不思議の森の探索8
その男が、やをら立ち上がり歩き出すと、連れの女と大きな狼達も歩き出す。
185㎝くらいの男の身長と変わらない高さのその背中に、ポーンと飛び乗り金狼に跨る。
2人の後をゾロゾロとオークの大軍も付いて来る。
「かなりの大人数が集まっとるようだが、何もんなんだろう?」
オーククイーンの、ウルリカ・テラジアーナと言うレアネームドの女オークが晴彦に問いかける。
「ウルリカらが言ってた赤ゴブリンの連中が押し寄せて来たんじゃないのか?」
「いや、あいつらにしたら人数があまりにも多すぎる気がする」
ダークオークのグルコ・サンサスと言うレアネームドの幹部オークが返答する。
「まぁ誰だろうが、全滅させれば良いだけじゃないの?w」
「あはは、ほんまに陽ちゃんは過激だよねw
でもまあ、ウルリカ達くらいの高レベルの連中がかなりの数揃ってるぞ」
後ろから尽いて来るハイオークの高次元戦闘員たちは、自分達が数百人で掛かっても倒せないどころか、傷一つも負わせられなかった事を思い出す。
「陽菜さんが言うと冗談には聞こえないっすねw」
幹部クラスのカラードオークが笑いながら言う。
「冗談じゃないよ~ 面倒なら殺せば良いだけw」
「おまえら良かったなw
先に出会ってたのがあっちならおまえらは全滅だったぞ(笑)」
「おぉ~怖い怖い(笑)」
「ハルヒコ、マジカ・・・」
眷属契約を結んだことで、絆が生まれているのは言うまでも無い事だ。
幹部クラスを直系に、その他は幹部達の眷属として大きなピラミッドを形成し、ほぼ全員のオークが陽菜と晴彦の眷属となっている。
陽菜たちだけではなく、幹部クラスや上位クラスのオークにも[主格]と[恩恵]と言う、契約によるステータス補正が付き、今までとは比べものにならない位の戦闘力を手に入れた。
「しかし、急にこんなに強くなってしまうと、早く戦闘がしたくてたまらんなぁw」
「今なら陽菜さんらと良い勝負が出来そうな気がするw」
「あほやで、お前が1万人おっても負けるやろw」
元より戦闘意欲の高い種族であるオーク族なので、その力試しをやりたくて仕方が無い。
「さすがに今のおまえらを相手にしたら、さっきのように簡単に蹂躙は出来ないだろうなw」
晴彦が笑みを浮かべて幹部ハイオークに話しかける。
気配察知や感知のスキルで大軍の息吹は感じるが、何も仕掛けて来ない事に疑問を抱く。
「攻撃も何もしてこないのは、ちょっと不気味だな・・・」
「この樹木の牢獄が逆に功を奏してる可能性も高いな」
陽菜が一際高らかに叫ぶ。
「んじゃ~うちらのおかげじゃんw」
「陽菜、それはきっと違うと思うよw」
銀色の体毛の、牛や馬くらいの大きさもあるオオカミが、陽菜と言う少女を諭す。
「まぁ~戦うなら僕らも参加はするけど、お前らは暴走だけはするなよ」
戦闘民族であるオーク族は、戦いが始まると目の前が見えなくなる奴らが多い。
逆に言えば、それは大きな弱点でもある。
狂乱状態のオークは、戦闘力こそ高くとも、戦略が上手く取れない。
闇雲に戦いにいくだけの脳筋戦闘では、知恵のある強者の相手にはならない。
実際に、陽菜と晴彦たちにオークの戦闘員たちは手も足も出なかった。
ハイオークは普通に知能も有り、戦闘における様々な知識も高い奴らが多いので、部隊でも幹部クラスになるのだろう。
自家発電で動く搬入用兼避難用の大型エレベーターに乗り込み、高層棟の10階で降りる。
乗り切れなかった幹部や下っ端共は階段を必死に駆け上がって来る。
上階に着いた晴彦は、そこに樹木の回廊を作り上げて外に全員が並び下を眺められるように、晴彦の固有スキルである[森林魔法]で樹木を操り造作していく。
階段を走ってきた部隊もだいたい追いつき、晴彦らの後ろで息を切らす。
「おぉ~これは天空の回廊か・・・」
10番街中央のマンション上階から東西南北に外に向かって回廊が出来上がり、その回廊は森の外周を廻る様に作られている。
足元はほとんど段差のない滑らかな感じに仕上げられ、魔法の熟練度が高いのが伺える。
西側に見晴台を拵え、そこにゾロゾロとオーク軍が集結していく。
「全員に告げる!ここより殺気は消していくように」
「敵を観察するためだからね、こっちの気配を消せるだけ消してってね~」
(ふふふ、この2人、ゲームを楽しんどるようじゃなw)
とは言え、気配を断てるのは、陽菜達以外ではウルリカたち幹部連くらいのもんだ。
それすら完全に気配を断てるのは陽菜と晴彦と金狼銀狼くらいだろう。
グラウンドでは食事も一通り終わり、片付けをしながら歓談に花を咲かせている時間帯だった。
そこに居る全員が満腹感で気分も高揚し、幸福感の中で危機感など微塵も持たず、只々今の至福の時を満喫していた。
後から合流した戸弩力雅史を始め、戸弩力組の面々も亜人や獣人と仲良く談笑しているようだ。
悪魔軍天使軍魔獣軍戸弩力組を合わせて、総勢200人程が呑気に食事終わりの一時を楽しんでいる。
誰が持ち込んだか分からないが、大量のアルコール類も消費されていく。
「 !」
「 !」
ガバっと振り返り、そして上を見た美凪とリーの2人。
「キ、キングッ!」
『あぁわかっとる・・・』
そこに居たトオル達が見上げた先には、数えきれないほどのオークが樹木塊の上側から、綺麗に並んでこちらを覗き込んでいた。




