不思議の森の探索5
不思議な森の南側で一団はしばらく止まっていたが、リーの号令と共にまた時計回りに廻りだした。
「お姉さんたち、お昼はまだですよね?良かったら一緒に食べませんか?」
美凪はこれから魔獣軍と合流し、そしてお披露目も含めた親睦会を開くことを告げた。
獣人たちと食事をする事に、麗菜は少し怪訝な顔をする。
魔物を倒して強くなることが今の世のセオリーになりつつあるのに、その魔物と懇談するなんて…
「あなた、獣人はお嫌いなのですか?」
唐突に声を掛けられた麗菜はハッとした!
(しまった!心を読まれたかっ!テレパスか・・・)
実際には、麗菜の顔が歪な様子を見せていたのと、先ほどから佐助やセイラを見て、訝し気な表情を見せていた事が奈留は気になって聞いただけだった。
麗菜はフッとその声の方向に顔を向けると、横には薄紫色の進化ゴブリンが立っていた。
その傍らに同じく若い進化ゴブリンが並んでこちらを見ている。
なんとなく鑑定でその進化ゴブリン達を見て、その能力の高さに驚愕する。
「ゴ、ゴブリンごときがなんでそんなに能力が高いっ!」
その言葉を聞いて、真っ先にそばに居たリーが麗菜の顔面に拳を打ち付けた。
「今なんと言った?我が夫と慕う御仁に、"ごとき"だとっ?
我が可愛い子供達をも愚弄するのかっ!」
「あなた、人種差別だなんて、今の世に有るまじき行為じゃないですか?」
「さっきから、変な目で俺を見てたのはどう言う了見なんだ?何か文句が有るのか?」
「さっき、私を見て横にツバを吐いたよね?
偶々かと思ってスルーしたけど、今の発言やさっきからの態度を見てたらわかるわっ!」
『どうした?何があったんだ?』
近くに居たトオルが揉め事の輪に入って来た。
そして洋路と加奈子も、麗菜がぶっ飛ばされたのを見ていたので素早くトラブルの輪に入ってくる。
「れ、麗菜さん、大丈夫ですか?」
洋路が覚えたての治癒魔法で麗菜の傷をいやす。
「こんのぉ~いきなり何をしやがるんじゃ~!」
今度はカントとEricaが麗菜に殴りかかっていった。
「僕らを侮辱するなぁ~」
「ゴブリンの偉大さもわからんゴミが何をヌカす~」
それを見ているEricaの眷属の五鬼人は、嬉しい気持ちが込み上げてくる。
自分達の事を親身に思ってくれているのがヒシヒシと伝わって来る。
カント達に続いてセイラと佐助も麗菜に襲い掛かろうとしている。
『ストーップ!」
Ericaとカントが殴りかかる寸前で加奈子の羽で麗菜を包み込んだ。
そして、赤いオオカミのフィルが両者の間に立ち塞がる。
『おいおい、リーよ、どうした?佐助もEricaもセイラもちょっと落ち着けっ!』
麗菜は加奈子に一礼をして、羽の保護から抜け出しフィルを押し退けトオルに指を刺し叫ぶ。
「こらぁ弟~ おまえの部下ならちゃんと躾しとかんかいっ!いきなり殴るとか頭おかしいんかっ!」
『おまえは昨日の朝、8番街で会ったやつだな?
貴崎麗菜か、身の程知らずなのはスキルなのか?w』
トオルがそう言って笑った瞬間には、もう美凪と大海の攻撃が麗菜の頭部と上半身に炸裂していた。
肩の上では、オリンポス12神柱の精霊神ヘスティアが何かの特大魔法を行使しようとしていた。
慌ててトオルはそれも止めた。
『お~い美凪にヒロミw、おまえらまで参戦すんなよw
んで、ティア、おまえもなw』
「キングに仇名す者、愚弄する者は排除対象です」
「雑魚のくせにキングを"おまえ"呼びとか、100回死んでも足りませんっ!」
「このような砂粒にも満たないカスが、我が主を見下す等と、ふざけるでないっ!」
『エ、エンジェルヒール!』
もう瀕死の状態に陥った麗菜に、最上級の治癒魔法を掛けたおかげで、息を吹き返した。
「ぐっ・・・」
「おい女、俺のステを見て驚いていたようだが?
