次元の狭間 漂流
「いやぁぁぁぁいやあぁぁぁぁ」
「ミギャァァァ~フギャァァァ~」
「おいネコー痛い痛いっ! 女ーその手を離すなよー」
空間の歪に触れてしまった為に次元の狭間に吸い込まれた、皇龍鬼のラグレアと言う名の進化ゴブリンが、巻き添えを食らわせた魔猫と女性を強く抱きしめる。
「本当にすまない事をした・・・」
右手でガリレオキャットを抱き、そのガリレオキャットはラグレアの右胸にしがみついている。
左手で女性の腰を抱きしめ、その女性は右手をラグレアの首に巻き付け、左手で、ネコを押さえてるラグレアの右手を握りしめている。
狭間の空間は、上下前後左右が無く、一様に空間が広がる世界だった。
身体は流されているのか留まっているのかさえわからない。
重力はあるようで無い様で体感的にもよくわからない。
「こ、ここはどこなんでしょう?」
暫く経って、気持ちが落ち着いた女性が、今の自分の状況を把握するためにラグレアに問いかけた。
「すまない、女」
「私はなぜここに居るんでしょうか?」
「本当にすまない…俺がお前と、このネコを巻き込んでしまったようだ…」
しばし無言の時が過ぎる。
「俺はラグレア・ソウ・バクシャスと言う、普段はラグレアと名乗っている」
「・・・」
また無言の時が過ぎる。
「わ、私は華咲真凛と言います・・・」
「真凛か、良い名前だな」
「えへへ♪」
名前を褒められて、少し心も和らいだ。
「猫は・・・ しゃべれないか・・・」
そしてまた無言の時が過ぎる。
「猫よ、念話は使えないのか?俺は念話のスキル持ちだぞ?」
何も返って来ない。
「・・・」
どれくらいの時間が過ぎただろうか。
「真凛よ、お腹は空かないか?」
「お昼にバーベキュー食べたばかりだし・・・」
「そうだな・・・」
また沈黙が続く。
「真凛よ、トイレは大丈夫か?手を離すとどうなるか分からないからな」
「・・・ ・・・ い、今は大丈夫・・・」
また長い沈黙が続く。
「今、いったい何時ごろなんだろうか?」
「今・・・ 14時半ですね・・・」
真凛はパンツの後ろポケットからスマホを取り出し時間を見た。
そして、片手で操作し、電話をどこかに掛けている。
繋がらない。
SNSで連絡を取ろうとしているようだが、ネットに繋がらない。
「昼飯を食べだしたのがたしか12時前くらいだったから、ここに飛ばされて2時間近くは経ってると言う事か・・・」
真凛は、またゴソゴソと後ろのポケットにスマホを仕舞い込んだ。
ラグレアはその間、真凛が離れない様にしっかりと腰を抱いていた。
「はぁ~・・・ ・・・ ・・・ 」
「ふぅ~・・・ ・・・ ・・・ 」
「さて、どうしたもんかなぁ・・・」
「これからどうなっちゃうんでしょうね・・・」
また時間だけが過ぎていき、真凛はラグレアの肩に頭を置き、目を閉じている。
ラグレアも目を閉じ、これからの事を模索しているようだ。
猫は・・・
微動だにしない。
寝ているようで起きているようで、ハッキリとはわからない。
真凛は思い立ったように顔を上げ、そしてスマホを取り出し時間を見た。
「今、18時を少し回った所です・・・」
「あれから4時間近く経ったのか・・・」
目を閉じたまま、真凛の言葉に一言返す。
真凛は、首に回していた腕を抜き、ラグレアの左脇の下を通し反対側の肩を持つ。
そして、鎖骨の辺りに顔を乗せまた目を閉じた。
ラグレアは腰に回していた手をほどき、真凛のベルトの間に指を入れ軽く握っている。
もしも睡魔に襲われ、意識が無くなった場合にでも手を離す事は無いだろう。
さらに時間は経ち、真凛がスマホで再度確認した時にはすでに22時を回っていた。
「このまま、餓死していくのかなぁ~」
「お腹が空いたのか?」
「いえ、まったくそんな感じはしないですけど・・・」
「そうだなぁ・・・ 俺も普段なら大食感と言われるくらい食べるのだが・・・」
「あれっ?」
「どうした?何かわかったのか?スマホが通じたのか?」
「ん~? そろそろ電源が切れる頃なのに、まったく電池が減ってないんです・・・」
「何かがおかしいな・・・」
「時が止まってる?」
「いや、それならスマホの時間が進んでるのが説明つかないぞ?」
「・・・」
「・・・」
「でも確かに腹は減らないし、用を足したいと言う状態にもならないな」
「バーベキューを食べる前におトイレに行ったきりだから、もう10時間は…」
「・・・」
「トオルから個別空間のスキル宝珠を貰っといたら良かったなぁ」
「五十惟さんが貰ってましたね」
「あんな小部屋でも、あればトイレも風呂も使えるし寝転べるんだがなぁ」
「中は見せてもらって無いけど、どんなんですの?」
「あぁ」
ラグレアはやっと話が弾むことが少し嬉しかった。
その為に、トオルの部屋やリーの部屋の詳細を事細かに話しだした。
真凛ももう緊張も解けて、無言の退屈な時間が過ぎるだけだったので、話が出来るのが楽しかった。
そして、自分ならこんな風にしたいとか言い出すと、真凛もこんなの出来たら良いのにあんなの出来たら面白いのにとか、妄想や構想を語り出す。
(ヒュン)
2人が楽し気に妄想を語っていると、何かのスキルを覚えたようだ。
「あっスキルが増えました・・・」
「あぁ・・・ 俺もたった今新しいスキルを覚えたよ・・・」
2人のステータス画面には、まったく同じ名前のスキルが増えていた。




