悪魔と魔獣の談笑
『おいおいw ティアは簡単に殺し過ぎるぞw』
「お前様と美凪には言われとう無いぞよw」
ヘスティアが呪文を唱える寸前にはもう、リーが戦闘態勢を取り、コボルトの真正面に立っていた。
『ラグレアよ、大事な部下を、すまないな』
「すまぬのぉ~じゃが今のは正当防衛じゃぞ」
「い、いや、今のは仕方が無い・・・か・・・な?」
リーの一瞬の行動に目が尽いて行かず、それよりも早いヘスティアの呪文詠唱の凄さを目の当たりにしたラグレアは少しだけ動揺していた。
「忠実な良い部下であったんじゃないのか?」
「まぁ・・・ こいつが持ってた空間倉庫ってのが少し残念なだけだ」
『そんな事なら問題は無いな』
トオルはその死体からスキルを抜き出した。
「えっ?えっえっ~?」
頭部が飛ばされたコボルトの死体から、ボロボロと宝珠が転げ落ちて来る。
その中の一つを掴み、ラグレアに手渡すトオル。
『ほれ、これが空間倉庫の宝珠だ、中身もそのまま入った状態だからな』
「・・・ い、一体、い、今、何をしたんじゃ?」
『これは俺のユニークスキルだよw』
自分の両親を殺した時に手に入ったこのスキルは、死んでいる者のスキルを宝珠に変換して抜くスキルだ。
「こ、これをどうすれば?」
『そっか、ラグレアはまだ鑑定のスキルを持ってないな~』
「ラグレア殿、その宝珠を良く観察してみてもらえないか?」
ラグレアは宝珠を手のひらの上でコロコロと転がしたり松明にかざしたりするうちに鑑定のスキルを覚えた。
「おっ?おっ?おぉ~~~」
「それでその宝珠を鑑定で見て取り込んで欲しい」
恙無く、空間倉庫の宝珠はラグレアのスキルとして取り込まれた。
『まぁあとは大したスキルも無いし、処分はどうする?』
「・・・」
トオルは残った宝珠を取り敢えずラグレアに手渡した。
「そう言えばキング、ハーレムの王の遺体を持って来ているんですが、宝珠を抜けますか?」
『どんなスキルやったん?』
「【ゴブリン操作】ってスキルで、殺人称号の付随スキルだと思います」
『ゴブリン操作?』
「ゴブリンの進化や成長まで触れる貴重なスキルかもと思ってます」
『ふぅ~ん、まぁ抜いて鑑定で見てみようか』
『死奪魂玉っ!』
赤色の珠が浮き出て来て、トオルがそれを手に取る。
トオルはその宝珠を鑑定で隈なく見てみる事にした。
『ん~ 詳しい事はわからないけど、赤宝珠って事はUR級のレアなもんだな』
ふと横を見ると、ハクビシンの獣人がハ-レム王の遺体をよだれを垂らして眺めている。
『おい、その遺体を食べたいのか?』
「い、いやいや、ひ、人の肉なんて・・・」
『そっちのコボルトの死体には反応してなかったよな?犬は嫌いか?w』
「コ、コボルトは仲間やからそんな目で見れん・・・」
『どうせ捨てる遺体だ、好きにすれば良いが、食うならどこか部屋に持って行って食ってくれ』
ハクビシンはチラッとラグレアを見たが、ラグレアは「はぁ~」と深いため息をついて、腕組をしたまま顔を下に向けた。
ハクビシンはハーレムの王の遺体を小脇に抱えスキップするように向かいの部屋に消えていった。
「ほんまぁ・・・ 一応うちは、人間も仲間に居るから食人禁止してるんやけどな」
『たまには良いんじゃないか?w』
「トオルは人食をなんとも思わないのか?」
『死んだ奴なんて、どこかに捨てるだけなんやから食えるなら食えば良いだろう?』
「そっか~ 気にしないんやな・・・」
『そりゃそうと、リーよ、おまえんとこにゴブリンを使役する予定はあるのか?』
「特に無いですね」
『ラグレアんとこはマグナとお前以外にゴブリンは居ないのか?』
「いや~ 居るには居るが、戦力になるようなのは居ないな」
『アンダル、グリート、おまえらは最悪手下が居なくなるが、ゴブリンを使役するつもりは無いか?』
「・・・」
「どした?あいつら以外じゃダメなのか?」
「いやまぁ~そう言う訳でも無いんですが、やっと心許せるようになってきたから」
「たった数日でも、同じ釜の飯を食った仲間って奴だろうな~ 想い入れはある」
