サイコパス歩く
北に歩いていくと国道に出る。
その手前で東に向かう。
子供らとはぐれたのはここよりもだいぶ東側、そこから子供の足でこっちに逃げたなら、この辺に隠れるのが最大距離くらいだろうと皆が考えた。
手分けして一軒づつ捜索していこうと多田が言ったので、それを遂行する事にした。
少し南の倉庫や酒蔵の辺りを多田が、中ほどの中低層マンションや戸建てを丘が、そして華那子は国道沿いの戸建てとマンションを受け持つ。
新在家公園まで来たら、そこで一旦捜索を止めて、皆で落ち合う事にして3人は分かれた。
「小夜ちゃん~亮くん~翔くん~」
子供の名前を呼びながら捜索を進める。
低層ながらマンションもこの辺は多いので、それも一軒づつ虱潰しに探っていく。
細い路地の左右に、古い家と新しい家が混在する不思議な空間だ。
所々空き家を潰して駐車場になったり空き地になったりしている。
3階建ての家は、震災後の復興住宅だろう。特例の建蔽率で3階まで立てれた時期がある。
戸建て群の捜索が終わり、マンションを調べる。
「小夜ちゃん~亮くん~翔くん~」
各階を、非常階段を上りながら1軒1軒調べていく。
ドンドンドンドン
「小夜ちゃ~ん、亮く~ん、翔く~ん」
耳を澄ませば、遠くからも丘が声をかけるのが聞こえてくる。
車が走ってないと、こうも静かなんだと思い知らされる。
国道沿い、それも上に高速道路が通ってるような場所に住んでいると騒音も麻痺するもんだ。
しかし、子供達はどこに行ってしまったんだろうか。
うちの子だけじゃなく十数人が消えている。
「小夜ちゃん~亮くん~翔くん~」
捜索していると、人の気配がする部屋があった。
物音がしたような雑然とした感覚なんだが、気になる。
ドアの前に立ち、目をつむり微動だにせず神経を集中させる。
(ヒュン)
「ん?人が居るのがわかる! 一人、二人」
なんとなく小声でステータスボードを開き見る。
隠密と気配探知と言うスキルを二つも覚えている。
(ふふ、忍者みたい、なんか楽しい)
インターフォンを押すが返事が無い。
気配は奥の方に二つとも遠ざかっている事から移動をしてるのが分かる。
郵便受けを手で押し開けて声を入れる。
「おはようございます~大丈夫ですか~」
「外は危ないですから~避難した方がいいですよ~」
返事が無いのでそれ以上深入りする気にはなれない。
「それでは~お元気で~」
その後もスキルのおかげで、声を掛けなくても人が居るか居ないか分かるようになった。
一番に公園に着いたので、どうしようか思案していた。
耳を澄ませば丘や多田の声が聞こえるのじゃないかと試行してみる。
「・・・・・」
(ヒュン)
「あはっ、また何か覚えた」
スキルボードを見ると遠耳が追加されていた。
スキルを意識すると、遠くの多田の声を拾う。丘の声も良く聞こえる。
まだまだ公園には来なさそうな距離だ。
仕方ないので北側のマンションも捜索する事にして、建物の中に侵入する。
非常階段を上りながら気配を探知していくと、すぐに索敵のスキルを覚えた。
索敵は位置まで理解できるようで、探知系の上位スキルの様だ。
そのスキルのおかげで、一軒づつ回らなくてもある程度の距離まで調べる事が出来るようになった。
スキルで調べると、このマンションには30人程の人間が隠れているが、その中の1部屋で4人程の人間らしきものが争っているのが分かる。
遠耳を使い索敵も併用すると、助けを求める声が聞こえた。
大人なのか子供なのか調べたいが、まだこのスキルは幼くてそこまでは分からない。
階段を急いで登る。足が長くなった事で段をすっとばして素早く駆け上がっていく。
もう一度索敵すると、その部屋は7階のようだ。
急ぐ。
(ヒュン)
「キャァァー」
2フロアーほど駆け上がった所で、いきなりとんでもない跳躍力で飛び上がり、階段上の廊下の落下防止の柵に身体ごとぶつかる。
(あいたたた)
跳躍 と言うスキルを新たに覚えた。
