六アイ戦争 交渉人2
「俺は四征将軍が一人、ここ南方を管轄する征南将軍、ユグレビと言うっ!」
「私は東方を守護する征東将軍、千愛と言う、話を聞かせてくれるか?」
濃い緑色の体毛を持つダークグリーンボアオークのユグレビと、薄茶に灰色が乗る色をしたグレーボアオークの千愛が、自らを将軍だと名乗り、ポイ達に話を聞きたいという事だ。
2人とも人化率が高く、見た目はボアオークと人間の合いの子のようにさえ見える。
オーク系の特徴の豚鼻や大口は、人間のそれと変わりなくなっている。
ただ、全身を覆う体毛だけはボアオークそのものでもある。
「私はイースト7番街の主マグナ軍、7番隊の市之丞と申します」
「同じくマグナ軍の5番隊、ポイと申します。後ろの猿人が佐助、人族が藤子と言います」
佐助は、次は自分が自己紹介をしようと色々考えていたのに、ポイに簡易紹介されてしまった。
藤子も同じく、自己紹介文を考えていたのに、肩透かしを食らった。
「今回は唐突に訪問してすみませんでした。
先ほどもそちらの部隊長様に申し上げましたが
我々は今この時間、オーク軍と交戦しています。
元々オーク軍とは開戦するつもりでしたので、
こちらのボアオーク軍と共闘出来ないか交渉に訪れるはずでした。
実は昨日もこちらの様子を伺いに参ったのですが、丁度軍事訓練を為されている時間帯でしたので改めてご挨拶に伺うつもりでは居たのですが、本日お昼過ぎに思いがけず戦闘が始まってしまった次第です」
市之丞が一気に捲くし立てた。
「そこで急遽私たちがこちらの軍と共闘して頂けないか交渉に来た訳です」
「・・・」
「オーク軍の数は、約1000、我々の軍は、混成軍ですが200程しか居ません」
「少し待てるか?俺ら二人で動かせるのは精々200しかない」
「ちょっとおまえ、総統たちは今どこに居る?」
征東将軍の千愛が警備隊の斥候に問いかける。
「はいっ、本日、初瀬様、千枝様、阿斗様が起こしになっておられるので、訓練場の奥の食堂で会食をされております」
「はぁ~ええなぁ~、ほんま、うちの御主人はいつになったら帰ってくるのやら…」
「ははは、そのうち帰って来るさ、俺の主人と一緒にな」
「大至急、総統たちにこの事を告げて来てくれ、俺たちは先に出る。
征南隊、征東隊、全員集まれ~」
「あっそれじゃぁ共闘してもらえるって事で良いですか?」
「まぁあんたらが俺らを頼ったって事は、こっちもオーク軍とやるつもりだったって事を知ってたんだろ? だからな今がその時だと思った次第だ」
「あんたも日本人の眷属になってるのを見て、親近感が湧いたしねw」
お互いに鑑定スキルで相手の事を見ていたが、眷属主が人間であることに共通感を持ったようだ。
千愛は土地名踊子と言う主人を持ち、ユグレビは速水六月と言う女性だろう主人を持つ。
ゾロゾロと征南部隊と征東部隊が集まり、整列し出した。
「これから~イースト地域のオーク軍と一戦交えに行く」
「拉致されてる子らを奪還するのが一番のミッションやからな~」
ドガラッ ドガラッ ドガドガドガッ
ボアオークの将軍2人が軍勢に檄を飛ばしていると、奥から土煙を上げ乍ら大軍が押し寄せて来る。
綺麗に整列している東軍と南軍の間の隙間道を4人のボア将軍と人間の女性3人が歩み寄って来る。
「ようこそここへ、私はレジースーと申します。
一応北部方面統括の将軍をやっております」
濃い茶系のブラウンボアオークのレジースーが自己紹介をする。
「クッククック、ちゃうかぁ~w
俺は征西将軍スライアと言う若輩者だ!
とは言え、これでも将軍やけどなw」
「こらっ!酔っ払いのお調子者がぁ~っ!」
今日、戦闘に出立するつもりではなかったので、久しく面会をした主人たちと飲んで食ってしていたところだった。
そして、スライアは少し飲み過ぎているようだ。
レジースーとスライアの主人である楽田初瀬と言う人間が、軽い言葉で眷属を戒める。
「こんにちわ。
私はこの2人の主人の楽田初瀬と申します。
ボアの軍団とは関わって無いのですが、生田川の飛翔クランって所に所属しています。
神戸の人間では無いのですが、以後宜しくお願いします」
「ご丁寧にありがとうございます。
飛翔クランって事は、熊人連れた咲宙さんの所ですね?」
「へぇ~咲宙を知ってるんや?」
「前に他のメンバーが行方不明になった時に、捜索先でお会いしました」
「初めまして、マグナ軍の5番隊、ポイと申します。
飛翔クランなら、うちの2番隊の虎人他5名がお邪魔してると思いますが?」
「初めまして宜しくです、ここボアオークの軍団の元帥をしています つー子です。
この度は東南のオーク族と開戦したと聞き、取り急ぎ馳せ参じた次第です」
「こんちゃ、つー子の主の神成千枝と言います。
虎人のゴア君はうちのクランの客人扱いでしばらく滞在してるよ」
「どうも、私も飛翔クランの、久夛良木 阿斗、と言います。
ゴア君たちは、うちのクランのリーダー神成ルナさんの元で調査と修行をしてますよ」
「元気なら良いです、彼らが帰るまではオークとは戦らないはずだったのですが…」
「挨拶が最後になったが、この軍団を任されておる統帥の ハヤテ と申す。
そこな久夛良木阿斗の眷属である。
さて、豹人達よ、我らもオーク討伐に参戦するのだが、我が軍の女性が数十人拉致されておる。
それを奪還するのがうちの最重要項とするが、それでも良いか?」
「それは願ってもない事です。数で圧倒されてるのを覆せるのは大きいです」
「出しゃばるつもりは無かったが、少し聞きたい。
これだけ拠点が離れているのに、拉致され誘拐されたと言う事か?」
「我らとてここの拠点だけで暮らしてる訳では無いからのぉ。
狩りや食材部材の調達や、ハグレボアオークの捜索だなんだと出歩くのでな」
「そして、これだけ人数が増えると、中には裏切り者も出て来るしな。
情報を流したり、手引きをしたりで、いつの間にか誘拐されている事も多々ある」
(ふふっ、ツー子もハヤテもいっちょ前な喋り方しよるw)
「まぁその辺はボチボチと話せば良くない?今、向こうで戦闘中なら早い事行ったらんとあかんのちゃうの?」
「そ、それではいざゆかんっ!」
「ちょっと待ちいなw」
「誰か、クーリル4匹持って来て、そこの獣人たちに当てがってあげて~」
元帥の指示で、騎獣のクーリルボアを借り受けて、背に乗る魔獣軍の4人。
「は、初めて乗るけど、大丈夫かな~」
「ふふふ、ファンタジーだねw」
軽くレクチャーしてもらい、4人は首長イノシシに騎乗してグラウンドを目指す。
「それでは市之丞氏、ポイ氏、先導を頼む」
「道順はこちらの思惑で良いのかな?」
「取り敢えず人数が多いから、2人はそこの西ゲート通りを南下して6番街に突き当たったら東に向かって」
市之丞と藤子は西ゲート通りを南下する事に。
「もう二人は、このまま東に走り、3号道路を南にドンドン下って行きましょう。
そして、中央大通りに出たら東に。
その先に7番街が見えて来るからね」
一行は程無くして七番街南のグラウンドに向けて駆けだした。




