サイコパス始動
ブースに戻ると多田が寄ってきた。
「なんかあいつらが探しとったで」
「もぅめんどくさいなー」
取り巻きの1人がツカツカと近寄って来て言う。
「琴南さん、あなたたちでディスカウントショップから食料を持って来て下さいな」
「みなさん、各自持ち寄ってるんですからね!」
「何もせずに配給だけ受けようなんてクッソ甘い事考えてないでしょうね?」
「あぁいいですよ。でもあなた、ちょっと手伝って頂けますか?」
「私たちだけじゃ何が必要で何が余ってるのか分からないので」
「はぁ?なんで私が?自分で考えられないの?」
ボスが遠くから指示を出す。
「いいわよ、手伝ってあげて頂戴」
その女は、自分も行かされるとは思って居なかったようで、口が半分開いたままだ。
絵里と顔を見合わせ上手くやったとほくそ笑む。
メグミの取り巻きは5人居たが、もうすでに1人は消している。
これで二人目になるはず。
最終的に問題になるのは側近の高田。
レベルも7ととんでもなく強いし、完全にメグミの精神支配下にある。
レベルが高いのも、戦闘を担当させられてるからだ。
メグミが持つ従属契約と言う奴隷化スキルは相手を3段階で従属深度を変えられる。
高田はそのうちのスレイヴという一番強い段階の深度だ。
こいつだけ倒せば、ボスももう一人もレベルは3しかないので今の自分たちでも楽に殺れる。
多田を置いて絵里とその中村と言う女と3人で出かけた。
台車をゴトゴト押しながらつまらない話で心をほぐす。
お互い本性を見せあった後なので、おかしくて笑い出しそうになるのを堪えるのに必死だ。
カップ麺以外の食べれるものを色々と物色し台車に積み込んでいく。
運送用のバンドで倒れないように括り、元来た道を戻る。
ぶつぶつと文句を言いながら着いて来るその中村に華那子が話しかける。
「そう言えば、子供の捜索をしてる時にね、人が死んでる部屋があったんです」
「なんとなく山下さんに似てるなと思ったんですが、中村さん、確認しに行きませんか?」
この中村と言う女と山下は元々の知り合いで、仲も良かったのですぐに食いついてきた。
「そこのマンションの1階なんです。すぐそこです」
2人は走り出し、絵里は道から少し入った所で待機している。
万が一にでも誰かが来た時に備えてだ。
山下の遺体を放り込んだ部屋に中村を誘い込む。
そして遺体に擦り寄り顔を確認させる。
「や、山下さん、山下さん、やましたさー
グフッ
背後から華那子は口を塞ぎ、のど元にカッターナイフを滑らせて切り裂く。
大量の血が吹き上がり、藻掻く中村を解放し後方に飛びのく。
服に返り血を浴びないように。
ガハッ グフッ
喉笛を切り開かれ、声が出ない。
まるでそこだけ切り取られたように大きく傷口が開く。
ものの数秒もすると中村は動かなくなった。
(ヒュン)
「無命奪魂」
小さい宝珠とやや大きい宝珠が2つ。
スキルは跳躍と子守。
跳躍はすでにあるので絵里に渡すことにした。
子守は・・・
絵里も要らないと言うだろう。
待機してた絵里に成功の報告をし、戦利品の宝玉を手渡す。
小さい宝珠も、もう邪魔になるだけだから3個づつ分けて吸収する。
琴南華那子(42)
Lv4
種族 【新人類】 選択
職業 【--】 選択
称号 【同族殺し】【虐殺者】【殺人鬼】
基本能力一覧
GMR/SUS
HP 60/30(+30)
MP 55/25(+30)
STR 34(+6)
DEF 36(+6)
AGI 27(+6)
DEX 40(+6)
INT 37(+6)
SP/30
基本技能一覧
無命奪魂
隠密 気配探知 遠耳 索敵 跳躍 暗殺
鑑定 大工 水泳 刺突 裁縫 調理 子守
毛筆
119-0/87-0
レベルも上がったし、気分がとても良い。
「ついにレベルも抜かれたか」
絵里が笑いながら人のステータスを覗く。
