夜のお散歩
外に出ると美咲たちがギャーギャー騒いでるのが聞こえてくる。
うん、空の上から。
マンションの屋上に立つと、美咲と少女風の中身お姉さんが飛んでいる。
自分を見つけて3人が降りてきて、第一声が「3人とも空翔ってスキルを覚えたー」と叫ぶ。
風纏よりもかなりスピードが出るらしく、六甲道から2キロほど山手にある女子大まで行って帰ってきたと言う。
美咲が所属する大学らしい。
直線距離なら近く感じるが、歩けばかなりの急な坂を登り続けないと辿り着けない。
六甲登山口と言う信号を超える事からキツイ坂が続くのが分かるだろう。
神戸のそんな所は大体地価が高く、住んでるのはお金持ちばかりだ。
「ちゅうか、あそこやったんか。女子大生やん」
「だよー エロい目で見ても良いよー」
ボコッ
「まぁー学校再開しても楽ちんだね」
と微笑みながら言う。そんな日がいつか来るのか?
少女風と美咲と、風纏でどれくらいの差があるか競争することになった。
大きな人口島である六甲アイランドの入り口に立つ超高層タワーマンションの屋上まで。
直線距離で7~8Kmくらいある。
「やっぱり空を飛ぶときは某戦闘民族のような体勢になるよなー」
「うちはアトム飛びで行くよー」
「「「あはははは」」」
ハンデで先に飛び立つ。
しばらくすると後ろから
「おさきにー」
と3人に抜かされる。
顔面に当たる風圧で少女風の二人は思ったよりも速度が出せないが、風纏を併用している美咲は凄いスピードで飛んでいく。
多分また「ヒャハー」とか言ってるんだろう。
風纏でもスピードが出せるように色々と工夫する。
強風をイメージしてみたが追いつくほどの速度は出ない。
身体を軽くするイメージでもさほどスピードは上がらない。
試行錯誤しているうちにドンドン差が開いていく。
少女風の二人は数百メートル先に見えるが、美咲はもう小さくしか見えない。
(ヒュン)(ヒュン)
おっ?飛行系覚えたか?
ステータスボードを見ると 遠目 と言うスキルだった。
美咲の後ろ姿がはっきり見えるが、ちょっとがっかり。
だが凄い勢いで飛翔する。
あれ?
もう一度ステータスボードを見直すと[風疾駆]という風魔法スキルが増えている。
(おぉ~新しい飛行系覚えてるやん!よしよし)
さすがに今から美咲には追い付けないだろうから、少女風のすぐ後からゴールするか。
速度を調整しながら前の二人を追い越さないよう飛ぶ。
東側のタワーマンションの屋上に立つと、ハァハァ言ってる二人と涼しい顔をした美咲が待っていた。
このマンションも2番街と一緒で真ん中が吹き抜けになっている。
また楽勝レベリングが出来るかと思ったが、ここはオープンな非常階段が無いので無理だろう。
「それでは武器を渡しておくね」
陰気女にメリケンサックを2つ渡す。
「手袋が無かったから、またコンビニかホームセンターで仕入れてね」
「んじゃーあとでホームセンター寄ろう」
「一番遅い人は~食料調達してきて~みんなに料理をつくる~」
チラリと俺の顔を見て微笑むが、一応演技して下を向いてみた。
「それで、君にもこれを」
スリングショットを手渡すと、抱きついてきて喜んだ。
「これ、前から欲しかったやつー」
「レーザーも付けたるよ」
「も~私を好きにしてぇ~」
両手を首に回し、顔を摺り寄せ頬に口をつける。
なぜか美咲のほっぺたがぷっく~と膨らんでる。
試し撃ちって事で、屋上から吹き抜けの中が見える位置まで行って、レーザーでゴブリンに照準を当てる。
バシュッ
ピギャー
ゴブリンの顔面にヒットしそのまま貫通する。
「すご~、威力が全然違うー」
フワッと陰気女が飛び降りる。
両手にはメリケンを嵌めている。
最上階の廊下に降りると、目の前のゴブリンの側頭部を殴る。
グルンと首が回り静かに倒れて動かなくなる。
そばにいて気づいたゴブリンが陰気女に襲い掛かる。
拳が下からアッパーカットーで顎に食い込む。
顎が割れ、口から大量に血を吐きそのまま後ろに倒れて動かなくなる。
(こいつ、絶対サイコパスだな。おまけに脳筋っぽいし)
美咲も加わってまたレベリングが始まってしまった。
しばし見ていたが、どんどん下の階に降りて行くので
「そろそろ戻ろうか?ここはレベリングの穴場っぽいからまた明日にでも」
「んじゃーホムセン行こか」
「このまま北に海を越えたらすぐにロイヤルがあるからそこ目指してね」
「じゃー健ちゃん先にどうぞー」
「すぐそこだから一緒でいいよ」
「良い心がけじゃ だが弱者は強者の言う事を聞くもんじゃ!」
(だれやおまえはw)
ふざけた美咲に一言いう
「俺が勝ったらなんでも一つ言う事聞けよ」
「りょ~かい~」
(ふふふ。最初から全力で行ってやる!!!)
