不思議の森の探索4
トオル達一行は10番街の南ゲートがあった場所の前に居た。
そこには、6mx10mくらいの大きさで、うねうねとした不思議の森の樹とは違う直立の樹木が10数本ほど立ち並びその入り口の様な開口部分を塞いでいる。
直立の木は[トレント]と言う名の樹木性魔獣だった。
戦えばトオルの今居るメンバーなら何も問題なく粉砕できるだろうが、その奥から漂う異様なレベルの気配を危惧してしばし足を止めている。
そんな折、後方の南の空から新たな強い気配が近寄ってくる。
トオルは勢いよく振り向き、その方向を見つめる。
気配探知や索敵の熟練度の高いリーと美凪もトオルよりも素早く後ろを振り返る。
その行動を見ていたメンバー達は、一斉に後ろを振り返った。
そこには、空を舞う白く大きな翼を羽ばたかせた女を先頭に、数人の飛行部隊がこちらに向かって来る。
眷属達は、ゴクッと唾液を飲み込み身構える。
『あら~トオルちゃんじゃない~』
『はぁ~ おまえかよっ・・・』
--少し前の埋立地居城--
『ただいま~』
「あっ加奈子さん、おかえりなさい」
「おかえりなさ~い」
「おかえりニャ~」
「ニャニャ~ミギュウ~」
紗衣と、眷属のウェアキャットのナーコの周りには、ガリレオキャットやガリレイラットが大勢で戯れている。
先の戦闘で、当初よりもかなり数は減ったものの、まだまだ40匹~50匹くらいは居るだろう。
ほとんどの子がもうレベルも付いて活動範囲も著しく飛躍している。
飛躍と言っても、空を飛べるわけではない。
何も無い埋立地に、見事な石造で出来た、城や砦が出来上がっていた。
真ん中の砦は紗衣の造作で、大きな中庭には猫たちや鼠たちが走り回れるサッカーコート10面くらいの大きさの、芝生を敷き詰めたグラウンドがある。
最奥には、洋路の作ったキャッスル(城)がドデンと鎮座している。
一番手前は加奈子が作りかけの、やはり城の様な感じの石造建造物がチョコンとある。
『みんな~ちょっと集まって~』
上空から加奈子が眷属達に話しかける。
『10番街の周りに変な森が発生してるから、ちょっと様子を見に行こうと思うの』
朝礼の行き帰りに見た森を調べてみたくなった。
朝の会で報告はあったが、自分の眼で見てもおかしな森だと感じる。
「今、麗菜さんが水中戦闘の訓練に行ってるので、帰ってからで良いですか?」
『水中訓練?またなんでそんな事をw』
「この辺は水中生息する魔物が多いから、水の中でもどこでも戦えるようにと」
『緑ちゃんやあやかも行ったの?』
「面白そうだからと一緒に尽いて行きましたw」
『じゃぁ帰ってくるまで、私の分担のお城でも作っておこうかな』
そこそこの時間を各自が自分のやりたい事に費やして、太陽も高くなった頃、麗菜たちが揃って帰って来た。
「ただいま~」
『おかえりなさい~』
「どうでした?成果は」
「あんね、おもしろかったよ~
さいしょは海の中がこわかったけど、あわのなかに入って、たのしいの~」
「レベルもちょっと上がったし、水の中での戦闘も出来るようになったし!」
「最初は酔ったけど、慣れると水中も面白いね~」
『みんな、ちょっとこれから付き合ってもらえるかな?あそこに行きたいの』
遮るものが少ないため、10番街に覆いかぶさっている森はここからでもハッキリと見て取れる。
「あれは?」
「あんなとこに森林公園とか無かったよね?」
子供である緑はあまり興味が無く、眷属の子狼とネコネズミと戯れている。
『昨日、急に現れたらしいの、クランの議題にも出てたから、私たちも見に行こうと思うの』
「面白そうですね~ 行きましょう!」
「明日桜さんと向こうで落ち合う予定なので、ちょうど良かったです」
『紗衣さんはネコちゃんたちを連れて行く?』
「はい、この子だけ空を飛べるようになったので連れて行きたいと思います」
茶トラ模様のガリレオキャットが飛空スキルを覚えたので、ナーコとあちこち行く時には連れて歩いている。いや、飛んでいる。
『それじゃ~行きますか~』
もうそろそろ11時を回る頃なので、お昼前には徳太郎や明日桜と合流したいと加奈子は考えていた。
昼から特に何をする訳でも無いのだが、軍団全員で集まる事が有意義な行動だと思っている。
埋立地の端の加奈子の制作居城から皆が飛び立つ。
「あっ、森の前に大勢の人が集まってますね」
「ん~戦闘している様には見えないけど、市場でのことがあるから、みんな気をつけて」
その集まりを見ると、少なくとも数10人、もしかすると100人程も人が1カ所に固まっている。
その集まりに近づいていくと、軍団の心にかなりの緊張感が湧いて来る。
(もう2度と敗走などしたくない!)
