女子会館 プロポーズ?
3階に上がって来たラグレアと細目で理知的な顔をしている女が、とある一室のドアをノックする。
コンコンコンッ
もちろん返事は無い。
部屋の中には自分の子宮から産まれて来た、異形の生き物2人を抱いた女が蹲ったまま微動だにしない。
ドンドンドンッ
「おいっ!開けるぞっ!」
そう言って断りを入れてから、ラグレアはドアノブをスキルで破壊し、部屋の中にズカズカと入って行った。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~
こないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~
もうこれ以上殺さないでぇぇぇぇ~~~~~
出てってぇぇぇぇ~~~」
「ちょっと落ち着きぃや、取り敢えずその魔物の子をこっちに渡し」
「こんの~人殺しがぁ~ おまえは絶対に殺すぅ~」
ゴブリンの仔を抱えたその女は、殺意のこもったキツイ目で狐目の女を睨みつけた。
3人居た子供のうち、庇いきれなかった1人を、この女が目の前で殺した時の恨みを忘れない。
「あぁうちを殺したいんやったら殺したらえぇよ、そやけどそれこっちに渡しって」
「"それ"とか言うなぁぁぁ~~~」
黙って聞いていたラグレアだが、どちらの気持ちも理解出来るだけに少し躊躇していた。
だが、ラグレアの心の中では、ゴブ母を救済したい意志が高まっていく。
「すまないが、この女と2人で話をさせてくれないか?」
「はぁ? わ、わかりました・・・」
女は渋々ながらその部屋を後にした。
だが、気になる感情を押さえられずに、ドアの外で中を伺いながら待機する。
「おい女、俺はラグレアと言う、元は海ゴブリンだ」
「・・・」
「おまえは今後、どうしていきたい?その子供を抱えてどう生きていきたい?」
「・・・」
「・・・」
しばしの間、沈黙が続き、気まずい雰囲気が漂う空間に2人は浸る。
「・・・」
考えた挙句、ラグレアはしばし前から考慮していた事をその母親に告げた。
「おまえら、俺の眷属にならないか?現状それが一番おまえらが生き残れる可能性が高い選択だと思うが、どうする? いや、そうするべきだなっ」
「・・・」
「いくつか聞いても良いですか?」
「あぁなんなと聞いてくれ」
「え~っと、海ゴブリンって何ですか?」
「はははっ お前の子は森林ゴブリンと言って、薄黄緑色の体色をしている。
ほとんどの奴が森や草原で狩りをしたり、果実などを採集して暮らしている。
我らは薄紫色の体色で、水辺に近い場所で生息している。
ゴブリン種で唯一水に潜れて水棲生物を狩れる種族だ」
「・・・ そうなんですか。
あと、眷属って?奴隷みたいになるのはもう嫌です・・・」
「・・・ ん~奴隷とはまた違うがな。
俺に寄り添って生きて行けば良いだけだ。
ただ、戦闘力を身に付けて、自分達は自分達で守れるくらいに強くはなって欲しいかな」
「よ、寄り添え? つ、妻になれと?プ、プロポーズッ?」
「がはははっ! それもまたちょっと違うような気がするぞw」
「そ、その眷属になればこの子達は助けてくれるんですか?」
「その子達も俺の眷属になって貰うんだから、誰にも手出しはさせないぞ」
そこまで言われて、その女性は深く考えだした。
(どうしよう…
とにかくこの人に尽いて行けばこの子らは助かる…
か、彼氏も出来た事無いのに、いきなり嫁?とか…
でも、凄い筋肉だし、イケメンだし… )
「私は 羽々仁 と言います、下の名は奈留と言います。
あなたのご提案を受け入れたいと思いますが・・・
私達の事を大事にしてくれますか?」
「んっ?もちろんだっ!それは俺の務めだろう(ボスとして)」
「それでは宜しくお願い致します(嫁として)」
「おぅ!任せておけっ(ボスとして)」
「終生お供いたします(妻として)」
汝 我が眷属となりて
我に従い
我を助け
我を見守り
我と共に生きると
誓かうか
「はいっ♪」
「コヴェナントッ!!!」
奈留と子供たちは、淡い光に包まれて暖かい気持ちでラグレアの眷属となった。
「今後とも宜しくお願いします、あなた様に尽いて行きます(妻として)」
「おぅ!おまえたちはこれから俺と共に生きてもらう(眷属として)」
2人のゴブリンの子供も母の加護から離れ、ラグレアに主人に対する熱い視線を投げかける。
「よしよし、お前たちには名前を授けれるようだ、こんな力が手に入るとはなぁ」
自分の手の平を見つめ、開いたり閉じたりしながら感嘆に耽る。
実際には眷属化の付帯スキルなのだが、本来ならば"名付け"とは高位の術士が多大な魔力を行使してやるものだ。
