六アイ戦争 交渉人1
4人はズイズイと奥まで入って行く。
「おいコラ、おまえらは何もんじゃ?どこに行くつもりじゃ?」
ボアオークの警備隊の1人が声を荒らげ走り寄り問いかけて来る。
ポイは薄っすら微笑みを交えて警備員に近づき聞いた。
「すみません、ここの責任者にお会いしたいのですが?」
「はぁ?おまえらみたいなどこの誰かもわからん連中を通す訳ないやろっ!」
「それなら力づくで会いに行くだけやぞ」
「はぁ? お~いこっちに来てくれ~」
ボアオークは見回っている警備兵に大声で応援要請をしたようだ。
「ちょ、ちょっと佐助さん、それはだめです!」
「佐助さん、暴力無しでお願いします・・・」
「佐助さんらしいけどw、交渉に来てるのはうちらやから下手に出ないとね」
「ちっ!んじゃ俺は黙っとく方が良いみたいだな…」
「もぅ~乱暴者なんやからぁ~w」
「そ、そんな事ないんやけどなぁ・・・」
「何をゴチャゴチャ言っとんじゃ?さっさと帰れっ!」
応援に来た警備兵が市之丞の肩をドンっと押して帰れと怒鳴る。
「ちょ、ちょっと何をするの~」
「じゃかましいわぃ!」
その警備兵は藤子にまで手を上げようとしたので、さすがにポイは警備兵を窘めようと間に入る。
だがその前に佐助がその警備兵の横尻を蹴り上げた。
市之丞も藤子に危害を加えようとした瞬間、警備兵に高速パンチを見舞った。
ドスンッ
殺意のこもってない攻撃だがその威力はかなり高く、警備兵のボアオークは尻もちを着く。
「はぁ~? はぁ~・・・もうぅ~あんたらは~」
「あははっ!これは交渉決裂の予感しかしませんよw」
「藤子、大丈夫か?どっか殴られてないか?」
「イチさんも佐助さんもありがとねwどこも何も無いよw」
ピリリリーピリリリー
警備兵は紐で括って首から下げていた小笛を、左胸のポケットから取り出し大きく吹いた。
やにわに、あちらこちらからボアオークの警備隊や防衛部隊が集まって来る。
「あ~あぁwこれは交渉失敗の図だね~w」
「どうしましょ~」
大した時間も掛からず、4人は細い通路を背にしてボアオークに半円状に囲まれた。
「こりゃ~ここでも戦闘を始めなけりゃあかんのかぁ~」
「誰のせいですかねぇ~w」
「そうですよ、佐助さんは手が早いんだから」
「おまえもじゃっ!」
後ろに退路があるとは言え、これだけ大勢に囲まれてるのに余裕を見せている4人が腹立たしい。
気の短いボアオークが4人に向かって苛立ち、怒鳴り散らす。
「このクソガキャ~!その人数でカチコミ掛けるとか舐めとんか~」
「カチコミってw 私たちはお願いがあって交渉に来たんですよ?」
「いきなり攻撃してきといて何をぬかしとんじゃっ!」
「あんたを殴ったのは謝るが、先に手を出して来たのはそっちだろ?」
「だからぁ~私たちはここの責任者に会いたいって言ってるだけでしょっ!」
気の長いポイでも、さすがにこの対応は心底イラつく状況だ。
「なぁ・・・聞くだけ聞いてくれんか?それからそっちの話を聞くわ」
戦闘態勢に入っているボアオークの気を抑さえて市之丞が話し出す。
その話術は、市之丞が持つパッシブスキルの[交渉術]が効いている為にボアオークは耳を傾ける。
「聞いてっ! あんな、今うちらの仲間がねっイーストの10番街ってわかる?そこの前でオーク軍と戦ってんねん」
ポイも[話術]と言う隠密系のスキルを持っている。
「な、オークやとぉ~?」
猪顔ボアオークと豚顔オークは生来の敵対関係にある。
女性体が産まれにくいオーク、ハイオークは、DNAが近しいボアオークの女を攫い繁殖用に飼育する。
早い話が繁殖の為だけの性奴隷である。
優勢遺伝子を持つオーク族は、ボアオークで繁殖させても、F1 では必ずオーク族が産まれて来る。
ボアオークは男女半々、やや女個体の方が多く生まれるために目を付けられたのだろう。
「それなら少し事情が違うな」
「誰か、将軍を呼んできてくれないか?」
半円形の包囲網の後ろで戦況を見守っていた隊長クラスが、さらに上の上官を呼びに行かせた。
「ちょっと前を開けてくれ」
その一言で半円状の覆いに一筋の道が開ける。
防衛部隊の隊長と警備隊の隊長の2人が佐助たちに近づいていく。
佐助は身構えているが、他の3人は只々様子を見ているだけだった。
(ん~なんとか話は出来そうな感じになってきたなぁ)
「しばし待たれよ!今、上官を呼びに行っている」
暫く待つと、クーリルボアと言う騎獣イノシシに跨った、緑味が強い体毛のカラードボアオークがドシドシと言う音と共にやって来た。
「おぅ、狐人よっ件の話は本当なのか?」
「はいっ!イーストの10番街に巣くっているオーククイーン筆頭に1000人規模の軍と今私たちの仲間が戦っています」
将校クラスの幹部ボアオークがポイを名指しで聴聞し、ポイが答える。
ドガッドガッドガッ
ドガッドガッドガッ
奥の方から同じくクーリルボアに乗った一団がやって来る。
注¹:F1=交雑種第一世代 Filial 1 hybridの略