『まぁ完全に離脱する訳でも無いんやから、所属はうちでもそっちの任務は続けられるしな」
「! キング、何か強い気配を感知しましたが・・・」
『あぁ多分こいつらの親玉だろうって』
「そうだな、マグナさんとレドの気配だ」
「レドw どんな奴か楽しみだなw」
「???」
『うちの美凪って戦士のやつが、レドを殺すって息巻いているからなw』
「あぁw今日のあいつらの言い合いかw」
「美凪があれだけ怒りの感情を表に出すのは珍しいからなぁ、早くレドって奴を見たいw」
「レドさんも温和で誰にでも優しいんだけどなぁ・・・」
『まぁ相性が良かったって事だろう(笑)』
「良いのか?w」
そうこうしていたら、中庭方向の出入り口から数人の獣人が入ってくる。
「おやおや、トオルじゃないか?wこんな夜更けにどうした?えらい楽しそうやしw」
『おまえの顔が見たくて逢いに来たんやろうがw』
「あ、アホな事ばっかし言うなよ!ホ、ホンマおまえはぁ~!!」
レッドゴブリンであるマグナの顔がさらに赤くなる。
「はっはっはっ♪ マグナさんもトオルの前だと女になるなぁ」
「レ、レド、殺すぞっ!」
マグナがトオルに対して敵対心が無いので、レドもトオル達の事を認めている。
唯一、美凪を除いて。
「初めまして、櫻庭通をキングと仰ぐ、眷属のレイン・リーと申します」
「ほぉ~ レイン嬢、俺には自己紹介が無かったが?w」
「ラグレア殿、それは陳謝する、バタバタしていてタイミングを逃した、すまなかった」
「あはははっ冗談だよ冗談w」
『トキにマグナよ、少し話があるんだがな』
「おっ?急に真面目な顔になったぞ?」
「まぁこんな所で立ち話もなんだから、上に行きましょうか」
(レドって奴、普通に普通の奴なんだけどなぁ… 期待外れだ(笑)
一行は7階にある会議室と化している一部屋に集まった。
そしてトオルが今日の荒事の詳細をリーに説明させて、セイラやポイは現在捕虜として拿捕している事をマグナ始め魔獣軍の一行に伝え、今後の所業の話し合いをしようと持ち掛ける。
「順番から言えば、捕虜にしてからマグナ殿の配下と分かった次第です」
『まぁな~ 最初からマグナの手下ってわかってたら揉めもしなかったんだろうがな』
「レインさんの部隊は何人くらい居たんだ?」
「私と眷属1人とさらにその眷属1体ですね」
「それでこいつらを制圧したってか?」
「隠密部隊とは言え、こいつらの戦闘能力はそんなに低くは無いぞ?」
「圧倒的戦闘力差で・・・」
「気が付いた時にはもう・・・」
「美凪と言い、レインさんと言い、トオルの手下は皆強いよなw」
「あんなクッソ女が強い訳ないやろがっ!」
『とは言え、今のレドじゃあいつに勝てないぞ』
「そうだなぁ~もう少し強くならんとな、今のうちでも勝てるかどうか」
「あんなドブスがマグナさんに勝てるわけ無いわぁ~!!」
(おっ?レドがなにやら香ばしくなって来たぞw)
「んっ?レイン嬢、なにがそんなに面白いのだ?」
真面目な話をしているはずなのに、リーのニヤケた顔を見てラグレアが疑問に思い小声で問いかける。
「いやっ、あ、うふふw」
右手の人差し指を口元に当て、ラグレアに向かってウインクをするリー。
「はははっ、なんや知らんけど、後で聞くわw」
(こ、こいつ・・・ 可愛すぎないか?・・・)
「んで、トオルはあいつらをどうするつもりなんや?」
「返答次第では、俺らが然るべき対応を取る事も考えろよ」
「・・・」
「レド氏、キングは我々のボスなんだ、もう少し物の言い方を考えてはくれないか?」
眼光鋭いまなざしでレドを睨みつけるリーの行為を、魔獣軍は皆が納得している。
「こいつは頭と口が悪いからなぁw」
「馬鹿丸出しだな、おまえはw」
「そんなんだから美凪さんを怒らせたんちゃうん?w」
「ちゃ、ちゃうわ~ あのドブスが俺だけに絡んで来るんやぁ~」
「馬鹿丸出しやから仕方ないやろ~w」
「まぁレドは少し自分の生き様を考える時に来てるんじゃないか?」
「レドさんには、一応でもマグナ軍のNo3やと言う自覚は持ってて欲しいかな」
味方から散々な言われ様の黒コボルトのレドであった・・・




