魔獣軍 レドの敗北
『まずは、アンダルとグリートはマグナ軍に還す、おまえんとこも隠密部隊は必要だろうしな』
『その部下たちは一応うちの預かりとする、戦闘捕虜だから仕方ないだろう』
「おまえらが勝手に捕虜にしとんやから、まとめて開放したらえぇやろがぁ」
「レド氏・・・」
「レド、何度も言わすな、トオルは筋を通して話をしに来とんじゃ!」
「レド、気持ちはわかるがラグレアの言う通りや、トオルは筋を通しに来とるんやからな」
「おまえはもう喋るなw馬鹿丸出しじゃw」
「レドさん、さすがにそれは的外れですよ」
「レドとやら、これ以上トオルを愚弄するなら、妾が相手をして賜うぞ?」
「ヘスティア様、僭越ながらまずは私に往かせてください」
「おいおいレドよw 霍弋が武将レイン嬢にムスペルヘイムの精霊神ヘスティア様と一戦交えるとは、お前はチャレンジャーだなぁw」
「いやw レドよ辞めとけ、まだお前を失う訳にはいかんw」
「・・・」
『あははははっ レドよ、不服ならリーと一戦交えるか?俺でもいいぞ?w』
「ト、トオルならいけそうかも・・・」
ヘスティアとリーがその言葉に反応してレドに攻撃を仕掛けようとしたのを察し、トオルは2人を止めた。
「トオルに勝てなかったら二度と呼び捨てになんぞするで無いぞ?良いか?」
「キングに勝てないまでも善戦すればOKとしよう、そして二度と我らにタメ口は許さぬ」
「レイン嬢、ワシらもか?」
「んっ?ラグレア殿もマグナ殿も礼節を弁えた上での発言や行動なので、今更何をどうこうして欲しいとは微塵も思って無いが?」
「あはは、レインさんありがとね~」
「レドはなんも考えなしにおバカ発言するからみんなに責められるんじゃw」
黒豹が黒犬にマウントを取り、高らかに笑う。
少しみんなに責められて苛立ちを隠せない黒コボルトのレドだが、戦闘に関しては適当に攻撃したり闇雲に向かって行く事は無かった。
「こいつの戦闘は今朝の1番隊との戦いで見たが、避けるのが特別に上手いだけだ」
『ふっw』
「な~にがおかしいんじゃ~っ!」
腰にぶら下げた、50㎝ほどの長さの西洋刀を抜刀し、上半身を半身に構え、自分の身体で剣が見えない様に腕を後ろに下げて、姿勢を低くしトオルに向かい疾走し、最後は横薙ぎに剣を両手で振り抜いて来る。
トオルは軽く跳ねて、レドの両拳の上にチョコンと乗り、顔面に蹴りを入れ後方に着地する。
レドは尻もちを着いたが、すぐに立ち上がり体制を立て直し、上段から唐竹割のように剣を振り下ろす。
「ドリャァァァァ~」
その攻撃も、レドの懐に速歩で飛び込んで鳩尾に肘打ちを見舞う。
レドの口からは、胃液と共に赤い物も混じって流れ出て来る。
「グフッ・・・」
少し腰を曲げ前かがみになったレドの側頭部、蟀谷の辺りに真横から膝蹴りが入る。
ドゴッ
「アッ・・・ガッ・・・」
レドの身体はゆっくりとスローモーションのようにフローリングの床の上に堕ちていった。
「ん~ 1分も持たなかったか・・・」
「6秒くらいだなwこれで静かになったわw」
「本気のトオルさんを一回見てみたいなぁw」
「まぁレドも弱い訳じゃないんだけど、現状に満足してしまって進歩が無いのは否め無かったからなぁ・・・ これで目覚めてくれたらトオルには感謝しかないんやけどw」
「トオルが見せかけだけやないって事がわかったしなw」
「キングには私でも敵いませんよw」
『リー、治癒をしたってくれ』
「はいっ、陽炎!」
レドの周りに忍術治癒の陽炎がユラユラと立揺らぐ。
「じゃぁトオルよ、話を続けようかw」
