六アイ戦争 死傷者
瑛伖たちが五十惟の戦ってる戦場に辿り着いた時、足元で動かない戦士が数人。
「瑛伖~倒れてる人たちを後ろに避難させてぇ~」
戦闘力の高い五十惟は、多くのオークを独りで相手にしているため、傷を負った人らを助けたいがそれが出来なかった。
そこへ瑛伖の軍勢が帰ってきたので少しホッとした気持ちになる。
だが心の中では、動かない自分の眷属ややっと話をするようになった獣人たちが、倒れたり傷つきへたり込んでいるのを見ると、気になって気になって心配で心配で仕方が無い。
すぐにそばに駆け寄って安否の確認もしたいし、治癒魔法を掛けてもあげたい。
「ちょっとーマコちゃん?ちょっとー?お願い~目を開けてぇ~」
五十惟の事務方の眷属の1人がまったく動かない。
負傷した子や獣人を戦場と少し離れた所に集めたが、微動だにしない子が二人。
四肢一部欠損している子が二人、呼吸が荒く反応の無い獣人が一人。
倒れてるオークの数を考えれば極端に少ない負傷者数だが、仲間が死傷する事が受け入れられない。
そこへ、治療に専念しているトオルの姉、天使族の櫻庭加奈子が颯爽と舞い降りる。
「ヒール! ハイヒールッ!」
「あ、ありがとうございます・・・こ、こいつ治せませんか?」
馬面の馬人の横で、瀕死の重傷を負っている耳の長いコボルトが息も絶え絶えに仰向けにされて倒れている。
加奈子は小さくうなずき両手を胸の前でクロスさせる。
「エンジェルヒールッ!」
「おっ?おっおっ?おぉ~?」
加奈子の持つ最上級の治癒魔法で、瀕死だったコボルトの息が整ってきた。
だが怪我が重かったので意識が浅く、すぐに動けるまでの回復はままならなかった。
「ありがとうございますぅ! うっうっう・・・」
戦友が、消えかかっていた命の灯を取り戻した事で感激の涙を溢す。
自身も倒れそうなほどの疲労と大きな負傷が治った事で戦闘へのモチベーションが上がる。
加奈子はすぐ横で、右手の先を欠損している五十惟の眷属と右足の膝から下が欠損した鼻の長いコボルトにエンジェルヒールを掛けた。
もしかしたら欠損部分も瞬時に復活するかと思ったが、そんなにうまい話は無いだろう。
治療された欠損部分には、未分化細胞が集まり出し、新しい身体を作っていく。
時間は掛かるが、元の身体には戻れるはずだ。
「アンダル、グリート、どう?」
美凪が自分の眷属黒豹人と、リーの眷属になった長耳狐人に話しかける。
「あぁ美凪さん、石の短壁が出来たおかげで、俺らはボチボチやれてます」
「美凪さん、戦ってる間もレベルがいくつか上がってますしね」
「もぉ~"さん"は要らないって言ってるじゃないw」
「それは無理ですw」
「まぁ俺らよりもあっちの黒犬がちょっとヤバ目なんですよ」
美凪が、一番右端で防衛している黒犬コボルト、レドの姿を見る。
「あれ?あいつは向こうに居たんじゃないの?何故ここに居る?」
レドは食事前に美凪に毒吐いた後、左の方に逃げていった。
それなのに、なぜここに居るのか気になった美凪がアンダルの顔を見る。
「真ん中で精霊たちが暴れ出した時にこっちに来たんですよ」
「最初に美凪さんが応援に来てくれた時にあっちに移動したんだと思いますw」
「ふ~ん・・・」
美凪は何か物思う所があるようだ。
少し考えて、レドが苦戦している所に美凪は歩み寄っていく。
その手前では進化ゴブリンの軍団が活躍していた。
「胡蝶、あの青っぽいハイオークを攻撃してっ!緋羽も頼むよ」
氷魔鬼の冷華は氷の魔法で相手を凍らせ氷の槍でサクサクとオークを倒していく。
黒魔鬼の呪夜は呪詛で拘束し玆魔法を使い敵を倒していく。
鉄戦鬼の鐡は大剣で敵を斬り刻み、磁界魔法で敵の鉄製武器を無効化していく。
壊闘鬼の壊慈はErica譲りの破壊魔法と闘壊術を使い、近接の敵を倒していく。
