海の中の天使
ドッボ～ン
紫ゴブリンはガリレオキャットを抱いたまま海の中に飛び込んだ。
加奈子は岸壁で立ち止まりゴブリンが浮いて来るのを待った。
「加奈子さんいいですか？」
『はいっ？どうしたのかな？』
「あの紫のゴブリンは水中で戦闘できるくらい水の中が強いんですよ」
『？？？』
「だから、いくらここで浮き上がるのを待ってても時間の無駄かと思います」
『・・・』
『じゃぁどうすれば？』
「追いかけて飛び込みましょう、無酸素耐性あるから多少は水の中でもいけると思います」
そう言って上空に飛び上がり、上から海面を見ながらさっきのゴブリンを探す二人。
『あっ、あそこっ！』
加奈子が指さす方向に、ゴブリンが潜水しているのが見えた。
すかさず二人は上空から水の中に飛び込む。
{洋路・・・私泳げないんだけど}
{あぁ大丈夫ですよ、多分泳いでるうちにスキルが発生するでしょうｗ}
こんな時は本当に眷属通信は便利なスキルだと思った。
｛加奈子さん、水魔法の波を起こすのありますよね？それを進行方向と逆に撃って下さい｝
加奈子は言われる通りに後ろに波を起こし推進力を得る。
それでもシーゴブリンには追い付かない。
『ん～っ！』
加奈子が力を入れると[細波］が[大波]に上化してスピードが上がる。
（もっと、もっともっと強く！）
[大波]が加奈子の強い想いで[津波]に上化していった。
[津波]を水中で使うと、加奈子の前の海水が急激に無くなり海底まで水が無くなる。
そしてその後に大きな津波となって加奈子と洋路を押しだし先のゴブリンを引き寄せる。
{少し息が苦しくなりますね}
{なんか新しいの覚えたわ}
加奈子はそう言って、ほんの今、たった今覚えたばかりのスキルを唱えた。
『大気纏！』
加奈子と洋路の身体に、空気が纏わりつくようにバブル状に包まれる。
「おぉ～これはまた凄いスキルですね」
加奈子から少し離れたくらいでは大気纏は途切れなかった。
そうこうしているうちに、洋路も大気纏を覚え、ゴブリンを追従していく。
「もうネコちゃんは息絶えているだろうけど、今ならまだ蘇生出来るかも知れませんね」
『あのゴブリンは、死んだ猫なんてどうするのかしら？』
「えっ？普通に餌でしょ？」
『・・・』
加奈子が物思う間に、洋路がいきなり攻撃スキルを発動した。
「水弾！」
洋路の指先から小さな水の弾が無数にゴブリンに向かって飛んで行く。
「ほぉ？ほぉ～ほぉ」
ゴブリンは水中で息絶えた。
『水魔法なんていつ覚えたの？』
「えぇたった今ですよｗ」
キョトンとした顔の加奈子を余所に、洋路はガリレオキャットを回収した。
『エンジェルヒール！』
ゴボッ ウゲェッ ガホガホ ゴホゴホゴホ ンニャ～
ネコは、口から水を吐き出し激しく咳きこんだ。
なにが起こったのかも良く分かって無いようだ。
「息も吹き返したし、一旦戻りましょうか？」
『・・・』
『ねぇ？さっきの水魔法、私にも出来るかな？』
「さほど難しくないと思いますよ」
『・・・』
『火魔法を極めていけば良いっ！と思ってたけど、さっきの戦いで思い知らされちゃった』
「ちょっと色々と考えさせられる連中でしたね。何かがおかしいし・・・」
『私ね、あの赤いゴブリンの火魔法でダメージを受けたのよ？』
「ん～、それに氷の属性なのに火の絨毯が平気って意味がわからないし」
「一番の不思議は、ステが見れなかったり、レベルが低いのに敵わなかったり」
『わかる～ レベル15の子に競り負けるし結構なダメージ入れられたりね』
「・・・ ちょっと僕なりに色々と考察してみますね」
砦に戻ると、全員が最上階の20畳ほどの物見やぐらの中に座っていた。
『ただいま』