風纏を唱え、ゆっくり飛び出す。
少し飛んだところから風疾駆で勢いよく飛んでいく。
バッヒューーン
「「「えぇぇぇぇぇぇ???」」」
慌てて3人とも飛び出したが、美咲は風纏を唱えてないので顔が風圧でゆがむ。
少女風の二人はすでに風圧耐性を身に付けていた。
ドッヒューン
美咲だけが取り残された。
慌てて急いで風纏を唱えたが、もうすでに追いつけないほど差が付いていた。
ホームセンターの屋上の駐車場に集まる。
「ずっこいー絶対ずっこいー」
「ずるなんてしてないぞ?」
「そんなんスキル取れたんやったら言わんとあかんやろ~」
「ふっふっふ。人は日々進歩しとるんだよ美咲君」
「さっきまでの俺やと侮った君の負けだ!愚か者よ!!」
「くっちょ~~~くやし~~~」
頭をナデナデして落ち着かせる。
ホームセンターの1階まで降りて行く。
索敵で人が数人いることを察知し、皆に告げる。
「どうする?もしかしたら戦いになるかも知れないけど」
「とりま話してみてから考えよ」
「二人は一応だけど、後ろから来てね」
「その後ろから襲われたら・・・」
「大丈夫でしょ?夜目効いてるよね?」
懐中電灯の光がチラチラしてるので、向こうは夜目が効いてないと思う。
美咲に相手が見えたらすぐに"覗き見"するように頼む。
ちょっと距離があるので出来るだけ近づかないで調べよう。
「あのーすいませんが、出来たら生理用品が欲しいのですが」
「あーうちも持っときたい」
男性じゃわからない事だったが、平気で言ってくれるのは逆に助かる。
日用品売り場の方に人は居ないから、ゆっくりと売り場を探す。
その前にこの女性二人にリュックを探してあげないと、自分らの背負ったままのリュックにはもうあまり物が入らない。
スーツケースは校庭の真ん中に置いたままだし。
美咲にリュックを持ってくると言って3人から離れる。その間に要るものを探しておいてもらう。
風纏を唱え、足音がしないように進む。時々1回転して周りに何かが居ないか確認する。
結構ドキドキするのがなんとなく楽しい。
ちょっと感覚がおかしくなって来ているのかも知れないな。
作業服売り場の手前の筋にリュックが少し並べてある。
デザインよりも大きさと機能性を重視しよう。
良さそうなのを二つ掴むと来た通路をそのまま戻って3人のそばに行き、二人にリュックを渡し要るものを詰めていってもらう。
あとは学校に居る、レベルが付いた人たちに武器になるものを持って帰りたいな。
バール、スコップ、大金づち、牛刀、等々。
鈍器はそのままでいいけど、刃物は鞘かホルダか入れ物が無いと持ち歩きに困る。
二人に必要品の物色を頼み、美咲を連れて建築材料売り場の方に風に乗っていく。
「敵のステゲット!」
「一人はレベル4で職業選択してない。後の3人はみんな3で職業無し」
「ん?ステータスパネル知らないのかな?」
「まあ襲われても負けることは無いだろうから話しかけるか」
「スキルも攻撃系は持ってないし大丈夫かな」
「敵対しないといいけどな」
じゃないと美咲に人殺しをさせてしまう事になる。
静かに、ゆっくりと近づいていく。
「こんばんわー」
な、なななにーーー
ゥワォ~??
だ、だ、だれじゃー
こちらに懐中電灯を向けてくる。
「驚かせてすいません」
「武器を物色しに来たら先行さんが居たのでお声を掛けさせていただきました」
「な、なんか体の周りにおかしな渦が巻いとるから気をつけーよ」
こちらを伺いながら仲間に注意勧告をする。
この人がリーダーかな?
