六アイ戦争 戦況一変
「黒猫ちゃんは誰かの眷属なん?」
急に声を掛けられたので、戻るのを中断してあやかの肩にチョコンと乗るウェイズ。
「うん、佐助って猿人の人の眷属だよ、ウェイズって言うんだ」
「あ~あの中国っぽい着物を着てたお猿さんっぽい人ね」
「お猿なんだけどねw」
「(笑) でも、いいなぁ~」
短壁をつたって戦場を駆け回りバフ効果魔法を掛けて回っていたウェイズも、端のレドやEricaの軍団に掛けたのを最後に戻る途中だった。
「私はあやかです。ウェイズさんよろしくねー」
「あやかちゃんは猫の眷属が欲しいの?」
「ん~お母さんがネコの子連れてるからね~」
チラリと少し向こうの紗衣に目線を向ける。
「んっ?紗衣ちゃん?お母さん?えっ?」
「あれ?お母さんを知ってるんや?」
「さっき知り合ったばかりだけどね。
へぇ~お母さんなんだね~
見た目が同じ歳くらいにしか見えないから、ちょっと驚きだよ」
そんな二人を横目に見ながら、明日桜と緑は子オオカミと共にハイオークまでも倒し続ける。
(ちょろちょろと目障りな黒猫だ・・・小動物がぁ!)
近接戦闘が主のあやかは、ウェイズを肩に乗せたまま戦う。
「落ちないでね~w」
「あははは、大丈夫だよぉ~w」
ウェイズはあやかの攻撃の合間合間に、獣爪攻撃やデバフ効果魔法を敵に入れる。
「あやかちゃんは強いね~」
「ふふふ、ウェイズさんの攻撃でオークが倒れていってるよ~w」
今までソロ戦闘しか経験のない2人は、共闘する事に楽しさを見出している。
ソロでは味わえなかった、共闘の嵌った時の"よっしゃー"感。
自分がタイミングを外しても、相方が攻撃を入れてくれる。
その戦い方がとても気持ち良い。
「あぁ~ウェイズさんがフリーだったら良かったのにw」
「ごめんねぇ~w でもほんと面白いし楽しいね♪」
楽しそうに戦う2人の横では、相変わらず力任せにオークを倒していく麗菜が一人で暴れている。
向こうでオークを殲滅してくる美凪の方に目線を向け、槍に火を纏わせまた暴れ出す。
「負けへん!負けへんでぇ~!」
(くそっ!気になりだすとイライラしてきた・・・)
レドたちが戦っていた右(南)端の戦場は、死体の上に死体が重なり、体液や血液で地面が真っ赤に染まり、あちこちに血だまりが出来ている。
その中心には、炎の鎧を纏う美凪が仁王立ちしていた。
その周辺に居た100体以上のオーク達をたった一人で殲滅して、隣で戦うErica達の前までを一掃したその姿は炎の魔人の様で、味方でさえ恐怖を覚える。
「秘書だから戦闘はイマイチかと思ってたけど、怖いくらいに強いな…」
「こちらを向かれると、身体が震えますね…」
「今の間に死傷者を移動しましょう」
鐡の提案に素早く動き出す。
美凪のおかげで手が空いたEricaの軍団も、戦場から獣人たちの遺体を運び出す手伝いを始めた。
レドとドレイクも沈んだ顔で遺体を運び出す。
「うっわぁ~この人凄いねぇ~」
いままで目の前にワラワラと居たオーク達がドンドンと減っていく。
右側の戦場にはおおよそ500体以上はオーク軍が居ただろう。
それが激しい戦闘で50体減り、100体減り、今、目の前で炎の魔神がさらにオークを減らしていく。
「美凪ちゃん、ホント凄い子だよね~」
「美凪さんって言うんだね?」
そしてついにあやかたちの前を一掃し、徳太郎たちの戦う右戦場中央辺りまで斬り込んで来た。
「ほぉほぉ凄い奴が来たぞぃw」
「まだまだ強い人は居るもんだね~」
元爺婆たちも、美凪のその強さには驚きの色を隠せない。
「これだけ減ればいけるか?
炎の戦闘領域っ!!!」
炎で出来た巨大なドームにオーク達は包まれる。
その中で生き残れる者など居るはずも無い。
なぜ最初からこのスキルを使わなかったのか?
それは、天使軍以外に大勢の獣人や戦士たちが居たからと言うのも有る。
こんな世界になってスキルや耐性をすぐに覚える奴も多い。
これだけ大人数に何度も使ううちに火炎の耐性を持つオークが出て来るのが嫌だったのも有る。
「へぇ~これはまたとんでもないスキルだなっ」
ドームの中をキョロキョロと見ながら悠々と歩く美凪。
美凪は、絶対火炎熱耐性と火炎魔法無効の耐性を持っているので、武装と魔人戦装を解いた生身の身体でもその中をスタスタと歩き、徳太郎たちの元に行く。
「おいおい、あんた大丈夫なのか?」
「んっ?この炎? ふふっ私は私自身が炎だよw」
そう笑いながら徳太郎の前に立つ。
「これは凄いスキルだね?また今度教えてくれないかな?」
「・・・」
徳太郎は自分たち以外に炎の耐性を持つ者を始めて見た気がする。
いや、実際には2度目になるのだが、そんなに多くの火炎熱耐性者が居る事が驚きの種だ。
「急にごめんなさいね、私は櫻庭通の秘書、青空美凪と申します」
「ひ、秘書ぉ~?」
自分の主である櫻庭加奈子の弟の軍勢は凄いと言う話は皆が聞いていた。
だがそれが、一介の秘書だと言うこの女性に皆が驚愕する。
「お、俺は原田徳太郎だ、火魔法を使う」
「私は半田檸檬、水魔法使いだよ」
「俺は須布来人、土、風、大気の魔法を使う」
「へぇ~バランスの良いパーティー組んでるんだね!
大気の魔法ってどんな事が出来るの?」
美凪は初めて聞いた大気魔法がどんなものか興味津々だ。
須布は可愛くてスタイルもスーパーモデルの様な美凪に興味を持たれ、有頂天で大気魔法の取得した時の説明と、いくつかのスキルを実践して見せる。
あやかも肩にウェイズを乗せたまま、美凪の近くに寄って来る。
「美凪ちゃん、この子あやかちゃんって言うんだ」
「あらウーちゃん、お嫁さん候補かしら?(笑)」
「うっわ~それ良いかもw 初めましてあやかって言います」
鑑定であやかのステータスを覗いて見たが、名前がそのまま「あやか」になってるのが気になった。
「あやかさんは名付けの洗礼を受けたの?」
「あぁはいっ。
色々とあって心機一転、気持ちを切り替えるのに名前を変えてもらいました」
右翼の敵オーク軍も右半分が居なくなったので、美凪を中心にしばしの休憩で歓談する人々。
後ろでは、レドたちが怪我人や遺体を運び出す。
美凪はチラリと五十惟の方を見た。
手前のオーク達が居なくなり、今までよりは戦いやすくなった様だが、まだまだ気を抜けるほどでは無い様に見える。
「五十惟を手伝いに行くかぁ~」
その向こうでは大精霊や神獣魔獣が大暴れしていた。
(あぁ~くっそー! 気になって目の前の戦闘に身が入らんぞ・・・)