「マグナさん、ちょっといいですか?」
「どしたん?」
「リーさん、俺を眷属にしてくれませんか?マグナさんの指令を受ける事が前提なんですけど、厚かましいとは思ってますがどうでしょうか?」
大耳狐族でマグナ軍の5番隊隠密部隊長である、アンダルと言うネームド獣人がリーに願い奉る。
「ん~特に眷属の数制限は無いんだけど、今回は藤子とイチをもらい受け育ててみようと画策してたんだけどな」
『マグナさえ良ければの話になるが、別に一人や二人眷属が増えた所でデメリットは無いだろう?」
「そりゃそうですけど・・・
なぁ、アンダルよ、何故に私なんだ?」
「そりゃ捕獲されたのがレインさんだからですよw」
『そんな理由なのか?w』
「いえw すみません。
佐助さんから少し聞いたんですが、トオルさんの眷属ならミニショップが、レインさんの眷属なら成長補正が恩恵で手に入るって。
自分は今回の事で弱さを痛感したので、もっともっと強くなりたいんです・・・
隠密に長けて尚且つ戦闘力が高く、それでも天狗にならず他人に真摯に向き合えるレインさんに憧れの気持ちを抱いています」
「レドとはちゃうって事やな?w」
「そこまで言われたら(笑) マグナ殿、如何致したもんでしょうか?」
「あはは、アンダル、本当に良いのか?」
「はいっ 主はレインさんになっても、自分のボスは生涯マグナさんです。それは変わりません」
「マグナ殿さえ良ければここで契約を結んでもよろしいか?」
「あぁ良いぞ、アンダルももう心を決めとるようだしな」
汝
我が眷属となりてその身を捧げ
我が指命に従順に従い
我が身に危険を寄せ付けず
我が生き様をその眼で見守り
我が身が亡びる今際の時まで未来永劫共に生きると
誓うか?
「誓います!」
「コヴェナントッ!」
大耳狐族のアンダルが淡い光に包まれて、レイン・リーの眷属となった。
「ほぉ~今のがレイン嬢が言っていた眷属契約か」
「あとで伝授しますよ?w」
「そっかっ?楽しみだなw」
「しかし、レドは口先だけやったなぁw」
「まぁもうちょっと善戦するかと思ってたけど・・・」
「聞こえとんじゃ・・・」
治癒魔法で回復した黒コボルトのレドが目を覚ましたようだ。
「おぉ起きたかw」
「はぁ・・・」
「あはは、相手にもならなんだなw」
「しかしトオルよ、ほんまは強かったんやなぁ」
そう軽口を叩いた瞬間、レドの頭上には直径2mほどの極炎の塊りが浮かび上がり、喉元には短剣が押し当てられる。
「約束を違えるのならこのまま消し飛ぶが良い!」
「舌の根も乾かぬうちに、またキングにタメ口を利くなど万死に価する」
「わ、悪かった、つ、つい照れ隠しで・・・」
「レドよ、調子に乗るのも大概にしとけよ」
「勝負に負けたのに、その約束を反故にするとか、それはあかんぞ…」
「レドよ、おまえの一連の行いを庇う事は出来ないぞ・・・」
「俺よりあっちの方が大事って事か・・・」
「ふ、ふざけるなっ!」
レドの言葉に魔獣軍No2のラグレアが怒声を咬ます。
「レド…うちらを舐めとんか?
どちらが大事かって話じゃないやろうがっ!
我々は有象無象の集まりでは無い!
キチンとした組織を成り立たせている。
それはトオルの所も同じだ。
その組織同士がお互いを尊重しつつ自分たちの有益になる事、それに見合う対価を提示し合っている。
これはお互いの組織の代表が、組織の与り知らぬ所で起こった戦闘を、講和に向けて話し合いをしているんだ。
これを交渉というのがわからないのか?」
「レド・・・ マグナの顔に泥を塗るな・・・」
レドは俯いて物を言わなくなった。




