悪魔軍始動
「ハァハァハァハァ・・・」
4人のトオルの眷属は、進化終わりの余韻に浸っている。
『ごくろうさん、苦しんだ後は気分も良いだろう』
「ハァハァ、キング、いきなり歯が抜け変わって背が伸びて、身が引き締まって・・・」
「私も、任務で痛めた足首や手首がまともに動くし、身体的な急成長が感じられます」
「背が低いのがコンプレックスやったけど、すんごく体格が良くなった・・・」
藤浜は元々168㎝くらいしか無かったのがコンプレックスだった。ここでも160㎝台後半の女性陣と変わらなかった。
だが、推定190㎝弱くらいの長身に広い肩幅、長い脚。
そして、臓膵と脾臓にあったステージ3の癌細胞が綺麗に無くなっている事は気付いていない。
女性陣も軒並み170㎝台後半~180㎝位に伸びて、自分で筋肉質に変わったのが分かるくらいの変化だ。
「キング、この身体、あなた様の為に捧げます。今後の任務はどの様な無茶ぶりでも、成し遂げて見せます」
『ふっまずは人や魔物を蹂躙するための、力とスキルと魔法を手に入れよう』
『まぁすまないな、俺がもっと早く今くらいの力を手に入れられてたら・・・」
「キング、とんでもないです。自分達に懺悔の時間を頂けた事を感謝致します」
「そうです、キングは自分たちの救世主です」
『ありがとなっ』
『ま~4人共、その血まみれの服はどこかで着替えようかw」
そんな事を話しながらトオルは全員のステータスを覗いていた。
見事に全員[同族殺し]の称号が付き、それぞれスキルやステ補正が手に入っていた。
さすがに工作員は皆よりもステータスも高めで、補正がいくつも付いている。
『お前たち、今後の人生を俺と共に過ごすに当たって、名前をどうする?』
『俺の権限で名前を永久的に変える事も出来るんだよ』
しばし考え込む4人。
『まぁ過去を捨てて新しく生きるか、今までの延長で生きていくかの違いだけだ』
『藤浜達は特に変えなくても何も問題は無いだろうが、金本は逆に名前は変えるべきだな』
『今は北の名前が表示されてるから』
李海仁(38)
Lv1
種族 【新人類】 選択
職業 【--】 選択
称号 【同族殺し】
状態 【眷属化-櫻庭通】
基本能力一覧
GMR/UHG
HP 18/18<+8>
MP 15/15
STR 10
DEF 12
AGI 12<+11>
DEX 12<+11>
INT 10
SP/0
基本技能一覧
身体強化¹ 気配探知 懐柔 話術 隠密
耐性一覧
精神支配耐性
8/1
『ヘイン、どうする?』
「キング・・・ もう工作員は卒業したいのです・・・」
「定時連絡、定期連絡を怠っただけで、反逆の烙印を押されるし・・・」
「洗脳もこの進化で溶けたようですし、もう国に従属する気は無いです」
「私は今後キングにしか仕えたいと思えません」
「出来ればキングが御命名下されば幸甚の至りで御座います」
『おいおいw俺を敬うのは眷属として当たり前なんだろうが、そこまでかしこまらなくても良いぞ』
『会話は普通で良い。ため口でもいいくらいだぞ』
『特に、人前でそんな話し方は絶対に禁止だ、他人が聞いたらどう思うか考えてくれ』
「了解致しました」
『おいおい(笑)』
トオルはもう二度と人間なんぞ信用も信頼もするつもりは無かったが、この自分の眷属たちだけは疑う事も突き放す事も無いだろう。
それが眷属契約のお互いの縛りなのかも知れない。
『まぁそんなに急ぐ話じゃないから、みんなはまた考えといてくれ』
『ヘイン、俺が勝手に名付けても良いのか?』
トオルは工作員である彼女の名前だけは変えたかった。
「主の趣のままにお願い致します」
『櫻庭通の名に措いて命ずる、汝の名はレイン・リー!!!』
イ・ヘインの身体が薄っすら輝いたように見えた。
「香港名ですね、素敵な名前をありがとうございます!」
『気に入ってくれたら嬉しいよ』
『李家の家名は薄っすら残したままだから、一族の誇りは忘れないように』
「本当にありがとうございますー」
一行は、イースト側にある入り口のタワーマンションに向かう。
トオルが目星を付けておいた狩場だ。
下層階はもう狩りつくされてるし、住人も避難を済ませている。
だが、中層から高層階はレベルの高いゴブリンが多いのを確認している。
住人はほとんどがゴブリンに殺られてしまっている。
非常階段が、防火扉を開けないと入れない為、ゴブリン達は召喚された各階に留まるしかない。
住人はそろそろ食料も尽き掛けて外の様子を伺うのだが、ゴブリンに見つかってしまい殺られてしまう。
『取り敢えず、武器の調達がネックになるな』
「包丁で今は十分です」
「自分は何が合ってるのかもまだわからないし、木刀でもモップでもいけそうです」
