六アイ戦争 序章
『おいっマグナにラグレアッ!上を見ろっ!』
「ぬっ?な、なんじゃぁ~こいつらわぁ~!」
その大きな声を聞いて、そこに居る全ての人々が黙り、そして樹木塊の上側からこちらを見ている相当数の殺気を放ったオークの群れに気が付く。
「オ、オーク~? な、なんて数なんだ…」
「お、俺らの数倍はおるぞ・・・」
ザワザワと声を出す奴らも居るが、突然の事で皆がその場で立ち尽くす。
「ちっ!おまえら~戦闘態勢に入れっ!」
佐助の掛け声で動き出す者も居るが、オークの殺気に気取られ、圧倒的に、呆気に取られて口が開いたままの連中ばかりだった。
だが、戦闘戦力として育成されてきた連中は少し様変わりをしている。
「ちょっと数は多いけど、所詮オークの群れだ、気合を入れていくぞ~」
「了解ですっ!」
「ん~身体の奥がゾクゾクする~」
「みんな~初めての殺し合いになるかもやけど、大丈夫やな?」
「あはは、あそこで散々殺し合いをしてきて生き残った5人ですぞw」
「ご主人様、私は緋羽と組んで先行しても良いですか?」
2人は空中からの攻撃を考えている。
そして敵の気持ちが空に向いてる間に、歩兵たちを殲滅する戦略だ。
「ふ~ん、なんや~ ただの食事会に集まってただけやんかw」
「ボス、どうしましょうか?」
「晴君、殺っちゃう?w」
「陽菜~そんなに楽しそうな顔をしないのっ!」
30mほど上空では、軍団を見下ろし、今からどうするのかの戦談が繰り広げられる。
「ネヴァ、拡声器で宣戦布告出来るか?」
「あぁ問題ない」
金狼ネヴァと銀狼ライラの両方が持つスキル[拡声器]は、元々は人語を話すのに覚えたスキルだ。
だがその名の通り、大声で周りに拡声する事が出来るスキルでもある。
『『『赤いゴブリンの軍団よ、良く聞け、これより貴様らを蹂躙する』』』
『『『両軍共に、心せよっ!』』』
「なぁ陽ちゃん、あの子呼び出してくれる?」
「うん、わかったぁ」
陽菜は固有スキルである[精霊魔法]と言うスキルを使い精霊を呼び出す。
「精霊召喚!森の聖霊よっ我が命に応え顕現せよっ!」
「レーシィ!」
陽菜の前面に空間の揺らぎが現れ、そこから森の精霊、レーシィが顕現する。
「レーシィ、いつも通り晴彦の命令に従ってね」
薄緑のドレスを纏った人型の精霊がコクリと頷く。
「ほぉ~陽菜は精霊まで召喚できるのか…」
「き、綺麗だ・・・」
「じゃぁ大きくなってここにいるオークたちを下に降ろしてくれるかな?」
レーシィは、一寸法師サイズからウルトラマンサイズまで大きさを自由に変化出来る精霊だ。
「な、なんじゃ~~~~~」
いきなり最大サイズまで大きくなったその姿に、恐れ慄き、皆が後ずさる。
「だ、大丈夫だよ~あの精霊は善心性だから殺生はしない はず・・・」
知恵者のウェイズでも、その性質は理解しててもあまりの大きさに恐怖を隠せない。
レーシィは両手でオークたちを数十人単位で下に降ろす。
下に降ろされたオークは、すぐさまに攻撃部隊となる。
十数回、レーシィがオークを降ろした頃、樹上の先兵オークは居なくなった。
次いで、ハイオークが降ろされていく。
下ではすでにあちらこちらで戦闘が始まっていた。
「ぐぉぉぉぉぉぉおおおおお~~~~」
「どぉりゃぁぁぁぁぁぁああああ~~」
『始まってしまったな・・・』
「キングは私がお守り致します!」
「ここにはまだ届かないだろうから、今のうちに戦闘態勢を整えときましょう」
「リーよ、佐助の軍団を借りるぞ?俺らは末端の援護に行く」
「ごめんよ武人、うちの子らレベルは高いけど、まだ弱い子が多いから…」
「心配するな、五十惟のとこは人数多いからその分、被害も大きい。
大海っ!佐助っ!おまえらは眷属連れて右奥の獣人たちをサポートしてくれ。
瑛伖、セイラ、おまえらも眷属連れて一緒に行ってくれ!
ジャックは俺と一緒に五十惟の部下を助けに行くぞ。
ポイと藤子と市之丞たちも眷属連れて五十惟をサポしてくれ」
すぐさま、藤浜武人とその軍勢は散開して戦闘に向かった。
五十惟は近くで戦っている給食部隊の援護に向かう。
「なんだろ?凄く怖いのに、心の中ではワクワクしてるw」
「わっかるぅ~ 顔が綻ぶよねw」
ジャックのハーレム員の朱鷺と紗々芽が走りながら心情を吐き出す。
『お~い、洋路、こっちに来てくれないか~」
少し向こうで、麗菜や明日桜と一緒に戦っていた棒妻洋路を呼び寄せた。
「はぁはぁ… はい、トオルさん、僕に何か?」
チラチラと麗菜たちの方を心配して見返りながらトオルに受け答える。
『あの辺に司令塔を作って欲しいんだが、付随して避難砦も欲しい』
洋路はすぐさまにその意図を理解し、広場の中ほどに4mほどの高さの司令塔と砦を拵えた。
「美凪、リー、俺は戦場の把握と指揮に回る。
おまえらは眷属連れて、ハイオークや上位の敵を頼む』
「はいっ!」
トオルは小走りでその塔に向かう。
「ほぉ~もっとアタフタするかと思ったが、案外まとまってるな」
「晴君、うちも行ってもえぇかな~?」
「あはははは、もう少し待てるか?w」
「陽菜は戦闘狂かぃw」
「知り合った頃はこんな感じじゃなかったんだけどねw」
「あなたが私をこんな人間に変えたんでしょ・・・」
「おいおい陽菜wとんでもない事を言うんじゃないぞw」
戦争が始まっていると言うのに、ここではまだほのぼのとした会話が続いている。
「さてとっ、こいつらのお手並み拝見といこうじゃないか」
戦闘はオークとハイオークに任せて、幹部オークや晴彦たちは高みの見物と洒落込んでいる。
樹木で出来たソファーに座って。




