避難所幹部連 早朝会議1
--翌早朝--
「おぉトオル君、おはようさんっ」
本館の会議室前で、ここの避難所を統括している 七和田亜生良一行に出会った。
『おはようございます』
「そちらの女性達は?どちら様ですか?」
「昨日もお会いしましたが?w
櫻庭通の秘書を任されております 青空美凪 と申します」
「えっ?そ、それは失礼しました… 何か別人のように思ってしまいました」
昨日、七和田に会った後に聖霊憑依や覚醒などで、肉体的にも精神的にも急成長した美凪の容姿が、見間違えるほど変わっていたとしても不思議ではない。
「新しく事務関係の仕事を任されました 掛井橋五十惟 と申します。以後宜しくお願い致します」
「お話は伺っています。色々と大変だと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
顔合わせと挨拶も終え、トオルと七和田が会議室に入ると、先だって座っていた女性が朝の挨拶をするために立ち上がった。
『みなさん、おはようございます』
深々と頭を下げて、厄災後に唯一天使へと種族変化したトオルの姉、櫻庭加奈子が、大きく赤っぽいオオカミを従えて挨拶をする。
「加奈子さん、お早いですね~」
まだ会議の予定時間7:15には十数分はあるが、ほぼ全員が会議室の中に揃った。
『トオルちゃんおはよう、 あら~その子達が好きな娘が出来たって言ってた方かしら?」
(ちっ!要らん事言いやがって・・・)
『あぁ姐さん、おはよう』
「お、お姉さま、おはようございます、あ、青空美凪と申します」
「は、初めまして、掛井橋五十惟と申します」
『おはようございます、あらあらどちらのお方が本命かしら?w』
『どっちも大事な俺の仲間だよっ』
吐き捨てるように答えたトオルの顔色などまったく気にしていない加奈子。
トオルから大事な奴と言われて舞い上がる美凪と五十惟。
我関せずの態度を取るフィルが寝そべっている。
横でため息を吐くトオルたちを余所に、会議が始まる。
「今日も生き延びて会議を開ける事に感謝いたします」
「それでは朝の報告会を始めたいと思います」
七和田の右腕として頑張っている藻布が会議を仕切る。
『それでは私の報告から始めます。
昨日は、深江浜の工業地帯と東部中央市場にレベリングに行ったのですが、結構な量の食料の調達が出来たのでご報告いたします。
量的には、おおよそ300万食、ここの避難所1000人で約3年分くらいはあるかと思います』
「オ~」「ザワザワ」「ガヤガヤ」
『続けて良いですか?
そして、向こうで他のグループと戦闘になったのですが、とても敵わないくらい強かったです…
特徴は、赤いゴブリンを筆頭に、ジョブゴブリンと強戦士の人種の男と魔法も戦闘も出来る女でした。
もしも戦闘になれば到底勝ち目は無いと思いますので、戦わない様にしてください』
(赤いゴブリン?まさかマグナじゃないだろうけど・・・)
「そいつらは深江浜を拠点にしてるんですか? ってか、加奈子さんが敵わないってどんな奴なんですか・・・」
「人間とゴブリンが共闘してるって事ですか?」
『ゴブリンと言っても、人化してるし進化してるんですよ』
トオルと美凪と五十惟は、加奈子のステータスを覗き見していた。
(ステも高いし魔法もスキルも充実してる、だけど美凪の方が大分強い)
(キングがもうお姉さまを追い越したって言ってたけど、やっぱり私の方が上だね)
(もうリーの方が上だな、藤浜や五十惟が追いつくのも時間の問題だわw
それよりも鑑定持ってて隠蔽持ってないってw)
トオル達は全員隠蔽でかなり低いレベルとショボいスキルしか表示していない。
だが、馬鹿正直な加奈子は、隠蔽する事なんか思考の端っこにも無い。
『それと、私たちの拠点を六アイ南の埋め立て地に作ろうと思ってます。
こちらで今も配給を貰ってる人も居ますが、そのうちみんな拠点に移ります。