『あぁ言い忘れてたけど、この世界のスキルは行動派生系みたいだ』
『自分の行動次第でどんなモノでも大体手に入るようだな』
『俺はショップってスキルがあるから、そこからもスキルは手に入るんだが』
「さすがはキングです」
『ははは・・・』
『まずは職業を付けるとこまで行こうか』
トオルを先頭に、階段をワンフロアーづつ上がって行く。
10階まで上がってもゴブリンも住人も見当たらない。
10階おきに掛けられている落下防止のネットに、数体の魔物の死体と遺体が乗っている。
各部屋をノックしながら、気配探知や索敵を駆使して探すが見つからない。
「キング、もうほとんど避難したか殺られたかですね」
「あっ、キング~索敵ってスキルを覚えました」
『おぅ、お前はやる奴だと思ってたよ』
「へへっありがとうございます」
それを聞いて、宗教女と元店長が急に真剣な顔つきになる。
トオルはそれを見て微笑んでいる。
(この十数年、こんなに癒された気持ちになった事は無いだろう)
(こいつらのおかげで俺自身が変われるかも知れない)
思惑とは裏腹に、トオルはこのまま悪魔の所業を突き詰めていく事になるだろう。
熱狂的な眷属たちのおかげで。
20階を過ぎ、何階か駆け上がった階に、藤浜が住人を察知する。
「キング、この階はまだ住人が数人居ますね」
「奥の家に複数の存在アリ、人の気配じゃないですね」
『よしっそこに行こう』
まだ索敵も気配探知も覚えられない宗教女と元店長が焦る。
焦って勇み足で先陣を切っていきなりモンスターハウスに乗り込んだ。
「なっ、大きいゴブリンが居る~」
ホブゴブリンだ。
人間を狩ってそこそこレベルも上がって、仲間のゴブリンも蹂躙していった結果が1次進化だった。
その後も成長を続け、ここに君臨しているこのフロアーの已然たるボスで、妙な自身も伺える。
トオルからしたら大したことは無いけど、他の4人にはまだまだ荷が重い。
側近のゴブリンもレベルは6や7とかなり高めであった。
『いきなり大物にぶち当たったなw』
「ど、どうしましょ?」
『やるだけだよ?』
『でもまぁそのまま戦っても殺されるだけだろうけどな』
『取り敢えず、お前らは俺の後ろに下がれ』
勇み足で最前線に居た二人がそそくさとトオルの後ろに下がる。
トオルはかかってきた最初のゴブリンの腹に拳をめり込ませ悶絶させる。
それを後ろの4人の前に放り投げた。
『おまえらでそいつにトドメを刺せっ』
一瞬たじろいだが、4人で寄ってたかって殴る蹴る刺す叩く。
すぐにゴブリンは動かなくなった。
「あっ・・・」
レベル7のゴブリンを倒し、4人は一気にレベルが4まで上がった。
その急激なレベルアップに、肉体と精神が付いて行けずに酔う。
トオルは一旦4人を外に出し、ドアを閉めて強くノブを握る。
『レベルアップ酔いかw』
しばらく休憩を取る事にした。
中からはゴブリンがドアを開けようと暴れている。
(こいつら、ドアノブを回す事を学習しとるなぁ・・・)
以前のゴブリンならドアを開ける事は出来なかった。
レバー式のノブならなんとか偶然でも開けられただろうが、ノブを回すなんて行為を知らなかったはずだった。
だが部屋の中でくつろいでいたゴブリン達は、自分たちで玄関ドアを開け、中に入ってまた出ていく事をしていたのだろう。
酔いが落ち着いてきたので、今のやり方で1匹づつ倒していく事にした。
『職業が発生しただろ?何にするか決めたらいいよ』
『今やりたい職業が無ければ、無理に選択する必要は無いぞ』
『そのうち新しい職業は現れるからな』
「キング、私は暗殺者で決めました」
『おまえらしい職業だ、忍者とかも似合いそうだなw』
「忍者は憧れますねー」
「難しいですね~」
『おまえは何がしたい?』
「これと言って希望職は無いのですが、強くなりたいですねぇ」
『おまえと掛井橋はINTが高めだから、魔法職が良いかな?』
『まぁ俺の姉の様に、魔法も戦闘力も高い奴もいるけどなw』
「お姉さんがいらっしゃるのですね」
「キングのお姉さんなら強いのでしょうね~」
『んっ?藤浜は良く知ってるだろ?戸弩力の所で天使とか言われてる奴だよ?』
「ええええええええええええええええええええ?????」
『ははははっ』
「それならそうと言って下さいよぉ~、散々貶してたのに・・・」
『いやいや、もうあいつとは家族の縁を切ってるから問題ないよ』
「そんなに強いのですか?」
『ん~多分、今、六アイで1,2を争う強さだろう』
『あいつと青髪の人化ゴブリンは別格の強さだな』
「・・・」
『まぁお前らにはあいつらと戦えるくらいに強くなってもらうんだけどなw』
「死に物狂いで頑張ります」
全員が深く心に誓った。