今まで小さい宝珠はステ+2と微妙な数値なので、邪魔なもんだと思ってたが、すべてに補正が付くし、HPとMPに関しては5倍もの数値が付く。
序盤のステータスアップには有用な物だと感じる。
絵里も同様の事を言っている。
「これってゴブリンからも取れるんかな?」
「やってみたいけど、なんかゴブリンって一気にどっか消えてしまったしなぁ」
「また、一気にやって来て人間を蹂躙するつもりなんかなー」
「今のうちにちょっとでも強なっとかなー」
ゴトゴトと台車の車輪を転がしながらブースに向かう。
笑いながら、にこやかに、楽し気に。
もうすでに次の作戦は立てている。
ニ人で立てた作戦だから一人の時のそれよりは穴が少ないだろう。
「ただいま~」
「おかえり~」
気軽に挨拶し、ブースに箱を運んでいく。
ボスから不審に思う様子が見て取れたが、そこらへんはスルーする。
食料や飲料の箱を運び込んで多田達と歓談してると、ボスメグミの側近、山本がやってきた。
「中村さんはどうされたのですか?」
「はぁ? 荷物を積んだら、用が済んだからってさっさと先に帰りましたよ?」
「だいぶ先に帰りましたが?」
「ここまで200mちょっとしかないから、迷う事も無いでしょう」
「自宅にでも一旦戻ったのじゃないですか?」
「探しに行くのなら付き合いますよ?」
山本はしばし考えて、メグミの方を見ると、顎でクイっと行けと指示される。
これが顎で使われると言うやつか。
メグミの従属契約の使役人数は1/1しかない。
これ増やすには熟練度を上げるか何かのポイントを振るかレベルを上げるのか鑑定でもわからない。
1/1しか無いゆえに完全支配されてるのは高田だけだ。
山本を連れて例のマンションに行く。
そして、遺体を移動した手前のマンションにまず入る。
そこの一室には山下を転がしておいた。
山本にそれを見せて
「すぐにみんなを呼んできて!」
「あ、待って、メグミさんと佐藤さんだけでいいわ」
「そうね、あんまり言うと皆が動揺するから」
「うん、わかった。あなた方は?」
「まだ中村さんが見つかってないから私たちが探してます」
「絶対にこっそりとメグミさんに伝えてね」
一応念を押してみたが、メグミがどう行動するかまでは予測も出来ない。
自分らでも幼稚な作戦だと一回は笑ったが、こんな簡単に人の命が無くなる今の世界に措いて過去の日常の感覚では無いので、そんな稚拙な物でも引っかかるんじゃないかと思っている。
用心棒の高田が来た場合と来なかった場合も一応は想定してある。
来ない方が楽なんだけど・・・
ステータスを見ると、とても絵里と二人ででも勝てない相手だった。
唯一の頼みは精神支配されていて自意識行動出来ない事だろう。
一番最悪は、ブースの他のママ友達に声を掛けられて関係のない連中がゾロゾロと来ること。
失敗のルートだ。
まぁその時の言い訳はもう考えてあるし、こっちに容疑が掛かることは無いだろう。
メグミのスキルを奪うにはまた作戦を練らなくちゃいけなくなるが。
絵里は手前のマンションの前に、華那子は向こうのマンションの角に待機し、連中が来たら絵里の方に走って来て奴らを二組に分断する作戦だ。
それもメグミを華那子の方に連れ込まないと作戦は一気に難易度を上げる。
そんなに待たずに山本は、メグミと高田と取り巻きを連れて走ってくる。
その気配を探知すると華那子は絵里のいる方に飛び出してくる。
「あ。メグミさん、メグミさん、こっちに中村さんが・・・」
「山本さん、佐藤さん、あの山下さんがこちらに」
絵里が上手に誘導する。
「どこ?中村は?」
メグミは、小走りに華那子に近づき問いかける。
(よしっメグミと高田がこっちに来た)
「こっちの部屋です」
華那子は笑い出しそうになるのを堪えた。
だが、まだ成功確率が上がった訳ではない。
