ボアの肉はA7ランク
「このボアオークって言う種族の子らでスキル発動してみようか」
「ボアオークって言うんやね」
「んじゃ~あっちのがオーク?」
「そうそう、オークは上位種にハイオークっておるから気をつけてな」
美咲は手順を説明して、4体に手分けしてボアオークに手を当てスキルを覚える行為を始める。
人間がワラワラと寄ってきた事にボアオークは緊張を取り戻すが、頭に手を当てるだけでそれ以上の攻撃的な行動が無いのでキョトンとした顔をしている。
「見た目ほど硬い毛じゃないんやねー」
「イノシシ触った事あるけど、もっと硬くてチクチクしてたよ」
「眷属契約を覚えたら、怪我を治すスキルも覚えよか~」
美咲に説明され、眷属契約を覚えた人から順に次のスキル習得のための行為を始めた。
「このボアオークはどうしようか?」
「1、倒す 2、開放する 3、眷属にする さぁどれがいい?」
そう言うとメスボアを助けようと頑張っていた女性の1人が手を挙げた。
「私は家族も知り合いも居ないから、この子を仲間にしたいと思うんだけど」
その女性は、仕事で神戸に出張してきていて厄災に巻き込まれたようだ。
「狩人の人が、神戸からは出られないって言ってたけど信じてなかった」
「でも美咲さん達の話を聞いていて、それは本当なんだって思ったら・・・」
「うん、契約は解消する事も出来るから、しばらく一緒にいたらえぇよ」
「ありがとう」
そう言って女性は座り込んでいるメスのボアオークに眷属契約の文言を唱える。
汝
我が眷属となりてその身を捧げ
我が命令に従順に従い
我が身に危険を寄せ付けず
我が生き様をその眼で見守り
我が身が亡びる今際の時まで未来永劫共に生きると
誓え!
「プロミスッ!!!」
女性の手から淡い光が溢れ出し、ボアオークを包んでいく。
そしてそのボアの子に、覚えたばかりの治癒魔法を掛けて傷を治す。
「ヒール!」
みるみるうちに元気を取り戻し、立ち上がりその女性の傍らに寄り添う。
「これからよろしくね~」
そう言うと、メスのボアオークはニコリと微笑み頭を下げてきた。
「えっ?私の言葉がわかるの?」
「ハイッ、ニンゲンノ コトバ ワカルヨウニ ナタ」
『「「えええええええええええええ!!!」」』
「しゃ、しゃべったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」」」
ステータスを開くと、ボアオークのスキルに[言語理解]と[言語操作]と言う二つのスキルが発生していた。
「ほぉ~[言語理解]はリーリも覚えたから分かるけど、[言語操作]っていいなあ」
みなが驚いているのを横目に、ボアオークは最初に倒されたオスのボアオークの元に駆け寄る。
「オキテー ネェー ダイジョブ?」
もう虫の息だが、死んで無いのならまだ期待は出来るだろう。
「ヒールッ!」「ヒール」「ヒール!!!」
女性は横たわるオスのボアにもヒールを掛けた。
ゆっくりと起き上がりメスのボアオークを見つめ何かを語り掛ける。
メスのボアオークが女性に向かって、この子も眷属にして欲しいと懇願する。
「アルジサマ ドウカ コレモ ヒトニ サセテ モラエナイカ?」
どうやらこのメスの番らしい。
汝
我が眷属となりて
我に従い
我を助け
我を見守り
我と共に生きると
誓かえ!!!