私からの報告は以上です』
「拠点を作るって?あそこはまだ埋め立てられてないでしょ?」
『それは、私たちの土魔法や石魔法で新しく作るのですよw』
「はぁ・・・凄いですね・・・ それでは質問が無ければ次の方、お願いします」
『ちょっと待ってね、食料を大量に手に入れたって言ってたけど、拠点を別の場所に移すなら、その食料はそっちに持っていくのかな?』
『いえいえ、私たちの分は別に考えてますので、ほとんどの物はこちらに寄贈するつもりです。
ただ、食品が劣化するだろうから、1ヶ月分とか2ヶ月分を随時手渡すように考えてます。
それでも凄い量ですよ?』
「あとで食糧庫にご案内します。ここにいる幹部連と給食長しか知らない場所なので」
『それでは自分が次の報告を行いますね。
まず、これは提案であって報告とは違うのですが、今の食料の話に付随する物です。
今の配給を担ってくれている方たちをレベル付きにして、調理や料理、解体とかの料理全般のスキルを取得してもらいたいと思っています。
それに尽いて、うちの五十惟に、食料の在庫確認、配給組の管理、運営等を任せて頂きたいのです。
まずはこの件、いかがでしょうか?』
「何もかもトオル君に任せてしまうのは少し心許ないけど、五十惟さん一人で何もかもは難しいのでは無いですか?」
「それは大丈夫だと思います。今現在、私の下には7人の優秀な部下が居ます。
避難所全体の観察や人員把握、資材の在庫管理や各部屋の維持状況とかをやらせてもらっています。
後それに食料の在庫や流れ等を把握できれば、この避難所全体の概要が一カ所で纏められると思っています」
『まぁうちの部署がやる、って話で、僕個人が全部やる訳では無いのでご心配なく。
そして、その状況は誰でも閲覧できるようにもしますので、不正は出来ないと思いますw』
トオルは、全てをやるって事を疎ましく思う奴も必ず居るだろうと予測している。
「トオル君を疑う人なんか居ないだろうけど、閲覧できるのは助かるね。
でも、そんなに大量の文章を紙に書き写すのも大変じゃない?」
『それは全然問題無いですよ、全部パソコンに打ち込んで見れるようにしますんで』
「パソコンって、電源はどうされるんですか?」
当然の事だが、水以外のインフラがすべて機能してない状態で、どうやって電源を確保するのか疑問に思うのは普通の考え方だ。
『僕らにはこんなスキルがあるので、この中には電源を使用出来る特徴があるんです』
そう言って、五十惟に目配せをして個別空間のスキルを発動させた。
「おおおおおおおおおっ~!!!」
五十惟の前には個別空間のゲートがユラユラと揺れている。
「中を見ても良いかな?」
「どうぞご覧くださいw」
七和田と数人の幹部がゲートの中に頭を突っ込んだ。
「うっわぁぁぁぁぁ~」
「ま、魔獣がおるぅぅぅ~!」
七和田達が覗いた個別空間の中には、薄いピンクの下地の豹人と狐の顔をした人狐が居た。
「ご紹介します、私の眷属のセイラと藤浜武人の眷属、ポイです」
個別空間の中に顔を入れて五十惟が二人を呼び出した。
「初めまして、桃豹のセイラと申します」
「どうも、藤浜武人さんの眷属、ポイと申しますぅ」
「け、眷属ぅ~? しゃ、しゃべるのぉ~?」
「藤浜君の眷属~?」
七和田はチラッと加奈子の眷属の魔狼のフィルの方を見た。
『姐さんの眷属は人化してないから魔獣のままだけど、この子らは人化率が高いから獣人として存在してるんですよ』
「はぁ~初めて会話できる獣人に会ったけど、可愛いんですね・・・」
「もぉ~どこ見てんのよぉ~」
セイラがそう言って胸を隠し、恥じらいながら後ろを向いた。
「あははははっ」
(か、かわいいじゃないか・・・)
これで取り敢えず獣人が校舎の中に居る事に違和感を覚えさせない様に出来たかなとトオルは思う。
『そして、これはもう少し重大な話なんですが・・・』
トオルは徐に語り出す。




