六アイ戦争 立ち上がれっ!
「召喚と言う物は、違う世界の対象相手を術者の元に呼び寄せるのに、次元の狭間を通り抜け、呼来するための神道や魔道、邪道や聖道などの"道"を作るための技法を総称してそう言うらしい」
「自世界と異世界を繋いだ所が空間の歪になるらしいんだよ」
「実際に異世界を行き来するスキルも有るらしいが・・・」
「"道"は異世界から召喚側への一方通行で、歪の出口は不安定な物だから無暗に触れるのは禁忌なんだよ」
「まぁその原理理論は良いとして、引き込まれた奴らはどうすれば引き戻せる?」
「おまえさまも薄々わかっとるじゃろうて」
「こっちの世界からは接触のしようがありません…」
「それでは、こっちの世界に帰ってくる方法は無いという事ですか?」
「もう、、、逢えないって、ことですか?、、、」
泣き崩れる奈留の身体を、リーが支える。
トオルの腕の中で泣きじゃくるクレア。
「帰還する方法が無い訳では無いけどな」
「今のこの神戸の街はのぉー いくつもの異世界、亜世界、真世界と繋がっておる」
「まあねー その異常な数の他世界との道がすべて確整されてる訳では無いけど、普通では有り得ない位の高濃度の道標が出来上がってるのは間違いない」
「んじゃその道を見つけられれば帰って来れるって事だな?」
「父さんたちは死んだ訳ではないんですよね?
それじゃーここで悩んでても仕方が無いです。
母さん、リーママ、父さんが戻って来るまで自分達で強くなっていきましょう。
帰って来て‘おまえら、何をやってたんだー‘なんて言われないようにね」
子供だと思っていたカントの明るく大人びた言葉に、まず立ち上がったのがリーだ。
奈留を抱え立ち上がらせ、トオルにへばりついているクレアを抱きしめ、横のカントの頭を撫でた。
「そうだね、カントの言う通り。
私の旦那たるあの御方が、異次元の攻略など出来ない訳がない。
お帰りを皆で待つ間にも、我々は強くなる必要がある。
奈留、クレア、いつまでも泣いていたらラグレア殿に叱られるぞw」
リーもカントも心の中では、大声で泣き出したい気持ちが消えた訳では無いが、自分達が前を向かないと奈留やクレアが一緒に前を向けないだろうと、やせ我慢を決め込んだ。
「ま~今は目の前に大きな敵が居るからな、それを終わらせてから皆で考えよう」
「キング、お騒がせしました・・・」
「いや、気丈なお前が取り乱すのを見れたのは良かったよ(笑)」
「もぅ~キング~w」
トオルなりの慰めなんだろうと言う事はリーにも伝わっている。
「んじゃー俺は戻るな、奈留とクレアの事は任せるぞっ」
「はいっ、お任せください・・・」
「んでは、妾はあちらの戦いに身を投げてこようかの~」
奈留とクレアが落ち込んでいるうちは、リー自身は落ち込めないと心に誓った瞬間だ。
「待たせたね~阿左虎!、吽右虎!」
「ご主人、もう良いのか?」
「うん、心配かけたね。
父さんの水龍が消えてしまったなぁ~
お前たち、あの精霊たちに対抗できるっ?」
カントは2体の神獣のアゴを優しく撫でながら問いかける。
「造作もない、わらわらは神獣ぞ、聖霊ごとき何する者ぞ」
「・・・」
「ん?吽右虎、どうしたんだー?おまえは自信が無いって事?」
「ご主人、われらは主の神聖力を使いこの世界に顕現しておる」
「あぁ僕のステータス画面に新しく神聖力ってのが付いてるね」
「今はその数値が低いので、我ら二人を使役するのは少々心許ない」
「ん~?って事はどうすればいいの?」
「どちらか一人をご主人以外の御方に預ける形なら全力で戦えるのだが」
「預けるのか~ せっかく二人共僕の仲間になったのになぁ~」
大人の身体で大人びた事を言うカントだが、まだ心は幼い10歳児+α。
自分の眷属になった2体の虎が嬉しくて仕方が無かったのだが、一人とは別れなければならないと言う。
それはとてもとても残念な事で、出来れば回避したい。
「ご主人の横に坐す御方は?」
「ご主人様と同じ魂の色をされている… 分身体の様な?」
ふたりはクレアの方を見ている。
「あぁ僕の双子の妹だよ」
「なるほど、それなら問題は無さそうですな」
吽右虎の発言に少し訝し気な顔をして、カントは首を横に傾ける。
「他の御方に預けると言っても、誰でも良いと言う訳にはいかないのでな」
「ご主人様の妹君ならば何も問題は無かろうて なっ」
カントは二人の言葉を聞いて意味をだいたい理解しそして、意を決した。
「クレア、泣いてないでちょっとこっちにおいで」
父と眷属を一瞬で無くしたクレアの思考は停止しかけていた。
だが、カントの声はクレアの心に暖かく語り掛けて来る。
その声に反応して、そして顔を上げ涙をぬぐい、大虎の姿を見た。
「えっ?えっ?おおきいネコさん?」
ラグレアとガリレオキャットが次元の歪に飲み込まれて、意識はそちらの方に向いたままだったので、召喚され顕現した二体の神獣を始めて視線の先に収めたクレア。
「クレア、父さんとネコが居なくなって悲しい気持ちは良くわかるよ。
だからしばらく、この子らのうち、どちらかをクレアに預けようと思ってるんだけど
どっちの子が良いかな?」
クレアは瞬時に沈んだ気持ちが浮き上がり、白い大虎、阿左虎を選んだ。
10歳児の焦燥感を払拭するには、新しいモノを与えると良いのだろうか?・・・
「汝、我が魂を受け入れ、主として我が全てを使役する事を、心より願うか?」
「ねがいます♪」
2人の周りの空間が繋がり淡く光り、主従関係が成立した。
「モフモフぅ~」
阿左虎の首に腕を巻き付け顔を埋め、クレアは至宝の微笑みを沸かす。
「主よ、今後共宜しく賜う」
「ん~クレアってよんでね!
ねぇねぇ、せなかにのってもいいぃ~」
「ふっ、ではクレアよ、戦いに向かおうかっ!」
阿左虎は身体を沈めクレアが乗りやすい体制を取る。
そしてクレアはその背中に跨り、阿左虎は俊足で精霊たちが戦うその場に駆けだした。
「ふふふ、立ち直りの早い奴だw
じゃぁ吽右虎、僕らも行こうか」
カントはそう言うと、ハイジャンプで黒い大きな虎の背中に乗り、クレアと阿左虎の後を追う。




