七つの仔、強くなりたい心
7人の眷属は歩くたびに、その表情に明るさが戻って来る。
「主様、こんな身体でも強くなれますか?かなり不安です・・・」
藤浜セブンズの中では一番背の低い女性が強さに憧れる。
「あぁ、その前に、俺を呼ぶときは"武人"と呼ぶようにな。
それで、強くなれるか?ってか?心配するな、俺が強くしてやるから安心しとけw
強さとは、身体の大きさや筋肉の加減じゃない、スキルとステータスが全てだ」
「た、武人様、私は運動音痴でとてもどんくさいです・・・
トロくさいと言われ、それが理由であんなところに追いやられたんです・・・
強くなりたいけど、私には無理そうな気がします・・・」
「"様"は付けなくていいぞ。 今まで運動が出来なくても、進化すれば身体強化に対応できる強い肉体とそれを操れる神経系統が出来上がる。だから問題は無い」
この2人は差し出した手を取った2人。
未来に向かおうと抗っているのが少し見える娘たちだった。
「そういや、まだ自己紹介もまだだな、俺は藤浜武人と言う」
鑑定で見ているので、名前くらいはわかっているが、礼儀としての自己紹介だった。
だが・・・
「た、武人さ・・・ん、 わ、私は新しく生まれ変わりたいんです。
今までの人生が嫌だった訳じゃないんですが、あんな事があって一度人生は終わってます…
それを救って頂いた た、武人さんに新しく生きるためのお名前を頂けたら嬉しいです」
「今までの名前を捨てると言うのか?
今まで生きて来た自分自身の人生を否定するようなもんだぞ?」
「わ、私も出来れば違う自分になりたいです・・・」
「ふむぅ・・・」
武人はざっと見回して他の娘たちにも聞いてみた。
「おまえらも人生を新しくやり直したいと言うのか?」
「はいっ・・・」
集団心理だろうか?2人の女性が言う"新しい自分"と言うフレーズに心が揺り動く。
「言っとくが、名前を変えるって事は、芸名やハンドルネームとは訳が違うんだぞ?
もう二度と元の名前は名乗れないし、名乗ったとしてもそっちがサブネームになるんだぞ?
名付けとは、魂に名前を刻むって事なんだからな?
それでも良いのか?」
「はいっ!」
少し躊躇いがちな子も居るには居るが、全員が名前を変える事に同意をしている。
「よしっ! わかった!
藤浜武人の名に措いて命ずる 汝の名は"壱華"」
最初に話しかけて来た娘を壱番目の意味を込めて壱華と名付けた。
「汝の名は、"芙美"」
「汝の名は "美那"」
「汝の名は "志津"」
「汝の名は "伍樹"」
「汝の名は "六華"」
「汝の名は "奈帆"」
七人の戦士候補にそれぞれ名前を付けた。
「今更だけど、本当に良かったのか?」
「はいっ♪」
「ん、なんか強くなれそうな気がしてきました・・・」
名前を付けられた事で、より一層武人に対する気持ちが昂り、暗闇の世界から解き放たれる想いに駆られる。
「なにか・・・ 心の奥底から暖かいものが込み上げてきます・・・」
武人は何気に壱華のステータスを覗くと、無レベルの割に少々高めのステータスに変わっていた。
(ほぉ~名付けでも少しステは上がるんやな)
今朝は色々と新しい事を発見したので、帰ったらキングや他の仲間に報告しないとなと藤浜武人は思った。
そして後ろを振り返ると、9人の新人達がボソボソと尽いて来る。
眷属にした子たちは思いのほか元気になったのに、元々元気だった子達の方が元気が無いとはどう言う事なんだと考える。
やはり、眷属化やレベル付きにならないとポジティブな心にはならないのだろう。
小学校の南から、門を飛び越えて出て来た藤浜とリー達だが、帰りは一般人や進化ゴブリンも居るので、北の中学校の正門に向かって歩く。
手前の大通りを北上し、6番街を横に見て東に折れて中学校を目指す。
6番街の入り口付近でリーが立ち止まり、エントランスの方を見ている。
「リーよどうした?」
「あぁ誰かがゴブリンと戦っているので見てただけだ」
横で龍鬼の子供達が戦いたくてウズウズしているのが面白くて、思わず壱華と扶美は笑い出した。
(笑顔が出るようになったなら、もう大丈夫だな)
武人が中を覗くと、そこには知った顔がいくつもある。
「おぉ~徳爺、儲かってるか~w」
「おぉ~藤浜君、まぁボチボチやなw」
「知り合いなのか?」
「あぁ俺が居る戸弩力部屋の連中だよ。
キングのお姉さんの眷属も何人か居るな」
そこには、徳太郎を始め、爺婆たちがレベリングに励んでいた。
トオルの姉、加奈子はここには居なかったが、加奈子の直眷の徳太郎や明日桜たちが居た。
戸弩力組の須布来人や半田檸檬たちも居る。
「トト様、ここで狩ってもよろしいですか?」
クレアもカントも戦いたくて仕方が無かった。
「クレアもカントも、これからダンジョンに潜るんだからもう少し我慢しなさいw」
「はぁ~いっ」
「うんっ良い返事だw」
「もぅ~あまり甘やかさないで下さいなw」
しっかりと妻と母を全うしている奈留であった。
「んじゃ~徳爺、みんな~ 怪我しないようにな~」
「おぅ、おまえもな~w」
藤浜達は6番街を東に曲がり、中学校を目指す。
中学校の正門の番をしている人達に挨拶をして、一行は中に入って行った。
「おいっ、獣人と、肌の色の違う人?も居たな・・・」
「あぁ・・・ こんな世界だ、色々とあるが一々驚いてられんわ・・・」
人それぞれ程度の差はあれど、そろそろみんながこんな世界に順応してきている。
終わりが有るのか・・・
このまま終わらない世界なのかさえ分からない、そんな現状でも生きていかないといけない。
そして
生きていれば、何もしなくても腹は減る。




