスからも出れるが、出た先の公園にゴブリンが多数いたのを、自分の部屋のベランダから見ているからだ。
6階辺りで下を見やると、結構な数のゴブリンが見て取れる。
「なぁ結構おるぞー」
「カッコいいとこ見せてよー」
「マジで死ぬわ!」
上の方に居たゴブリンはほぼすべて下に降りてきてるみたいだ。
数は把握できないが、100や200は軽く居るだろうか。
「健ちゃん、やっばいよー」
「うん、これだけ居たらホンマやばいよね」
「ちゃうちゃう、レベル4とか3とかおるよ」
ゴブリンも人間を倒したらレベルが上がるのだろうか?
それとも最初からそんなレベルで湧いてきたのだろうか?
満員電車の中で隣の車両に行くのが困難なように、ゴブリン畑をスキップしながら出て行くのはとても困難である。
オープンな非常階段は諦めて、エレベーターホールの奥の非常階段に向かう。
隙間を開けて覗いてみたが、階段室の中にはもちろんゴブリンなど居なかった。
1階にたどり着きホールを出てエントランスに向かう。
オートロックの大きなガラス戸の前に立つと、普通なら自動ドアとして勝手に開くのに、センサーの光も点かずにドアも開かない。
停電か?
ガラス戸の真ん中に指を突っ込み徐々に開けていく。
指が入れば一気にひらく。
やっとエントランスから出れて、だだっ広く長めの通路を外に向かって歩いていくと、奇声を上げながらゴブリンがこちらに向かって走ってくる。
いきなり見つかった。
数にしたら10体ほどだが、レベル2でどれだけやれるかわからない以上、無理に戦う必要は無い。
「も、戻ろう」
「でも、ここなら広いから思いっきり刀振り回せるやん?」
「それに戻ったところで何も解決せーへんし」
逃げ腰の自分に、1周りも下の娘が戦うことを打診してくる。
「戦闘狂かよっ!ったく(笑)」
「にーしーろーはーとお、じゅういちか」
「うちが5体に健ちゃん6体ねー」
これから死闘を行うのに、なんて無邪気に笑うんだろうか
「よ~っしゃー」
青龍刀を抜き、すり足で近づいていく。
横から美咲が飛び出していく。
「おいっー 突っ込みすぎじゃー」
慌ててこちらも前に突っ込んでいく。
突っ込みすぎの美咲を横目で見ながら対峙する。
しかし美咲は素晴らしい動きをする。
側転から、真上くらいに飛び上がり身体を高速回転させて蹴りを入れる。
2体のゴブリンが吹っ飛んでいく。
俗にいう旋風脚だが、美咲のスキルは扇風脚だ。
着地と同時に後ろ回し蹴りをゴブリンの顔面に見舞うと、その反動を利用して隣のゴブリンに踵落としを食らわせた。
あまりの事に一瞬我を忘れて見入ったが、もう目の前にゴブリンは居た。
柄を両手で握り刀を振り上げ、右肩から左ひざに拳が向かうように刀を振り下ろす。
袈裟斬り
目の前のゴブリンが血しぶきを噴き上げて絶命する。
返す刀で、突っ込んできた2体を横薙ぎで切り裂く。
1体目に深く入り過ぎたため2体目に与えたダメージは小さかった。
美咲に向かうゴブリンは金属バットを振り回し奇声を上げる。
それを華麗にバク転で躱し、次には前方に飛び上がり金属バットゴブリンを通り越して向こう側で前転して立ち上がる。
ジャキンッ
甲高い金属音がして籠手から爪が飛び出す。
金属バットを振りまわしていたゴブリンの背後から右半身で飛び掛かり、身体を翻し勢いを付けて後頭部に爪を突き刺し、抉る。
ゴブリンは力なく崩れ落ちていく。
美咲はそのまま倒れこんだゴブリンに向かい、飛び込み前転でバットを拾いながらもう一回転してバットを奥に放り投げ体制を整えてゴブリン達の方に向き直り、左手を床に着き右足を後ろに引き低い姿勢で身構える。
致命傷を与えられなかったゴブリンにはすぐに突きを入れて倒す。
