六アイ戦争 闇落ち
--オーク軍--
「おぃおぃ見たか?陽ちゃん?」
「見た見た、凄いスキル使うねぇ~w」
「死者も蘇生するって言う伝説のスキルか・・・」
「それは都市伝説じゃよ、死んだら反魂でも使わんと生き返らん」
「四肢欠損の2人は再生したけど、片方はもう動かないからなっ」
「猫人と一緒の奴は死んだみたいだな」
「僕らが思ってたよりも強い連中だよなぁ~」
「そろそろ私らも降りようか、聖霊達もみんな殺られたし、腹の立つ奴らめ…」
「あぁ本当に腹の立つ奴らだ、ワシの部下をここまで減らすとはなぁ」
オーククイーンのウルリカ・テラジアーナはかなり憤慨している。
下っ端とは言え、自分の大切な部下で、オーク村の住人だ。
こんな知らない土地に飛ばされて来て、やっと落ち着いてきた所にこの侵入者達。
それも、圧倒的に数では勝っているのに、ここまで蹂躙された事もオーク族の尊厳に関わる。
「よしっおまえら、そろそろ本気で行くぞっ!」
ダークオークのグルコ・サンサスが、残っているカラードのハイオーク達と幹部クラスのハイオークに鼓舞を飛ばし参戦を宣言する。
「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」
幹部クラスの高レベル高戦闘力のハイオーク達が一斉に樹木のスロープを降りて行く。
「んじゃ~ちょっとだけ本気でやるか」
杉之原晴彦は両手を頭に当てがい、コキコキと首を鳴らしゆっくりと歩いて行く。
「さぁ~て、どう料理してやろうかなぁ~」
塩見陽菜は、これから始まる自身の戦闘に、ワクワクとした高揚感を持ち始めている。
--混成軍 砦--
「なぁマグナ、上から凄い奴らが降りて来るぞ?」
「あぁ、あれは強いなっ」
「私たちも出ないと、ちょっときついかもですね」
リーは美凪のとんでもない戦闘力を目の当たりにしたが、自分もそこそこはやれる自信はあった。
ただ・・・
ラグレアが居なくなった事がどうしても心から離れていかない。
チラリと奈留の方を見たが、奈留はまだ落ち込んだ様子から逸脱していなかった。
子供達はすっかり神獣との共闘で焦燥感を払拭し、平常心を取り戻している様に見える。
「みんな、ちょっと今度の奴らは今までとは違うよ、心して掛かるようにね」
「五十惟、一緒に戦うよ」
砦から降りてきたリーは真っ先に五十惟の部隊に合流した。
その後ろには、レッドゴブリンのマグナ・マーテルロとトオルが肩を並べ近づいて来る。
「さぁ~て、やるか~」
「殺ったろうか~」
意気揚々と戦場に向かうトオル達の横では、今なお娘の死に向き合う紗衣をはじめ、天使軍の面々が両手を合わせ追悼の意を表している。
救い切れなかった加奈子と美凪もその傍らで黙祷し佇んでいる。
あやかの遺体に縋りつく紗衣とウェイズ。
「あやちゃーん、なんで君がこんな目に・・・」
ウェイズは悲しみの余り、色々な怒りが沸々と込み上げてくる。
何もしてやれなかった自分に腹が立つ。
あやかをこんな目に合わせた精霊に怒りが沸く。
こんな戦闘を始めたオーク軍が心底憎らしく許せないと言う思いに至る。
そして今、目前に樹木のスロープを滑るように降りて来るオーク軍が目に留まる。
ウェイズの怒りが頂点に達した時、彼の身体に異変が生じた。
「うっ?うぐっ?うっ…ぐっ…ううっ… うぎゃぁぁぁぁぁっ!」
三つ割れしていた尻尾が3本づつに分かれ9本に増え、九尾の猫に。
増殖した体内の魔力が暴走し、毛が逆立ち刺々しく伸びる。
体躯がどんどん大きくなる。
可愛かった人相が見る見るうちに悪魔の様に変貌を遂げている。
「ウェイズ~駄目だ~ 闇に飲み込まれるなぁ~~~」
少し離れた所から、闇の世界の王、ジャド・ザハールが大声で叫ぶ。
闇の世界の住人であるが故、闇に飲まれた奴のその行く末は熟知している。
ジャドはすでに敵対していた精霊達を殲滅した後なので、すぐさまウェイズの元に走り寄る。
同じく闇の世界の王であるアヴィアダルもウェイズの元に駆け寄る。
「主よ~その黒猫の黄泉落ちを阻止しておくれでないか~」
アヴィアダルの主人である五十惟は、何が何だか分からない。
横に居るリーもイマイチ状況が把握できていない。
すぐそばで悲しみに暮れていた紗衣の眷属、ウェアキャットのナーコがいち早くウェイズの闇落ちの変化を瞬間的に察知していた。
「クロチャーンだめぇ~~~」
ナーコはウェイズに抱きつき変化の進行を阻止しようと頑張っている。
それを横目で見て、冷たくなっていくあやかの手を握っていた紗衣も、おもむろに立ち上がる。
「黒ちゃん~駄目だよぉ~っ!」
そう言いながら、眷属のナーコと一緒にウェイズの闇変化を止めようと、膨れ上がる身体に抱きつく。
触り心地の良かったウェイズの黒毛は刺々しく伸びているために、紗衣とナーコの身体を突き刺し、全身から赤い液体が流れ出す。
それを横から加奈子が治癒魔法で修復に努める。
「黒ちゃ~ん、あやかはそんなの喜ばないよぉ~~~」
「クロチャーン、返事してぇ~~~」
「ウーちゃん、帰って来てぇ~~~」
異常な状態を見た美凪は、すぐさま紗衣たちと一緒にウェイズの闇落ちを阻止しようと奮闘する。
それでもウェイズは3人を振り払い、オーク軍に突っ込んでいく。
さらに体躯は膨れ上がる。
天使属に進化した櫻庭加奈子の眷属、棒妻洋路の作った、対オーク戦用に急拵えした短壁を次々と壊し、オークを蹂躙していく。
すぐ横で戦う大狼と大虎の戦場に踏み入れ、敵も味方もなぎ倒す。
「ほぉ~闇装束をまとった猫が暴れとるぞ~w」
「ほほほっあれは相手にするでないぞっw」
「あれは避けて後ろに回り込んでなっ!」
「アヴィー、これはっ?」
「彼は怒りの方向が闇に向かって、黄泉の世界に行きつこうとしているじゃない?」
「黄泉の世界は一方通行、一度行けば二度と帰ってこれぬ!」
「絶対に阻止するっ!」
そう一言言って美凪は戦場の中に消えていった。




