六アイ戦争 終結
「オーク軍、一時退却~」
戦場は、聖霊治癒魔法で力を取り戻したオークの軍勢と、まだまだ元気なボアオークの新しい軍勢とで激しい戦いが始まっていた。
悪魔軍も魔獣軍も一時後退しているが、その埋め合わせに、より多くの戦士が戦場に並び立つ。
戦況は今のところは互角と言う感じだろう。
だが、数の優位性を一蹴されたオーク軍の総指揮官、オーククイーンのウルリカ・テラジアーナは戦況の不利を察し、一旦退却を指示した。
「晴彦、退却路を頼む」
「ん~この辺が良いかな?」
スロープの下辺りに、晴彦は自身の森林魔法で拵えた樹木の牢獄に3m四方くらいの通路を作る。
そして、その前に高さ2メートル程の低木の壁を作り、ボアオークの追撃を邪魔するように南北に広く扇型に展開する。
「ウルリカ、グルコ、おまえらは北側の奴らの殿を担ってくれっ!
陽菜たちはその辺で踏ん張っといてくれ」
そう言って晴彦は単独で南側の殿を勤めに行った。
防御壁の南北からオーク軍は順次、その新しくできた通路に退避していく。
「まぁ応援が来てくれたから、一旦引いて体制を立て直そうか」
「あははっもうアカンと思ってたけど、何とかなったなぁ~」
トオルとマグナは一旦、砦の辺りまで戻った。
そこでは給食部隊の大政徳子、天衣佳樹と興止波子が、怪我人の治療、介抱に齷齪と励んでいた。
「キョメ、ありがとなっ」
「あっトオル君、治癒の魔法を覚えてる子がほぼ居ないから・・・」
「それでも助かるよ」
給食部隊にも大きな被害があったようで、興止波子の眼は泣き腫らして真っ赤だ。
「リーさん、キング、戻りました・・・ こ、これは?」
そこへその場所に、上級治癒魔法を持つ藤子とイチが戻り着いた。
「キ、キング、これは・・・」
その惨状に驚きを隠せないが、すぐさま藤子は治療に取り掛かる。
部位欠損の負傷者も居る、目を閉じて横たわり動かない負傷者も居る。
その他にも、大怪我を負ってる負傷者が多数。
「ヒール!ヒール!ハイヒール!オーバーヒールッ!」
合間合間に、トオルと一緒に治癒魔法の覚え方を給食部隊に指導する。
「藤子にイチ、よくぞボアオークを連れて来てくれた・・・」
「あぁもう本当にヤバかったからな・・・」
「いえ、もっと早く戻れていればこんなに被害も無かったんじゃないかと…」
「いやいや、本当におまえらの行動は称賛に価する」
「しかし、よくボアオークを連れて来ることなんて思いついたなっ」
「大手柄だよ。昨日は接触しなかったと聞いてたが、いつから行動し始めたんだ?」
「えっ?藤浜さんに言われて急いで行ってきたんですがっ?」
「武人さんが、ポイさんのボアオーク招致の任務の話を聞いてから、ですが?」
「武人が?そうなのか・・・」
「武人さんから聞いてませんでした?」
「あぁ武人は左側の戦場でずっと頑張っていたから、話す暇は無かったな」
「・・・」
「・・・」
あの後、そんなに激しい戦闘になっていたとは2人は思いもよらなかった。
そこに、一時後退してきた天使軍の一団が集まって来た。
加奈子は砦と避難小屋付近のその惨状を見て驚きの顔を見せる。
「か、加奈子さん・・・ こ、これは・・・酷い・・・」
「うっ・・・ここまで被害があったとはわからんかった・・・」
「グランドヒール!グランドヒールッ!」
加奈子はすかさず、広域全体治癒魔法を唱え、すぐさま次の行動に移る。
「身体のどこかを失った方は~?」
数人の獣人と数人の人間が手を上げる。
片手が無くなった人間も頑張って逆手を上げている。
「みんなよく頑張ったねっ! 神の祝福っ!」
身体の一部が無くなっている負傷者達の欠損部分が見る見るうちに修復されていく。
「き、奇跡だぁ~~~」
「あっあっあっ・・・ う、腕が・・・腕が・・・ 戻って来たぁ~~~」
大粒の涙を流しながら、片腕欠損の人間の女性が感嘆の気持ちを表す。
トオル達はその偉業を見て驚くばかりであった。
(こいつ、とんでもない治癒魔法を使えたんだな・・・)
欠損部分が戻った女性は、スクっと立ち上がり武器を持ち、戦場へと戻ろうとしている。
それを見て数人の獣人も戦場に戻る意欲を見せたが、リーが止める。
「おまえら、逸る気持ちも、戦たい気持ちもわかるが…、一旦休めっ」
そう言われても、自分の身体の一部を奪った敵が憎らしくて仕方が無い。
だが逆に幾人かは、殺し合いの戦闘に恐怖を感じている。
中央やや右寄りの戦場の中に、5メートル四方くらいの、長方形に成型された石で作られた真四角な石小屋がいつの間にか出来ていた。
それは、入り口が無く窓も無い完全密閉の建物だった。
その中には、作成者の紗衣と眷属のナーコ、それに美凪と、闇落ちの苦悩と葛藤しているウェイズ、真空の石棺に保管された、冷たくなった娘のあやかの亡骸が封鎖領域に入っている。
「ウーちゃん、戻っておいで~」
「クロちゃん、返事して~」
「う、うっ・・・お願い黒ちゃん、あやかの為にそんな化け物にならないでぇ~」
3人はこれ以上ウェイズが暴れられない様に、紗衣の石魔法で封印して闇落ちから救う事を考えた。
(もう少し時間があれば殲滅出来たけど、まぁ上々な出来やなっw)
晴彦は、退却する事は少し勿体ない気がするが、オーク軍を使役して戦争に持ち込めたことが今回の成果だと感じている。
「晴君、何をニヤニヤしてんねんな?w」
「おっ?あははっ、別にニヤケとらんよ?w」
ほとんどのオークが10番街の中に避難した事で、陽動も兼ねて防御壁の正面で敵を引き付けていた陽菜は、中央での戦闘を辞めて右翼に回って来ていた。
「まぁ色々と実験も成功したと言って良いんじゃないかな?」
「だね~ 出来れば殲滅したかったけど、敵が居なくなるのも問題だしね」
「まぁ竜さんに良い報告が出来るかなw」
「沙那華さん、褒めてくれるかなぁ~」
「頭ナデナデしてくれるんちゃうか?w」
「ふふふ、陽菜、楽しみが出来たね」
「それはそうとして、あの子を連れて行くって本当か?」
「キンパちゃんだね?冷気系の魔法使いだし、雪乃さんの眷属候補だねっ」
「あぁ雪乃さんに眷属探しを頼まれてたし、なかなか優秀な逸材だしな」
晴彦と陽菜は何かを画策していたようで、その結果が思うようにいった事で満足しているようだ。




