確執
ラグレアと奈留と2人の子供が部屋から出ようと動き出したので、狐目の女は見つからない様に、忍び足で先に階下へと逃げるように降りて行く。
ザワザワ ガヤガヤ ヒソヒソ
「ゴブリンの仔を連れて来たよ・・・」
ラグレア一行を見た女子会館の避難民達が非難の言葉を軽くつぶやく。
目の前に居る進化したゴブリンには忌避感は覚えないが、人が産んだゴブリンに対しては思う所がある。
「こいつらは俺の眷属となり俺の庇護下にある、文句がある奴は今ここで言えっ」
そう言われて文句を言う者も居ないが、元々のラグレアの部下が不満を漏らす。
「ラグレアさん、俺もその眷属とやらにして下さいよ~ 不公平やぁ~」
「なぜ俺らを差し置いてその女なんですか?まずは俺らじゃないですかぁ?」
ラグレアは魔獣軍の中でNo2の位置に居るが、直属の部下も部隊も持っていなかった。
ハクビシンやイモリ人等、少数のラグレアを慕っている連中が尽いているだけだ。
ラグレア自体、自分の部隊など必要だとは思って無かった。
だが、現在7番隊まであるうちの1番隊が今は消滅している。
2番隊、6番隊は任務の為、島には居ない。
少なくなったのを補うためにも新しい部隊の必要性を考えている。
1番隊 --クロコ-- 死亡
2番隊 フーレン*他5名
3番隊 黒コボルト(レド)他5名
4番隊 人間(浦山椎勿)他6名
5番隊 大耳狐他1名
6番隊 ドレイク*他4名
7番隊 黒豹人
0番隊 18名
自分自身が部隊長になるつもりはサラサラ無いけれど、その人材を育てていく気持ちは大いにある。
クレアとカントを早急に育てて戦闘部隊の隊長に据えたいと考え始めた。
「おまえら、本当に俺の眷属になるつもりか?」
「もちろんです」
「ラグレアさん以外にボスは考えられません」
「よしっわかった」
「ちょっと待って下さい、私もあなたの眷属にしてもらえませんか?」
「はぁ?急にどうした?」
「あなた様、あなた様が他の女とどのようなご関係になられても私は容認できます。
が、この女だけは絶対にお辞め下さい。
私の子を殺した憎むべき女です・・・」
「それは悪かったが、仕方なかっただろう・・・」
「人の子を殺しておいて、仕方が無いで済ませられるその神経が理解不能ですっ!」
「自分の子じゃないやろうに、あんたは父親が誰か言えるんか?」
「ち、・・・ ち、父親は・・・ ラグレア様じゃぁぁぁぁぁぁ」
「・・・」
(なにやらまた香ばしい匂いがするw キングの影響かな?他人の揉め事が楽しくてしゃ~ないw)
「い、今ここで殺ってもたろかぁ~~~」
興奮する奈留を後ろから片手で抱きしめて、ラグレアが女に断りをいれた。
「まぁそう言う事でお前を眷属にするのはちょっと無理だな」
ラグレアは狐目の女にそう言い放った。
だが、何を思っての行動なのかは良くわからないが、狐目の女は食い下がり、またしても眷属にして欲しいとしつこく懇願してくる。
「なぁっ?なんでそんなに俺の眷属になりたがる?
