六アイ戦争 交渉
「ふっ、何とか間に合ったようだな・・・」
クーリルボアと言う名の中型の猪魔獣にまたがって登場した猿人の佐助と狐人のポイ。
「佐助にポイよっ、おかえりっ!」
「今戻りました、しかし苦戦しているようですな…」
「武人さん、ただいまです… みんな、もうボロボロですね…」
そう言ってポイは身近にいる人から順に治癒魔法を掛けていく。
佐助は主人であるリーの元へと駆けだした。
「ジャド、もう出れるか?」
激しい戦いで消耗した魔力を補うために、佐助の影の中に戻っていたジャドに話しかける。
「主よ、もうしばし待ってくれ…今出ても足手まといにしかならない」
「そっか・・・ウェイズが心配だな・・・」
騎獣ボアにまたがったボアオークの先陣が、左翼のオーク軍に敵対して激しい戦闘を始めていた。
後から掛けて来る歩兵のボアオークも続々と戦場に溶け込んでいく。
「ポイよ、助かった・・・ でも先に椎勿を見てやってくれないか?」
ポイは少し先で血の泡を吹いてビクビクと痙攣を起こしている浦山の姿を見つける。
「浦山さん、頑張って~ ハイヒールッ!」
ポイは覚えたての上級治癒魔法のハイヒールを使う。
「もう少ししたらボアオークの治癒部隊も到着するから、それまで頑張ってっ!」
ポイの治癒魔法で生死の境に居た浦山椎勿は少し持ち直したようだ。
だが、大量の血を流した為に、浦山の残り生命力はかなり乏しい。
--戦闘開始直後--
「こりゃ~凄い数のオークだなぁ・・・」
「笑えるくらいに多対数の戦闘になりそうですなw」
「はははっ、一人で2~3体づつ倒せば問題無いでしょうw」
「まぁこっちはそんなに数も多くないので、さっさと片付けて向こうの応援に行きましょうか」
当初は右翼、中央には多くのオークが居たが、左翼には精々100体程しか流れてきていなかった。
そのため、左翼に居る面々はこの戦いを軽く考えていた。
だが、右翼であふれた敵は中央に、そして中央で精霊たちが戦闘を始めてから左翼に流れて来る。
倒しても倒しても次から次に増えて来るオーク達に少々辟易していた。
「武人さん、私たちの案件でボアオークに応援を頼むって任務があったんですよ」
ポイが多数のオークに苦戦しだした藤浜に軽く助言の様に自分達の受けていた任務を告げる。
「ここのオークを叩くのに数を集めたくて、一応下見にまでは行ってるんです」
「あぁラグレアさんがマグナさんに進言しておまえらに任せた話だな」
まだまだ余裕で戦えている先陣隊の軽口に、ボアオークの参戦の試みを示唆する話が出てきた。
それは、まだまだこれから増えていくオーク軍の戦力に対抗するための、一つの提案であった。
「ん~イチ君と藤子ちゃん、そしてポイよ、お前らにその仕事を頼めるか?」
「それは問題ないですが、すんなりと話が出来ても、往復で30~40分は最低でも掛かりますよ?それまでに戦闘が終わっちゃう事は無いでしょうか?」
「まぁ終わってたら終わってたで、そいつらと親睦を深めれば良いんじゃないか?」
「うちが勝つのが前提ですけどw」
「まぁこの面々で負ける事なんて考えられないですけどねw」
その時には、まだ千対二百の戦いがどんな結末を迎えるのか理解できる者は誰も居なかった。
「それならば佐助、おまえが尽いて行ってあげてくれないか?」
「まぁ何かあった時の護衛替わりって事で行きましょう」
「一応リーさんに報告だけしてきますね」
「いや、それは俺がやっとくから、早々に出立してくれ」
「はいっ!それでは行ってきます」
「ここは頼みましたっ!」
そうやって藤子達4人はボアオークに応援要請を入れるために素早く駆けて行った。
しかし藤浜武人はその後、リーと会話する事など出来ない位に激しい戦闘に巻き込まれてしまった。
急に樹木の壁にスロープが出来て、さらなるオークやハイオークが勢いよく降りて来る。
その大半は右翼と中央を避けて左翼に流れ込んで来る。
(くっそー次から次に・・・)
元々少なめに配置されていた左翼だったために、数が増えれば苦戦するのは目に見えていた。
「片道10分くらいで行きたいです」
ほぼほぼ全速力で走っている4人。
藤子は飛んだ方が速いとは思っているが、ここには飛べない人も居るのでその話は出さないでいた。
佐助も風纏で飛んだ方が速いと思っているが、3人が居なければ話が出来ないと思い走っている。
ポイは佐助が飛べないと思い込み、飛んで行く話は出していない。
しかし、4人共飛行スキルを持っている事にお互いが気付いていなかった。
ハァハァハァハァ・・・
「ここまでハァ 6分弱ですねハァハァ」
ウエストコート5番街マンション群の北に到着した4人。
直線距離なら800mほどしかないが、右折左折や迂回を繰り返す事で大方3㎞ほどの距離を走った。
途中、人の群れや魔獣の群れとも出くわしたが、それも回避しながら走った。
とにかく走った。
「3分で息を整えて行くぞっ!」
「ハァハァ、このまま一秒でも早く行きましょうよ」
「これから交渉するのにハァ、こんなに息を切らしてたらわざとらしいだろう?」
通り過ぎた後ろのマンション群から、視線や気配を感じるが、今はそれは無視していく。
「おいっあの獣人共はうちのテリトリーを抜けて行ったが?」
「しかし背を向けとるから、あいつらの標的はボアオークだろう?」
「こっちに戻って来たら戦うぞ、一応準備だけしとけっ」
そう言われて人間軍は、自分たちの拠点のウエスト5番街3番館の一階で待ち伏せする。
「でもなぁ… ボアオークとの盟約が有るから様子は見た方が良いんじゃない?」
「それはそれっ、あの獣人どもとは盟約も何も交わして無いからな」
「そういや、昨日ここに潜入してたのもあいつらじゃないのか?」
「とっ捕まえて尋問するしか無いな、場合によっては拷問までやるからなっ」
魔獣軍の4人とこのクランの人間20人程度なら、多分魔獣軍の圧勝だろう。
そんな事を後ろで画策してるとはまったく気づかずに、交渉人はボアオークの陣地に進んで行く。