手に手に武器を持ちこちらを向き身構える4人。
「あぁ別に敵意は無いですよ」
「いきなり出て来てそれを信じろと言う方がおかしいだろ」
「あんたら殺そうと思ってたら声もかけずに襲ってるわ」
「暗闇の中でなんも見えへんのやろ?うちらはあんたらが見えとったんやから」
「すみません、ちょっと口が悪いけど、本当は良い子なんですよ」
「えへへ」
健斗達が話し合い?をしてるのを見て、フワフワ飛びながら上空に居た二人が健斗と美咲の後ろに着地する。
ギャッギャァァーーー
いきなり懐中電灯の光の中に現れた二人に驚き慄く。
「あぁー自分らの仲間です。驚かせてすみません」
「ごめんなさーい」
「欲しい物そろった?」
「はい、大体は。あとはまた誰かと来ないとわかりませんね」
「美咲ちゃんのも取ってきたよ」
「ありがとね~」
のんきに話す4人を見て向こうの4人も少しだけ警戒を解く。
「ところで、皆さんはどういったお仲間で?」
「自分らは元々この辺の住人で、今はそこの中学に避難している者です」
「そうですか、私らは六甲道の近くの2号線沿いの中学に避難してるんです」
「武器になるものを少し貰ったら出ていきますよ」
「別に"自分らの物"じゃないからご自由に」
「じゃぁバールを3本くらいと棒ケレンを2本、あとは外の園芸コーナー見てみます」
すぐそばにあるバールと棒ケレンをリュックの端の隙間に差し込む。
先行者の方々に頭を下げて外に出ていく。
一番最後を歩き、出ていく前に振り返り4人に向かって言う。
「あのーすみませんが、ご自分のステータスって理解してますか?」
言ってる意味が分からないようで首を傾げる。
「ステータスオープンって唱えてみてくれませんか?」
「健ちゃん、なにしとん?」
「あー先に探しといて。スコップとかも武器になるからね」
その中の一人がステータスオープンと言うと、目の前にステータスボードが浮き上がる・
「「「「おぉぉぉぉぉ」」」」
(やっぱり知らなんだなー)
「みなさん、レベル3以上なのですでに職業を覚えていると思います」
「それを選択することでまた強くなりますよ」
「あと、SPと言うのは自分のステータスに割り振る事が出来ます」
「あ、ありがとうございます」
「あとは避難所に帰ってから、ゲーム好きな人や異世界もの好きな人に聞いてみてください」
「それと、避難するなら住宅地の中の中学より、魚崎浜や灘浜の人口島の方がモンスターも居ないしだだっ広いし良いですよ」
「住宅のないところにモンスターは居ないはずですから」
「それでは、頑張って生き抜いてください」
そう言って外に出ると、2台の車がヘッドライトをつけてこちらを向いている。
「あの車はお仲間さんですか?」
ステータスボードをいつまでも眺めていた3人を置いて、リーダー格の人がこちらに来て答える。
「はい、2台に分乗してここまでなんとか来ました」
「健ちゃーん、武器揃ったよー」
「ほいほ~い」
「それじゃ本当にこれで失礼します」
中に居た3人も外に出てきて見送る。
車の中から2人の女性が出てきてリーダー格の男に歩み寄る。
敵意や悪意が無い事を理解したリーダー格の男が頭を下げる。
「本当に失礼いたしました」
「いえいえ、特に何かあった訳じゃないので大丈夫ですよ」
「それよりも、法が機能してないこの状況ですから、簡単に相手を信用するのは危ないと思います」
「わかりました。心に留めておきます」
車から出てきた女性に向かって二人が言葉を投げる。
「ごめんなさいね、アンネ用品だけもらっていくね」
そう言って、リュック以外にも買い物カゴを両手に持ち、その中にはたくさんの生理用品や化粧水や洗顔用品等を色々詰め込んでいる。
何も答えない相手の女性を一瞥して二人は空高く飛び上がる。
「「「「「「えぇぇぇぇぇぇ~~~」」」」」」
空へ飛んで行くのを見てまたまた驚く。
「それじゃー自分たちも行きます。お元気で」
「まったね~縁があったらあいましょぉ~」
二人は風を纏い空へと飛んでいく。
口を開けたままの6人がしばらく無言で夜空を見つめる。
「はぁ~なんやったんやろ、あの人らは」
「怪物を楽に倒せるようになって、ほんま強~なった気でおったけど、あの人ら見てたらまだまだしょぼい雑魚やって理解できたわ」
「だよなー」
「戦ってたら簡単に全滅させられてたな」
「明日からもっともっと強くなれるように頑張ろか!」
「まずはこのステータスの考察と検証やな」
「スコップも武器になるとか言ってたから持って帰ろうか」
「なんか色々と物知りな感じやったね」
「烏帽子町のとこの中学って言ってたから、車で行けるくらいだね」
「もっと色々聞いてみたい」
「車は通れへん道が多いから、通路確保が先決やな」
「あんな風に飛べたらすぐに行けるんやろうけど」
「空を自由に飛びたいなー」
「・・・・・」
「取り合えず、帰ろか・・・・」
モ~~~ン
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
作者の独り言:この6人組は後の魚崎浜ギルドを運営する主な面々ですが、その話まで辿り着けるかなー?
超進学校の幼馴染6人組。
東京の日本一の大学に全員行き、同窓会で神戸に帰って来てて厄災に巻き込まれたと言う設定の子達。
ロイヤルホームセンター
https://www.royal-hc.co.jp/corporate/




