悪魔軍対魔獣軍 隠密部隊の戦い3
脱出できた女子3人は、北西に道路を渡り西公園の中に入っていった。
そこからさらに西隣に行くと小学校があるため、多分そこが避難所になっているだろうと中身が年長のF子が提案したのを皆が聞き入れ歩いて行く。
小学校の南側にも大きな門はあるが、校舎からは遠いために厄災以降は閉鎖されている。
小学校に避難するのは北門から入らなければならない。
北門の前には、中6丁目公園と呼ばれる横長の小さめの公園がある。
公園は見通しが良いので、敵からの奇襲には遭いにくく防御面では最適である。
そのために北門を通用門にしている。
だが、南側からの避難民にはかなりの遠回りになる。
小学校の南には、7番街、8番街、9番街、10番街、そして道路を挟んで東隣に11番街と女子会館がある。
戸数にすれば凡そ1600戸約5000人超の人間が住んでいた。
厄災後にどれだけの人間が生き残ってどれだけの人間が避難できたのかはまったく把握できない。
唯々訳もわからずに数日が過ぎていっただけだった。
「ねぇなんか人じゃない気配を感じない?」
「えっ?何も感じないけど、どんな意味で言ってるん?」
「もぉ~びびらさんでよぉ~、真っ暗なんやから何か出てもおかしないし」
坂東瑛伖の腕を抱きしめて、ビビりながら大きな胸を押し付け歩く二人を横目で見ながら、普通の胸のF子こと、華小島藤子が警戒を怠らない。
回りを気にしながら、二人の前を歩き、年長である自分が二人を守るんだと言わんばかりに両手を広げ、二人が自分よりも前に出ない様に注意しながら真っ暗な夜道を歩く。
「えっ?うっうぐっうぅぅ~」
ドタッ!
ドサッ!
3人の女性はいきなり身動きが出来なくなった。
そして地面に這いつくばらされていた。
(な、なにがおこってんの?う、うごけへん・・・」
「ただの人間の様ですが、どう処分しましょう?」
藤子は、顔も見えないがその冷徹な声に心底恐怖を感じた。
そして、これから自分達は"処分"と言う行為で殺されてしまうか犯されるんだろうと、身構えて抵抗しようと頑張ってみるがまったく身体が動かない。
「おいっ人間よ、なぜこんな時間にこんな真っ暗な公園を遊歩しとるんや?」
「おいっ、返事によってはここで人生が終わると思っとけよ」
(女の人も居るから、強姦はされないかも・・・)
「おいおいっwそんなに追い込むな」
「まぁどんだけ問うても金縛りにおうとるから、声もでぇへんけどな(笑)」
「ポイ、少し拘束を緩めたってくれ」
身長170㎝ちょい位しかない人狐のポイが、掛けているスキルの[束縛]を少し緩めてあげた。
[束縛]が緩んだ事で声も出るようになり、手足が動かせるようになった。
「フワフワッ!」
藤子は自由になった手で一緒に脱出した二人を掴み、藤子のユニークスキルである浮遊系のスキル[フワフワ]を唱えた。
豹人と人狐たちが空中に浮き上がる。
「おっ?おっ?おわぁぁぁ~」
藤子のユニークスキルは、自分だけでは無く周りの物や生き物も任意で浮かせることが出来る。
いきなり空中高くに浮かされたセイラやポイが驚いていると、一気に地面に落とされた。
「きゃぁぁぁぁぁ~」
藤子がスキルを解除した事で、空中に浮いていた7人は重力に引っ張られ公園の芝生交じりの土の上に落とされる。
「フワフワッ!」
もう一度藤子はスキルを唱えた。
今度は自分達が浮き上がり、その場からの脱出を謀る。
「おいおいっw」
黒豹人のグリートと桃豹人のセイラがすかさず飛翔のスキルで空中に浮かび藤子の前に移置する。
「空を飛べるのはお前だけじゃないんやで?」
「両手が塞がった状態で、俺らの攻撃をどう対処するんや?」
「降りろっ!そして跪けっ!」
藤子は思案した結果、空中での戦闘経験も無いし、まだ束縛の影響を受けた体で二人を庇いながら戦うのは無理だと悟り地上に降り立つ。
(ヒュン)
地面に降り立ち、暗闇を凝視していると3人共がほぼ同時に暗視系のスキルを覚えた。
「えぇぇぇぇぇ~? い、犬ぅ~?」
「き、き、きつねぇ~?」
「あ、あがっうぐっ・・・」
ガクガクブルブル
震えあがるEカップの女子大生。
それまで普通に会話をしていたので相手は人間だと思い込んでいた。
だがその姿は、人の様な獣のような人だった・・・ どっちやねんっ!
「グリートさん、犬って言われとるし(笑)」
「し、しばくぞっ!俺は黒豹やっ!」
豹人の誇りを持っているグリートが藤子を怒鳴りつける。
「まぁうちらはイヌ科やから、あながち間違いちゃうけどなw」
「グ、グリートさん、こ、殺しましょうっ!!!」
このメンバーでは唯一戦闘系のステータスを持つ豹人の男が興奮気味にグリートに進言するが、グリートは今のところ殺す気は無かった。
「俺は黒豹族のグリートと言う。
何度も聞くが、おまえらはそんなレベルで、なんでこんな暗闇の中をうろついていた?」
3人の中ではこいつがリーダーだろうと思った女に向かってグリートが言った。
「わ、私は華小島藤子と言います。
自分達は一人の男に拘束されていて、そこから逃げ出してきたところでした。
そして、そこの小学校に保護してもらって、まだ逃げれてない仲間を助けに行きたいと思っています」
藤子が自分達の今の状況を明確に説明した。
なぜかその横で坂東とEricaがグスグスと泣き出した。
「逃げずに地獄、逃げても地獄、どないせぇゆうんやぁぁぁぁ」
「俺は大耳狐族のアンダルと言うもんだ。
ここが地獄になるか天国になるかはお前ら次第だと最初に言ったが、理解してないのか?」
「ん~じゃぁ避難してる途中でうちらに出会ってしもたって言うんか?」
「む、胸がある?お、おんなのこぉ~?」
「失礼なやっちゃなぁ~、この可愛いボイスが男の声に聞こえるんかぁ?」
「あははは、あんたのんはハスキーボイスって言うんやでぇw」
「だれがハスキー犬やねんっ!」
「意味がちゃうわ!」
トリオで漫談でもやってる様な3人をスルーして話し出す。
「お願いがあります。
この子らを隣の小学校に避難させてください。
私はあなた方の奴隷になっても構わないので、捉われてる仲間を助けてくれませんか?」
「自分を犠牲にしてまで助ける価値のある仲間なのか?」
「いえっ、ほとんど会話もしたことが無い人ばかりです…」
「ちっ!偽善者かよっ!」
「うん、そんなあんたの偽善心を満たしたいがために戦闘なんかしたくないぞ」
「そんなもん、うちらになんの利得があるっちゅうねん?アホか?」
「ですよね・・・」
「凄い力を手に入れて、自分は何でも出来そうな気がして勘違いする奴はおるからな」
「そうやぞ、お前が力を得たように、他にももっと強い力を持った奴らが居るんや」
「それを倒したいんです・・・」
「・・・ ・・・」
「倒す、かぁ・・・」
「詳しく話ししてみ」
藤子は厄災が始まった時からの事を、俯いて、ぼちぼちと語り始めた。




