次元渡航のルール
「ちょ、ちょっと待ってくれっ!」
「あ、怪しいもんじゃないですからっ」
「・・・」
その女性と男性とみられる2人の存在に全く気付かなかった。
真凛のすぐ後ろに居るのに。
2人組は全身真っ白で、頭部にはフルフェイスのヘルメットの様な物をかぶり、全身はスマートな宇宙服のような物を着て、手には手袋、脚はロングのブーツの様な物を履き、背中には四角いリュックの様な物を背負っている、怪しく無いとはとてもじゃないが思えない、そんないでたちであった。
「この世界の方じゃ無いですよね?そのおかしな恰好・・・」
「あ、あれっ?おかしいですかぁ?カッコいいと思うんですがぁ」
声だけ聴くと女性だろうその人物が答える。
隣にいる男性だろう声の持ち主が間髪入れずに真凛に問いかけて来る。
「あなたはタイムトラベラーなのですか?それともディメンショントラベラー?」
「・・・」
「あなたもこの時代の住人では無いですよね?どうやってこの世界に?」
女性が問いかける。
だが真凛はこの2人に強く警戒心を高めているため、素直に答える気にはならなかった。
「あ~えっとぉ~、私たちは中央時空管理局の者ですぅ」
何も答えない真凛に、自分の身分を明かす女性らしき者。
(時空管理局?なんじゃそれ?・・・ こりゃ逃げた方が良いかな?)
真凛は開きっぱなしになっているゲートに目をやる。
その目の配りを2人は見逃さない。
「いや、少しお話を聞かせて頂きたいだけなので、逃げないで下さいね」
「ちょっと最近ね、不穏な行動を起こしているであろう世界が多いのでぇ~」
男の方が手を拡げ、真凛の行く手を阻む。
女性は真凛とゲートの間に自分の身体を差し込む。
「だいたい、なんで私と普通に会話が出来てるの?
日本人じゃないですよね?ってか、地球人ですら無いですよね?」
「それは完結に言うと、翻訳機がこのヘルメットには内蔵設備されているって事です」
「あなたは地球って星の人なんですね?どうやってここの世界に来たのかなぁ?」
「地球・・・ん~、第4アームの端の辺境の惑星ですね。
そんな辺境の地から、どうやってここに?」
「地球・・・、レベルもスキルも無い原始的な機械文明の初期星じゃない」
「そんな原始人がどうやってここの世界に?」
「まだこのレベルの星に時空を超える術も星間航行技術も無いはずですが?」
2人は矢継ぎ早に失礼な言葉を投げ掛けて来る。
何かの情報を検索しながら見て話しているようだ。
「原始人って・・・あなた達はいったい何様なの?・・・」
「あなたが知識としてでも理解的にでも知ってるかどうかはわからないですが、自分達は、3000億個を超える恒星の集まりの、天の川銀河と言う所の中央輪状帯地域担当の時空管理局と言う組織の者です」
「正規の手続きを通さないで時空を移動すると、管理システムに警告が出るのですよ」
「あなたがどこかから時空の歪の扉を開き、ここの座標に飛んで来たのが分かったので我々がワープしてきたのですが、一体どこからどのようにしてここに来れたのですか?」
「そこに揺らめいているゲートを通ってここに?」
「空間座標を計算し、割り出したのはあなた?原始人がどうやって?」
相変わらず二人で交互に切れ間無く、言葉の機関銃を撃ちまくる。
「そんなん知らないわよ・・・次元の狭間に飛ばされただけやし・・・」
「次元の狭間に?偶然に?意図して?そこからどうやってここに?」
「そんなレベルの文明で、なぜ次元触が可能なのか?」
「次元に触れる事なんて、私たちの科学力でも制御出来ないのに、次元の狭間に飛ぶなんて?おかしいでしょ~?嘘をつかないのよ?」
「あぁ~~もう煩いなぁ~ 私はなんもわからんし知らんわっ!」
真凛はいよいよイライラの頂点に達した。
(ラグレアさんが居たら、こいつらのレベルが見れるのに・・・)
「急に不機嫌になったね?何かやましい事でもあるのか?」
「地球なんて、聞いた事も無い辺境の惑星の住人がここに居る事が変なのですよ?」
「地球からこの星まで、どれだけの距離があると思ってるんだ?」
(もうやっちゃおうかなぁ~ でも強かったらいやだし・・・)
真凛の拳に力が入る。
「ちょ、ちょっとちょっとっ!」
「おいおいっ!戦闘をするなら応援を呼ぶぞっ!」
管理局の2人は真凛の殺気を捉え、急いで後ろに飛び退いた。
真凛はその隙を尽いてゲートに飛び込んだ。
ゲートの向こうは、ウロコの家が建つ自分の異空間住居だった。
真凛はホッとしてその場に座り込んだ。
(はぁ~・・・ ・・・)
『おうっ!真凛っ!戻ったか』
先に戻っていたラグレアが真凛に言葉を掛けた。
真凛は顔を上げその姿を捉えると、目に涙を浮かべラグレアに突進し抱きついた。
『おっ?おいおい、どうした?』
真凛は先ほどまでの事を泣きながら詳しく話し、地球人が原始人だと言われた事に憤慨している。
『もう一度そこに行ってみたいが、無理そうなんだよなぁ・・・』
今度はラグレアが先ほどまでの事を報告する。
『んでな、俺はここからゲートをくぐっても、次元の狭間にしか行けなかったんや』
真凛は目の前の固定ゲートに入った。
そしてすぐに戻って来た。
「うん、私も次元の狭間に出たよ」
『また狭間から浮遊して探すかな』
「私も次元渡航ってスキルを覚えてるから、探せば見つかるかもね~」
「あっ?ラグレアさん、ここでゲートを開きましたか?」
『いや、そこにゲートが出とるから・・・』
「ゲートッ!」
真凛がゲートを開くと、それはいつもの青いゲートでは無く次元の狭間で見た薄紫に黄緑が混ざるゲートが開いた。
「こ、この色のゲートに入ったらさっきの世界があったの~」
『・・・』
『ゲートッ!』
『おぉ~こっちも違う色のゲートが出て来たぞっ』
「まずはあいつらのレベルを見てくれませんか?」
『ネコも連れて行こう』
真凛は狩場までネコを呼びに行った。
「なんじゃ?おまえらは次元を渡り歩いて何をしたいんじゃw」
『いやいや、元の世界に帰りたいだけやぞw』
「んじゃ~行きますよ~」
今度はラグレアもネコも居る事で、真凛の気持ちは軽かった。
『よしっネコも尽いて来てくれ』
「あぁどうせする事も無いしなw」
3人はゲートをくぐった。
メェェェェ~ ヒヒ~~~ン
遠くで山羊や馬が嘶いていた・・・