「紗衣さん、この子は無事でしたよ」
紗衣とナーコが駆け寄って来てガリレオキャットを抱きしめる。
ンニャ～
緑と徳太郎は疲れたのだろう、スヤスヤと寄り添って寝ている。
一度屋上に上がって、加奈子は火の戦闘領域を発動して服や髪を乾かす。
「ほぉ～これもスキルなんですか？」
『うん、でもこれは不完全だって言われたの』
加奈子はキャリヤに言われた事を洋路に伝える。
「ふ～ん・・・要検証ですな・・・」
『まぁ私じゃどうしたら良いのかも思いつかないから、そのままなの』
「後でちょっ色々と検証しに行きましょうか」
そう言いながら、加奈子と洋路は物見やぐらの中に戻った。
『みんな、今日はごめんね・・・』
「な、なんで加奈子さんが謝るんです！うちらが弱いから負けたんです…」
「う、うちもなんにも出来んかった、ビビってしもてたし…」
「いや、俺らはそんなに弱くないよ、さっきの連中が特別なだけだ」
麗菜は何となく顔を上げて洋路や加奈子を見ているが、いつもの凛とした佇まいは見られない。全身脱力したままだ。
やはり自信過剰気味だったのにまったく相手にされず、今の実力を知ってしまったからだろう。
（加奈子さんが居なかったら死んでたなぁ・・・）
「まぁまずは腹ごしらえしましょうか？」
加奈子の空間倉庫からバーべキューセットと炭とかテーブルをだして食事の用意が始まる。
ホームセンターの近くの回るお寿司屋さんから仕入れた魚、餃子の有名な中華屋さん、市場の冷凍庫に入っていた大量のお肉など、クランの食糧庫に寄付しようとしてた食材が一杯ある。
「市場で仕入れたお肉とかは、あいつらの食料だったんじゃないですか？」
『そうね、何のお肉かと思って鑑定したら、ワイルドボアとかレッドベアって魔物の肉だった』
「あいつらの戦利品ってとこでしょうね」
「と、取り返しに来るかしら？」
『大丈夫じゃないかな？ 撤退した時も簡単に逃がしてくれたし、こっちにあんまり興味なさそうだったから』
「でもぉ～こんなに近くにお互いの拠点があるんやし・・・」
「それは、いつでも引っ越す事は可能だし、あいつらは飛べないみたいやからしばらく様子を見てもえぇんちゃうかな？」
「ふあぁ～ それやったら高速道路の下を砦でふさいだらいけるんちゃうんか？」
皆の声で起きてしまった徳太郎が物申す。
『まぁお腹一杯にしてから考えましょうか』
緑を起こし、皆で食事を始めた所で戸弩力と2人のファミリー員が砦を訪れた。
「はぁ～無事で良かった・・・」
『あらぁ～ごめんなさい、すぐに連絡入れないと駄目なのを失念してました』
戸弩力たちは配給の時間になっても帰って来ない明日桜や緑達に何かあったのだろうと急いで飛んできたようだ。
「ここはなんじゃ？」
「その大きな猫や獣人は仲間なんか？」
「この建物は？」
「加奈子さんのスキルで作った天使軍の居城ですよ」
「「「はぁ～？」」」
事のいきさつを、徳太郎と洋路が戸弩力たちに説明しながら飯を食う軍団。
「そっか～強い奴は居るだろうと思ったけど、あの碧髪より強いとは…」
「それよりなにより、その肉と白飯はなんやねん！！！」
文句を言いつつも、紗衣からお箸を貰う3人。
「そう言えば、ここまで飛んでくる時に高速道路の向こうにも灯りが付いてる所が見えましたよ」
「こっちのが手前だったから、先に覗いたらみんなが見えたからな～」
「あっちに先に言ってたら戦闘になっとったな」
「加奈子さんやワシ等が勝てんかったのにおまえらなら瞬殺じゃろー」
「なんか落ち込んどったけど、お肉食べたら元気出て来たなｗ」
「ん～美味しい♪」
敗戦で落ち込み気味だった天使軍もお腹が膨れた事で少し落ち着いたようだ。
麗菜を除いて。
