悪魔王、魔獣王の本拠に踏み込む!
トオルとリーは、マグナ率いる魔獣軍の本拠地、7番街のエントランス棟の前に着いた。
マンションの中から、気配探知でこちらを探っているスキルの気配を感じている。
『リー、もう向こうには俺らが近寄ってるのがばれてるな』
リーもすでに、逆気配探知の感覚を身体で覚えているようだ。
「何か探られてるのがわかりますね、これもスキルになるのかな?」
『いや、スキルには無いけど、隠密系特有の超感覚ってやつだろう』
『一回、アンダル達と話を合わせておこうか』
そう言って、トオルとリーは個別空間のゲートの前に立つ。
「おぅ!この唐揚げ弁当、美味いなぁ・・・」
「美味いけど、食べにくいわ・・・」
「おまえはいつまでたっても箸が使えるようにならんなぁw」
グリートは箸が上手く使えないので、箸を握り、ガツガツと口の中に流し込む食べ方だ。
そのために、ボロボロとこぼして汚い食べ方になる。
「こんなもん、こうして食べればいいんや~」
ついに箸を諦め、手で食べだした。
「おまえwその辺綺麗にしとけよ、人の家なんやからw」
グリートはこぼしたご飯や漬物を拾い、トイレに流し風呂場で手を洗う。
リーの個別部屋は、風呂とトイレと部屋部分2畳弱があるだけの質素な設置だ。
「ふぅ~ ちょっと腹が落ち着いたな」
「飲みもんもくれてたら良かったけどなw」
「風呂の水はさすがに食事には合わんなw」
食事も終わりくつろいでいると、ゲートが現れ中からトオルとリーが入ってきた。
『さすがにここに4人はきついなぁw』
「五十惟の所は、机と小型冷蔵庫が入ってるから、ここよりもっときつかったでしょうねw」
「ご飯、ありがとうございました」
『おぅ、そういやリーは食べとらんのちゃうか?」
「いえっ、出る前に摩耶さんに頂きましたよ」
『そうやったっけ?』
『まぁそれならいいけど、トキにアンダルとグリートよ、今後おまえらはどうする?』
「・・・」
『聞き方が悪かったかな?、ポイやセイラ以外にもおまえらの部下は居るんやろ?』
「いえっ俺らは隠密部隊なので、少数精鋭でやってるから他には居ません」
『そりゃ困ったなぁ~ マグナんとこも隠密部隊は必要やろうし・・・』
「あの子らは解放しますか?私はそれでも良いですよ」
『ん~ まずはおまえらの意志を聞きたいかな?』
「自分はマグナさんに恩があるので、出来れば戻りたいです」
「俺も同じかな、あの人に拾って貰わなけりゃ今頃この世にいないだろうし」
『ポイやセイラやイチたちはマグナに恩義を感じてるのか?』
「いえっあいつらは自分とグリートが見つけて仲間にした奴らばかりです」
『んじゃおまえらの気持ち次第ってことやな?』
「・・・」
--7番街1番館上階--
「ラ、ラグレアさん、急に奴らの気配が消えました~」
「消えたっ?どうゆうこっちゃ?」
「わ、分かりませんが、いきなりプツンと消えました・・・」
「急に消える訳ないやろ~」
「・・・」
「マグナとレドはどこに行ったんや?」
「10番街との間に突然できた森を見に行ってます」
ヤモリの獣人が、マグナが出て行く所を見送ったので、ラグレアにそう答えた。
「あぁあの変な森か・・・」
「・・・」
「おいっお前ら、ちょっと着いて来いや、下のエントランスを見に行くぞ」
シーゴブリンで、ジャイアントロードのラグレアが手下を連れて下階に降りて行った。
「お、おまえら、な、何しに来やがった~」
「こ、こっからは、お、俺らが命に掛けても通さんぞっ!」
『まぁそんなに死に急ぐな』
「やっぱり二人を出した方がよいんじゃないですか?」
『いや、こっちのほうが面白いやろw』
「あははっ、悪趣味ですよw」
「なにをゴチャゴチャ言っとんやぁぁぁぁぁ」
その門番をしている、クロコダイルウォーリアと言われる珍しい種族で、力に特化しステも戦闘特化で、今朝戦ったクロコダイルウォーリアのクロコと全てが被る。
バシュッ
「キ、キング、キングゥ~~~~~~」
トオルの左肩から右の腰に向かって、そのワニ型魔獣の剣が身体を切り裂いた。
リーは目の前で斬りつけられたトオルを助けるどころか、斬った相手を押さえつけることも出来ず、只々オロオロするばかりだ。
「ふぁぁぁぁぁ~ 何やら騒がしいのぉ~」
「ヘ、ヘスティア様、キ、キングがぁぁぁぁぁぁぁ~~~~」
トオルに憑依して睡眠をむさぼっていた精霊神ヘスティアが目を覚ました。