高田を上手く仕留められなかった場合は、自分たちの死も覚悟しておかなければならない。
絵里は山本と佐藤を上手く誘導出来た事にニヤケそうになる。
「佐藤さん、その階段上がった最初の部屋です」
絵里は往復走ってきた山本の腰に左手を回し、軽く歩くのをサポートしている。
これはいつでもやれるようにだが、山本には優しさにしか感じ取れていない。
佐藤はガチャリとドアノブを回し扉を盛大に開けて中に飛び込んでいく。
「あぁぁー やましたさーん」
続けて絵里達も中に入る。
入ってすぐに絵里は隠し持っていた包丁を右手に握り直し、左手で山本の口と鼻を押さえる。
顎を上向かせ、包丁を逆手の逆刃に持ち右の頸動脈を押し切る形で切り裂く。
すぐに喉骨に当たるので、骨を躱し包丁の切っ先を骨の向こう側から喉に突き刺す。
そのまま右に引き込みながら、口を押えてた左手を素早く外して思いっきり背中を押す。
押された身体は、襟元から首を切断され骨だけで繋がっている屍に変わる。
絵里の右手におでこが当たり喉の骨はボキリと後ろに折れ曲がりゴトリと本人の背中に乗り上げた。
あまり音が鳴らないようにゆっくりと左手で掴んだ山本の服を床に降ろし、急いで佐藤の背後に立つ。
佐藤は、もう死んでいる山下の遺体を揺すっているだけで、こちらの状況は分かっていない。
背後から右手に包丁を持ち、柄の後ろを左手のひらで押さえ心臓目掛け突き刺した。
ビクンと身体を震わせこちらに振り向いた佐藤だが、素早く抜かれ素早く振り抜いた包丁に首を切られ絶命した。
(ヒュン)(ヒュン)
「お、レベルも上がったし、なんかスキルも覚えたし称号もついたし」
その時、絵里の手に黒く大きなファンタジーソードが顕現し包丁がポトリと落ちた。
「ぬおおおおおおおおおおおお!!!」
「なんじゃ~こりゃ~」
〔所有権:丘絵里 認識登録完了〕
重くも無く軽くも無く手にしっくりとなじむ。
さっきまで持っていたスコップや包丁が恥ずかしく思えてくる。
右手で強く握り天に向かってかざす。
刀身はやや幅広両刃で、ツバの部分は足長の星形で握りの部分は黒に赤い螺旋模様が入る。
(うふふ、かっちょえぇ~)
「おっと、こうしちゃおれん、華那子を助けんと」
大急ぎで隣のマンションに駆けて行った。
(でもこんな大きなかっこいい剣をさっきまで持ってなかったのに、どうしよう)
どこかに隠そうと考えた時に頭の中でなんとなくわかった事がひとつ。
「丘絵里の名に措いて命ずる、収まれ!」
剣は霧散するように消えていった。
驚いた絵里は足を止める。
せっかく手に入れた素晴らしくかっこいい剣をすぐに無くすなんてもう死んでもいい!
ほんの少し考える。
「丘絵里の名に措いて命ずる、出でよ」
スーと絵里の右手に大剣がまた現れた。
(よ~しよし♪)
そう言えば鑑定のスキルを持ってたんだと絵里は思い出し、その大剣を見てみる事に。
剣〔吸血の大剣〕[所有者:丘絵里] 知的造物 成長度技能覚醒 URユニークウェポン
[収納時自動修復]-[装着時ステータス5%アップ]
(すっげ~よ~URだってよ~)
絵里はそんなに中二病と言う訳でも無かったが、こんな世界になってこんな身体になって何かが変わったんだろう、この剣を凄く気に入っている。
中二病的感情でだ。
(名前か。ん~)
(名前、吸血・・・ よし、あれしかないな)
「丘絵里の名に措いて命ずる、汝の名は しのぶ」
ほんの一瞬淡く光ったようで剣は静かに佇む
《・・・》
(これならいいだろう。アセロラとかオリオンとか付けなけりゃ)
「収納」
「しのぶ」
「収納」
(よ~しよし、自由自在に出し入れ出来るようになった、早く華那子に自慢がしたいなー)
「おっとっと、こんな事しとう場合ちゃうわ」
絵里は華那子の元に急いだ。
いつもありがとうございます。
作者の独り言:このメンバーって、初期構想にも無かったのに、なんか楽しいw