どんどんスキルを覚えるのは楽しいが、いつもいきなり覚えるからこんな動作系はちょっと困る。
とは言え、これはまた使えるスキルだ。
体感的な物だから、すぐに慣れるだろう。
階段を一足飛びに駆け上がる。
(アニメの世界だな~)
そんな事を考えながら飛んでいると、あっという間に7階に着いた。
ドアの前に立ち、索敵のスキルで中を伺う。
ドアノブに手を掛けると、鍵は掛かっていない。
隠密のスキルを駆使して、そっとドアを開けて中に入る。
廊下を抜き足差し足で静かに通り過ぎ、リビングの中を見る。
学生服を着た女性が床に寝転がり、両足の間に身体を入れ男が覆いかぶさる。
右の足首には、白いショーツと黒っぽいスパッツがずり下ろされて引っかかっている。
男一人が女の頭の所で座り込み、多分手を押さえている。
もう一人の男は胸の辺りで手をしきりに動かしている。多分ブラウスを脱がしているんだろう。
その様子を見て、華那子は学生時代に集団レイプされた事を鮮明に思い出した。
自宅の自分の部屋で、兄の友人たちに手足を押さえられ、口を押えられ、すべての自由を奪われて、なすすべも無く蹂躙された。
誰にも相談できずに、うやむやのままこの歳まで来た。
力さえあれば・・・
力さえあれば、男の悪意に屈する事も無かった。
自由を奪われて絶望の底に落ちる事も無かった。
そう思うと、頭に血液が集まってくる。
(こんな奴らは生かしておいて良いはずが無い!)
そっと気配を消して覆いかぶさっている男の真後ろに立ち両手でバールを握りしめ打ち下ろす。
ボゴッ
2発、3発と打ち込む。
男は声も出さずに女性の上に倒れ込む。
(ヒュン)
すかさず残りの男達に近寄り、横で胸を触っていた奴の顔面に膝蹴りを入れる。
ゴギャッ
顎が割れたんだろう、赤い液体が口から洩れ出て来る。
右手にバールを持ち、その顔面に上から斜めに打ち下ろす。
ボゴッ
次は振り下ろした位置から顔面に打ち上げる。
ベゴッ ゴフゥオ
そいつはゆっくりと後ろに倒れて行った。
正面の男は一体何が起こったのか理解できないまま目を見開いている。
バールのくぎ抜きの方を右手に持ち、左手を添えて平たい先を男の喉元目掛け強く突く!
「うぉおお」
正気を取り戻した男が顔を下げたので、バールは前歯をへし折り喉の奥へと滑っていく。
グハァ ゴホォッ ブホォッ
男の口から大量の真っ赤な血液が噴き出してくる。
女性の顔の上にその大量の血が流れ落ち、顔を覆いつくし真っ赤になる。
そのままバールを抜き去り、上下を持ち替えて脳天を叩く。
もう一度両手で持って同じ位置に叩き込む。
そのまま意識も命も刈り取られ、女性の上に倒れ込んだままの男に覆いかぶさるように沈んでいく。
華那子はその男を無造作につかみ、横に投げ飛ばす。
最初の男も髪の毛を掴み後ろに放り投げる。
「大丈夫?」
見た感じ高校生のようなその顔を見ると、左半分が酷く腫れ上がって見るも無残だ。
かなり強く叩かれたか殴られたんだろう。
その少女は起き上がり、テーブルの上に置いてあった大理石の台の時計を両手で持ち上げると、最初の男の顔面に何度も何度も奇声を上げながら打ち付ける。
男の顔がぐちゃぐちゃになると次の男に襲い掛かる。
男達はもう死んでいるが、それほどの憎悪を持ち反撃を繰り返す。
人を殺しても何も思わない、いや、むしろ快感すら覚えてる自分と同じだなと華那子は思う。
(こんな子は仲間にする価値があるかも)
狂気を感じる程に男たちを潰していく少女に華那子は声を掛けた。
「もうそれくらいでえぇんちゃう?」
すると少女は手に持つ大理石の時計を頭上に掲げ、華那子に襲い掛かろうとした。
華那子は躊躇うことなく少女の喉元にバールを突き刺し、そして素早く抜いた。
ゴボッ カハッ
少女は血反吐を吐き、手にしてた置き時計を落とし、膝をつき自分の首を両手で包む。
その頭部に容赦なくバールを打ち下ろす華那子。
「せっかく助けたったのに、何考えてんねん。バ~カ」