そこに居る連中は俺と同等もしくはそれ以上の奴らばかりだぞ?
お前の様なゴミカス程度のステータスの小者が何をイチビってるんだ?」
「ちょと待って下さい!大勢で寄って集って一人を甚振るなんて酷いです!」
『ここまでやるからにはそれ相応の理由があるのでしょうね?』
珍しく加奈子が憤っている。
「お姉さん、申し訳ないが、その子はこの場で殺されても仕方ない様な発言を平気でしているので、これだけの人数に敵視されているのですよ」
「それと、お姉さんの立場を自分の立場と勘違いして、我らがボスのトオルさんを愚弄するような発言も到底許される事では無いです」
加奈子と洋路と麗菜を取り囲むように、悪魔軍の面々が輪になって3人を睨んでいる。
「よ~く見とけよ、人間には無い力を手に入れたら勘違いする奴が必ず居るんだ。
しかし、人間相手には無双出来るかも知れないが、同じように進化した人も沢山居るって事。
その中には運の強い者、努力を怠らない者、的確な指導者を持った者なども居るって事だ。
そんな連中に、普通の進化をしただけでは絶対に敵わない。
それを理解せずに、根拠のない自信を持つ奴が、あぁなるんだよ」
藤浜武人の横に居る7人の眷属、そしてその横には6人の眷属を携えた豹人のジャックが居る。
その後ろには同じく7人の眷属を連れた、坂東瑛伖 の姿もある。
藤浜武人が指さす方向には、瀕死ダメージを負って、治癒が済み、へたり込んでいる麗菜が居た。
「お姉さん、どうも!掛井橋五十惟と申します。
元々は彼女の気配りに欠ける発言から始まったのですが・・・
一言謝って頂ければ穏便に済む話なのですけど、そんな事出来ない性格ですよね?w
自分は何も悪くないって思ってますよね?
でもね、あなたの発言で深く傷ついた人も大勢いらっしゃるのですよ?
こんな世界になって、色んな人種が増えて、人じゃない者も同じ土俵で生きているのです。
好き嫌いがあるのは仕方ない事だけど、お互いにもっと歩み寄れると思うのですが。
だから、一言謝って頂けませんか?
そうすればこの場は何も無かった事に致します」
「・・・」
「麗菜さん、ここは素直に謝っておきませんか?」
「はぁ~?なんで?誰に?」
「一番はラグレア殿だろうが、そしてキング、いやさ、櫻庭通様にもだろ!」
「勘違いすんなっ!
お前の御主人は貴い御仁だが、おまえは単なる眷属だと言う事を忘れるなっ!
主人が偉けりゃ自分も偉いなんて、思い違いをすんなよっ!
この世は力が全てになった事を認知しろっ!」
麗菜は鑑定でリーや美凪、そしてトオルのステータスを覗くが、それほど大したもんでもない。
それなのにこいつらは何を言ってるんだ・・・
そんな気持ちが顔に出ていたのだろう。
『貴崎麗菜、おれらのステを見てるな?
みんな、隠蔽を一時解除しろ、そしてこの馬鹿女に真実を見せてやれ』
「なっ?・・・ ・・・」
隠蔽を解除したリーや美凪のステータスは驚くほどの高さだった。
先ほど見た進化ゴブリンのラグレアと同等、もしくは上をいっている。
(あの薄紫のゴブリンが言ってた事は本当だった・・・)
あまり強そうに見えなかった、掛井橋五十惟や藤浜武人でさえ、自分の主である櫻庭加奈子よりも上だったのも驚愕だ。
そして、弟と呼び捨てていた櫻庭通のステータスはとんでもないモノで、到底自分の力では、何人居ようが敵う訳も無いほどの戦力差だった。
『どうだ?力が全てだと言った意味が分かっただろう?
何を根拠にそんなに自信過剰になっているのか分からないが、おまえは雑魚だという事だ。
その辺を踏まえて、もっと精進するこっちゃ』
「・・・ すみませんでした・・・」




