01 プロローグ
僕の名前は金竹持男。
25歳男性。最終学歴は中卒。職業は別荘警備員、勤続年数10年目のベテランだ。
自分で言うのもなんだが、名家の生まれだ。
僕の一族はひとかどの人物が多く、当然、両親も我が子を名門校へと進学させる予定だった。
しかし、落ちこぼれだった僕は高校受験失敗と同時に、両親に見限られ、別荘での引きこもり生活を強要された。
10年前に父親から息子に贈られた最後の言葉は
「お前が我が一族として、顔を連ねるのは堪えられん。最初で最後の親孝行だと思って、山奥の別荘でひっそりと余生を過ごしてくれ」
とのことだ。
まったく、お優しい父親だよ。
中学時代は“ぼっち”だったこともあり、学生生活には何の未練もなかった。僕自身、ニート生活も満更でもなく、山奥での生活を受け入れた。
…そんな生活が10年続いたある日、事件が起こる。
僕はいつものように夜通しでゲームをしていた。
ゴゴゴゴゴゴ…。
いきなり地鳴りがして、世界が揺れる。
地震か…?かなり大きいぞ。
揺れは収まるどころか、どんどん激しさを増す。
部屋の家具が次々に倒れてきた。
身の危険を感じた僕は、手に握っていたゲームのコントローラーを放り出し、部屋の隅にあるベッドの下へと滑り込んだ。
いったい、いつになったら収まるんだよ。
俺はパニックになり徐々に意識が遠退いていった。
意識が戻りベッドの下から這い出ると、
辺りはひどい有り様だ 。
“我が城”もとい別荘が半壊しており、日も高く昇っていた。
…どれくらい気を失っていたんだ?
もともと、この別荘では電話の回線、ネットも繋がっておらず、浮世から切り離されている。
週に1回、金竹家の使用人が1週間分の食料と僕好みのゲームを持ってきて、生活を続けていた。
地震前は、確か使用人が来るのは2日後だったはず…、それまでここで待てば助かるだろう。
僕は別荘の倒壊していない部分で雨風をしのいだ。
幸いにも食料庫は無事だった。
日が沈み、また昇るそんなことが、4回ほど繰り返されたが一向に使用人が訪れる気配がない。
何だよまったく!残りの食料も僅かだ。
確か半日ほど掛けて山を下れば村があったはず。
助けを求めに行くか…。
僕はさんざん迷った挙げ句、山を下る決心をする。
残りの食料を持ち、獣道にそって山の麓を目指した。
…引きこもり生活が長かったせいで足が思うように動かない。
ぜえぜえ。
数分歩いただけで息切れを起こしていた。
どれくら歩いたか、わからないが疲労困憊で、今すぐ目の前の地面に倒れこみたい。
そう思っていた矢先に突然、敵意に満ちた女性の声が聴こえた。
「動くな!」
これで助かるという喜びの方が大きく、相手の警告など気にも止めていなかった。
よかった。人がいた。
僕は安堵の溜め息をつき、声が聴こえてきた方へと振り向くと…驚くべき光景が目につく。
何がビックリしたかって…。
その女性の見た目があまりにも奇抜すぎたことだ。
中世の騎手のような黄金の兜を被り、そこから垂れ下がっている赤い長髪がよく映えて。
小麦色の肌が見え隠れする鎧。
ゲームでしか見たことのない姿の人がそこに立っていた。
何だコイツ…。何かのイベントか?
それもも僕が引きこもっている間に、日本の文化がここまで変貌を遂げたのか?
疑問が抑えきれず、その女性の姿から目が離せずにいた。
その事に意識を奪われ周囲の状況に気付けておらず、突然、金色の甲冑の騎士?たちに取り囲まれ、剣の切っ先を四方八方から向けられる。
「うわっ!」
僕は驚きのあまり尻もちを着いた。
「動くなと言っているだろ!」
赤毛の女から再びこちらを制する声が聴こえてくる。
「貴様。何者だ!アウトサイドの者か?それにしては随分と珍妙な格好だな」
赤毛の女が詰問する。
確かに俺はジャージ姿だけど、珍妙は言い過ぎじゃないか。それにあんたらの方がよっぽど珍妙な格好だろ。
いろいろ言おうと思ったが、誰かと話すのも久しぶりで上手く声が出せない。
「コホン。あー、あー 、あー」
咳払いをして発声練習をしていると、女騎士が詰め寄り剣の切っ先をこちらに刺してきた。
っつ!あまりの痛みに、いっそう言葉を返せなくなる。
「貴様何をしている!味方への合図か」
「ぢが…」
声が上手く出ない。仕方ないので必死になって首を横に振った。
「名はなんと言う」
再び女騎士が問いかけてきた。
「もち…、もひゅ…」
もともとコミュ障だったことに加え、極度の緊張、痛み、疲労、恐怖も合わさり自分の名前すら噛んでしまう。
絶望的だ。ニート生活のせいで、俺はろくに話すことも出来ない。
「モヒュ・モヒュ?変な名前だな。
私はクロック王国・第七針柱防衛師団。副師団長 エルフロア・ロウ・アルニセフだ」
アンタの名前も大概だろ。
僕は心の中でツッコむと再び尋ねてきた。
「再度貴様に問う。何の目的でここにいる」
「揺れて。別荘がゲームと出来なくて…。助けてくれ 」
最早、日本語すらめちゃくちゃだ。
上手く言葉を発せずに咳き込んでしまう。
「何を言っている。貴様は言語を学んではいないようだ。とにかく突如現れた城と関係がありそうだ。私と一緒にきてもらう」
そのまま、僕は鎖に繋がれ連行された。