黒蝶鬼の胡蝶と眷属の緋羽は特性を生かして空中からハイオークに攻撃を仕掛けていく。
胡蝶と緋羽が敵の真上に飛行し、スロープに向けて蝶舞魔法の鱗塊を投げつける。
その鱗塊を横から緋羽が風魔法の風葬で弾けさせる。
大量の小塊が広範囲にハイオーク達の頭の上から降り注ぐ。
小塊が当たった者は鱗に犯され皮膚表面が爛れて、そして徐々に体力を削られていく。
「風鱗乱舞~」
胡蝶の蝶舞魔法の風鱗乱舞は、空中で舞い黒蝶の羽から鱗粉を撒き散らす簡易な魔法だ。
簡易とは言え、舞いと共に広範囲に鱗粉を撒き散らす。
鱗粉に触れた所は、やはり皮膚や衣服が溶けだし徐々に体力を削っていく。
服を着ていない魔物には絶大な効果がある。
飛空術の無いオーク軍はひらひらと舞う2匹の蝶を凄くウザったく思っている。
槍を投げたりするが、まったく当たらない。
南端のレドの軍はかなり疲弊している。
一度二度と加奈子のグランドヒールの恩恵は受けているが、それでも戦闘の激しい場所だけにすぐに傷つき体力を奪われる。
倒しても倒しても次から次に回り込んで来るオークとハイオーク。
ここが抜かれたら、右翼や中央軍は横から攻撃を受けて甚大な被害が出るかも知れない。
そんな重要な個所をレドは守っている。
「おいおい黒犬、えらい苦戦しとんじゃないかい(笑)」
「あっ・・・ ・・・」
そこには、レドを筆頭に竜族のドレイク、剣士のガビアルナイト3人、双剣のリザードナイト3人、コボルト2人の少人数で、傷まみれになりながらも踏ん張っていた。
少し離れた所、オークの死体の山の手前に、無残に切り刻まれ死んでいるコボルト達が目に入る。
違う方には胸が大きく斬り裂けて動かない、リザードマンやリザードナイト達が横たわる。
ほんの少し前まで、笑いながら楽しみながらバーベキューを楽しんでいたのに…
「頼む、もうこいつらを死なせたくない…手伝ってくれないか?」
「・・・」
「俺はどうなっても良いが、こいつらは助けたい」
「何を言ってるっ!俺らはレドさんに命を預けているっ!」
「あいつらの仇を討つまでは自分は退かないです」
ボロボロの身体でレドを庇う獣人たち。
「・・・」
「美凪、後生だ・・・」
「ふっ!やっと名前を呼んだな、このクソ犬がw」
美凪はそう答えてレドの前に出る。
「レド、みんな少し下がって頂戴ね~」
レドの軍勢が後ろに下がり出すと、一気にオーク軍が攻め上がって来る。
「焱弾っ!」
美凪の指先から、焱の弾が無数に飛び出してくる。
その一発一発がとんでもない威力で、一瞬で数十体のオークたちを狩っていく。
「焱球っ!」
美凪の掌から焱の球が高速で飛び出してくる。
ソフトボールくらいの大きさの塊りが着弾すると、その周辺2mくらいを吹き飛ばす。
前戦に群がっていたオーク達の数が一気に減った事で、回り込みに来る敵が居なくなった。
「今のうちに砦の近くまで避難してー」
その言葉を聞いて、レド軍はお互いに支えあいながら後退していく。
レドとドレイクは美凪の少し後ろで立休み、隙が出来たら仲間の遺体を回収するつもりだった。
「一気に片付けるね」
魔法でも十分殲滅は出来るだろうが、そこらに横たわるレドの配下の遺体を壊したくない。
「武装っ!ドゥンケルッ! 魔人戦装っ!」
美凪は本気で斬りかかるために武装から、新しく覚えた精霊の加護が大きい魔人戦装をまとった。
そして、大剣ドゥンケルを天刺しして魔法を付与する。
「焱剣っ!」
大剣に焱が纏い、攻撃を受け止めただけでも相手を焼き尽くす。
「おりゃおりゃおりゃぁぁぁぁぁ~~~」
目の前のオーク達が見る見る倒れていく。
「こ、この人、凄いっ!凄すぎる・・・」
「・・・」
美凪の圧倒的な強さを目の当たりにして、2人の獣人が呆然と立ち尽くす。
(バフ、デバフ魔法だと?目障りな奴だ・・・)