まだ、こいつらが言うならわかるが…」
そう言って、ラグレアはヤモリ人とハクビシンに目を向けた。
2人はニコリと微笑み返す。
「あ、あのぉ~ラグレアさぁん・・・」
クールな雰囲気を醸し出していた狐目の女が、急に恋する乙女の様な甘ったるい声を出す。
「どうした?俺の仲間になりたい特別な理由でも有るなら言ってみろ」
「は、ハッキリ言いますっ!あなたが好みのタイプだからですっ!」
「はぁ?」
「あはははははははっ!」
「おいおいっw あんたなぁ(笑)」
「さすがはラグレアさんっ! 羨ましいですっ!」
「な、なおさら許せませんっ!とっととどっかに消えて下さいっ!!!」
「駄目ですかぁ?」
甘ったるい声でラグレアに問いかける。
今までもこうやってギャップを醸し出しながら男を誑かしてきたのだろう。
「悪いがなぁお前を眷属にする訳にはいかんっ!理由は言わずもがなだろう」
「 ・・・
わかりました・・・
だが、おまえら2匹は必ず殺すから覚悟しとけっ!」
狐目の女はカントとクレアを睨んで怒声を飛ばした。
「匹とか言いやがって~!今ここでおまえを殺すっ!」
奈留はそう言うや否や、狐目の女に飛び掛かる勢いで跳ねた。
しかし、その攻撃は軽く躱され、奈留はエントランスの床に盛大にゴロゴロと転げ回った。
それを見ていたクレアとカントは反射的に、狐目の女に素早い攻撃を仕掛ける。
ドゴッ! ボゴッ! グフッ…
(ヒュン)
《か、かあさまになにをする》
《このにんげんはころすっ!》
奈留の頭の中に、2人の子供の声が飛び込んで来る。
《な、なに?カントとクレアなの?テレパシー?》
4人のスキル欄に【念話】と言うスキルが増えていた。
《えっ?なっ?お、おまえらw無理をすんなよw
(これはまた便利なスキルを覚えたもんだ…)》
カントとクレアの攻撃に吹き飛ばされた狐目の女は座ったまま二人を見つめ、開いた口が塞がらない。
「なっ?なにが起こった?」
ひ弱なミニゴブリンの攻撃に大きなダメージを負わされた事が不思議で仕方が無い。
(うちのレベルはもう16になっているのに、こんな子供に飛ばされるとは…)
「もう辞めておけっ!女、おまえにこいつらは殺せない」
狐目の女のステータスを見たラグレアは、そのステ数値が二人の子供よりも低い事を知っている。
吹き飛ばされてヘタる狐目の女。
そこに同じ様に借り腹にされゴブリンを産み落とし、そして発狂し、それを殺した後に自我が崩壊し掛けたのを助けられた女達が、狐目の女を庇うように覆い被さった。
「クッソゴブリンのくせに、人間様に攻撃するとは生かせておけんっ!」
「く、葛葉さん、大丈夫? あいつらはうちらが殺すから待っといて」
ラグレアはその女達を止めようかどうしようか迷っている。
リーはニタニタとその戦況を見つめている。
藤浜とジャックは、関係の無い目の前の女達を庇うように両手を拡げガードをしている。
心の中では(俺、かっこいぃ~)とか思っている事だろう。
身構えるクレアとカントにラグレアが念話で話しかける。
《お前らなら勝てるだろうが、油断はするなよ》
《はい、トトさま!》
《とうさま、まかせてください》
《もしもの時は私も加勢します》
《やめとけっ!》
《・・・》
結論は、戦わせる事にした。
そして横でにやけて見ているリーに小声で話しかける。
((レイン嬢、あいつらを戦わせる事にしたから、仲裁は不要だ))
((はいはいっw絶対に止めませんよw))
リーは何気なく2人の子供のステを見てみた。
((なっ?ラグレア殿、この子らのステは一体なんなんだ?))
ラグレアはリーの問い掛けに、ニヤリと薄気味悪く笑って返した。
((まぁそうゆうこっちゃねw))
何かを悟ったように言い放ったが、実のところあまり分かっていなかった。
Ericaが、スキルの【ゴブリン操作】を使って何かしたんじゃないかと思っていたが、先ほどからEricaがラグレア達に接触した様子は無い。
エントランスの中ほどに位置し、新しい眷属達とこちらの様子をチラっと見ながら、何かやり取りし、談笑をしているようだ。
(しかし、この子らの能力の高さにはビックらこいたなぁ…)
リーは子供らの高ステータスを見て、将来が凄く楽しみだと思い至る。
それと同時に、今戦おうとしているレベル10は超えているこの女子達とどこまでやれるのかも楽しみだあった。
心の中で少しだけ応援する。
(がんばれぇ~ガキンチョ♪)