美咲の動きが視界に入るが、それを気にしていてはこちらが危ない。
武器の殺傷範囲が広い刀と手包丁じゃ余程の事がない限り打ち負けることは無いが油断と慢心は禁物だ。
それでもなお向かってくるゴブリンに、袈裟懸け、横薙ぎ、カチ上げ、一刀両断と次々に刀を振り回す。
切っ先だけでゴブリンのHPを削っていく。
しばらくして3体のゴブリンが朽ちていった。
(ヒュン)
「フゥーハァハァ 手伝おうかー? フゥ~」
先に倒し終わったので調子に乗って声を掛けた。
「爺ぃは、一仕事したら、その辺で、ハァ やすんどけー、フゥー」
ニヤリと笑いそう言うと、美咲はゴブリンの腰くらいの高さの低空飛行でジャンプする。
そのまま右腕を伸ばしゴブリンの腹に爪を突き刺し、左に強く引くとゴブリンの臓物が飛び出てくる。
そのままの勢いで切り裂いたゴブリンを蹴飛ばし、横で刃物を振り上げてるゴブリンの顎に爪を引っかけて切り上げる。
大量の血が美咲に降り注ぎ、ゴブリンはそのまま後ろに倒れこんだ。
「フゥしんどー」
「お互い無傷で勝てたなぁ」
「服が血まみれやー」
「やっぱメイちゃんは頼りになるわ~」
籠手のメイデンクローをメイちゃんと呼ぶ。
一息ついてエントランスに戻りガラス戸をオイショオイショと閉めた。
「レベルあがったな」
「うん」
「ちょっと休憩」
バッグからタオルを出し、美咲の髪を拭いてあげる。
自分でもタオルを出し、手や顔を拭いている。
「この帽子、お気に入りやったのにこんなに血まみれじゃもう被れないね」
「しっかし美咲ちゃん、すごいなぁ」
「動きが尋常じゃなかったわ」
「小中高と体操やってて、高校じゃ新体操も掛け持ちでやっててん」
「高3の終わり頃からパルクールもやってるからあんなん出来たんやと思う」
「それにしても凄すぎるわ。映画見とうみたいやった」
「えへへへへ」
「でも卒業して生活が変わったから、身体動かしたの久しぶりで息切れた」
「打撃も強かったなー」
「中3まで空手もやっててんよ。」
「そうなんや」
「高校入ってクラブが忙し過ぎて辞めちゃったけどね。だから初段止まり」
「俺は剣道とバスケやなー。剣道は初段の昇段試験に一回落ちて挫折したから美咲ちゃんの方が偉いね」
「剣道よりもチャンバラの方が得意やけど(笑)」
「め~ん とか言わんかったねー」
「普通言わんわ」
「ステータスオープン」
一息ついて美咲が先に唱えた。
「およよ~」
「誰やねん!」
「職業の選択が出来るようになっとう」
「おぉーやっとかー」
「武闘家と舞闘師と拳闘士の3択」
「舞闘師ってあんまり聞かんな」
「舞闘師にしよう」
「なんで?」
「なんとなく舞うって漢字が気に入った」
「舞いながら闘うカワイー少女~」
「“師”はどこ行ってん!」
二ツ石 美咲(19)
Lv3
種族 【新人類】 選択
職業 【舞闘師】 選択
称号 【--】
基本能力一覧
GMR/SPE
HP 32/32
MP 14/14
STR 28
DEF 33
AGI 41(+13)
DEX 23
INT 14
SP/22
基本技能一覧
風舞
扇風脚 超跳躍 覗き見 爪操術
64-1/40+0
「ちょっと強なった感じやなー 風舞とか素早さ重視の職業って感じだね」
「んじゃー次、健ちゃん」
この短時間で、すっかりちゃん付けで呼ぶことにも呼ばれる事にもお互いが慣れてしまった感じだ。
いつものように、美咲のステをスマホで撮り保存する。
「ステータスオープン」
「こっちも職業選択できる」
「Lv3で職業就くのかな?」
「そんな感じがするね」
「剣闘士と魔剣士の2択だ。おぉー称号が付いてるよ!」
「風切の刃。なんかカッコいい」
「迷わず魔剣士やな」
「なんで?」
