天使軍ー紗衣の葛藤
2階に上がろうと階段に差し掛かって気が付いた。
階段には、教室の机や椅子が山積みにされてバリケードの様相を呈している。
ラットの大きさでは2階に抜ける事は出来ないだろう。
だが、加奈子たちは全員が宙に浮けるので、バリケードの上部を飛んで2階に上がれた。
加奈子は翼を出さずに浮き、隙間を抜けていった。
2階に上がると、そこもゴブリンの死体と人間の遺体が転がり、それを食事にしている魔物が多数いた。
「ガリレオキャット、悪だくみに長けた猫型魔獣~ レベル低い子ばっかり」
『ガリレオキャットにガリレイラットって(笑)』
「ガリレオ・ガリレイ?本で見たぁ~」
下のラットもここのキャットも何故か敵対してこないのでスルーする事にした。
3階、4階と上がるごとに数は減るものの、どこも同じような光景だった。
5階は死体も遺体も無かったので、キャットも居ない静かな階だ。
その代わりに生きた人間も居ない。
もうここの学校には生存者は居ないのだろうか。
向かいの棟も窓から見える範囲では、死肉喰らいの魔物しか動くものは見えなかった。
ゴブリンやオークすら居ない。
一行はもう一度4階まで降りてきた。
「なんでこの子らって、うちらを敵視しないんやろうなぁ」
『まぁ捜索するのに邪魔にならないから良いですけどw』
「紗衣さんが居たら抱きしめてたかもねぇw」
『あ、何か眷属欲しいって言ってたけど、知らせてあげようかな』
{紗衣さん、そっちはどうですか?}
{あっ、加奈子さん、こっちにスプーンのロゴのお砂糖屋さんとかお母さんのマカロニ屋さんとかがありましたよ}
{あら、ここから見えるわ、その北側に学校が見えるでしょ?そこに猫型やネズミ型の魔獣が居るんだけど見に来ませんか?}
{いくぅ~}
3階の南側の窓から見ていると、紗衣とあやかが飛んでくるのが見える。
明日桜と緑が千切れんばかりに手を振り誘導する姿が可愛い。
部屋に入ってきた紗衣は、1オクターブ高い声で叫んだ。
「いやぁぁぁぁネコばたけぇ~」
白や黒や茶色いネコ。ブチや三毛や斑や言いようのない有色猫達。
毛足の長い子短い子、足の短い子、多種多様だ。
普通のネコよりも体躯はかなり大きく、バランス的には胴が長く見える。
飼い猫や野良猫の進化系かも知れない。
見た目は、知ってる範囲で言えば、ヤマネコかビントロングかフォッサのようなのもいる。
「どの子にしよっかなぁ~」
紗衣が触っても、どの子も嫌がらないし抵抗すらしない。
こんな危機感のない生き物は淘汰されてしまうんじゃないだろうかとさえ思ってしまう。
紗衣は少し壊れかけである。
「にゃぁぁぁぁぁぁぁ~~~どの子にしようかにゃぁ~」
才楊と別れて自由になった紗衣は、これからは大好きな動物と一緒に生きていきたい。
その為の眷属を吟味したい、でもどの子も可愛くて選び切れない・・・
『明日桜ちゃん、緑ちゃん、ちょっと紗衣さんに尽いててあげてもらえないですか?』
「いいですよぉ~、コメちゃんの眷属用にネコちゃん持って帰ってあげたいし」
明日桜は緑と相談して、何匹かのネコとネズミを持って帰ろうと計画していた。
それは、ファミリーの友達が眷属を欲していたからだ。
「加奈子さん、ちょっと一回クランに戻っても良いですか?」
『どうしたのかしら?』
「あんね、ネコちゃんとネズミちゃんを眷属をほしがってたひとにあげたいの」
『あぁ良いですよ~でも気を付けてね』
「ありがとうございます~」
加奈子はあやかを連れてお母さんロゴのマカロニ工場に向かった。
乾燥パスタやマカロニ等を大量に仕入れられた。
しばらくの食料はこれだけでも十分事足りる。
その後はスプーンのロゴのお砂糖工場であるだけの物資を空間倉庫に詰め込んだ。
明るい星のインスタント麺の工場では当分食べきれないであろう数の各種麺類が手に入った。
その工程で使われるであろう食材も色々と空間倉庫に詰め込んだ。
神戸発祥のお菓子屋さんでは、大量の小麦粉の薄力粉を手に入れた。
20㎏入りの袋を500袋はあるだろうか?
