六アイ戦争 戦死者
左肩を飛ばされた激痛で、一瞬気を失っていた美凪だが、すぐに意識を取り戻した。
「み、美凪・・・ だ、大丈夫・・・か?」
眷属になった事で、美凪様と呼ぶレドが気持ち悪いと、美凪は今まで通りに呼ぶように命令していた。
「あぁ大丈夫だ、少し離れていておくれ」
「だ、大丈夫な訳無いでしょうが~」
「み、美凪さん、左の肩が無くなってるんですよぉ~?」
美凪は二人にニコッと笑い掛け、上半身を起こし、右手でレド共々押し離した。
鎖骨が半分吹き飛び、残った骨が見えている。
肋骨が哀れに飛び出している。
肺臓心臓がドクドクと血を吹き出す。
そんな状態で大丈夫な訳が無い。
喋っているのが不思議でならない。
生きているのがおかしいとしか言い様が無い。
周りの獣人たちも人間達も全員がそう思っていた。
だが、皆が思うより美凪は元気で、痛みに伴う苦痛の表情を見せるものの、それ以外は平然としている。
グリート達が少し離れた瞬間に、今まで血だと思っていた赤いものがユラユラと蠢きだし、そして噴射しだした。
「・・・」
そして、吹き飛ばされた左腕の部分が赤く燃えながら美凪の元へと移動してくる。
その異様な光景を、そこにいる全員が見届ける。
美凪は近寄って来た左腕を右手で掴み、自身の吹き飛ばされた左の胸から肩にかけての陥没部分に勢いよく充がう。
噴き出した赤い炎がお互いに引き寄せ合い、欠損部分を補いながら腕と身体は結合していく。
「・・・」
「ふぅ~ くっついたぁ(笑)」
「うっ、く、くっついたじゃないわ~、なんなんだ?あなたは?」
「い、生きてるんだな?幽霊じゃないよな?美凪だよなぁ~?」
グリートとアンダルの眼からは大粒の涙がこぼれ落ちる。
レドは涙ぐむが、精一杯の見栄を張り我慢を続ける。
今まで敵対していただけに、眷属になったあとの信頼度は異常に高い。
もう絶対に助からないとみんなが思った事だろう。
復活した美凪の横では、あやかが同じく右肩を吹き飛ばされ、右顔面も著しく損傷している。
「あ、あやかぁ~ 大丈夫だよぉヒールヒールヒ~ル」
「あぁあぁ嫌だよぉ~あやかちゃ~ん・・・」
「あやちゃん、あやちゃん・・・」
「目を開けてぇ~エンジェルヒールッエンジェルヒールッエンジェルヒ~ル」
傷口は塞がり、顔面の損傷はほとんど目立たなくなり、意識も戻って来た。
だが美凪と違って、欠損した人体を修復する術はない。
吹き飛んだ右肩から先は無くなったままだ。
大量に失った血液も、補充する事が出来ない。
「あやかちゃ~ん、やっと知り合えたばかりなのに・・・」
「黒ちゃん・・・最後の最後に・・・楽しかった・・・よ・・・」
「最後だなんて言わないでよ~~」
「ヒールヒールヒールヒ~ルッヒッ…ハ、ハイヒールっ!」
紗衣の、復活して欲しい強い想いが、治癒魔法を上位のスキルに変えた。
「エンジェルヒール、エンジェルヒール、エンジェルヒールッ!」
「お母さん・・・ 加奈子さん・・・ もぅいいよ・・・
もう私は・・・助からない・・・ のは… わかっ… て…い…ま……す………」
「あやかぁ大丈夫だよ、ハイヒールハイヒールハイヒィーんんん・・・」
紗衣は酷い慟哭で、治癒魔法を唱える声もだんだんと出なくなってきた。
「エンジェルヒールッ!エンジェルヒールッ!エンジェルヒールッ!」
加奈子は壊れたレコードの様に、薄っすら涙を浮かべエンジェルヒールと唱え続けている。
(わ、わたしはなんて無力なんだ・・・)
「わたし・・・ お母さんの・・・ 娘で・・・ よかっ…たぁ…」
「あ、あやかはずっとずっと私の娘だよ、この先もずっとずっとね・・・」
横でそれを見ていた美凪が大声で叫ぶ。
「ティア~!イフリート~!おねが~いこっちにきてぇ~」
精霊神であるヘスティアを敬う為に、人前では"ヘスティア様"と呼ぶ事にしていたが、今はそんな些末な事は考えに至らない。
精霊達の戦いもオベロンを爆殺し、その妻ティターニアとシルフィーも倒し、ほとんどケリは付いていた。
あとは大狼と大虎の戦いを邪魔しない様に、大地の精霊ノームを総がかりで倒しに掛かる。
戦況は圧倒的に有利になったので、闇の王ジャド・ザハールとアヴィアダルを残し、ヘスティアとイフリートは美凪の呼び掛けに答える。
「おやおや、これはひどい状態よのぉ~」
「ティア、イフリート、この子に憑依して再生させることは出来ないかな?」
「我の権能は主人であるお嬢にしか効果が無い・・・」
「ん~妾の権能を以てしても、同時に2人の主人を持つ事は出来んし、憑依の効能に限っては主人格にしか適用出来んしのぉ~」
「もう成す術無しって事かな?」
「新しい精霊神クラスを使役して憑依でもすればって所かいな?」
「現実的では無いな・・・」
徳太郎たちが美凪の話に聞き耳を立て、淡い期待を抱いていたが、それが無理だとわかり落胆する。
美凪は檸檬と須布の顔を見て、首を横に数回振った。
「あやかっ頑張ってっ!エンジェルヒール!エンジェルヒール!エン、えっ?」
その時、加奈子の使う最上級の治癒魔法がさらに上位の治癒スキルへと変化していった。
「ゴ、神の祝福っ!!!」
スキルを唱えた瞬間から、欠損した部分が急速に再生していく。
吹き飛ばされて向こう側に転がっていたあやかの右腕が見る見るうちに分解され消えていく。
分解された腕肩が、右乳房も露わにあやかの身体を元に戻していく。
「あっあっあっ・・・・・・・」
あやかの身体は見事に再生されていった。
加奈子は心の奥で少しホッとした気持ちになる。
(はぁ間に合った・・・ 良かった・・・)
「か、加奈子さん、あ、ありがとございますぅぅぅ~~~」
あやかが元に戻った事で、紗衣の心に大きな安堵感が漂う。
「あはは・・・ 壊れた身体で・・・死ぬのは、嫌だな~って、思ってたの・・・」
「ふふふ・・・ 元の身体に・・・ 戻れたかな?」
「黒ちゃん・・・ ごめんね・・・」
元に戻ったあやかの右手の平の上に、ほおずりをしながら涙ぐむウェイズに声を掛ける。
むき出しになっている乳房に、檸檬は来ていたベストを脱ぎ、そっと掛けた。
見た目は綺麗に元通りになったように見えるが、失われた血液が増殖する事は無かった。
失血により受けた大きなダメージは命の灯を削っていく。
元に戻った顔面だが、青白く覇気がない。
緑と明日桜を見て、何かを言おうとしていたが言葉が出て来なかった。
横でへたり込んでいる紗衣の顔をチラリとみる。
「おかあさん・・・ みんな・・・ ありが… と…」
あやかはその言葉を最後に、力無く静かに目を閉じ、身体中から生気がぬけていった。
あやか(20)
Lv28
種族 【新人類】 選択
職業 【格闘士】 選択
称号 【--】
状態 【--】
基本能力一覧
GMR/END
HP 0/9879
MP 0/2437




