女子会館 進化
不審な男達が近づいて来るので、女子会館の女性達は逃げる態勢を崩さない。
「あれっ?あの人って人間じゃないよね?」
「顔が豹だね・・・」
「そっか、あんたらあの時おらへんかったんやな」
「うちらを開放しに来てくれた人らやな、他にも獣人の人ぎょ~さんおったけど」
女子達は、夕べ助けてくれた獣人と人達をちょっと値踏みしながら覗いている。
「も、もうそこまで来たで~ ど、どないするん?」
「・・・」
「・・・」
「なぁあんたら、どこにも行かんのか?なんでまだここにおるんや?」
武人なりに優しく話したつもりだが、横で目が血走った豹人が鼻息も荒く女達をガン見するので、恐怖で顔を引きつらせる。
「ジャックw、ちょっと落ち着けw」
ポンポンとジャックの肩を叩くと、やっと我に返ったようだ
「あっ・・・ す、すみません・・・」
フッと笑う武人に対して、興奮していた自分の痴態を恥ずる。
「もうあんたらを縛るモノは無いはずだが?なぜ逃げない?」
「1階には強そうなモンスターがおったから出れなかったし・・・」
「だいいち、どこに逃げればいいのかもわからないし・・・」
「逃げたところで何か変わるのかなって…」
「でも、ここに居てもやがて食料が尽きるだろうし、物資も何もないやろ?」
「そうやな、自分らで調達できるならえぇけど、外は魔物も多いし悪人も多い」
「・・・」
「まぁここに居る奴ら全員集めてくれないか?私も関わってるから後仕舞だけはしときたい」
進化の終わったゴブリン達と一緒にリー達も女の方に寄って来ていた。
「あぁ・・・ はいっ・・・ わかりました」
そう返事した女の子ともう1人、そして2人残して上にあがっていった。
「昨夜はすみませんでした・・・」
女は深々と頭を下げた。
「ん?あの戦闘の時に居たのか?」
「はいっ、あの男の前で防御壁として立たされてました…」
「もう洗脳は解けたのか?」
「いえ、自分は元々洗脳はされてませんでした。怖かったからアレに従ってただけです」
「それで、お前たちはどうしたいのだ?」
「ん~・・・ これと言った考えは今のところ誰からも発案されてません・・・」
そんな会話をしているとゾロゾロと上から女達が降りて来た。
「お姉さん、これでだいたい全員です・・・」
「だいたい?まだ上に残ってる奴が居るのか?」
藤浜とジャックが降りて来た女性達の人数を確認している。
「ざっと27人ですね」
「あぁ俺の見立てでも27人だな」
「で、あと何人くらい上に居るんだ?」
「あと・・・ 1人だけです・・・」
「そいつはなぜ降りてこないんだ?」
「・・・」
「・・・」
「言い難い事なのか?」
「実は・・・」
1人の女性が重い口を開き始めた。
「あの魔物の襲来の時は、この会館に50人くらい居たんです。
男性は12人居ました・・・
男性も女性も何人かは力を手に入れて魔物と戦っていました。
最初の頃は事務長が仕切って全員を上階に退避させてたんです。
でも、食事の支度は食堂まで降りないと駄目だから力の有る人が降りて行ったら
沢山居た魔物がほぼ全て1階のエントランスに降りていってました」
「話の腰を折るが、もっと簡潔に話せないか?物語を聞く気は無いぞっ」
「・・・」
「よろしいですか? 私はあの男に逆らった為にゴブリンの借り腹にされました」
「・・・」
「・・・」
「ごめんな・・・助けられんで・・・」
「いえいえ、もう済んだ事ですから。
でも私以外の人は今もPTSDで精神が不安定なままです。
種付けられたゴブリンの子供は全て産まれたので、全部私が叩き殺しました・・・」
その女は、自身も借り腹にされゴブリンの仔を産まされたが、出て来た瞬間にその手で殺めた。
そして、他の女の子が産んだゴブリンの仔もこの女性が全部殺した。
2体のゴブリンの仔を除いて。
「今も3階の一室でその子は自分が産んだ3体のうち2体のゴブリンを手放せず、自分で育てると言い張って籠城しています」
「もう1体は?」
「私が盗り上げて殺しました」
「・・・」
「母の愛か~・・・」
「母性が強く出てしまったんだろうな・・・」
「不憫だ・・・」
「あの子は、男性経験も無いまま犯されて孕んで産んだ仔だから・・・」
「処女妊娠かぁ・・・」
その時、黙って状況を見ていた、皇龍鬼へと鬼分けの進化を果たしたラグレアが話し出す。
「なぁその女、俺に逢わせてもらえないか?」
「えぇ~と、あなたは人間?ゴブリン?なんですか?体色が薄紫だけど・・・」
「あぁ俺は元は海ゴブリンだが、進化を重ねて今は人化している」
(はぁはぁ、す、すごい筋肉・・・顔もイケメンやし・・・ゴ、ゴブリンなん?)
「彼女に会ってどうされるおつもりなんですか?」
「話を聞いてあげようと思うが?ゴブリンならではの考えに至るかも知れないだろ」
「じゃ、じゃぁこちらへどうぞ・・・」
「レイン嬢、ちょっと行って来る」
「大勢で行くと余計に頑なになるかも知れないので、ここで待ってますね」
「・・・ おぅ・・・ 行って来る」
言って、ラグレアと狐目の女性は上に上がって行った。
下では、武人とジャックが女性達を摂受 している。
力任せに折伏 しても良いのだが、やはり今後を考えると柔らかく付き合う為にも優しさを前面に出さないと駄目だろうと藤浜武人は考えた。
「もう今の世の中がどう変わったかは知ってると思う。
それを踏まえて、今後どうするのか考えて欲しい。
北の避難所に行って、誰かに守ってもらいながら生きていくか・・・
それはいつ食料が無くなるかはわからない。
誰かが食事の用意までしてくれるかも知れない。
いつかは救助が来るかもしれない。
だがそれは望みが薄い。
もう一つは、自分で力を手に入れて自分の力で生きていくかだ。
後者を選んだ場合は俺らが全面的にサポートはするつもりだ。
強制はしないが、後者を選んだ場合は俺かこいつの眷属となって貰う
時間はあるからゆっくりと考えてくれ」
武人は腕組みをしながら女性達の返事を待つ。
注¹:摂受=心を寛大にして相手のその間違いを否定せず反発せず受け入れ、穏やかに説得する事。
注²:折伏= 相手を強く責めたて、打ち砕いて、教義に沿った宗教等に入信させる事。