「ん?魔法って憧れるやん?それと剣を掛け合わせるんやで?」
「たんなる魔剣使いってだけかも知れんで」
「い~や、魔法剣士のこっちゃで」
「中2かよっ」
「ポチッ」
庄内 健斗 (31)
Lv 3
種族 【新人類】選択
職業 【魔剣士】選択
称号 【風切の刃】
基本能力一覧
GMR/PRE
HP 29/29
MP 16/16
STR 37
DEF 31
AGI 28(+5)
DEX 23
INT 15(+8)
SP/21
基本技能一覧
魔風剣 超跳躍
風魔法-[風纏]
64-13/38+8
「ほ~ら~」
「魔風剣覚えたし~風魔法覚えたし~」
「素早さと知力に補正付いたし~」
ボゴッベゴッ
「いって~。なんで蹴るねん!」
「なんかむかついたから」
「ガキか~」
「中2よりゃ大人じゃ~」
膝でお尻をなんども蹴られたが、特に痛みはない。
「称号ってどうやったら付くんやろうな?」
「あほみたいに刀ブンブン振り回しとったらえ~んちゃうか」
「そんなんで風魔法付くか?」
「ブンブン風吹いとったわ」
なぜかご機嫌斜めな美咲ちゃん。
なんとなくレベルが上がってスキルや職業とか付いてきたらゲームの様で楽しくなってきた。
レベルをもっと上げたいなーと考え出した。
マンションの4階にはうじゃうじゃゴブリンが居る。
あいつらを上手く倒していけばそこそこレベルが上がるんじゃないか。
美咲にそれを言うと
「やろ~やろう」
と大はしゃぎで賛成してくれた。
機嫌も直ったようで良かった良かった。
「ちょろいな」
「なんやて?」
「作戦立てよか」
「なにがちょろいねん!」
飛びついてきて首に腕を巻き付けてきた。
そのままヘッドロックされて倒されかける。
「誰の何がちょろいんやって?」
「ご、ゴブリン倒すのってちょろいなって話やん」
「ちっ! 中2病やからな!しゃーない、許したる」
笑いながら毒吐く美咲。
まずは、5階と4階の間の階段から数体ずつおびき寄せて徐々に数を減らしていこう。
そのためには、中間の踊り場にバリケードを作ろうと。
「鍵が開いてる部屋に入って、家具とか持ってくるか」
「不法侵入するんやねー」
「脳天チョップって知ってるか~」
「いややぁぁぁ」
そう言いながら頭を隠す美咲。
手分けしてカギが開いてる部屋を探す。
5階に3件開いてる部屋があったが、タンスや水屋を置いてる家が1件しかなかった。
最近はタンス置かないんやな。
水屋も最近はカップボードに代わっていってるし。
美咲くらいの歳なら水屋って言葉自体知らない。
早い話が食器戸棚の別称だ。
タンスとかを出す前に廊下に横たわる遺体達を開いてる部屋に運び込む。
5階では7人のご遺体を収めた。
タンスを二人で持ち上げたが、思いのほか軽くて驚いた。
「やっぱりレベルが上がったからかな」
「まだ3やけどねー」
「それでも常人とは比べもんにならんくらい力付いとるよ」
えっさえっさとタンスを運び出し、テーブルや本棚、その中の本や雑誌も運び出し踊り場にセットする。
タンスは背板を外し、引き出しを下の方だけ全部抜いてバリケードの一番前に置く。
その隙間から青龍刀で突いたり切ったり安全に討伐出来るように。
タンスを倒されないようにL字に別のタンスを置き、上に重さのある本棚に本と雑誌を入れ込んで、テーブルをタンスのこちら側に立てかける。
万が一の場合は本棚ごと向こうに落として圧殺を狙う。
L字にしたタンスの裏には、1体だけギリギリ通れる隙間を作り、入ってきた奴から美咲が殲滅していく作戦だ。
4階のゴブリン達、こっちからは見えてるんだから向こうからも多分見えてるだろうに、1体として上に上がってくる奴は居ない。
もしかしたら上を見ないんだろうか?
