侵略者
「ラグレアさんとやら、それで何を聞きたいんじゃな?」
長老はラグレアに問いかけた。
『あぁ話してくれる気になったんだな?
まずはここは何て名前の星なんだ?
それと、まったく日が昇る気配が無いんだが、いつ日の出は訪れる?』
「この星に名前があるのかは知らん・・・ が
ここはスヴァルトアルヴヘイムと言うんじゃよっ!
そして、ここは昼と夜が無い世界じゃな・・・」
長老が即答で返事をくれた。
「ここの世界は3つの太陽に囲まれててのぉ・・・
それぞれかなり遠くてこんな程度にしか光が届かないらしいんじゃ」
長老はラグレアの質問に真摯に答えようと考えていた。
今は良い感じで話しているが、いつ何時豹変して暴れ出すかもわからない。
そうなったら、ここに居る連中じゃ到底太刀打ちは出来ないであろう事も考慮している。
気が悪くならない様に細心の注意を払いながらそう務める。
『そうか~いつまでもこんな明るさなら、時間の感覚とか無くなるよなぁ・・・』
朝焼けが出る前くらい、夕焼けが終わったくらいの明るさのこの世界。
住めば都で、気にならなくなるのだろうが、昼と夜を知っているラグレア達には慣れる事は無いだろう。
「ねぇ、なんでここにはウェ家の人は居ないの?」
「ん~ まぁちょっとこっちに来てくれるかのぉ?」
そう言って先行して歩いて行く長老さんに尽いて行く。
真凛に首根っこを捕まれてその後に解放された子がネコに問いかける。
「私はマァ家のユーナって言うんだけど、あなたの種族は飛べる種族なんですか?」
「んっ?いやいや、ワシが特別なだけじゃよ」
「もっと高くにまで飛んで行けるの?」
「あぁかなりの高さまでは行けるが、あんまり高い所は好きになれんでのw」
「いいなぁ~私も飛べたらあっちこちに行って色んな国を見てみたい」
「あんたら二人共猫なんやろうけど、
うちが知ってる猫ってもっと小さくて可愛いんやけどな~w
ちょっとあんたらはバカデカすぎるわw
後ろから見たら中型犬やんかw」
「ほんま失礼なやっちゃなぁw おまえ、最近口が悪いぞw」
「私らはこの大きさがほぼ最大かな?これ以上特別に大きいのんは見た事無い」
などと話しているうちに目的の場所に着いた。
「お前さん方、この上からここいらの風景を見て頂きたい」
木造丸太組の大きな櫓が森の中からいきなり出て来た。
細めの木材で左右交互に作られた階段を昇っていくと、かなりの高さまで行き付いた。
『こんな立派な構造物をおまえらが作ったと言うのか?』
「こんなもん作れるわけ無いわいw
これは、かなり昔にここに逃げ込んで来た人族が拵えたもんじゃ」
『この星には人間も居るのかっ?』
「いやっ、どこぞの神族共が連れて来た小姓たちじゃろう…
神族がこの星を離れる時に置いていかれただけで、繁殖できる番があまり居なかったらしい」
『それじゃぁもう全滅したって事か~』
「いやっ?まだどこかで少数が生き残って集落を作っとるらしいがな。
まぁワシらの知る範囲の地域では無いじゃろうが・・・」
『そっか・・・』
そうこうしていたら、ラグレア達は最上階にまで上がって来ていた。
そこは森の上に突き出した展望台の様なモノで、ここいら一帯を一望出来る造りになっていた。
「ここを造った奴らは、この場所から辺りを見回して警戒していたんじゃろうな」
『警戒?いったい何から?』
「・・・」
「・・・」
一緒に昇って来た長老の取り巻き連中が訝し気な顔を見せる。
「ワシらはな、あそこに湖が見えるじゃろう?あのほとりに住んどったんじゃ」
長老は遠い目で西の方角を見つめている。
「私らの住んでた所はあの湖の北側でした。
湖の西側の山の麓までがゴゥ家の支配範囲で、東側のあの河の畔までがサァ家の生息地で…」
「ほぉ~ここから見てもかなりの大きさの湖だが、実際に行けばとんでもなく大きいんじゃろうな~」
「んっ?最後なんか歯切れの悪い感じだねぇ?」
「ここの森もそれなりに食料の調達は容易いのですが、あっちは果実も団栗とかの木の実も、平野には季節の草花も多くて、湖では魚も豊富に獲れてたの・・・
昆虫や小さな魔物も一杯いて食べ物には困らない環境だったのに・・・」
「じゃぁなんでここに引っ越してきたの?」
「・・・」
「それはわしが話そう。。。」
『何か奥深い話がありそうやな?』
長老は屋上展望台にある、木の椅子に猫座りしてボチボチと話し出す。
「今から二十数年前かのぉ~ 時空の揺らぎから何体かの魔物がここの世界に侵入してきたんじゃ。
侵入者は全員が仲間って訳じゃなくてのぉ・・・
縄張り争いで、最初は大きな戦闘があちらこちらで始まっての・・・
わしらの居た場所は3体の侵入者が暴れておったんじゃ。
最終的に1体がどこかに逃げて、残った2体がそれぞれ湖の北西と南東に分かれて住みだしたんじゃ・・・
奴らの餌は、奴らが住み着いた場所のわしら住人達って事じゃ。
最初は森の中に隠れておったんじゃが、毎日毎日何十人も狩り取られてのぉ~。
そこでこのままじゃ全滅も時間の問題だという事で、ここの森に逃げて来たんじゃ。
そこの大きな河をあいつらは超えて来ないので、ここらは安全地帯ってことなんじゃ。
わしらの種族やここに居るほかの種族は数年くらいで早々に逃げ出したんじゃが、知能の低い種族や土地に執着しとる種族は未だに湖のほとりに住んでいて、あいつらの餌になっとるって訳なんじゃよ」
『なぜそいつらはその河を超えて来ないんだ?』
「なんか水に弱い種族だって聞いたよ」
『水に弱い魔物?』
「オーガじゃろうか?」
「まぁまだ見ぬ種族はいくらでも居るだろうけどね」
『ん~長老よ、一度そいつらを見に行っても良いかの?出来れば退治してやりたいが・・・』
「あっそれなら私が案内します、お兄さん強そうだし」
「それならわしも行こう。向こうに居る連中の様子も気になるしの」
櫓の屋上での話合いに終わりの時が訪れる。




