天使軍 逃げる奴追いかける奴/
天使軍の砦の東のグラウンドで繰り広げられている戦闘も、そこそこ収結してきたように思える。
しかし、この戦場は火魔法使いが多いためかなり明るい。
その明るさを目掛けて、新たな敵が海中から上がってくる。
今までの低レベルのゴブリン達とは雲泥の差がある敵たちだが、中央市場で戦ったあの連中に比べれば、小学生高学年の子供と対している程度にしか感じない。
それが今までなら油断や慢心に繋がっていたのだろうが、一度敗北し敗走した事で皆は心の箍が外れない様に、その緩んだ心の隙間に楔を打てるようになっていた。
「なんか、凄いレベルが上がるのが早い気がする~」
「ホントね、ナーコだけじゃなくパーティーに入ったネコちゃんチューちゃん達もどんどんレべルが上がってるから凄いよね~」
仲間達のレベルが上がれば、付随して紗衣のステータスも増々上がって行く。
獣化したような容姿の二人が、獣人と獣の眷属を引き連れて戦う様は、人のそれを凌駕している。
半魚人が使う魔法の槍や魔法の弾は、みんなが装備している火や水の盾で防げている。
やっかいなのは、近接戦闘に持ち込んだ時の生臭いニオイとヌルヌルとした体液にまみれた身体だ。
ちょっと女性には生理的に受け付けない人も多い。
「うっげぇ~ なんかキショいやっちゃぁ」
「触りたないけど、うちのショボい火魔法じゃなかなか倒れへんしなぁ~」
そんな嫌事を言ってる横では、紗衣と猫人ナーコが黙々と半魚人を倒していく。
「ヌルヌルは身体に良いのよw」
「納豆や山芋と一緒にせんといてw」
洋路の教訓として、みんな決して気は抜かず、それでいて余裕も持ち、合間合間に会話やジョークを織り交ぜて、心身共にリラックスを心がけて と言われた事を頭の隅には置いている。
戦闘も一段落しかけた時、そいつは大結界に沿って近寄ってきた。
「加奈子さ~ん、なんか異様な気の奴がこっちに向かって来るよ~」
明日桜はいつの間にか気配探知と索敵のスキルを覚えていた。
それはいつもモンスターの情報や位置をみんなに教えているからだろう。
『うん、気づいてたけど、、まっすぐにこっちに向かって来てるね』
「みんな、無理そうならすぐに砦に撤退してな~ 無茶と無理はすんなよ」
戸弩力はリーダーとして当たり前の事を言っているんだが、ここにいる天使軍と戸弩力軍の一部は思っている、同日に二度も敗走なんて有り得ない!。
その強い想いが、良い方向に進めば良いのだけれど。
まだ残っているシーゴブリンや半魚人を数人がさっさと倒そうとしている。
そして、手の空いた者は闖入者に向けて意識を飛ばし、臨戦態勢を取っている。
「来たよ~~~~ 海法師レベル35、水系氷系の魔法を使うよぉ~~」
(ヒュン)
明日桜の鑑定がレベルアップして解読に上化した。
海面から飛び上がるように上陸してきたそいつは、人の感覚から言えば、醜い。
半魚人の進化系なのかも知れないが、見た目は遠からず近からずだが身体の大きさが全く違う。
身長は2m50㎝くらいはあるだろうか。
身長180㎝前後はある天使軍が見上げるくらいには背が高い。
ニオイは無いしヌルヌルもしていない。
「来人さん、そっちから攻撃を始めて下さいっ!」
まだ少し離れた位置なので、洋路は須布来人に指示を出す。
須布来人は、空中から大気砲を撃ち込む。
ドヒュン! バスン! ボフッ!
海法師は身体の周りに水を纏い魔法攻撃を軽減させる。
「火魔法中心に攻撃して下さいね~」
「近接は少し様子を見てからいきましょう」
ステータスはレベル既存よりは高いが、魔法特化と言う訳でも無いのにスキルは魔法系が強い。
海中で戦うのに近接戦闘スキルは要らないと言う事なのか?