別の棟には、強力粉が同じくらいの量が積みあがっていた。
奥の冷蔵室には卵や生クリームが驚くほど大量に在庫してあるままだった。
誰もここには盗掘に入ってこなかったんだろう。
冷凍庫にはまた大量のバターや多種の冷凍フルーツがあった。
電気が止まってるとは言え、耐熱加工のされた部屋なので、まだまだひんやりとしている。
食品加工会社や物流センター等も見て回り、食になりそうなものは全て攫えて倉庫に入れた。
一番東の小天使のマヨネーズ屋さんはここでも大きい部類の工場だ。
マヨネーズに使う鶏卵を始め、オイルや見学者に振る舞う試食用の野菜がたっぷりとあった。
ドレッシングもここで作っているようで、それの原材料の玉ねぎ等のストックがかなりあり、申し分のない収穫だった。
これで今の1000人前後の人数なら、年単位で延命できるだろう。
六アイウエスト地域の外周部の、春にパン祭りをする所やハム屋やお菓子屋さん等、まだ見てない所も多いから、近いうちに見に行こうと加奈子は思った。
途中で合流した麗菜や徳太郎と一緒に高校に戻る。
その道すがら、人間には逢わないがモンスターにはチョコチョコと出会う。
あまり強いのは居なくて、ほとんどは洋路のレベリング用に消化されていく。
高校に戻ると、明日桜と緑はすでに帰って来ていて、紗衣を生温かい目で見ている。
紗衣は2匹の大きめの短毛のガリレオキャットを抱きしめていた。
『紗衣さんはその子達に決めたのでしょうか?』
「あははは、まだ決めかねているんだよ~ん」
「もぅどの子も可愛くて可愛くて選び切れないですぅ~」
「もういっそ、ここに住んだら楽しいよねぇ~」
「!!!」
『さ、紗衣さん?』
「お、お母さん?なんか変な事考えてない?」
「加奈子さん、ここを天使軍の基地にしませんかぁ~?」
満面の笑みで紗衣が加奈子に問い願う。
『・・・』
「駄目ですかぁ?」
少女返りしたような紗衣がもう一度懇願するが、加奈子が危惧する事がまだ解消出来てない。
『この近くにね、フィルを傷つけたゴブリンの集団がまだ居るのよ。
それを討伐出来たら、元々自分たちの拠点を何処かに作ろうとは思ってたからね』
「加奈子さんって土魔法の砦とか持ってるでしょ?」
唐突に洋路が加奈子に問いかける。
『うん、小屋と砦があるよ?』
「それを使ってこの校舎を囲えばちょっとした要塞が出来るんじゃないかなぁ?」
『・・・』
『具体的にどうやれば?』
「まずは砦とかを作るのにその原材料がどう使われるのかとかわかりますか?」
『ううん、まったく何もわからないわ』
「それじゃーちょっと外に出ましょうか?」
紗衣と緑とレンを残してみんながゾロゾロと付いて来る。
「攻撃土魔法は少しは見た事あるけど、要塞を造るなんてまるで魔法のようだ!」
「あはははは」
明日桜もすっかりポジティブ思考に切り替わり、こんな世界を楽しんでいるようだ。
戸弩力組も、全体に暗かった雰囲気が今はとても明るくなったのは加奈子のおかげだろう。
そんな事を思いながら天使軍はちょっとワクワクしながら笑顔で外に出て行った。
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