「プロミスッ」
文言を短縮して唱える。
オスのボアオークは淡い光に包まれて、女性の眷属になった。
「ヌシサま ワガ イノチ スクッテいタダキ カンシャスる」
女性の顔が綻ぶ。
一度に二人も眷属が出来たからだ。
今までの、1人になってしまった寂しさや焦燥感が一瞬で吹き飛び、暖かい気持ちが押し寄せる。
2人の首に手を回し抱きしめる。
「さて、この子ら以外は治療して開放するって事で良いかな?」
『ん~私もせっかく眷属のスキル覚えたからなぁ』
「ですよね~ 会話ができる魔物なら居ても良いかなぁ」
「私も女の子が一人眷属に欲しいかなー」
結局残りの3体もここのクランのメンバーとなる事になった。
妹は女の子を眷属にした。
名前を付けるのに悩んだが、自分が千枝でちー子と呼ばれているので、つー子と名付けた。
軽業のスキル持ちの子は男の子を選んだ。
美咲に見てもらったステータスで一番素早さが高かったのと、レベルが一番低いのに女の子を守っていた心意気が気に入ったからと、もう一人の人が女の子が良いと言っていたからだ。
名前はハヤテ
眷属の子達がまだ空を飛べないので、ボチボチと歩いて帰る事にした。
ハットゆめ公園の横を過ぎようとした所、内臓を捨てた生田川干潟にたくさんの魔物が集まって居た。
ゴブリンや犬の様な魔獣、トカゲみたいな奴、恐竜みたいに見える爬虫類系の肉食獣、バッタのような奴、アリのような昆虫系の魔物達が数種類、捨てた内臓を美味しそうに食べている。
かなりの量があるので、奪い合いとかの争いは今のところ無いようだ。
背後から、肉捨て場の匂いに釣られてどこからか現れたゴブリンの群れを、16人の戦士が秒で倒してしまう偉業。
オークとの戦いで全員3つか4つくらいのレベルアップをしていたし、今のゴブリンの大群でまた1つ2つレベルが上がった。
『あとでみんなでゴミ捨て場の魔物達を掃除しに行こうね』
妹は早く眷属の つー子 を成長させたかった。
そして自分も早く戦える戦士になりたいと思うようになっていた。
母親の事もあるが、戦う仲間が増えたのが一番の理由だろう。
コンビニ駐車場に帰ると、どこから持ってきたのか、いくつかのブロックと鉄板で作った竈に火が入り、ボアの肉が焼ける良い匂いが辺り一面に充満している。
鉄板も網も、三ノ宮なんだから店舗も多いし、いくらでも探せばあるだろう。
「肉だぁ~」
「お肉だね~」
「いいにおい~」
もうすぐ時刻も12時になるだろう。
朝から何も食べてない人がほとんどだ。
匂いに釣られて、三ノ宮の東側から数人の人間が寄って来て少し人数が増えている。
進化している人も居ればまだの人も居る。
戦闘に参加しなくても、クランで活動するならレベルは付けて欲しい。
スキルを覚えるのと何も無いのでは大きな違いがある。
「健ちゃんたちはまだ帰ってない?」
「まだですねー」
「キャァァァァァァァ」
5人の眷属を見てひとりの女性が悲鳴を上げた。
美咲達が帰ってくるまでにも、何度も魔物は訪れて来てはここで倒されるを繰り返していた。
だが、集まってくるのはゴブリンくらいで、ボアオークの様な少し大きい2足歩行の魔物はやはり驚かれる存在なんだろう。
『この子らは仲間だよー』
『うちの眷属のつー子ちゃんだよ~』
「この子はうちの眷属のハヤテって言います」
それぞれ自分の眷属の子に名前を付けているので、皆に紹介して恐怖を取り除いてもらう。
「でも、やっぱり何か目印が無いと敵か味方かわからんな」
「スカーフとか洋服着せるとか?」
「さぁさぁ皆さん、お肉も焼けたようなので、ガンガン食べて下さいな~」
サバイバーの人と中華のコックさん達が食べるように促してくるので、お箸を頂いてお肉をつつく。
「ほぇ~~~美味しぃ~~~」
「なんなん?この美味しさは~」
誰もが自分たちで倒した魔獣が、こんなに美味しいお肉だとは思っていなかった。
お肉が美味しいと、やっぱりお米と野菜が欲しくなる。
「その辺も拠点が出来たら集めに回ろうかと思ってるよ」
「みんな飛べる事だし、高いビルの屋上に菜園作るのもアリかな」
すっかり料理部の部長と化したサバイバーが頼もしい事を言ってくれる。
サバイバーの人とそこに居た数人の人に今後のこのクランの体制を考えて意見を言い合う。
まずは名前が、サバイバーの提案した飛翔クランに即決で決まった。
全員が空を飛べるからだ。
次はまとめ役、リーダーかクラン長を決めないといけない。
拠点は大体目の前の社会福祉文化交流センターに決めている。
屋上には雨天開閉式の屋根がある大きなプールがある。
この貯蔵量は拠点にする為の大事なファクターだ。
シャッターが閉まる地下2階までの駐車場もある。
部屋数も多いので、事務所を寝室やリビングに変えてしまっても良い。
あとは各ビルの屋上に菜園を作る計画を推し進める。
43号線を超えた方のゴルフ練習場もネットで覆われてなかなか安全性も高そうだが、その隣にある、海運倉庫が、屋根上全面ソーラーパネルを敷き詰めてある。
ここで軽く電気を頂こう。
スマホやコードレス機器のバッテリー充電は必須だ。
充電式の発電機もそのうちどこかで仕入れてこないと。
近くに大きなバケツがあったので中を覗いてみると、そこには大量の氷の礫が入っていた。
氷のスキルを使える子がここに貯めているらしい。
これで冷たいお酒が呑めると喜んでいる大人の多い事か・・・
実際に別のバケツで冷やしたビールを飲んでいる人もたくさんいた。
魔物に襲われたらと思うと飲めないと言う人も結構いる。
でも今の魔物相手ならレベルが5~6もあればまず負けることは無い状況に、油断しても仕方ないだろうなと美咲は思った。
しかし、朝のトロールのようなボス級も居る事は頭に置いておいて欲しいと思う。