『あら~トオルちゃんじゃない~』
『はぁ~ お前かよ・・・』
『おまえとは、またずいぶんな言い草ねw』
「お姉さんこんにちわ!
今、この森の様な結界を調べてたんですよ。
それで、この中から、今までにない異様な気配を感じているので、皆躊躇していたんです。
そんな時に強い戦闘力の気配を漂わせて、お姉さんが現れたから緊張の度合いが高まってw」
『そうなんですね、ごめんなさいでした』
『いやいや、謝らんでもいいけど、ちょっと戦闘になるかと身構えてただけだ』
「お姉さん、あのお城みたいなのはお姉さんのスキルだと聞いたんですが?」
「あぁ横からごめんよ、俺は棒妻洋路と言う。
あの城は、僕と加奈子さんと、こっちの紗衣さんで作った物だよ」
「どうも初めまして、私は掛井橋五十惟と言います。
クランの事務関係及び管理調整しています。
お願いがあるのです。
その石組のスキルで新しい調理場を作って欲しいのですが」
『調理場と言うのは?今の給食室代わりの部屋じゃ狭いからなのかな?』
「違うんです。調理をお願いしてる人たちの火力が高くなってしまって、既存の調理台じゃ全力でお料理が出来ないんですw」
加奈子と洋路は、五十惟の後ろでうなずいている人々を観察して見てみる。
みんな調理と料理のスキルを持ち、生活魔法の火魔法と水魔法を習得している。
その力で調理をするのだろうが、確かに既存の調理台だと火事の危険がずっと伴ってしまう。
「わかりました、ではどのような設計にすれば良いのかまた打ち合わせをしましょう」
『じゃぁ洋路に任せておくわね、紗衣さんも手が空いたら助けてあげてね」
「はいっわかりました」
紗衣は頼られた事が少し嬉しかった。
石造魔法を覚えて良かったと心から思っている。
「トオルよ、あの女性は?昨日の朝に偵察に来てた赤いオオカミを連れた女が居たが?」
『あぁ俺の実の姉だ、まぁ家族の縁は斬ってるから他人みたいなもんだけどなw』
「ほぉ~さすがに強いなぁ…クレアとカントの2人掛かりじゃないと勝てなそうだ」
『まぁな、昨日の朝か一昨日まではこの島の中じゃ最強だっただろうからな』
「今じゃ俺の嫁にも到底勝てないだろうな(笑)」
『ん?奈留はそんなに強いのか?ステ見ても到底勝てそうにないが?』
「いやいやwレイン嬢の方だよw」
「はぁ~? いつの間にそんな関係になったんや~」
お互いに好きだとも言って無いし、ましてや肉体関係も無いが、リーとラグレアはお互いに惹かれ合って主従関係を結び、心の中では夫婦として行動している。
第一夫人の奈留も、リーなら仕方ないと心を許している。
クレアとカントもリーには特段懐いている事もあって、嫁二人の関係は良好である。
ニヤケるラグレアと照れるリーを、悪魔軍の幹部達はジト目で視線を送る。