「あぁこんなもん、ツバでも付けときゃすぐに治るわぃw」
『リーよ、そう騒ぐな、 こんなもん掠り傷にもならんわw』
トオルの傷はミルミルうちに塞がり、何事も無かったかのように話し出す。
『なかなか思い切りの良い剣技だったぞ』
「あ、あわあわあわわわ・・・」
確かに深い傷を負わせたはずなのに、平気な顔をして話しかけて来るトオルに恐怖を覚える。
両腕にはしっかりと手ごたえが残っているのに、その斬った相手が無傷でピンピンしている。
傷だけではなく、切ったはずの服まで修復されている。
そして凄く強い力で首を掴まれた。
『おまえはクロコと同じ種族のようだが、あいつとは何か関係があるのか?』
「ク、クロコさんはじ、自分のお、叔父だ・・・」
『叔父?おまえの両親の兄弟か』
「お、親父のお兄さんがク、クロコさんや」
『おまえの父親はどうした?』
「ま、まだこっちの世界には誰も来た様子が無い・・・」
『そっか~ んじゃこの剣はおまえに渡しとくか』
トオルは空間倉庫から、クロコが使っていた大剣にヘスティアの再生魔力を通し修復したモノを取り出し、クロコの甥か姪かわからないがワニ人に手渡した。
「こ、これは・・・ 自分に?」
『おまえが身内なら持っておく権利があるだろう?』
その大剣はクロコの一族に代々伝わる聖剣で、一族の長が持つ習わしがある。
この剣の持ち主は、言うまでも無くクロコであり、小さい頃から憧れ続けた、大戦士のクロコの唯一の形見になってしまった。
クロコダイルウォーリアの若者は大剣を抱きしめ号泣する。
『もう二人を出したろか』
リーは個別空間からアンダルとグリートに出る様に促した。
出て来た二人はキョロキョロと辺りを見回す。
「おっ?ここは拠点のエントランスか」
「なんで門番が泣き崩れてるんや?」
『まぁ細かい事は良いから、マグナの所に案内してくれ』
4人が階段のある奥へ歩いていると、上からラグレアが降りて来る。
『おぅラグレア、久しぶりだなw』
「やっぱりおまえか・・・ 今朝会ったばかりやろうがw」
『マグナはどうした?』
「今ちょっと出かけとるが、なんでお前らが一緒におるんや?」
隠密部隊に使命を託し送り出したのに、今朝暴れていたトオルと一緒に居る事に違和感を覚える。
『ま~色々とあってな、こいつらは今、俺んとこの捕虜になっとる』
「はぁ~捕虜ぉ~?何をふざけとんじゃ~?」
ラグレアが腰の剣に手を掛けた瞬間に、リーが短剣でラグレアの首元にその刃先を押し付ける。
「その剣を抜いた時点で戦闘が始まるが、それでも良いのか?」
『ラグレアよ、おまえが強いのはわかってるが、俺ら二人を相手にして勝てるほどの力はないだろ』
「そ、そんなもん戦ってみんとわからんやろ・・・」
『ふっ、まずお前はそいつに素早さでは到底敵わないし、俺には致命傷を負わせることが出来ない』
「そしてこちらには、炎の精霊神様がついている 高位の水龍を操るらしいが、お前の水魔法でも敵わないだろう」
「ほ~ほっほっほ♪ 何やら楽しくなってきおったぞぃ」
いきなりの緊張モードに差し掛かったため、ラグレアの部下もアンダルとグリートもオロオロとするばかりだった。
「・・・ ・・・」
『ふふふっ、ラグレアよ、別に戦闘をしに来た訳じゃないから剣から手を降ろせ』
「・・・」
ラグレアはトオルの威圧に対する耐性はかなりあるのだが、その風格と言うか、威厳と言うか、良くわからないが毅然とした佇まいと強い威光に少し気後れしている。
「あぁわかった・・・」
ラグレアは腰の剣から手を離した。
『リーよ、もういいぞ』
リーは素早くトオルの横に戻って、ラグレアに今の行動の非礼を詫びた。
「ラグレア殿、剣を突きつけた事を深く詫びる」
リーは腰から90度曲げた姿勢で、頭を深く下げて謝った。
「あぁ・・・ 先に剣に手を掛けたのは俺やから詫びは要らぬ」
(こう言うところがリーは美凪とは違うんよなぁw)
横でラグレアが蔑まれてる様に感じていた部下のコボルトがワナワナとしていた。
(こ、こいつら~ラグレアさんに対して・・・)
だがラグレアからリーが離れ、トオル達の意識がラグレア一人に向いてる現状から、今なら殺れると思いトオルに斬りかかった。
「や、やめとけぇ~~」
「あ、アホよ~やめろぉ~」
「爆炎!爆ぜろっ!」
コボルトの頭が吹き飛んだ。




