不思議の森の探索6
「このあかいオオカミさんはあなたのなかまなの?」
「うん、レンっていうの」
「おおきなネコさんはだれのおなかま?」
「私はこちらの紗衣様の眷属のナーコと言う・・・ニャー」
明日桜に言われた「猫獣人なら語尾にニャ~を付けた方が人気が出る」との言葉を守っているナーコである。
「初めまして~私は紗衣と言います。あなたのお名前は?」
「うちはクレア、あっちにいるのがカントっておにいちゃんだよ」
遠目にクレアが何かされないかと心配しながらカントと奈留が見守っていた。
「うちは久地緑っていうの、いま10さいよ」
「え~わたしとおんなじとしだぁ~」
元々大人の輪には入りたがらない緑と、つまらない喧嘩に巻き込まれたくない紗衣は、眷属達と一緒にトラブルの元凶から離れていた。
緑も、動物好きな紗衣には一際懐いていた。
そこに、眷属に興味を持ったクレアが近づいて行き、話しかけた。
「いいなぁ~わたしもなかまがほしいなぁ~」
「お父さんやお母さんやお兄ちゃんが居るじゃない?」
「みんなはかぞくだから、なかまとはちがうよぉ~」
クレアの言う仲間と言うのが、眷属やパートナーの事を言うのだろうと紗衣は受け取った。
「このちいさい、フワフワしてるねこちゃんはおしゃべりできないの?」
「この子はさよりさんのかぞくだよー」
少しずんぐりむっくりとした中型犬ほどもある茶トラのネコは、知能が高い種族のガリレオキャットと言う、死肉喰らいの猫型魔獣だ。
死肉喰らいと言っても、この種は基本肉食だが何でも良く食べる。
戦闘力が低いため、どうしても狩りよりも死肉を喰らう方が安全で喰いっぱぐれが少ない。
そしてこの子は、唯一飛行スキルを覚えた、なかなか知識の高い芸達者であった
「ねねさま、このこ、わたしのなかまにしたらだめ~?」
「えっ? ・・・」
紗衣は考えた。
先日の戦闘で多くの仲間を失った。
もうこれ以上は減らしたくない。
だけど、この純朴そうな半獣人が欲する事を叶えてあげたい。
それよりなにより、自分の事を「おねえさん」と呼ぶこの半獣人が可愛く思えて仕方が無い。
「ねぇネコちゃん、私の言ってる事、分かるよね?」
ガリレオキャットは紗衣の顔を見つめ、軽くうなずいた。
「この子がね、あなたを眷属にしたいって言ってるんだけど、どうかな?」
ガリレオキャットはクレアの方を見た。
思わず目が合った・・・
クレアは満面の笑みでガリレオキャットを見つめる。
そして、両の手を伸ばして抱こうとしている。
ガリレオキャットは抵抗する事も無くクレアに身をゆだねる。
「ネコちゃん、OKって事で良いのかな?」
ガリレオキャットは首だけを紗衣の方に向け、また軽くうなずいた。
「うわぁ~やったぁ~ ねこちゃん、よろしくね~」
「クレア、仲間にしたいのなら、眷属契約をしないと駄目だよ~」
「あっリーママ、そうなん?やりかた わかんないよぉ~」
麗菜の一件が収まり、ラグレアと共にクレアの傍まで近寄り一部始終を見ていたリーが助言する。
「じゃぁママがやり方を教えるね」
カントが少し羨ましそうに見ているが、男の子だからと狼狽える仕草は微塵も見せない。
「カント、契約のスキルは俺がこっそりと教えたるからなw」
頭を撫でながら、我が子に愛情を注ぐ皇龍鬼のラグレアだった。
「紗衣さんですか?お供の子をありがとうございます」
「いえいえ、あの子の気持ちがクレアちゃんに向いたってだけですよ」
「紗衣さん、お久しぶりです」
「あら、藤浜さんでしたっけ、その説はどうもw」
「あぁ元旦那さんを蹴り上げた事ですか、すみませんでしたね」
「いえいえwあのまま蹴り殺してくれても良かったですのにw」
「女って本当に怖いわw」
「あはははは」
「心して取り掛かるようにねw」
「おぉ~怖い怖い(笑)」
「わ、私は大丈夫ですっ!し、心配しないで下さい!」
「わ、わたしも~」
「お腹空いたなぁ~」
「もう少しだけ我慢してね、お昼はこのグラウンドでバーベキューするからね~」
「やったぁ~お肉だぁ~」
「やほほ~い♪」
「志津と六華はホント食いしん坊だね~」
横で伍樹と美那が小さくガッツポーズをしている。
先ほどの麗菜の事件が嘘のように長閑で穏やかな時間が過ぎていく。
森の周回も4分の1程を残すくらいで、7番街の南のグラウンドに着いた。
時を同じくして、レッドゴブリンのマグナ率いる魔獣軍団も北から南に歩みを進めて来る。
「お~い、マグナッ!」
「おいおいwトオルよ、凄い数の軍勢だなw」
『うちのメンバー全員と、俺の姉の軍団が混じっている』
「マグナさん、夕べ振りですw」
「連絡入れなくてすまんなー ちょっとレイン嬢と一緒に行動してたんだ」
「はぁ~ おまえは何を勝手に鬼分け進化してやがるんだ(笑)」
朝とは雰囲気が全く違うので、鑑定で見た所、鬼分け進化しているし、レイン・リーの眷属になってるし、ステータスも異常に上がってるしで驚くマグナ。
「ついでに嫁が二人と子供二人増えたわぃ(笑)」
「よぉ~言わんわ(笑)」
「マグナさん、みなさんこんにちわー」
「おぅ美凪嬢だったか、その節はどうもw」
美凪が頭を下げた時、マグナの後ろに隠れるように存在する黒いコボルトを見つけたが、今はスルーする事にした。
ただ、心の奥にイライラとする気持ちが沸き上がる。
「皆さん集まったなら、お昼にしましょうか~」
美凪の号令に皆が集まってきた。
『美凪よ、お昼のメニューはどうしたもんだ?』
「お肉や野菜がたくさんあるので、バーベキューにしようと思ってます」
「バーベキューかぁ~・・・』
トオルは思う所があるようだ。




