サイコパス増員
「はい、どちら様ですか?」
「こんにちわー」
「まだ非難しないのですか?もう皆さんモールの方に避難してますよ」
「先導しますので一緒に行きませんか?」
ドアが開く音がして、中から50過ぎくらいの初老の女性が出てきた。
『おばあちゃんが足が悪くて・・・』
『エレベーターが止まってるから車いすが外に出せなくて困ってたんです』
「スレイブ!」
間髪入れに華那子は二人を傀儡にしてしまう。
玄関のドアを閉め、家の中にズカズカと入り込み子供にまた二人を殺させた。
「なぁ?なんでこの人らは殺さなあかんかったん?」
「ん?意味なんてないよ?虐殺か惨殺の称号取るためやで?」
「不快か?でもこれがうちらのやり方やで」
「もうすでに、メグミの一味を全員二人で殺しとるしな」
「自分らが生き残るために、やれることは何でもやらんとなー」
絵里が会話に深く入ってくる。
出来れば、絵里は多田を仲間にしたかった。
この雰囲気で多田が華那子に食って掛かると、間違いなく殺されるだろう。
殺されなくても、傀儡にされ捨て駒にされるのは目に見えている。
それが分かっているからこそ多田をこちら側に来るように誘導しないといけない。
だが理系女子の絵里には上手に誘導する甘い言葉が思いつかない。
やっぱり話術のスキルは貰っておくべきだったと、今更ながら後悔する。
「そうなんやー」
「あいつら消えて静かになったと思とったら、あんたらの仕業やったんか」
「その称号取ったらえぇ事あるんかぁ?」
「あぁ、SSR級かUR級の武器やスキルや魔法が手に入る」
「ほえぇ~ よぉーそんなん見つけたな~」
「・・・」
絵里は戸惑った。
多田が能天気なのかサイコパスなのか良くわからないが、受け入れているようだ・・・
「んじゃ~テストの時間です~」
「多田さんにはこの子供を殺して頂きま~す」
「制限時間は5分」
「ん?私が殺すん?それがテスト?」
「相手、子供やで~?」
「子供も大人も関係ないよ」
「それがうちらの生きる道やからな」
「ほ~い、わかったー」
多田はその子を殺そうとつるはしを構えるが、なかなか降り切れない。
「なぁ・・・」
「な~に?おじけづいたの?」
「ナイフか刀無いかな~?」
「ん?・・・」
「これやと一撃で殺せんから首飛ばしたい」
(こいつは・・・サイコパスの方だったか)
絵里はそう悟った。
「脳天に打ち込んだら可哀相な気がするし~」
「あははははははははは!」
「おまえも絵里とおんなじサイコパスやったかー」
「失礼なこと言うな!一番のサイパは華那子やろうが~」
「絵里~ あの武器出したって」
「あれはこいつ以外に似合わん。あははははは」
絵里は空間倉庫から[死神の大鎌]を取り出し、多田に手渡した。
華那子はツボに入ったようで、ずっと大笑いしている。
「はぁはぁー苦しい あはは」
「多田、いや、今から衣摩と呼ぶな」
「その玉を観察して鑑定覚えろ」
「追加テストや あはははは」
「なんやよぅわからんけど、これ持ったら鑑定覚えんの?」
「ちゃうよ、それを観察すんねん」
「どうやって使うか何なんかしつこく観察してみ」
「それと、うちもあんたの事は衣摩って呼ぶわな」
「ウフフ、やっと名前呼び仲間かぁ」
何がそんなに嬉しいのか分からないが、凄く幸せそうな顔をしている。
ウーンウーン
しばらく唸りながら宝珠を見ていた衣摩が声を上げる。
「おぉ~~~ やったぜぇ~」
「鑑定覚えたか?覚えたらその玉を鑑定して使ってみ」
「そういや、この子供は何覚えたんやろ?」
絵里が鑑定で子供のステータスを見てみる。
「およっ?専有空間なんてスキル覚えとんで~?」
「おぉ!大当たりやな♪」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
衣摩が大鎌を持ち、突然大声で叫び声をあげた。
1.8mほどの捩じれた長柄の先に大きな鎌部分があり、柄の先端にはスペードのような形の突刃が付き、鎌の反対側はクローバーのような叩刃がついている。
ファンタジーサイスの中でもシンプルな方では無い。
「なんやの~このカマは~」
片手で天井に向けて持ち上げため息を吐く。
「はぁぁぁぁぁ♪かっちょえぇ~」
恍惚の表情で大鎌を見上げてため息を吐く。
何度も何度もため息を吐く。
「そんなにそれが気に入ったんか?」
「華那子も夢月を手に入れたとき、こんなんやったぞ?」
「嘘コケー」
「いやいや、ため息ついて、かっちょえ~ってゆぅとったやん」
ヒューーン
衣摩が二人の会話を余所に、片手で大鎌を横薙ぎに振り抜いた。
余りの切れ味に立ったままの身体に首が乗って落ちてこない。
しばらくすると子供の首からリング状に血が滲んでくる。
切った後にまた大鎌を持ち上げ、見上げてため息を吐く。
スキル効果の浮遊も使っているようで、床に足が着いていない。
衣摩が一人で楽しんでいる間に華那子は宝珠を抜き取った。