吹き抜けの一番下は落下物事故が起こらないように立ち入り禁止になってるが、ゴブリンは満員電車のように沢山入り込んでいる。
所々で戦いが発生してるから、何日かほっとけば居なくなるんじゃないかと思う。
でもその前に上から冷蔵庫とか投げ落としたら結構な数を減らせるんじゃないかな。
「5階の3件から出してきた冷蔵庫をまずは投げ入れてみよう」
「それでもしも経験値が取れたら上に上がって開いてる部屋の冷蔵庫を片っ端から投げ入れてみよう」
中型の冷蔵庫なら60Kgほどだから、今の2人なら持ち上げて投げ落とすくらいは簡単に出来ると思う。
亡くなってる人のステータスを見てもらったら、STRは2とか3だった。
男性でも5しかなかったので、力持ちと言われる人でも10は無いだろう。
「美咲ちゃん、ゴブリンのステータス見て書いてくれへん?」
「ちょっと待ってねー」
『覗き見』でゴブリンのステータスを見ていく。
そして家具を持ち出した部屋にあったノートとボールペンで奴らのステータスを書いてもらう。
「こんな感じやわ」
ゴブリン(5)
Lv 2
種族 【ノルゴブリン】選択
職業 【--】選択
称号 【--】
基本能力一覧
GMR/MNL
HP 11/11
MP 2/2
STR 11
DEF 7
AGI 3
DEF 8
INT 1
SP/5
基本技能一覧
24/16
「思ったよりはステ高かったんやなー」
「HP低いからほぼ1撃ちゃう?」
「まぁ1対1なら負けることは無いんやろうけど」
「でも、5歳で殺人鬼ってどうなんよ」
「ほんま世も末やな」
「とりま、冷蔵庫投げてみる?」
「やろか」
「2人で投げよーね」
5階のアルミ柵の上から1個目の冷蔵庫を二人で両端を持ち、真ん中めがけて投げ落とす。
ウギャァァァー
ピギャッ
グギャァァァ
グォォォォ
・・・・・
ゴブリン達は阿鼻叫喚の地獄の入り口を見る。
すぐに2個目も投げ入れる。
バウンドして広範囲を殲滅していく。
(ヒュン)(ヒュン)(ヒュン)(ヒュン)
(ヒュン)
「ちょっと気分悪ーいなー」
「うん、なんか吐き気する・・・」
「でもレベル上がったのはわかる」
「レベルアップ酔いって事かな?」
「ん?レベルアップ酔い?」
「急激にレベルが上がった時に、身体が能力アップに馴染むのに感覚が追いつかないから、酔ったみたいな感覚に襲われるって事象ね」
3個目の冷蔵庫も投げ入れてステータスを見るとレベルが結構上がってた。
庄内 健斗 (31)
Lv 9
種族 【新人類】選択
職業 【魔剣士】選択
称号 【風切の刃】
基本能力一覧
GMR/PRE
HP 789/789
MP 657/657
STR 185
DEF 168
AGI 159(+17)
DEX 98
INT 141(+27)
SP/175
基本技能一覧
魔風剣
超跳躍 風魔法[風纏]
950/707
「3桁超えのステが出てきたなー」
二ツ石 美咲(19)
Lv 8
種族 【新人類】 選択
職業 【舞闘師】 選択
称号 【--】
基本能力一覧
GMR/SPE
HP 285/285
MP 53/53
STR 115
DEF 147
AGI 187(+38)
DEX 88
INT 36
SP/130
基本技能一覧
風舞
扇風脚 超跳躍 覗き見 爪操術
729-23/570+88
「ん~ 同じ経験値だと思ったけど、差がついてるね」
「うちが可愛いから?」
「チョーップ」
「俺の方が多いのw」
「ステータスも差が出てる事を考えたら、多分成長補正が掛かってるんだろうね」
「どんなふうな?」
「ん~~ わからん(笑)」
「あれ?」
「どした?」
「このSPってステータスに振れるよ?」
「ステの数字のとこクリックしたら±のゲージが出るよ」
「SPってスキルポイントじゃなかったんや。ステータスポイントか」
「振るのちょっと待ってね」
「うん、何に振っていいかわからんし」
「今、ステが偏ってるからしばらく様子みようか」
「それに、今のステで負けそうなゴブリン居ないしね」
二人で顔を見合わせ大笑いする。
何がそんなにおかしいのかもわからない。