「ん~なにが良いかな~、あれっ?おまえは女の子か」
ベビーの2人の性別は女と男であった。
まだ幼体のために詳しくはわからなかったが、良く見ると股間が違う。
「うん、我が名に措いて名付ける、汝の名はクレア!」
女の子のゴブリンの身体がほのかに光ったように見えた。
「おっ?おおおっ?おいおい(笑)」
クレア・ナル・バクシャス(10)
Lv0
種族 【ノルゴブリン】 選択
職業 【】 選択
恩恵 【】
称号 【深き愛を受けし者】
状態 【深情-羽々仁奈留】
基本能力一覧
GMR/USP+
HP 201/152<+49>
MP 195/147<+47>
STR 178/135<+43>
DEF 176/133<+43>
AGI 177/134<+43>
DEX 172/130<+42>
INT 173/131<+42>
SP/0
基本技能一覧
言語理解 戦闘鋭敏
耐性一覧
恐怖耐性
0/0
「凄いなぁ・・・ いきなり超レアネームドになったぞ・・・ 俺の眷属だからか?」
「どうゆう事ですか?」
「うん、普通のモンスターは名前を持つとネームドと呼ばれるんだ。
そして、名を持つ事で、通常個体よりもかなり強くなるんだよ。
そのネームドの中で、名字と名前のある者が極たまに居るのだが、それをレアネームドと言う。
もちろん、普通のネームドよりも強いのは当たり前だ。
さらに、ミドルネームを持つ超レアネームドと言われる強者が居るのだが・・・。
まぁ俺は元々の血筋が上位貴族だったので、超レアネームドだった訳だが・・・
名付けで術者の名前まで受け継ぐなんて聞いた事も無い・・・ 俺の娘かよw」
「それはこの子が強い子だって事ですか?」
「ふっ、強いなんてもんじゃないわ(笑)
まだレベルも付いてない状態で、特技や耐性を持ってるし、ステが笑うぐらいに高いw
普通のレベル10~12相当位の強さだ、今で・・・
このまま普通に育っても、俺を追い越すだろうな」
ラグレアは自分の眷属になったこの子らが愛おしく感じて来た。
奈留に対しても、家族の様な仲間の様な深い情が沸き上がる。
「じゃぁお前にも名前を付けるとするか」
男の子は嬉しそうな顔でラグレアの顔をジッと見つめて微笑む。
「よしっ、我が名に措いて名付ける、汝の名はカントだっ!」
一瞬、身体が光を放ったように見えて、男の子はカントと言う名になった。
カント・マムル・バクシャス(10)
Lv0
種族 【ノルゴブリン】 選択
職業 【】 選択
恩恵 【】
称号 【異種母を持つ者】
状態 【深情-羽々仁奈留】
基本能力一覧
GMR/MSPR+
HP 233/161<+72>
MP 49/49
STR 203/140<+63>
DEF 192/135<+57>
AGI 206/141<+65>
DEX 88
INT 38
SP/0
基本技能一覧
言語操作 身体強化¹
耐性一覧
苦痛耐性
0/0
(おや・・・こいつもまた名を受け継ぐか・・・
クレアはバランス型でカントは超戦闘特化だな・・・
いやはや、2人とも末恐ろしいわぃw)
「奈留よ、この子もまた強者だな、まったく、驚くわい・・・」
「あなた様、私はどうなんでしょうか?」
人間は変わらないだろうと思いつつも、ラグレアはそっと奈留のステータスを覗き見た。
羽々仁奈留(19)
Lv0
種族 【人間】 選択
職業 【】 選択
恩恵 【】
称号 【母の愛】【愛を奏でる者】
状態 【情愛―クレア…】【情愛―カント…】【発情―ラグレア…】
基本能力一覧
GMR/UPR+
HP 15/15
MP 10/10
STR 6
DEF 21<+11>
AGI 4
DEX 5
INT 4
SP/0
基本技能一覧
堅固防衛 堅固減痛
結界術-[物理障結界]
耐性一覧
恐怖耐性 威圧耐性 物理耐性+ 飢餓耐性
0/2
「がっははははっ! おまえもかっブルータスw」
「な、なにがおかしいのですか?」
「あぁあはははっ、とにかく防御に徹した堅牢堅固なステだ、おまけに結界術とかw
奈留よ、おまえは殴られても痛くなかったんじゃないのか?」
「そういえば、後半は痛くなかったかも?身体が麻痺してるんだと思ってました」
あははと高らかに笑いながら、ラグレアは奈留の火照った唇にキスをした。
(あわわわわわ、ファーストキッスだぁ・・・)
(奈留のステ画面で出てた、【状態】の"発情"が凄く気になる・・・)
そんな4人の様子をジトっとした眼で狐目の女が覗いていた。
(話は良く聞こえないが、どうやら和解はしたようだな・・・)