オレンジ色の珠だが、異次元であろう空間に人が入る事の出来るスキルだった。
「テリトリー」
発動呪文を唱えると目の前にユラユラと陽炎のような人の大きさ程の薄紫色のゲートが現れた。
「おい、衣摩、放っていくぞ」
「あ~待って~」
「おい、その鎌しまえ」
手に持ったままの鎌を仕舞えと言われて悲しそうな顔をしたが、衣摩は仕方なく収納した。
テリトリーの中は何も無い薄暗い空間だった。
カスタマイズが出来ると鑑定されていたが、やり方がわからない。
ただ、この中にはゲートをくぐる物ならば持ち込めることも分かっている。
そのゲートも、所有者の熟練度も必要だが、かなり大きくも出来る。
現状でも乗用車くらいなら入れれるみたいだ。
「この中って、絵里のおもちゃ入れといたらえぇんちゃうん?」
「おぅそやな。モールに戻ったらこっちに連れ込むわ」
「ちゃんと留守番出来てるんかなー?」
「ここってモンスターでも入れるんよね?」
「ゴブリンとか罠にかけてこん中に一杯掘り込んだら面白そう」
「・・・」
「確かにな~」
「なんかおもろい事が出来そうな気がするんやけど、今すぐは思いつかんな」
「行き止まりの通路の奥にゲートを置いて、そこに追い込んだらいけそうやな」
「この外に出るゲートは位置変えれるんやろ?」
「うん、こんな所とか」
華那子はハイジャンプで4mくらいの上部にゲートを張り付けた。
「衣摩は跳躍持ってへんからこっから出れんな」
「いけずやのぉ~(笑)」
「おっそうや、絵里~土魔法の宝珠あったやろ?」
「あれ出して」
「ほいよ」
空間倉庫から絵里が宝珠を取り出し、華那子に手渡す。
「ん~」
「よっし、こんな感じかな」
「ロード!」
華那子が床に手を付いて土魔法を唱えると、空間の中の床部分が450㎜角くらいの市松模様の石畳に変わっていった。
「もっとツルツルにも出来るけど、これくらいがえぇやろ」
「ほぉーここってこんなに広かったんやな」
床が端まで敷き詰められると、空間の広さがやっと認識できる。
ちょっとした公園位の広さは十分にある。
テニスコートなら4面くらい取れそうだ。
「フォート!!」
そこには十メートル四方で石作りの小さな砦が出来上がった。
入り口から中に入り、壁際に下梁様の段を作り椅子の代わりにして座る。
「もっともっと熟練度高かったら、色々と精巧な建物が作れるんやけどな」
「まぁそっちは急がんでも、ここにベッドと布団入れたらえぇやん」
衣摩は外で小部屋の屋上に飛び上がる練習をしていた。
跳躍スキルもすぐに覚えて、今度は大鎌に名前を付けるべく、頭から煙を出しながら考えている。
「なぁ絵里ちゃん、アーマってつけようかと思ってんねんけど、どう?」
「アーマって、七瀬の名前書いて死んだ死神か?」
「うんうん、あの死神好きやってん」
「ま~えぇけど、アーマって真っ白やん?その大鎌は真っ黒やん?それはえぇの?」
「いけずぅ~」
「華那ちゃーん、絵里ちゃんがいじめる~」
「ははっ、聞いとったけど、絵里は悪ぅ~無いぞ」
「う、うちが悪いって言うん?」
「そやで?衣摩が悪い。 頭が・・・」
「ひど~ひど~」
「寝とう間に首の上に大鎌置いとったるぅ~」
「あははははは! 起き上がったら首が飛ぶわ!!」
「華那ちゃん、名前ってなんがえぇかなー」
「なんでもえぇゃん、呼びやすい名前でな」
「短い方が呼び出しやすいからな」
部屋の壁際の70㎝ほどの、座れるように作った段差の上に寝転がり華那子は衣摩の問いに答えた。
「・・・」
「華那ちゃん、私な、亮くんって子供がおったんよ」
「??? いや、知っとうで?」
「急にどないしたん?」
「可愛くて可愛くて、私の生きがいやったんよ」
「・・・」
「この子が死んだら私も絶対に後を追うって思ってた」
「この子が誰かに何かされたら、そいつを殺すだろうって思ってた」
「この子が居ない世界なら、そんな世界は消し飛べば良いって思った」
「この子がどんな大人になるか、楽しみで楽しみで仕方なかったの・・・」
ウ、ウググゥ
衣摩の目から大粒の涙が溢れ出した。
華那子と絵里はただ黙ってそれを聞いていた。いや聞くしかなかった。
「こんな世界になって、こんな身体になって、何かが変わっちゃった」
「色んなスキルが手に入ったけど、"母親"のスキルがどっかいっちゃった エヘッ」
「こんな風に子供の話をしてない時は、もう子供の事なんか考えてないの」
「今でも心配なんか全然出来ない」
「思い出さない、思い出せない・・・」
「だからね、この大鎌に"亮"ってつけようと思う」
絵里がぎゅっと衣摩を抱きしめた。
「うんうん、えぇんちゃうか。いつでも思い出したり」
「うん、フグッ ウウウウウ ウワ~ン」
華那子は軽く貰い泣きしながら顔を下に向け、項垂れて思った。
(フフッ うちにもまだ人の感情がちょっとは残ってたんやなぁ)
少し涙ぐんだ華那子をチラッと見て絵里がニヤケた。
そのニヤケた顔を華那子は見てしまった。
(チッ!)




