六アイ戦争 黒い犬
精霊達が暴れている中央戦場を背にして、あやかとウェイズは美凪と対面して会話をしている。
そのすぐ後ろでは、五十惟の部隊と戸弩力組の爺婆軍団が合流し、右翼の残りのオークを排除するべく奮闘している。
美凪の少し向こうでは、獣人たちが負傷者達を砦の付近にまで運び終わり、呆けて佇んでいる。
「アンダル~グリート~ちょっとこっちに来て。
レド、そしてドレイクさん、一緒に来てくれないかな?」
死傷者を運び終え、俯いて項垂れていた4人をそばに呼んだ。
訝し気な顔をしながらもレドは美凪の方に向かう。
アンダルとグリートに並んでドレイクも尽いて来る。
そして、覇気のない顔をしたコボルトとガビアルナイト達もトボトボと一緒に尽いて来た。
「美凪・・・ すまなかったな・・・」
「いや、それはいいんだけど、レド、ちょいと提案だ」
「おまえの言う事は今ならだいたいなんでも聞くぞ・・・」
「おまえら全員私の眷属にならないか?特にレド」
「あぁそれは良い話だ、俺の2番弟子になるけどなw」
「俺はリーさんの眷属になっている」
「はぁ?マグナさんを裏切るのか? 謀反でも起こす気かぁ~!」
「レドよ、マグナ殿は全て承知の上だ」
「俺たちも夕べ、マグナさんに許可を得てるぞ」
「レドさんがトオルさんにやり込められて端っこでしょげてる時にw」
「・・・」
レドは物思い、マグナを目で探す。
砦の上でトオルと談笑しているマグナを見つけ、ダッシュでそちらの方向に駆けだした。
(戦いの最中に楽しそうにしやがってっ!黒猫風情が・・・)
「マグナさん、何人かの奴らがトオル…さんの所の眷属になったって聞いてますかっ?」
「急にどうした?グリースの隊とアンダルの隊は全員トオルの所の眷属になってるぞ?
所属はうちだけどなっ」
「ついでに言えば、ラグレアもうちのリーの眷属兼旦那になっとるわw」
「・・・」
レドは俯き、物言わず、また美凪の方に歩き出す。
「美凪様、ありがとうございましたっ!宜しくお願い致しますっ!」
「これは凄いっ!本当にありがとうございます」
「俺まで眷属にして貰って、本当に感謝しかありません…」
「力が湧いて来る…この力がもう少し早く欲しかった…」
「美凪殿、こんな力を頂いて感謝致す・・・」
レドがちょっと席を外した間に、残りの隊員は全員美凪の眷属になっていた。
「はぁぁ~?おまえら、何を考えてるっ!」
「レドよ、今のお前らは弱いっ! 強くなるためには私の眷属になれっ」
「なんで美凪の眷属になれば強くなるんだっ!」
「眷属になればわかるわ(笑)」
「はぁ? 俺が美凪の子分になるって事だぞ?」
「レド隊長よ、俺は眷属になった事でかなり強くなったぞ?」
「あぁその通りだ、出来ればもっと早くになっていたら・・・」
(はぁ?黒猫に黒犬に黒豹だと?ふざけやがって・・・黒虎まで居やがるし・・・)
「レドよ、美凪さんの強さはさっき見てわかっただろう?
俺たちが全員で掛かっても絶対に勝てない位の戦力差がある。
でも美凪さんの眷属になれば、多大な力が手に入るんだよ」
「レドさんとやら、眷属になると御主からの恩恵ってステータス補正が貰えるんだよ」
「クロコボルトさん、私たちもトオルさんのお姉さんの眷属なんだけど
私たちはその眷属特典で火魔法の恩恵を受けてるのよ」
「・・・」
「強制的にでもやるけど、あんたの意志も聞いとこうか?」
「・・・ わかった・・・ おまえの子分になるわ・・・」
美凪が眷属契約の文言を唱える間、レドは浮かない顔をしていたが、眷属になった瞬間からその不躾な表情は消えていった。
「さて、それでは再戦と行きますか」
新しく美凪の眷属になった面々は、自分の新しい力を試したくてウズウズしてきた。
そして、仲間の復讐も兼ねて、弔い合戦に向かおうとしていた。
(目の前の黒騎士だけでもウザったいと言うのに、イライラさせる連中だっ!)
「くっそー レイアローッ!」
精霊王オベロンが隙を見て放った光と雷の混合矢が、ウェイズの方に向かって飛んで行く。
「あ~危ないっ!」
美凪は、オベロンに背を向けているあやかと、その左肩に乗っているウェイズごと抱きしめ身を翻し一回転した。
ドッゴーンッ!!!
「ぐはっ!」
「ぎゃぁ~~~」
「あ、あやかちゃん、美凪ちゃーん」
一緒に吹き飛ばされたウェイズが真っ先に2人に寄り添う。
「美凪さんっ!」
「み、美凪ー」
傍に居たグリートとレドが駆け寄り、左肩甲骨から先が無くなった美凪を抱き起す。
「み、美凪~」
「美凪さん?」
「美凪?」
「あ、あっあやか~」
「美凪ぃ~~~」
「あやかさ~ん」
「えっ?えっ?」
「み、美凪さんっ?」
「あ、あやかぁぁぁぁぁ」
治癒魔法を掛けて回っていたあやかの主、加奈子が高速飛行であやかの元へ急ぐ。
「チッ、美凪よ、すまないな、ちと遊び過ぎたわぃ」
「数百年ぶりの戦いが楽しくて手を抜き過ぎていた・・・」
「同じく、戦闘を楽しんでしまっていたわい」
「至高の炎華っ!」
「地獄の轟炎っ!」
「闇黯の狂乱っ!」
それぞれの精霊が持つ最上級クラスの攻撃魔法をオベロンに向かって撃ち込んだ。
「あのやろ~ 岩漿弾っ!」
「クッソ― 飛燕っ!」
「美凪… 玆の投槍っ!」
「破壊砲っ!」
静観していたトオル達も、聖霊達に向かって攻撃魔法を撃ち込んだ。
「あやかちゃん… 火炎砲っ!」
「水蛇隆盛っ!」
「螺旋石っ!」
数多くの上級攻撃魔法を喰らった精霊王オベロンは、言葉を発する暇もなく霧散して消えていった。
「お、おまえさん・・・」
「ちっ、オベロンが殺られた・・・」
「あははっなかなかやるじゃない、あいつらも」
戦況はかなり不利になりつつあるのに、晴彦はまだ笑っていた。