洋路は考察するが、まずは戦ってみないとわからない。
加奈子と徳太郎が海法師の前に幅広く、昇華した炎の絨毯を繰り広げる。
だが海法師はその体躯を生かし、超跳躍で炎の外へと飛び出す。
その高さは、空中から攻撃を仕掛けている須布来人の顔面に肉薄するほどに高く遠くへと飛んだ。
いきなり目の前に魔獣が近寄ってきた事に驚き、須布来人が無意識に打ち込んだ大気砲が海法師の顔面にぶち当たった。
海法師はよろけたが、大きなダメージと言う訳にはいかなかった。
「HPが12500もあるから、持久戦やで~ 先に怪我したらあかんで~」
ふと見ると、紗衣とあやかが近接戦闘を始めていた。
二人共、拳や短剣に火を乗せてダメージ上昇効果を狙っている。
「グランキオッ!」
しばらく戦闘で使っていたので、刃こぼれがして切れ味が落ちていた固有武器を、一旦収納して修復してからまた取り出した。
固有武器のちょっとした小技だ。
麗菜が飛び上がり、海法師に斬りつける。
少し躱されたが、高いダメージを与えた。
紗衣がナーコと交差しながら爪攻撃を仕掛ける。
ナーコの攻撃は躱されたが、紗衣の獣の爪攻撃が腕に炸裂した。
明日桜たちは一旦様子を見ている。
徳太郎の火の豪雨改は範囲が狭いゲリラ豪雨なので、ヒット率はあまり高くはない。
だが、当たれば数発同時にダメージを与えるので、連発は必須である。
加奈子は空中から火の羽を連発する。
徳太郎と共に、火魔法⇒火魔法+に上化した事で威力も倍増している。
海法師は元々ステータスも高く、中ボスクラスの強さはあるのだが、火属性攻撃がメインの天使軍とは相性は最悪である。
自信の最大の攻撃である氷属性が効かず、自身の弱点である火の攻撃がメインの敵はとても辛い。
「$’%|#&%%~」
海法師が放ったスキルは、全身から四方八方上下左右に氷の礫を飛ばすモノだった。
「火の盾~」「風の盾~」「水の盾~」
全員が何かしらの盾で攻撃を防ごうとした。
だが、魔法の盾を使えないガリレオキャットとガリレイラットの、後から来てまだレベルの低い数匹が直撃を受け、即死のダメージを受けた。
「ヒ、ヒール、ヒール、ヒール、ハイヒ~ル~」
『グランドヒール!エンジェルヒール!』
先に来ていた仲間はレベルもそこそこ上がっていたために即死のダメージは免れて、治癒魔法で持ち直したが、即死の仲間はもう生き返る事は無かった。
「ごめんね~ごめんね~ごめんね~」
涙を流しながら死に逝く仲間達を抱きしめ、紗衣は後悔の念に駆られる。
そして、今まで持ったことの無い強い怒りと殺意を胸に抱いた。
「このぉ海坊主がぁ~」
いや、海法師です・・・
紗衣は海法師に突進していった。
そして、獣の爪に火を纏わせ[火獣の大爪]と言う新しいスキルを両手で使う。
ザシュッ バシュッ
海法師の胸辺りに、4本のクロス傷が刻み込まれた。
「グボォ~」
寸での所で躱したつもりだったが、紗衣の突っ込みの方が深く、大きなダメージ傷を負った。
属性の相性も悪く、戦闘力の高い奴も居るので、海法師は撤退を決めた。
ザブーンッ
たまらず、後ろに跳ね海の中に飛び込んだ。
『洋路!来人!ついて来て~』
須布来人は自分に声が掛かった事に戸惑いを見せる。
「須布さん、水中は大気纏が無いと戦えないので一緒に来てください」
「わ、わかりました・・・」
2人は空中から加奈子を追いかける。
(逃がさないわよぉ~)
逃げる海法師、追いかける天使加奈子、速度はほぼ同じだ。
(加奈子さん・・・ 空中から追いかけた方が速いのに・・・)
眷属通信で進言しようかどうか悩む洋路であった。
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