六アイ戦争 いざ戦場へ
「おいっ来たぞっ!みんな戦闘準備だっ!」
5番街を拠点にしている人間の軍団が、自分たちのテリトリーに無断侵入してきた獣人たちを遠目に観察して様子を見ていた。
市之丞と藤子はボアの拠点を南に抜け、5番街マンションの北側を走り抜け東の西ゲート通りを南下する。
その後ろに、征東部隊と征南部隊、合わせて200人程の軍勢が地響きを鳴らし走り抜ける。
「・・・」
「・・・」
5番街を拠点にしている人間は、Lv20超えたくらいが20人ほど、ミドルレベルが20人程、ローレベルが10人程の約50人位の小さなクランだ。
「どうするんや?あの数に対抗するつもりか?」
「しゃっしゃ、しゃ~ないなぁ、ボアオークとは不可侵条約結んどるからな…」
「そ、そうやそうや」
「獣人とは盟約結んで無いから、とか言ってなかったか?w」
結局、人間軍は戦闘を諦めたようだ。
「騎獣って、思ったより乗り心地良いし楽だね~」
「まぁ飛んだ方が楽やけどな」
「だよねぇ~、ここから7番街まで飛んだら1~2分くらいやのにね~」
「はははっまるで飛んだことがあるような言い方やな」
「???うちもイチも藤子も飛べるでッ?
佐助さんこそ飛行系のスキル無いやん?」
「はぁ?俺は風纏って戦闘飛行スキルがあるぞ?」
「はぁ~~~???それならここに来るとき飛んで来れば良かったやん・・・」
「いやっおまえらが飛べるとか思って無かったからな~」
「鑑定で見たらすぐにわかったのに…
藤子なんてユニークスキルが飛行系やで~
・・・ ・・・
はぁ~ あんなに一生懸命走ったのに・・・」
「えぇ運動になったやんけ(笑)」
「ほんま、ちょっと痩せたわ(笑)」
先頭で2人の獣人は緊張感も無く他愛無い会話を続けているが、この時、グラウンドでは勝つか負けるか分からない位の激しい戦闘が行われている事をまだ知らない。
たかがオークの軍勢、圧倒的に数が多いだけで、あのメンバーなら何も問題は無いだろうと高を括っている。
6番街に突き当たり、そこを左折して東に向かう。
ほどなく走ると南北に走る向洋3号線に出るので、その道を右折して南に下る。
「お~いっやっと追いついた~」
横を見ると、分離して出発した藤子とイチとボアオーク軍の本体と並走を始めた。
中央分離帯を挟んで、左に本体、右に東南軍が急ぎ走る。
「これだけの援軍が居たらオークごとき瞬殺だね~」
「私らは取り急ぎ、拉致された仲間を取り返す事が主要だからね」
「戦闘部隊と捜索部隊とを分けないとあかんな」
「それはもう考えてある、俺の征南軍と千愛の征東軍はまず斬り込んで、オーク達をある程度減らしてから捜索に回るつもりだ」
「拉致された子って、何が目的で攫われたんだろう?」
「おまえらも良く知っているだろうに、繁殖の為だろ?」
「そうだよ…
うちらもオークに攫われそうになった所を今の主人たちに助けられたんだ」
「まぁそれが無かったら普通に人間やオークと戦って今頃この世に居なかったかもなw」
中央大通りに突き当たり、東(イースト地域)に向かって500からの部隊が地響きを立て疾走している。
周りの建物からは、何事かと顔を出す者も居る。
「あっ前方から何かが来ます・・・」
「人でも魔獣でも無い気配っ!要注意だぞ~」
「みんな~気合入れろ~」
「かなり強いぞっ!全員戦闘態勢を取れぇ~!」
「いや・・・戦闘態勢は解いてくれ、俺の眷属だっ」
「主人よ、少し力を使い過ぎたようだ・・・
しばし影に潜ませて貰う」
戦場から佐助の眷属、夜闇の世界の王、ジャド・ザハールが黒い一反木綿の様な姿で帰ってきた。
「ジャドよ、おまえがそこまで疲労する位に激しい戦闘でもあったのか?」
ジャドは、精霊王達との戦いがあった事を話し始めた。
先頭を走る獣人やボアオークの将軍たちもその話に聞き入っている。
その後の幹部オーク、ハイオーク達の参戦で一気に劣勢に陥っている事も話す。
「キングはじめ、マグナさんやうちの主人たちが居て、それでも苦戦するとは…」
「主人よ、そして急いでほしい・・・
ウェイズが、仲の良い人間を殺されたのをきっかけに、闇落ちし掛けて居る・・・
あのままだと闇に呑み込まれ、黄泉の世界から帰ってくることは能わぬ・・・」
「・・・」
ジャドはスッと佐助の影に溶け込んだ。
佐助は黙って前を向く。
女性会館の前を通り過ぎた頃、藤子は物思う。
(ここから始まったんだな~・・・)
「ふっ感慨深いのは分るが、そろそろ着くぞっ」
藤子の表情を読み取り、イチは藤子に声を掛けた。
横で聞いていたハヤテとつー子がイチに問いかける。
「お二人は夫婦?恋人?なのかな?」
「獣人と人間のカップルはなかなか珍しいよね~」
「えっ?いやぁ~そのぉ~なんて言うのかぁ~」
顔を真っ赤にして答える藤子。
「この世で一番信頼できる大切な女性ですっ!」
イチはしっかりと自分の気持ちを吐露した。
それを聞いた藤子は、照れて話を濁した事がすこし恥ずかしくてもう一度声を出す。
「はいっ私もこの世で一番大切な殿方です」
ほのぼのとしたムードで騎獣にまたがり進む獣人たちと藤子。
だがもう目の前に戦場が迫っている。
そこでは、自分たちの仲間が大勢倒れている事も知らずに・・・




